韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「Happy Halloween」です。
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書き下ろし短編。
10月の「埋もれた約束」直後あたりの話。
Happy Halloweenチャイムの音で、インターフォン画面を確認したイヌは、
一瞬驚いた後、苦笑を浮かべながら玄関ドアのロックを解除した。
「こんばんは~」
ドアを開けてすぐに、奇抜なファッションを着たヘリの明るい声が飛び込んできた。
角のついたカチューシャを頭につけて、
黒いマントを羽織っている。
服は隠れていたが、短いマントの下から、
すらりと伸びた綺麗な素足が見えることから、
ミニスカートのようなデザインなのだろう。
コケティッシュな衣装をまとっているのに、
ニコニコと子供みたいに無邪気な笑顔を振りまいているヘリ。
その頭の上からつま先まで、面白げに目を通したイヌは、
「変わった部屋着だな」と言った。
「今日が何の日か知ってるでしょ?」
「何の日だった?」
「恍けないで。この恰好見て分かるでしょ?」
「いや、分からないな」
「もう、焦らさないで、早く部屋の中に入れてよ。
こんな姿で、マンションの共用廊下に立っていたくないの。
誰かに見られたら恥ずかしいんだから」
ヘリが、周囲をキョロキョロしながら、
焦ったように言った。
「その恰好で、ここまで来たのに今さらだろう」
イヌが笑って、しかし、扉を大きく開けると
ヘリを玄関の中に招き入れた。
イヌの部屋の中に入ったヘリは、自分専用のルームシューズを履いた後、
ふりかえった。
「お菓子をちょうだい。じゃないと悪戯しちゃうわよ」
両手を差し出して、おねだりのポーズをとるヘリに、イヌが失笑した。
今日は、10月31日。ハロウィンの日だった。
「お菓子?君の場合、酒の間違いじゃないのか?」
「どっちでもいいわよ」
「あいにく、お菓子の持ち合わせは無いよ」
「じゃあ、お酒で。じつは、お菓子は私が作って持って来たの。
ビスケットだから、酒のつまみに一緒に食べましょ?」
「最初から、そのつもりだったんだな」
「うん」
満面の笑顔のヘリに、イヌがつられて微笑んだ。
「OK。準備するから、ソファに座って待ってろ」
イヌは、笑ってキッチンに向かうと、
ワインラックから1本ワインボトルを引き抜いた。
そして、ソファに座ったヘリの所に戻ってくると、
2つのグラスにワインを並並と注ぎいれた。
へりは、いそいそと、持って来ていた籠の中から
焼き立てのビスケットの入った器を出してローテーブルの上に置いた。
イヌは、グラスの1つをヘリの前に置くと、
自分の分を手にその隣に腰を下ろした。
「いっただきま~す」
イヌのソファに座った小悪魔は、
ジュースでも飲むようにごくごくとワインを飲みほした。
「もう一杯ちょうだい。
じゃないと、悪戯しちゃうから」
「いっそ、全部よこせと言えばどうだ?」
可愛い脅し文句にイヌが笑って、
ヘリのグラスにワインを注ぎいれた。
「ね、どう?私のこの衣装、いかしてるでしょ?」
ヘリが顎に指をあてて、可愛く首をかしげて見せた。
イヌもヘリの真似をして、顎に指をあてると、
皮肉っぽい笑みを浮かべて、もう1度ヘリの姿を眺めまわした。
「昼間は、堅実な検事さんが、夜になると人の家の
酒を取っていく悪い魔女になったのか?」
「魔女じゃないわ。よく見てよ。ほら、角がついてるでしょ。
いい男を惑わせる可憐な小悪魔よ」
「違いがよく分からないが、この服はどうしたんだ?
わざわざ、今日の為に買ったのか?」
「買ったんじゃないの。私が作ったのよ」
衣装を買うよりも作るとは、相当な気合いが入っていたらしい。
イヌに半ば感心し、半ば呆れた顔を向けられても、ヘリは得意げになっていた。
「だって、せっかくなんだもの。こういうイベントは楽しまなくっちゃ。
あなただって、アメリカでハロウィンを毎年祝ったでしょ?」
「こういう感じは、せいぜい中学生くらいまでだったな」
「そうなの?でも、イヌも仮装したわよね。
どんな衣装を着たの?」
「うーん…どんなだったかな」
イヌが、腕を組んで、思い出す素振りをした。
「ドラキュラ?フランケンシュタイン?それとも狼男?」
「覚えてないな」
「嘘。言いたくないだけでしょ?
ソ・イヌ君の可愛い秘密の過去が暴かれたくないのね」
「いや、本当に覚えてない。
仮装をして、家々を回って菓子をねだるというイベントは確かに
近所であったけど、僕は参加する気が全く無かったんだ」
「そう」
変わっているのね。楽しいイベントなのに。
そう言おうとしたヘリだったが、
すぐに、何かに思いあたって口をつぐんだ。
その頃のイヌは、アメリカに来たばかりで、
しかも、お母さんを亡くして間もない時だった。
養父の家にひきとられていたかもしれないが、
周囲や環境になじめずに、楽しい行事に参加する気にも
なれなかったのは当然だろう。
「将来弁護士になる人が、人に悪戯しちゃダメだっていう
正義感があったのね」
ヘリの、優しい取り繕いに、イヌが小さく笑った。
「結局、参加したけどな」
「そうなの?」
「誘いに来たジェニーに無理やり連れだされた」
「ジェニーさんが?」
ヘリが驚いて、中身をこぼしそうになったワイングラスを
あわててテーブルの上に置いた。
幼馴染の親友だから、そんな過去があってもおかしくないけど。
ヘリは、コクリと息を飲んで質問した。
「ジェニーさんは、
その時のハロウィンにどんな仮装をしていたの?」
イヌが、思い出すように、目を天井に向けた。
「確か、黒い魔女の衣装を着ていたな。
ジェニーのお母さんが作ったと言っていた。
手に竹ぼうきを持ってね。家にいた僕を訪ねてきた」
「ふーん…。その時のジェニーさん、
可愛かったでしょうね」
「可愛い?」
イヌが、首をかしげて苦笑した。
「僕が、イベントには行かない、と玄関でしぶっていたら、竹ぼうきで
つつかれる勢いで、外に追い出されて、無理やり引っ張って行かれた。あれは、正真正銘の怖い魔女だったな」
おどけたように話すイヌにヘリも笑顔になった。
その時の様子が容易に想像できた。
当惑しながらも、手をひっぱるジェニーの勢いに押され、
ずりずりと夜道を歩かせられるイヌ。
だが、ほほえましい光景が浮かんで、思わず笑みをこぼしながらも、
同時に、切ない気持ちにもなった。
モンスターや、悪魔に変装した大人や子供達が
ひしめくハロウィンの夜。
暗闇の中で、かぼちゃのランタンの灯が揺れる、
まだ、なじみの薄い異国の街。
心に傷を負った少年が、本当は優しい黒い魔女に強引に連れ出され、
祭りの中に身を投じていく。
闇の中に溢れる光と人々の楽しげな笑い声が、
次第にイヌの心を癒してくれたかもしれない。
こわばっていたイヌの表情に、うっすらと浮かんだ柔らかい笑みを、
その時のジェニーは目にしたかもしれない。
…無理やりでも、連れてきて良かった。
まるで、その場にいたジェニーの気持ちに
シンクロした気分になったヘリは、無意識に優しい微笑みを浮かべていた。
「黒い魔女にさらわれた夜だったのね」
ヘリが言った。
「ああ、無事に家に帰れたけどね」
イヌが言って、コトリと飲み終えたワイングラスをテーブルに置くと、
ヘリに、からかうような笑みを向けた。
「そういえば、今夜のハロウィンは、小悪魔がやってきたけど、
強引に家の中に入って居座っているな」
「そうよ。この小悪魔は、手作りのお菓子持参なんだから。
気がきくでしょ?」
ヘりは、すまして言うと、器の中の手作りビスケットを1枚とって、
イヌの口元に持っていった。
「TRICK? or TREAT?」
イヌは黙って口を開けると、ヘリのビスケットを唇に挟んだ。
そして、ビスケットを噛みしめている間、
眉をしかめて、難しい表情でヘリを見つめていた。
やがて、咀嚼したビスケットを呑み込むと、
イヌが舌でチロリと上唇についたビスケットの粉を舐めとった。
「全然甘くないな」
「だって、あなたは甘いお菓子は好きじゃないじゃない。
スパイスを利かせてみたんだけど、美味しくなかった?」
「まずくはない。けど、ずいぶんと刺激的な味だ」
「そんなに刺激的?香辛料入れすぎちゃったから」
「まさか、自分では味見してないのか?」
「ええ」
ヘリが、したり顔でニカっと笑うと、舌を出した。
「悪戯だもの」
「…やってくれたな」
イヌは、目を細めると、ビスケットを1枚手にとった。
「君も食べろ」
「やだ」
「いやだって?自分で作った菓子だろ。
これ、全部僕に食わせる気だったのか?製造者責任法を発令するぞ」
「分かったわよ」
そう言って、ヘリが、あーんと、素直に開けた口の中に
イヌがビスケットを運んで食べさせた。
「どうだ?辛いだろ?」
「全然」
ヘリが、もぐもぐとおいしそうに、ビスケットを食べた。
平気そうなヘリに、イヌが訝しげな顔をした。
「君は辛党だったか?」
「ふふふ」
ヘリが、両手でビスケットを2つつまむと、
イヌの顔の前でちらつかせた。
「こっちは辛いビスケットで、こっちは甘いビスケットなの。
両方作っておいたのよ」
イヌが、感心したように吐息をついた。
「この小悪魔は悪知恵がきくんだな」
「そうよ。まいった?」
得意げなヘリに、イヌが、薄く笑うと、
わざとらしくあたりを見まわすように、目を泳がせた。
「あれ?僕の可愛い恋人はどこに行ってしまったのかな。
確か、素直で、意地悪なんてしない、可愛い女性だったんだけどな」
ヘリは、声をあげて笑うと、
イヌの顔を両手で挟んで、自分の方に向かせた。
「ここにいるでしょ?あなたのキュートな恋人が」
「もしかして、これが、君の本性か?」
「そうかもね」
ヘリが、くすっと笑うと、強くつっぱねた手で
イヌの体をソファに押し倒した。
そして、イヌに馬乗りになると、アルコールが入って
目のふちを、うっすらと赤く染めた艶めかしい顔でイヌを見下ろした。
イヌが口角を上げた。
「TRICK? or KISS?」
そう聞くイヌに、ヘリが微笑み返すと、
身を屈めて、イヌの唇を塞いだ。
衣装のせいか、イベントのせいか、酒のせいだろうか。
ヘリがいつものヘリと違って見えた。
いつも以上に蠱惑的で、大胆な振る舞いをしているように
感じる。
「ビスケットだけじゃなくて、君も刺激的だな」
顏を離した後、イヌが言った。
「嫌?」
「いや、面白いよ。小悪魔に翻弄される夜も悪くない」
「…明日も仕事だから、ほんとは、酒だけ頂いて帰るつもりだったんだけど」
ヘリはイヌの頬に顔を寄せ、呟くように言った。
「悪戯したい気分になっちゃった」
…イヌのハロウィンの思い出話を聞いて。
自分の知らないイヌを魔女の恰好をしたジェニーが
外の世界に連れ出したという過去。
それは、もう昔話なのかもしれないが、
ヘリの心に、ちょっぴり嫉妬。というスパイシーが入って、
刺激されたようだった。
たとえ、過去でも魔女には渡さない。
ソ・イヌは、私の男なんだから。
衣装だけでなく、心まで小悪魔に支配されたように、
ヘリは、艶めかしく足をからませて、イヌの上に身を伏せた。
「TRICK? or TREAT?」
ヘリが、もう1度、イヌの耳元で囁いた。
「…その答え、行動で示してやるよ」
返ってきたのは、低く、甘さの増したイヌの声。
嬉しそうに、嫣然と微笑むヘリの顔を手でとらえたイヌは、
言葉を実行に移す為に目を閉じた。
イヌとヘリ。
こうして、恋人として初めて過ごしたハロウィンの夜は、
甘い?それとも、刺激的?
(終わり)
ハロウィン間に合った~。
「月と泥棒」みたいな内容ですけど、
ハロウィン仕様で書いてみました♪
ヘリちゃんの恰好は、「裏箱」参照で。
いや、でも、マントしてても、下がこれはまずいか(汗)
小説が気にいって頂けたら、
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