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中国ドラマ「陳情令」、映画「乱魄」の、みつばの二次小説「天に楼閣を描く鳥」(16話)です。

「陳情令」(魔道祖師)のキャラクター、「聶懐桑」中心の二次小説。
みつばの二次小説シリーズ、番外編。「回家編」のスピンオフ。


二次小説を読む注意点、「陳情令」の他の二次小説も ←(以下、必読の注意書きです)
「陳情令」二次小説INDEXページからお願いします。


コメント記入に関しての説明は、こちらから。

「陳情令」の登場人物・名称紹介のページはこちらから

とくに初めてこのブログにいらした方は注意点を一読してから二次小説をお読みください。

※(注意)ドラマ「陳情令」、原作「魔道祖師(作者):墨香銅臭」、アニメ「魔道祖師」
「陳情令」のスピンオフ映画作品「乱魄」のネタバレがあります。
これから見る予定の方はご注意ください。


二次小説のイメージイラスト【裏箱】天に楼閣を描く鳥(イラスト)

「天に楼閣を描く鳥」登場人物紹介(イラストつき)
※未公開(今後更新予定)の二次小説中の登場人物も含まれています。


「続きを読む」からお入りください





天に楼閣を描く鳥(16話)





聶懐桑は、今までこの妓楼の中で、麗しい女性たちを幾人も見ていた。

さらに、美しい仙師も見飽きるほど知っていた聶懐桑だったが、美梨(メイリー)は、それまで会った『仙子』の中でも上位に入るほど可憐な容姿の持ち主だった。

楼主が話していた「一番人気の妓女」。

たしかに、この容姿なら人気も出るだろう。
そして、彼女のような女性が描かれた春画は間違いなく売れる。

聶懐桑は、そう思った。


「黒蚕さま」

美梨は、にっこりと美しい笑みを浮かべた。

「お隣に座ってよろしいでしょうか?」

「う、うん。どうぞ」

聶懐桑が答えると、美梨は空いている席では無く、聶懐桑と朱鷺の間に身を置いた。

座した美梨が朱鷺の方を、ちらりと見た。
そして、僅かに首を傾けると愛想笑いを浮かべた。

「いらっしゃいませ」

「ああ…」

朱鷺は美梨に素っ気ない挨拶をしただけだったが、聶懐桑は、二人の間に漂った妙な間を敏感に感じ取った。

―――この二人は知りあいだ。
しかし、店で雇われている男が妓楼の女性と顔見知りなのは当然だが、この妙な空気は・・・。

聶懐桑が深く考える間も無く、座卓の上にあった酒甕を手にとった美梨が、聶懐桑の杯に酒を注いだ。そして、美しい黒玉のような瞳で聶懐桑の顔をジッと見つめた。

それは、聶懐桑にとっては高度な妖術に近い誘惑の眼差しだった。

「黒蚕さまのお話は、朋輩から伺っています」

美梨の唇から、うっとりとした甘やかな声が紡がれた。

「とても素晴らしい絵師でいらっしゃるとか」

「いや。それほどでも……」

「私も描いてくださいな。黒蚕さまの素敵な絵を、ぜひとも拝見したいですわ」

「そ、そう?」

居心地が悪いのは、美梨が、いかにも客相手に使う言葉でおだててくるからではない。

聶懐桑は、二人の会話に興味の無い様子で料理を食べ続けている朱鷺と、そんな朱鷺と聶懐桑の間に座って酒の相手を始めた美梨から、早く逃れたい気分になっていた。

先ほどの朱鷺と美梨の短いやり取りで、聶懐桑には、なんとなく二人の関係が分かったからだった。

二人が醸し出している雰囲気は、同じ店の中の、ただの雇用人同士という感じではない。

聶懐桑の直感は当たっているようだった。

美梨は聶懐桑と会話をしていたが、その実、朱鷺の動向に強い関心を持っているようだった。

従業員より客を優先した接客をしていても。
意識の大半は背の方に向けられている。

それは、しばらく妓楼に通っていた聶懐桑が、妓女たちを観察していて気付いたことだった。

そばに本命の客がいる時、妓女たちは他の客と話をしていても、どこか、気がそぞろなのだ。

無意識に漏れ出る情念というものだろうか。

巧妙に隠していて、双方には気づかれない。
しかし、俯瞰で観察していれば分かる気配。

聶懐桑は、自分の勘が正しいのかどうか、確かめてみたいという思いになった。

「美梨」

名を呼んで聶懐桑が言った。

「連れにも酌をしてください」

「あら?…ふふっ。わたくしとしたことが。失礼いたしました」

とぼけたように美梨は口元に手をあてると、朱鷺の方に体を向けた。

「さあ。あなたも、一献どうぞ」

「どうも」

固い返事で返す朱鷺と、杯に酒を注ぐ美梨を見比べた後、聶懐桑は、心の中で、『もう、演技はしなくていいよ』と浅い吐息をついた。

「彼と面識がありますよね?」

はっきりと問う聶懐桑に臆することなく美梨が「そうです」と頷いた。

「この妓楼の『顔見知り』ですわ。ですから、この特別室で、彼がお客様のような高貴な方と同席していたので、正直驚いています」

「私は、店の中で彼に助けてもらいました」

聶懐桑は、間髪入れずに言った。

美梨に、朱鷺のことで「いつからの知り合いか」などと、アレコレ聞かれるのは面倒だった。

「ええ。主からその件に関しての経緯は伺っております。朋輩の一人が、黒蚕様に大変失礼なことをして申し訳ありませんでした。わたくしからも深くお詫びいたします」

胸に手を置き、心痛の表情を浮かべた、この妓楼で一番人気の女性の陳謝は、聶懐桑にも絶大な効果を発した。

「もう気にしていません」

言葉通り、気にしていなかった聶懐桑だったが、美梨は潤んだ瞳を聶懐桑に向け続けていた。

「黒蚕様はお心が広く寛大なお方。どうか、存分にお礼をさせてくださいませ。黒蚕さまが望むことであれば、わたくしは何でもいたします。この部屋で夜が明けるまで」

「……」

聶懐桑は、つい、美梨を凝視して固まった。

経験が無いとはいえ、美梨の言った最後の一文の意味が分からないほど、聶懐桑は初心(うぶ)では無かった。

少年期より春画を愛読して得た知識と、偵察と絵のモデル探しが目的といえど、妓楼に通って広めた見聞が、美梨の言葉の意味をくみ取っていた。


―――今夜は、わたくしが閨の相手をさせていただきます。


聶懐桑は、密かに息をのんで、たじろいだ。

「そこまでしなくて良いです」

「黒蚕様は、わたくしのもてなしでは、ご不満ですか?」

「まさか。ただ、もてなしは十分受け取りとりました」

「しかし、わたくしは、楼主からも、黒蚕様のしたいことを全て叶えるように申しつかっております」

やんわりと食い下がる美梨に聶懐桑はピンときた。

…つまり、楼主に、僕の夜の相手をして、完全に篭絡させろと命じられているんだな。

おそらく楼主の目論みは、店一番人気の妓女に僕を骨抜きにさせること。

今回の件を外に漏らさないという暗黙の口止め料がわりであり、今後も贔屓にさせるという確約を取り付けさせるのが目的なのだ。

しかし、楼主は、聶懐桑を買収と色仕掛けでどうにか出来る男だと侮っているわけでは無いようだった。

一番人気の妓女に裏事情をあっさりと白状させたのも、彼の入れ知恵なのだろう。

もし、聶懐桑が美梨の誘いに乗らなければ、『断られたら、私が楼主から厳しく罰せられます』という美梨の泣き落としに情をかける方にうつさせる。

どちらにしても、楼主の策にはまるように仕組まれている。

聶懐桑の方が楼主を侮り、招いた事態だった。

…やれやれ。

金麟台には『毒蛇』が住まうが、楼閣には『狸』がいるってことか。

聶懐桑は、切なげな顔で見つめている美梨と、先ほどから無言で飲み食いしている朱鷺の顔を横目で盗み見た。

二人きりでいた時とはうって変わって、朱鷺は不愛想になっていた。

…朱鷺が、今夜、妓楼で会うと言っていた女というのは、美梨のことだったのかもしれない。

そして、もし、僕の考えがあたっているならば。

楼主は、この二人の関係に気づいていた。
だから、あえて、この僕と朱鷺のいる部屋に美梨を送った。・・・そういうことなのかもしれない。

聶懐桑は、すでに推察というより妄想に近い考えを展開していたが、その正誤は、実は、どうでも良いことだった。

少なくとも、美梨の方は朱鷺を意識している。それだけははっきりしていた。

…僕には、恋とか、愛とかいうものが理解出来ないのに、なぜか、他人が誰かに真っすぐに発している『気』は分かる。

聶懐桑は、脳裏に思い出すだけで、清らかな感情に満たされる、『白衣の男』が誰かを見つめていた時のことを浮かべた。

それは、今、部屋の中にいる男女の間に漂う歪んだ情とは異なっていた。

かの者が、誰かを見つめていた目は、春山の雪解け水のように、冷たくとも、清麗で、どこまでも澄み切った想いに溢れていた。

しかし、種類は違っていても、今、美梨が朱鷺を見ている視線には、それと似た何かが内包されている。

―――僕には、真の意味では、分からない何か。


聶懐桑は、小さく溜息をつくと、立ち上がった。

「では、美梨。今すぐ寝台に来てください」

「え…」

急変した聶懐桑の態度に狼狽えた美梨を尻目に、朱鷺も席から立ち上がった。

「それじゃあ、俺は部屋を出るぜ。ゆっくり楽しんでいけよ。絵師さん」

そう言いながらも、顔も見ずに扉の方に足を向けた朱鷺を聶懐桑は呼び止めた。

「待ってください。あなたもです」

「はぁ?何言ってるんだ?絵師さん」

振り返った朱鷺は苦笑を浮かべていた。

「3人で遊ぼうってのか?」

からかうように問い返す朱鷺の前で、聶懐桑は腰帯に下げていた絵筆をとって見せた。

「お二人には、春画のモデルになっていただきたいのです。でも、衣服は脱がなくても構いません。行為もしなくていい。ただ、男女が床で絡む真似をしてくださればよいです」

「……」

「それが私の望みです」

きっぱりと言いきった聶懐桑に、朱鷺と美梨は異議を唱えなかった。

部屋の寝所に入った美梨と朱鷺は、寝台の上で、聶懐桑の指示に従った。

すべてを丸く収める為に思いついた事だったが、聶懐桑は己の案の結果に至極満足した。

それまで、聶懐桑は女性を単体で模写していた。

実際の絡みを見て描いたことの無い聶懐桑には、寝所の中で重なる男女の姿は、真似事の体勢であろうと、春画の下絵にするにはもってこいの光景。

それも、外見が好みの美梨と、見た目は良い部類に入る体と顔の朱鷺は、春画のモデルとして申し分なかった。


聶懐桑は、床に座した。

そして、寝所の上の二人を見ながら、広げた紙の上に墨をつけた筆を一心不乱に走らせた。

寝台の上の美梨と朱鷺は、そんな聶懐桑の様子に黙ったまま目を向けていた。

だが、次第に状況に慣れてきた美梨が、吐息が頬にかかるほど接近している朱鷺の方に意識を向けた。

「ねえ…。さっきから貴方から甘い匂いがするけど、もしかして飴を舐めているの?」

「ああ」

「酒を飲んでいるのに、甘い飴?」

「別にいいだろう」

「いいけど。私にも、その飴舐めさせて」

「おい。やめろよ」

小声で囁いていたが、聶懐桑には二人の会話が丸聞こえだった。

美梨は、朱鷺が口の中で舐めていた飴を、取ろうとしていた。
それも、口づけで。
しかも、それは、聶懐桑が最初に口にした飴だった。

顔をあげた聶懐桑の視線に気づいた朱鷺と美梨が、気まずげに口を閉ざし、顔をそむけあった。

「そのままで。接吻するフリをして動かないで」

聶懐桑が慌てて言った。

「まぁっ…」

美梨は恥じらったように笑ったが、朱鷺は無表情で返した。
そして、袂から新たな飴を取りだすと、美梨の唇に押し当てた。

「これでも舐めてろ」

「あら。この飴、とっても美味しいわ」

体を密着させ、唇と唇が重なる寸前まで、顔を近づけたままの美梨と朱鷺は、またしばし無言になった。

だが聶懐桑が輪郭を描き終えないうちに、暇を持て余したような美梨が、ひそひそと話し始めた。


「あなたの飴は無くなったの?私のをわけてあげましょうか?」

「いらない。口を閉じてろ。動くなと言われただろう」

「動くなとは言われたけど、話すなとは言われてないわ」

「お前…」

せっかく筆がのってきたというのに、ここで大事なモデルの機嫌を損ねて中断したくない。

絵を描きながら、「話をしていても構いません」と言った聶懐桑に美梨は、「ほらね」と、すました顔で朱鷺を見やった。

「そんな顔しないで。私を黙らせたかったら口を塞げばいい」

美梨の言葉の後、部屋の中が静かになった。

ふと、聶懐桑が顔を上げて寝所の方を見ると、二人は四肢を絡めたまま動いていなかった。
しかし、密着しているのは、体だけでは無い。

唇が重なりあい、それまでフリだった接吻が本物になっている。

下になっていた美梨の両手が朱鷺の後頭部にまわされていることから、美梨の方が朱鷺を引き寄せ、強引に唇を合わせたのだろう。

聶懐桑は、今まで妓楼の中で、個室の開いた扉の隙間から、このような場面を通りがかりに盗み見たことがあった。だが、至近距離で見る接吻は初めてだった。

思わず筆を止め、二人に見入っていた聶懐桑に朱鷺が気づいた。

朱鷺の視線で我に返った聶懐桑は、慌てて筆を持ち直すと模写を続けた。

そんな聶懐桑の姿を見た後、朱鷺は両目を閉じると美梨の体を抱き直した。

そして、美梨が仕掛けた悪戯な接吻を、まっこうから受け止めると濃厚な口づけを交わし始めた。

「ぁ…っ…」

やがて、美梨が、微かな喘ぎ声を発するようになるほど、朱鷺との口づけは、激しくなり、もはや「フリ」では無く、本物の情交を始めそうな勢いになっていった。

寝所の二人が発する熱と共に周囲の温度が上昇し、貴賓室の中の空気を変えていく。

そんな中。

聶懐桑は絵描きに没頭していた。

……これだ。この感じだ。旻春舗(ビンチュンプ)の店主が言っていた『人間の心情と欲望を見せる絵』という意味を、今なら掴めそうな気がする。

そんな気になっていた聶懐桑は、無我夢中で寝所の中の二人を描いた。

やがて、1枚描き終えた聶懐桑は、我にかえると寝所の上を見やった。

衣服を乱した美梨が、朱鷺の腕の中で甘い声をあげていた。


「ねぇ…。朱鷺…。このまま…。いいでしょ?…」

これは、もう演技では無い。

聶懐桑は、自分が今、この二人にとって完全な邪魔者と化していることに気づいた。

「もう充分にお礼と謝罪は受け取った、と楼主にお伝えください」

そう言いながら、慌てて絵と筆を片付けた聶懐桑は、寝所の上の二人にろくに目も当てずに「失礼します」と言って、バタバタと部屋の外へ飛び出した。

貴賓室の扉をしっかりと閉め、早足で少し部屋から遠ざかった後、聶懐桑は、立ち止った。

そして、ほぅっ…と、深い吐息をつくと、扇子の代わりに手でパタパタと熱くなっていた顔を仰いだ。


「ああ。驚いた」


聶懐桑は、まだ熱く感じる首筋に手をやった。

その指先に触れたフワフワした感触で、聶懐桑は、妓楼の屋根の上で朱鷺が巻いてくれた毛皮の襟巻をそのままつけていたことに、ようやく気付いた。

…しまった。これは彼に返さなければ。

慌てて貴賓室の方まで駆け戻った聶懐桑は、扉の近くで足を止めた。

おそらく、部屋の中では、聶懐桑がそれまで目にしてきた春画の行為が現実の世界として繰り広げられていることだろう。

聶懐桑は、むつみ合う男女の邪魔をしないように、扉の下に朱鷺の襟巻を置いておくことにした。

襟巻を外し、そっと腰をおろした聶懐桑の耳に、扉の向こうにいる朱鷺と美梨の声が届いた。

聶懐桑には、はっきりと会話の内容は聞こえなかったが、明らかに艶めかしい類のものでは無い。

次の瞬間。
バチンっと、何か打つ派手な音がした後、扉の方に一直線に向かってくる足音が響いた。

ハッと顔を上げた聶懐桑の前で勢いよく両扉が開かれ、美梨が姿を現した。

美梨の髪と薄布の羽織は乱れていたが、しっかりと衣服を着込んでいる。

しかし、その顔は、聶懐桑が最初に見た時の美梨では無かった。
鬼女のように恐ろしい形相で目を吊り上げていた美梨は、扉の前でしゃがみこんでいた聶懐桑をじろりと見下ろした。

「ふーん…。そういうこと」

美梨が憎々しげにつぶやいた。

何がそういうことなのか?

美梨に恨みがましい目で睨みつけられた聶懐桑は、ただ、きょとんと見上げた。

「この、変態野郎」

美しい顔の美梨の口から、似つかわしくない言葉が掃きだされた。

言い終えた美梨は、つんっとそっぽを向くと、苛立ちの空気を瞬時におさめ、妓楼一の妓女の風格を取り戻した。そして、丸みを帯びた臀部を振り振り、可憐な曲線美を描きながら颯爽と立ち去っていった。

「…え…っ。ちょっと待って。違うんだっ!」

呆然となっていた聶懐桑は、美梨の後ろ姿が廊下の角に消えそうになってから、ようやく我に返った。

美梨に、完全に誤解されたようだった。

「僕は、部屋を覗いていたんじゃない。借りていたものを返しにきただけなんだ!」

大声で弁解する聶懐桑の声は、誰もいない妓楼の回廊にむなしく響いた。

聶懐桑が途方にくれたように立ち尽くしていると、部屋の奥から、頬に手をあてた朱鷺が出てきた。

「絵師さん、まだいたのか。何やってるんだ?」

「それは、こちらの台詞です。あなた、一体、彼女に何をしたのです?」

「見りゃ分かるだろ。こっちがされたんだよ」

そう言って、朱鷺は頬をおさえていた手を離し、真っ赤な手形の跡をあらわにした。

それでも聶懐桑は、冷ややかな視線を朱鷺の腫れた顔に向けていた。

「あなたが先に何かして彼女を怒らせたからでしょう」

「今夜は、その気にならねぇって、彼女の誘いを断っただけだ」

朱鷺の言葉に、聶懐桑はとたんに罪悪感を覚えた。

春画のモデルになることを頼んだ聶懐桑は、決して朱鷺に強要したつもりは無かった。
だが、朱鷺には不本意のことだったのかもしれない。

…だとしたら、妓楼の上客の言葉にさからえない彼に対し、自分は酷なことをさせた。


「痛てー。ったく。さっき殴られた場所と同じところを叩かれた」

朱鷺は、男に殴られた時より大げさに痛がってみせた。

聶懐桑は、黙って貴賓室の中に入った。
そして、懐から出した手巾に水差しの水を含ませて絞ると、朱鷺の方に差し出した。

朱鷺は、聶懐桑の顔と手巾を交互に見やった。

動かない朱鷺に、聶懐桑は手巾を朱鷺の頬にあてると「これで顔を冷やしてください」と冷めた口調で言った。

「いいのか?」

「私のせいでもありますから」

そっけなく答えた聶懐桑だったが、顔をほころばせた朱鷺に目を留めた。
それは、聶懐桑が思わず見惚れるほど、やわらかな笑顔だった。


「絵師さんは、優しいな」

手巾を持ち、嬉しそうに言った朱鷺の声は、なぜか聶懐桑の心に響いた。




―――枝垂柳(しだれやなぎ)の刺繍の手巾…。


目を開けて。

まっさきに視界に入った手巾の刺繍を聶懐桑はボンヤリと見つめた。

「宗主。お目覚めですか?」

耳に聴こえた声は、記憶の中の『朱鷺』という男と同じものだった。
そして、仰向けで横になっている自分を心配そうにのぞき込んでいる顔も。

だが、それが朱鷺では無いことを聶懐桑は理解していた。


……宗輝(ゾンフェイ)。いや・・・。

「蒼麒(チャンチー)…」

掠れた声で名を呼んだ聶懐桑に、蒼麒(チャンチー)が、ほっと息をつくと、優しい眼差しを落とした。




(続く)



「天に楼閣を描く鳥」で、新しく登場するオリジナル用語と人物名を「名称一覧」記事で更新しました。

ひさしぶりの「天に楼閣を描く鳥」。

どこまでブログでアップしていたかな~?って見たら。

え?まだ、聶懐桑、気絶していて、過去を夢で見ているシーン?
美梨ちゃんが登場した話?あれ?時間軸、いつだっけ?となったみつば。

「天に楼閣を描く鳥」は、昔、(魏無羨がいない時期)から、過去(「暗翳の灯」)頃)~現在(「同甘共苦の誓い」後)と、時間があちこち、いったりきたりしている話なので、自分でも続けて読まないと分からなくなります。

「忘羨」の二次小説の裏話でもあるので、時折、忘羨の二人が見え隠れした共通エピソードがあります。

みつばの二次小説シリーズと番外話を両方読んだ方が、「ああ、だから、あの時、こうだったのね」ってなった時、1つの物語がようやく完結されると思います。


「天に楼閣を描く鳥」の次回の更新は未定です。


ブログへのご訪問、記事への拍手を送ってくださった方、ありがとうございます。
コメントを送ってくださった方、ありがとうございました。


(以下、コメントレス的な話)

初めてコメントを書いてくださった方、ありがとうございます!
ドラマ「陳情令」と原作「魔道祖師」の設定を混ぜた二次創作「忘羨」小説ですが、楽しんでいただけていたら幸いです♪

そうそう。「春花秋月」も見たかったのでした!
色気があって、素敵な俳優さんに惹かれます。

今は、ずっと見たかった「-上陽賦 運命の王妃-」を視聴中。

お察しのとおりです。
体は健康になりました。心も元気を取り戻してます。
ただ、右脳くんは、まだ眠っています。

こんな管理人ですが、「忘羨」好きは、かわりません。
不定期になりますが、二次創作イラストなり、雑記なりは、続けていきます。
「陳情令」(魔道祖師)好きの方は、またお気軽にブログに遊びにきてください。
おまちしております。
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