韓国ドラマ「キング~Two Hearts」の二次小説
「歌姫の騎士」前編です。
ドラマのラスト20話からの続きとして読んでください。
ドラマを見たことのない方はネタバレも含まれますので、ご注意ください。
また、この二次小説の主人公は、ジェハの妹のジェシンです。
「キング~Two Hearts」のあらすじを。
ジェシンとシギョンについての部分のみ19話、ラストの20話より簡略に。
イ・ジェシンは、ドラマの主人公、韓国の国王(もし、今も王室があったら?という仮想設定)ジェハの妹姫。
近衛隊のウン・シギョンと、不器用な恋をはぐくんでいたが、
シギョンが、銃弾に倒れ、亡くなったと聞かされる。
それから、4年。
ジェシンは、シギョンへの想いを心の片隅に置いて、見合いに臨もうとしていたが…。二次小説を読む注意点は、今までこのブログで更新してきた
「検事プリンセス」の二次小説と同じです。
初めてブログに来られた方は「
お願い」を一読してください。
歌姫の騎士(前編)ドアがノックされた音に、部屋の中にいたジェシンが、
やや緊張した面持ちで、後方を振りかえった。
「王女様。ハンア様がおいでになられました」
ドアの向こうの護衛官の声に、ホッと息をつくと、
ジェシンは座っていた車椅子の上で背筋を伸ばした。
「お通しして」
ガチャリ、とドアが開いて、
ジェシンの護衛官と、国王の妻であり、ジェシンの義姉であるキム・ハンアが部屋の中に入ってきた。
「姉さん」
ジェシンがにっこりと笑って迎えると、車椅子を手で押してハンアの前に進み出た。
「公務で忙しいのに、呼び出してごめんなさい」
「いいの。今日の公務は少なくて、午後からなまった体を動かそうと思っていた所だったから」
「姉さんの体がなまることなんてあるのかしら?」
笑いを含んだジェシンの言葉に、ハンアも笑った。
ひとしきり笑いあったあと
ジェシンが、ドアの近くに立っていた護衛官を見やった。
「しばらく外で待機していて」
「しかし…」
「姉さんは腕がたつから大丈夫よ」
護衛官が戸惑ったように、チラリとハンアを見たが、
ハンアが頷いて見せると、頭を下げたあと、部屋を出て行った。
護衛官の姿が消えると、ハンアはジェシンにすすめられたソファの椅子に腰かけた。
「それで話って?」
そう切り出したハンアに、ジェシンが、着ていたドレスの裾をつまんで見せた。
「これ、今日の見合いにこのドレスを着ていくのだけど、どう思う?」
ジェシンの問いに、ハンアが困惑した顔になった。
女性のファッションに関して、ハンアは疎いところがあった。
義妹が、何を言いたいのか分からないまま、ハンアは思った通りに応えた。
「どう思うって?とてもいいドレスだと思うけど」
「私に似合うかしら?」
「ああ…ええ、とっても。その色は、あなたの明るい髪の色にも合うみたい」
「そう。…あの人も昔そんなことを言ってくれたわ」
ジェシンが、自分のドレスを見下ろして言った。
「あの人ね、女性のこういう所にまったく気がきかないって顔をしてたのに、
ある時、私がこれに似た色の服を着ていたら、突然、「その服、王女様にとても似合います」なんて言ったことがあるのよ」
ジェシンの「あの人」が誰を指しているのか分かったハンアは
黙って、ただ微笑んで頷いてみせた。
しかし、昔の思い出に浸っているのではなく、
何か憂慮しているようなジェシンの顔にハンアが気づいたようだった。
「私にドレスの批評をして欲しかったわけじゃないわね。
何か相談事があるのでしょう?」
「ええ…実は、姉さん…」
ジェシンが少しためらった後口を開いた。
「私、ずっと誰かにつけられているみたいなの」
ジェシンの言葉に、ハンアが眉をひそめた。
その表情は、王様の妻、女王の威厳というより、
研ぎ澄まされた兵士のようなものだった。
ともすれば、身内や大切な人を守るために、
女王としての立場を忘れて、その体を呈するであろうハンアの事を
知っていたジェシンは、あわてて首をふった。
「確証はないの。私の気のせいかもしれない。
護衛官たちにも何度か調べてもらっていたのだけど、そんな気配は無いって報告をもらうだけだったから」
「でも、そう感じることはあったのでしょう?」
真面目なハンアの言葉にジェシンが気まずげに頷いた。
「ええ。肌で感じるの。影でずっと見られているって…。
でも、姉さん。やっぱり気のせいだって思う?
キム・ボングもつかまって、有罪になって、もう二度と塀の外に出て来られない。
クラブMも今はなりを潜めているわ。私の不安に思う気持ちが、
そういう妄想を生み出しているって思う?」
ハンアが首を横にふった。
「それとも…」
ジェシンが、フッと自嘲した後、目をふせた。
「今日のお見合いが嫌で、こんなつくり話をしていると思う?」
「…いいえ」
ハンアは首を振るかわりに、ジェシンをじっと見つめた。
今日は、これからジェシンのお見合いが予定されていた。
数時間後には、見合いの場に行くことになっている。
それは、ジェシンも納得し、承諾した話のはずだった。
はずだったのだが…。
「あなたが強い女だって、知ってるから」
ハンアが静かに言った。
クラブMによって、酷い目にあって、不自由な体になっても、
兄を死なせることを強要された辛い記憶をよみがえらせても、
…愛する男を失っても。
この4年間。
ジェシンは、強い光をその目に宿して、前向きに生きてきた。
見合い話を受けたのも、強要されたものでなく、ジェシンの意思だった。
…愛した男…ウン・シギョンはもういない。
それでも、私は、生きていくから。
そう覚悟して今日という日をのぞんだつもりだったのだが、
見合いの日が近づくにつれて、何となく感じていた何者かの視線を、
ますます疑うようになっていった。
そして、疑心暗鬼は、恐怖とも結びついて、
ジェシンにおぞましい過去の記憶を甦らせていた。
もしかして、また狙われているのかもしれない。
あの頃のように。
気丈にも、公務の席や身内の前でも強がっていたジェシンだったが、
見合いという、プライベートに近い非公開の行事に出ることに躊躇するようになった。
「外に出るのが怖いだけなのよね」
ハンアが、ジェシンの心を読んだように言った。
もしくは、ジェシンがハンアにそう言って欲しいと思っていたことを。
…決して、お見合いを拒否したいわけじゃない。
ハンアはソファから立ち上がると、ジェシンの側に寄って身を屈めて、
ジェシンの目線の高さで見つめた。
そして、優しく力強い声で言った。
「大丈夫よ。見合いには、護衛官も、近衛隊も、それにジェハ…王様も一緒に行って下さるわ。あなたのことは絶対に守るから」
「姉さん…」
「それでも不安なら、私も同行するから」
「それは…安心するというより、余計心配な気がするわ」
「どういう意味よ」
苦笑したジェシンに、ハンアも苦笑いを浮かべた。
しかし、深刻な雰囲気が緩み、ジェシンの固くなっていた表情も和らいでいった。
「ありがと。姉さんと話したらすっきりしたわ」
ジェシンが微笑んで言った。
「私、心配だったの。誰かに見られているっていうことじゃなくて、
自分の中の妄想に囚われているんじゃないかってことが。でも、もう平気よ。
心おきなく見合いにのぞむわ」
明るくなったジェシンの表情にハンアも安堵した顔になった。
…良かった。
ジェシンが、4年前、銃弾に倒れた近衛隊のウン・シギョンに想いを寄せていたことを知っていたハンアは、ずっとジェシンの事を気にかけていた。
ハンアだけでなく、ジェシンの母も、娘の心情を思いやって胸を痛めていた。
そんな周囲の気持ちを分かっていたジェシンだからこそ、
今日の見合いに行くことが、自分の務めであり、義務でもあると思っていた。
過去をふっきった自分の姿を見せるためにも。
…もう大丈夫だから。
ジェシンは、頼もしい義姉ハンアの見つめる瞳に力強くうなずいて見せた。
それから数刻後。
ジェシンは、屋敷を出て、兄のジェハと護衛官に付き添われ、車に乗り込んで、
見合いの場に移動していた。
「…兄さんは幸せ者よね」
後部座席で、突然、ポツリと漏らすジェシンを横に座っていたジェハが不思議そうに見た。
「政略結婚だったのに、姉さんのような人と恋が出来て」
「そうだな」
ジェハが、ジェシンの言葉を否定せずに頷いた。
口元をほころばせて、照れもせずに真面目に肯定する兄の顔に
ジェシンは微笑した。
「ねえ、兄さん。今回の私のお見合い。
もし、うまくいかなかったら、兄さんが困るって事があるのかしら?」
今回の見合いの話は、ジェハから出たものだった。
詳しい素性は聞いていなかったが、相手は、国の政治に関わる重要人物かもしれない。
今更ながら、そんなことが心配になったジェシンの問いに、
ジェハが首を横にふった。
「お前に政略結婚させるつもりは無いよ。だけど、相手は、同性の僕から見てもいい男だ。ジェシンも気にいると思ったから、話をすすめた」
「そうよね…。こんな体の私とのお見合いもいいって言ってくれた方なんですもの
素敵な人なのでしょうね」
チラリと、己の動かない下肢に目を落としたジェシンを
ジェハは横目で見た後、そっと手を伸ばして、ジェシンの手を握った。
「ジェシン。僕は、お前にも幸せになってもらいたいって思ってる」
瞬きもせずにジェシンが兄、ジェハを見つめた。
「母さんも、ハンアも…お前を知っている者はみんな、そう願っているよ」
「…あの人も草場の影でそう思ってくれているかしら?」
ジェシンの言う、“あの人”が誰のことが分かっているジェハは、
ジェシンの手を握る手に優しく力を込めた。
「見合いが終わった後にでも、聞いてみるといい」
…もう、聞いたわ。心の中でね。
ジェシンは黙ったまま、ジェハに微笑んだ後、前を見つめた。
やがて、
ジェシンたちを乗せた車が、とある建物の前に止まった。
「王室の別荘の一つだ。最近は使用してないが、子供のころに一緒に来たのを覚えているか?」
車から降りたジェハが、護衛官に付き添われて、車いすに座ったジェシンに言った。
「ええ…」
静かな湖畔の近くの別荘。
喧噪や政治から離れ、自分が王族ということも忘れさせてくれるような、この場所を、
ジェシンは子供心に好きだった。
建物の中に入ると、
閑静で、派手さは無いが、手入れされた広い部屋の奥に
ピアノが1台置いてあった。
ジェシンが思わず微笑んだ。
「ずいぶん手回しがいいのね。兄さん。
見合い相手に私の特技を披露する機会をくれるつもりなのね?」
「口で自己紹介するより早いだろう。
もし、気まずくなったら、会話を切り上げる口実にもなる」
そう言ったあと、ジェハは目で合図して、護衛官を部屋から下がらせた。
「じゃあ、僕も少し席をはずすよ」
「一緒にいてくれるんじゃないの?」
「見合いに兄同伴はおかしいだろう?
でも、この建物の中にはいるよ。護衛官も隣の部屋にいる。
それに、外には近衛隊を待機させているよ」
おそらく、王室を出る前に、ハンアがジェハに何か伝えたのだろう。
身辺警護は厳重だということを、ジェシンに安心させるためのジェハの言葉だった。
しかし、ジェシンには、身辺警護だけでなく、
見合い相手と二人きりになるということも不安なようだった。
当惑したジェシンの顔に、心を悟ったジェハは頷いてみせた。
「相手の身分は僕が保障するから、安心して見合いにのぞめ」
ジェハはジェシンを落ち着かせるように優しく笑った後、
ジェシンを真面目な顔で覗き込んだ。
「ジェシン。再度言っておくよ。僕は、妹の、お前の幸せを願っているから」
政治とか、国とか、周囲のことは気にするな。
自分の想いで、この見合いをすればいいから。
兄の気遣いがジェシンには嬉しかった。
「分かってるわ。兄さん。」
頷くジェシンにジェハは微笑み返すと、部屋を出て行った。
しばらく、静かな部屋の中で、コチコチと、置時計の秒針の音だけが響いていた。
お茶がセットされたテーブルとソファ椅子。
そして、ピアノ。
見合いの場というには、あまりにも簡素な雰囲気だった。
…この建物も、部屋も悪くないけど、
一国の王女が見合いをするには不思議なところね。
王室や街からも離れて、まるで人目を避けるような場所。
政略結婚の見合いで無いと言われても、相手は、もしかしたら、
非公式で行動しなくてはいけないような方なのかしら?
ジェシンは、用意された紅茶を口に含みながら、そわそわと、まだ開かないドアに何度も目をやった。
…少し遅いわね。
まだ、相手の方は到着してないのかしら?
それとも、気がかわって、来なくなったのかしら?
ジェシンは、やきもきする気持ちを抑えるように、
車いすをピアノの前に移動させた。
そして、ピアノの前で思案した後、
退屈しのぎに、最近練習していた歌を弾き語りすることに決めた。
ジェシンが歌の冒頭部分を奏で始めた時、
カチャリ…と、背後で、ドアノブが小さく回る音がした。
しかし、ピアノを弾いて、歌うことに夢中になっていたジェシンは
気づいていないようだった。
息をひそめて、ドアから、部屋に入ってきた人物が
後ろ手にドアを閉めて、そして、数歩前に出たことも。
やがて、ジェシンが歌い終わった。
ふーっと、満足げに息をついたジェシンは、
次の瞬間、ハッとなって顔を上げた。
…部屋の中に誰かいる!
後方から自分を見つめる視線と人の気配に気づいた
ジェシンの心臓が急速に早鐘を打ち始めた。
歌っている間は、気配を感じなかった。
護衛官なら、ドアをノックするし、兄さんでもない。
「…誰?」
ジェシンは、振り向かないまま、
恐怖でこわばった喉を絞り出すように声をあげた。
後ろにいた人物の小さな吐息が聞こえた。
そして、
「王女様」
そう聞こえた声に、ジェシンの心に激震が走った。
…この声…!…でも、違う。…そんなわけない。
あの人であるはずがない。
そう思いながらも、ジェシンは、振り向かずにいられなかった。
車椅子を回転させて、ふり向いたジェシンの目が
後ろに佇む人物の姿をとらえた。
ジェシンの目が大きく見開かれた。
「うそよ・・・」
部屋の中に立っていたのは一人の男。
もう、この世にいるはずのない人。
4年前に銃弾に倒れて、もうこの世にいないはずの・・・
しかし、ジェシンが見間違う事はあり得ない男だった。
「ウン・シギョン。…あなたなの?」
ジェシンが震える声で聞いた。
「はい」
直立不動の男は、ジェシンをまっすぐな視線で見つめながら頷いた。
「“私”です。王女様」
震えは止まったが、思考が停止したように、
ジェシンはただ茫然と、目の前の男、ウン・シギョンを見上げていた。
(後編に続く)
登場人物
イ・ジェシン(ジェハの妹、王女)
ウン・シギョン(近衛隊副隊長)
イ・ジェハ(国王)
キム・ハンア(ジェハの妻)
「みつばのたまて箱」掟やぶりの二次小説です。
許して頂ける方は、そして「キング」を見たことのある方は、
「検事プリンセス」イヌ×ヘリとは違う世界を、
みつばのぎこちない文体で(苦笑)お読みください。
検事プリンセスの二次小説を待って下さっている方、
拍手やコメントを送ってくださった方、ありがとうございます!
コメントレスを少し。
「イルジメ」は、私も主人公が気になってましたが、
シフ兄様が出ない方の「イルジメ伝」の方が気になってます。
私は元気です。少々寝不足はありますが、
仕事は休んでいるので、育児の合間の気分転換に
創作をちょこちょこ出来るときにしています♪
風邪とか流行っています。冬の疲れも出てくる時期です。
お体お大事にしてください。
やっぱり、「検事プリンセス」が好き。という方も
「キング」のシギョン×ジェシンが気になった方も
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