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「検事プリンセス」みつばの二次小説、携帯更新。

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嘘つきは恋の始まり(後編)
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ヘリが考えていたのは、エープリルフールにイヌにつく嘘だった。

しかし今日が嘘をついても良い日なら、せめて自分の気持ちに正直でいたいと思ったヘリだった。

あの2年ほど前とは違う。

イヌに作ってもらったラーメンを一緒に食べて、
ジェニーがイヌの部屋に来ると聞いて、逃げるように自室に戻った、あの時。

ようやく気づいた。

部屋に行きたかったわけでも、ラーメンを食べたかったわけでもない。

嘘をついたのは、

ただイヌに会いたくて、
一緒にいたかったから。


そんな過去を振り返る内に、ヘリが思いついたのは、
コッソリとイヌの部屋に夜食を作って届けるというもの。

だから、『シャワーを貸して』は部屋の中に入って夜食を置いてくる為の嘘だった。

…少しでも喜んでくれたら。

そんな思いで、ヘリはスーパーマーケットて買った食材をマンションの自室で調理した。

完成した料理を器に盛り付けたヘリは、
時計を見て慌てふためいた。

…もう、こんな時間。
イヌが帰って来るまでに、部屋におきたかったけど。

ヘリは作った夜食を持って、ドキドキしながらイヌの部屋を訪れたが、イヌはまだ帰宅していなかった。

ホッと息をついて、ヘリはイヌの部屋に入り、
キッチンカウンターの上に夜食を置いた。
そして、家主不在の部屋の中を見渡した。

きちんと整頓されたイヌの部屋だったが、
ベッドの縁に脱ぎ捨てられた部屋着がかかっていた。

…朝も慌ただしいのね。

ヘリは、イヌの部屋着を畳んで置き、ベッドカバーを整えると、ついでに軽く掃除を始めた。
そして、掃除が終わった後、そのまま部屋を出て行こうとしたヘリだったが、
肝心な事を思いだして、慌てて引き返した。

…いけない。シャワーを貸して、と言っていたのに。

もう悠長にシャワーを浴びている時間は無さそうだった。

シャワーを借りるのは、この際どうでもいい事なのだったが、イヌにお願いした手前、シャワーを浴びた痕跡が無ければ、変に思われるだろう。

ヘリは急いでバスルームに向かうと、偽装工作で、シャワーを浴びたように見せかける為に、しばらくシャワーの湯を流した。

そして、濡れたバスルームの壁や床を眺めた後、満足げに頷いて、シャワー栓をしめた。

「うん。これでバッチリ。あとは、帰るだけね」と呟いて振り返ったヘリは、次の瞬間、体を硬直させた。

「何やってるんだ?」

後ろに腕組みをしたイヌが立っていた。

面白そうな顔をしている事から、ヘリの不可解な行動の一部始終を黙って見守っていたのだろう。


ヘリは動揺のあまり、バクバクしている胸に手を置いて後ずさった。

「いつ帰って来てたの?」

「ついさっきだ」

「気づかなかったわ。チャイムを鳴らしてくれなきゃ」

「ここは僕の部屋だぞ。」

イヌがおかしそうに言って、洗面台の棚からタオルを1枚とってヘリに渡した。

「服のままシャワーを浴びるつもりだったのか?」

シャワーの跳ね返りで、ヘリの服が少し濡れていた。

「シャワーの調子を見てたのよ」

「浴びてはいかないのか?“後は帰るだけ”と言っていたが?」

「もう、さっき浴びさせてもらったわ」

「そうか?」

イヌが、ヘリの肩を掴んで、引き寄せると、頭に顔を近づけ匂いを嗅いだ。

「うちのシャンプーの香りがしないな」
「……」

イヌとの会話でどんどん袋小路に追い詰められたヘリは、
それ以上の誤魔化しをあきらめて溜息をついた。

「エープリルフールの嘘なの」

「エープリルフール?」
…これが?

あまりにも、ずさんなヘリの嘘にイヌが呆れを含んだような笑みを浮かべた。

しかし、ヘリが向けた視線の先にあるものに気づいて、笑いを引っ込めた。

「あなたを驚かせたかったのよ」

キッチンカウンターに置いた軽食を見ながら、
決まり悪そうにヘリが首をすくめて言った。

エープリルフールも、シャワーの調子がおかしいからという嘘も単なる口実。

…本当はイヌに会いたかった。会って、すぐばれても楽しくなる嘘をつきたかった。
でも会えないなら、せめてイヌを癒やしてあげたかったから。

そんなヘリの気持ちは、語らずとも、イヌにはヘリの手料理で一目瞭然だった。

「惜しかったわ。あと少しでエープリルフールが成功したのに」

自嘲混じりで、悔しがってみせるヘリにイヌは、目を細めた。

「詰めが甘かったな。君は嘘をつく事に慣れてないから」

心の中では全く違う事を思っているのに、
イヌから言葉で出るのは、いつもの憎まれ口だった。

「そうね。嘘の得意な誰かさんと違って」

「誰かさんっていうのが、ソ・イヌの代名詞なら、僕は嘘つきじゃないぞ」

「嘘。それこそ嘘よ」

「嘘じゃない。演技やハッタリは得意だけどね」

…それを嘘つきっていうんじゃない。

イヌの澄ました顔にヘリが吹き出して笑った。

ヘリの楽しそうな笑い顔に、イヌもやわらかい笑顔を向けた。

…会えて嬉しい。

ひとしきり笑いあって、二人は同じ事を思っていた。

それを先に口にしたのは、嘘の得意な嘘つきだった。

「手料理のお礼に、シャワーとベッドを貸すよ」

…このまま一緒にいたい。

それを聞いた嘘が苦手な嘘つきは、わざとらしく躊躇するフリをした。

「シャワーはともかく、ベッドは貸してくれるだけにしてね。疲れちゃうから」

「貸すだけだ。何もしない」

そう言いながらも、イヌはヘリの体を引き寄せて抱きしめていた。

イヌの胸に顔をうずめて、ヘリは目を閉じて深く息を吸い込んだ。

密着したイヌのシャツから、ほのかに、いつもつけている香水と煙の香りがした。

「…煙草くさいわ」

「移り香だ」

煙草を吸わないイヌの、仕事中についた匂いだった。

「あなたから先にシャワーを浴びて来て」

「いや、後で一緒に浴びよう」

そう言って、イヌはヘリの背中にまわしていた手に熱を加えてゆっくりと下に撫で下ろしていった。

「夜食を食べてから?」

今度は惚けているわけでなく、本気で聞いているらしいヘリにイヌが耳元でクスリと笑った。

嘘をついて、手料理を置いていこうとするなんて。

こんなエープリルフールをしかけてきた君を前にして、これ以上、自分の感情には嘘をつけないから。

…君も食べてからだよ。ヘリ。

ヘリの気持ちを全部吸い上げるように、
重ねた唇に想いを込めて、イヌは目を閉じた。


しばらくして。


イヌのベッドの布団の下で、
ヘリは濡れた服を、イヌは煙草の匂いのしみついたシャツを脱いだ状態で抱き合っていた。

「…やっぱり嘘だったじゃない。何が『貸すだけだ。何もしない』よ」

「エープリルフール」

そう言って、ニヤリと笑ったイヌは、
拗ねた素振りで膨らませているヘリの頬を手で愛おしむように撫でた。

結局、あの後、
会いたかった、というお互いの感情の高ぶるままに、ヘリとイヌは激しく体を重ねた。

その甘い余韻は、終わった後も続き、
ヘリとイヌは仕事疲れさえも忘れて、会話を続けていた。

「あーあ。嘘つき名人にはかなわないみたい。イヌ、あなたには毎日がエープリルフールみたいなものよね」

「誰かを喜ばすための嘘なら、ついてもいいな。…君にはかなわないが」

イヌの言葉で、自分のもくろみがイヌにバレていたのを知ったヘリは、照れ隠しに首筋を手でそっとかいた。

「嘘から本当の事を知る事もあるのは本当よ」

「嘘から本当の事を知るのが本当にある?…よく分からない。何かの例えか?」

「ううん。べつにいいの。こっちの話だから」

一人笑いをしているヘリをイヌが微笑ましげに見つめていた。

「嘘つきは泥棒の始まりって諺はあるよな」

「あるわね。それも本当よね。
私は会った事があるもの。彼女を待ってると嘘をついて、ホテルの部屋を横取りした嘘つきさんが、じつは財布と携帯泥棒の黒幕さんだって」

「そうなんだ」

ヘリの嫌みを、サラリと流したイヌは、素知らぬふりをした。

「それでも、そんな泥棒が好きだと言う女性はいるかもしれないな」

「その女性は泥棒に心も盗まれたんじゃないかしら」

「恋泥棒?」

「そ。恋泥棒」

ヘリとイヌはクスクスと顔を寄せ合って笑った。

笑いあった後、自分の手を見たヘリが突然「いけない」と、あわてて、ベッドから出てキッチンに向かった。

そして、ベッドに戻ってくると、不思議そうにヘリの動向を見守っていたイヌに指輪をはめた手を掲げて見せた。

「置き忘れていたの」

掃除や家事を熱心にする時に限って、
ヘリがイヌのあげた指輪を外す事を知っていたイヌは、
ヘリが夜食の他にもしてくれた事に気づいた。


…君はエープリルフールの嘘も、優しいんだな。


「その指輪、気にいってる?」

「ええ。とっても。
例え、あなたがこの指輪は偽物だと言って、それが嘘じゃなくても、私には大切な指輪よ」

ヘリがそう言って撫でた指に、イヌが優しくそっと触れた。

体中を支配するヘリへの想いに突き動かされるままイヌが言った。

「いつか、これより特別な指輪を君にあげるよ」

…特別な指輪って?

しばらく、イヌが何を言っているのが分からなかったヘリは、キョトンと首をかしげていた。

イヌの言う特別という意味が分からなかった。

しかし、一瞬、チェ検事につかれた嘘の話が、脳裏によぎった。

結婚指輪?

…まさかね。
ハハっとヘリは笑い声をあげた。

「エープリルフールネタなのね?
そうでしょ?もう、騙されないんだからね」

黙って微笑んだままヘリを見つめているイヌに、…やっぱり冗談だったのね。と、ヘリは思った。


それから、
嘘ではなかったイヌの言葉通りに、ヘリとイヌは一緒にシャワーを浴び、
再びベッドに戻った時には、ヘリが眠るタイムリミットになっていた。

「おやすみ、ヘリ」

「…イヌはまだ寝ないの?」

「お腹がすいたから、夜食を頂いてから寝るよ」

そう言って、イヌはベッドの中で、もう半分寝かかっているヘリの髪を一撫でした後、額にキスを落とした。

顔を上げて、

「エープリルフール嬉しかったよ。ありがとう」
…夜食も、掃除も。

そう言ったイヌにヘリが、眠そうに細めた目でニコリと笑った。

「うん…」

…嘘をついて、お礼を言われるなんて不思議ね。バレちゃったけど、素敵なエープリルフールだったわ。
結局、疲れるような事をしちゃったけど、イヌが嬉しいと言ってくれたから。

そう思って、

恋人とつかの間でも、逢瀬が出来た事に心底満足したヘリは、
微笑んだままイヌより一足先に眠りについた。

イヌは、ヘリの寝顔をキッチンカウンターから見つめながら、
ヘリの作った夜食をゆっくりと味わった。

…ヘリ。僕は君には嘘をつけないと言っても、信じないだろう。

“あの日”、
君が僕に『私に気がある?』と聞いた時も演技をしていたつもりだった。
僕が君を好きだと思い込んでくれるのは、好都合だと考えたから。

でも、益々君に惹かれていく気持ちに嘘はつけなかった。

それは今も変わらないよ。


イヌの心の呟きは、
この手料理を見た時に、ヘリに言いたかった事だった。

でも、エープリルフールだと言われる日に伝えても、ヘリは本気にしないだろう。
…さっきのように。

『エープリルフールネタなんでしょ』


「美味しかったよ。本当だ」

夜食を食べ終えて、ヘリの元に戻ったイヌが、眠っているヘリに囁いた。

「さっきの話も」

言った時には、日付は変更されていた。

その事にヘリは気づいていなかったが、イヌには分かっていた。

…エープリルフールの戯れ言なんかじゃない。

「約束する」

イヌが、そう言って、
眠っているヘリの左手の指にキスをしたのは、

エープリルフールを数時間過ぎた、真夜中の出来事だった。


(終わり)
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