韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「戸惑いのヴィーナス」(おまけ話)です。
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この話は、「戸惑いのヴィーナス」の続きです。
戸惑いのヴィーナス(おまけ話)…もう、二度とファッションショーのモデルはしない。
ヘリは、頭の中で自分にそう誓った。
今回のファッションショーの経験で、
学生時代の苦い思い出をいい物に上塗りできるかもと考えていた。
しかし、結果、さらに恐ろしい思い出を重ねてしまっていた。
学生の時は、ファッションショーの後、父親にバッグや靴を焚火にされたが、
今回は、恋人に、着ていた衣装を焚火にされた。
それも、表面上は、ほとんど怒っている素振りも見せずに。
この男の場合、その不気味な静かさが、かえって危険だったということを、
今さら思い出しても、後の祭りだった。
人気デザイナーBBがヘリをイメージして作ったという世界で1つしかない
貴重な服は、もう無いのだから。
「先にシャワーを浴びていいよ」
そんな声で、ヘリがハッと周囲を見渡すと、そこは、ヘリの服を燃やした
『加害者』の部屋の中だった。
夢心地のような気分を味わっていたディナーデートから、
突然冷水ならぬ、焚火を浴びせられて、半ば意識を失っていたらしい。
ショック状態で茫然としているうちに、車で運ばれて
いつのまにか、魔王の巣窟に連れて来られていたようだった。
ヘリは、ぶるぶると頭を勢いよく振って自分を取り戻すと、
キッとイヌを睨みつけた。
「いい。自分の部屋に帰るわ」
「あれ?何か怒ってる?」
恍けたイヌの口調に、ヘリがますます目つきを険しくさせた。
「…愉快そうに見える?」
オークション会場の駐車場でイヌがヘリに答えた言葉を
そっくり真似てヘリが言った。
「恋人の考えくらい読めるんでしょ?」
デートをキャンセルしちゃったのは悪かったって思ってたわ。
それに、あんな服を着てモデルをしたから、恋人として嫌な思いをしたのねって事も気づいたわよ。でも、だからって、あんな風に燃やすことないじゃない!
…と、ぶちまけたい想いをこめて、ヘリは恨みがましい目をイヌに向けていた。
「燃やしても、君は別に構わないって言ったよな。承諾は得ていたぞ」
イヌは、脱いだスーツの上着をクローゼットのハンガーにかけて、
ネクタイをはずしながら淡々と答えていた。
「それに、もう着られない服をどうするつもりだったんだ?本気でオークションで売ろうと思っていたわけじゃないだろう?箪笥の肥やしになる前に処分しただけだ」
「箪笥の肥やしになる前に、あなたが、焚火の灰にしたんじゃない」
「灰はあの畑のいい肥やしになる。ソンさん達も喜ぶな」
ソンさんというのが、畑で焚火をしていた老夫婦の名前だという事を
今知ったヘリだった。
そして、しらじらしく、自分のやった行動を正当化して納得しているイヌにヘリは、今度こそ怒る気力も失せた。
イヌの言葉には説得力がありすぎる。
それに、何度振り返ってみても、こうなったのは、自分の落ち度のせいだという事は明白だ。
ヘリは、ショボンと項垂れて、自分の足元に目を落した。
そんなヘリの姿は、イヌの目にはとても落ち込んでいるように見えた。
少し可哀そうに思う気持ちもあったが、イヌの良心は痛まなかった。
イヌは、スーツとネクタイをしまったクローゼットの扉を閉めた。
そして、ワイシャツの上ボタンを2つはずし、襟元を緩めた後、ヘリに近づいた。
「あの服は君に似合いすぎていた」
はっきりとそう言って、前に立ったイヌをヘリが見上げた。
「…本当にそう思ってるの?」
イヌが頷いた。
「だったら、どうして燃やしちゃったの?
オークション会場は写真撮影禁止だったから、もう2度とあの服を着た私の姿は見られないのに」
「写真なんていらないよ」
むしろ、写真が撮られていたのなら、それも全部燃やしていたな。とイヌは思った。
「君の姿は、この目に焼き付けたからね」
「私、綺麗だった?」
チョコンと首をかしげて、あどけなく聞くヘリにイヌが微笑した。
そして、まるでダンスでも始めるかのように、ヘリの腰に手を置くと、
己の方に引き寄せてジッと見つめた。
…今の服だから、というわけじゃない。
あの服を着てなくても。
ステージの上を歩いてなくても。
「誰にも見せたくなかった」
イヌの小さな呟きは、ヘリの心臓を大きく跳ねさせた。
「…あなたって、どうして、いつもそう不意打ちなの」
ヘリは、照れくさげに上目使いになると、もごもごと口の中で呟いた。
普段すかした顔をして、人をいびったりからかったりするくせに。
時折、漏らす本心に、ぎゅっと心を鷲掴みにされて
泣きたくなるほど、愛おしくなってしまう。
それまで、苛立っていたものや、不安だったものが
全部どうでもよくなってしまうくらいに。
「ほんとは、私、あなただけに見てもらえればいいの」
「そうか?」
「分かってるくせに」
唇をとがらせて、拗ねたふりをするヘリにイヌが微笑し、
ヘリも又、つられて笑った。
笑った後、ヘリは、イヌの体に身を寄せて、ソッと抱きしめた。
「お礼遅くなってごめんなさい。
この服を買ってくれてありがとう。大切にするわ」
「うん」
イヌが満足げに目を閉じて、ヘリの体を抱きしめ返した。
そして、「まさか、この服は燃やさないでしょう?」と聞くヘリに、
黙ったまま笑みを浮かべると、その横顔に唇を寄せてキスした。
その後の展開は、
超能力者でなく、難しい恋人の思考を読み取れないヘリでも、
ほぼ想像していた通りになった。
ヘリの手元に残った高価で美しいドレスは、イヌに丁寧に脱がされて、
クローゼットの中に釣り下げられた。
裸になって、シャワーで化粧やセットしていたヘアワックスもすべて落したヘリは、
同じくシャワーを浴びて、焚火の煙の匂いを落した恋人にベッドの上で抱かれて、その夜を過ごした。
「君は綺麗だ」
行為の最中に、またまた不意打ちで囁いたイヌに、
ヘリの胸は高鳴った。
『私、綺麗だった?』の問いかけの答えだけじゃない。
それは分かったヘリだったが、
イヌの台詞を言葉通りにとらえていた。
「美しい服を着てなくても、裸が綺麗ってこと?」
わざとでなく、本気でそう聞くヘリにイヌがニヤリと笑った。
「君にはもうソ・イヌブランドの服をいつも着せている。
その服を着た君が綺麗なんだよ。ほら、今も着てる」
「ソ・イヌブランドの服?そんな物をいつのまに着せてたの?
全然気づかなかったわ。それに見えないわよ」
「こうして付き合うようになってから、すぐに着せた。
でも、そうか。君には見えないんだな。
ソ・イヌブランドの服は、正直者には見えないから」
「何それ」
ヘリが吹き出すと、楽しげに笑った。
「裸の王様じゃなくて、裸の王女様ってわけ?
じゃあ、あなたには見えるのよね?」
正直者じゃない人が見える服なら。
「ああ」
ヘリを見つめて微笑んでいるイヌの目が優しく細められた。
それから、一糸まとわぬヘリの体を両腕で抱き包むと、
その髪の毛をゆっくりと手で撫でおろした。
そして、ヘリの耳元に唇を寄せると、
低い声で囁いた。
「ヘリ。君はソ・イヌの専属モデルだ。
だから、他の奴のモデルなんてするな。契約違反だからな」
「もう。勝手にそんな契約してた事なんて知らなかったわ」
憎まれ口を返しながらも、ヘリは嬉しくなった。
…やっと本音を言ってくれた。
理解のある恋人を演じていたけれど、
本心では、イヌはヘリがモデルをする事を止めたかったのだろう。
そのことに、すっかり浮かれていたヘリは気づかなかった。
それに、イヌが言っていた事もようやく分かったヘリだった。
モデルをするのなら、最初から、「清純なヴィーナス」のような衣装も
着る可能性があることを想定しておくべきだったのだ。
「ごめんね」
ヘリの突然の謝罪に、イヌが体を離し、無言でヘリを見下ろした。
「デートをキャンセルしたことも、あんな服を着てモデルをした事も。
反省してるわ。私、すっかり舞い上がっちゃって、冷静な判断が出来なかったの」
「もう、いいよ」
神妙な顔のヘリの頭をイヌが己の胸に引き寄せ、ポンと優しく叩いて言った。
「怒ってない」
…事実、怒ってはいなかった。
呆気にとられてはいたけど。
「なら、いいんだけど」
ヘリが、モジモジしながら言った。
「分かってると思うけど。
私は、イヌ、あなただけのヴィーナスだからね」
ヘリの言葉に、イヌが声をあげて笑った。
「笑わないでよ。あなたが言ったのよ」
照れくさげに頬を膨らませたヘリの顔を見つめ、笑いながらイヌは思った。
もう二度と舞い上がれないように、天女の羽衣は燃やしてしまったけど、
この腕の中にいるヴィーナスは、たぶん、これからも自由に飛んでいくのだろう。
そして、人の心配をよそに、また、無謀な事をしでかすかもしれない。
それでも。
「そうだな」
イヌは、笑いを収めると、ヘリが「痛い」と言うほど強く身体を抱きしめた。
…そんな君を愛してるから。
いつも見守っている。
「僕だけのヴィーナス」
妄想の中のイヌと同じセリフに、ヘリがクスクスと笑いだした。
そんなヘリに「なんだよ」とイヌが苦笑し、毛布をとると、
ヘリと自分の体にぐるぐる巻きつけた。
「きゃあっ」
こうして、夜更け過ぎまで、イヌの部屋で、
子供のようにはしゃぐ男女の声が響き、
波瀾万丈の1日も
すっかりくだけた、いい雰囲気で締めくくった恋人達だった。
後日。
「もうモデルはやらない」
…今度モデルをしたら、服を燃やされるだけじゃすまないかも。
そう、イヌの所業を思い出して、震えながら言ったヘリに何も知らない親友のユナは、
「ステージでの失敗がこたえたのね」と気の毒そうに言った。
そして、「じゃあ、ソ弁護士さんはどうかしら?」と聞いた。
「イヌが何?」
きょとんとしたヘリに、ユナが続けた。
「あのオークション会場でソ弁護士さんを見た服飾学科の学生達の中で、
ぜひ、自分の服のモデルになって欲しいって言う女の子たちがいたのよ。
または、発表会の時にエスコートして欲しいって。連絡先を聞いてくる子もいたわ。
ね、ソ弁護士さんはモデルをする気はないかしら?ステージを歩くソ弁護士さん、きっと素敵だと思うけど。ヘリも見たいでしょ?」
ユナの言葉にヘリの顔が蒼白になった。
そして、首と手を勢いよく横に振ると、「駄目よっ!ダメっ」と大きな声をあげた。
「イヌは、私の専属モデルなんだからねっ。
誰にも貸さないんだから!全部断って」
…モデルの話はやっぱりヘリには禁句ね。
必死の形相のヘリに、もう答えが分かっていたユナは「了解」と、
ほほえましげに頷いていたのだった。
(終わり)
もう、「裏箱」で書いちゃったので、ラブラブ描写はほのぼの(?)と♪
イヌの心情も、裏箱「惑わしのヴィーナス」でほとんど語ってましたしね。
夏休みに携帯電話更新しようとしてた短編を、
この時期まで引きずるとは…。
こんな短編以前なら夜明け前にちゃちゃっと書けたものを←だから書けて無いって。
まだまだ本調子では無いブログですが、
いつも応援ありがとうございます。
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