fc2ブログ
管理人★みつば★の好きな小説、ドラマ、映画等の感想やイラスト、小説などの二次創作物がおかれています。
プロフィール

★みつば★

Author:★みつば★
「みつばのたまて箱」にようこそ。
管理人★みつば★です。
記事の中にお好きな物があれば
是非一緒に楽しみましょう♪

最新記事

カテゴリ
月別アーカイブ

訪問者様♪

更新通知登録ボタン

記事更新を通知します

検索フォーム

QRコード

QR

中国ドラマ「陳情令」、みつばの二次小説「常春の庭」第4話です。

二次小説を読む注意点、「陳情令」の他の二次小説も ←(以下、必読の注意書きです)
「陳情令」二次小説INDEXページからお願いします。


コメント記入に関しての説明は、こちらから。

「陳情令」の登場人物・名称紹介のページはこちらから

とくに初めてこのブログにいらした方は注意点を一読してから
二次小説をお読みください。

ドラマ「陳情令」、原作「魔道祖師(作者):墨香銅臭」、アニメ「魔道祖師」をご存じない方。
これから見る予定の方は、ネタバレがありますのでご注意ください。

二次小説はドラマ50話最終回後の話になります。
また、この小説にはBL(男同士の恋愛)描写があります。
そのあたりが受け入れられる方のみお読みください。


この小説は、時間軸では、みつばの二次小説シリーズ「道侶編」の最新話になります。


「続きを読む」からお入りください
(スマホで見ている方は、すでに小説が開いています)



常春の庭(4話)







「温情…って」

魏無羨は慎重に名を口にした。

「『彼』の姉の?」

いぶかしげに尋ねた魏無羨に、童女はコクリと頷いた。

魏無羨の言う『彼』が誰を差しているのか当然分かっているという顔だった。

「温寧の姉よ」

さらりと返した童女に、魏無羨は口を閉じた。

まだ、童女に対する疑念は完全に晴れてはいなかった。

温情は、今はなき、温氏の仙女。
魏無羨が知るかぎり、最高位の医術の腕を持っていた仙師だった。

当時の温宗主、温若寒にも一目おかれ、『岐黄神医』という称号で呼ばれるほど、優れた医術師だった温情。

調べれば、温氏であった『温情』のことは誰にも知れることだった。

今は『鬼将軍』という称号で呼ばれている温寧の姉であることも。

何かの思惑で、目の前の童女が『温情』を語ることも可能だった。

「君は、俺が知っている彼女とは、外見が全く違う」

魏無羨が言った。

「温情だという証拠になることを言えるか?」

童女は、ジッと見定めているような魏無羨に対し、負けずとも劣らないほどの強い眼差しを向けた。

「あなた、相変わらず大酒を飲んでるでしょう?白目に少し濁りが出てる。
闇狩り明けで寝不足になった日くらいは、酒を控えなさい」

「うーん。子どもながら鋭い観察力。
まるで、いっぱしの医術師みたいだな。すごいなお嬢ちゃん」

大仰に褒めた魏無羨にも、童女は、何の感慨もわかない、という澄ました顔だった。

「もっと、自分の体を大事にしろと、私が何度注意しても、聞かなかったわよね。
でも、今は、乱葬崗にいた頃と比べると断然顔色がいいわ。
しっかり諫めてくれる人がそばにいるのかしら。それとも、おじさんが作ってくれた酒では無く、あなたが一番好きな酒だと言っていた姑蘇の天子笑のおかげかしら」

夷陵の乱葬崗で飲んでいた手製の酒のことや、魏無羨の好みの酒の話を知っているのは、限られた人達だけだった。

それでも、まだ信じられずにいるような魏無羨に、童女が、スッとあげた拳を見せた。

「鍼治療なら、この身体でも、あなたの体に施せるけど、試してみる?」

童女のなりは、魏無羨の記憶の中の温情の姿と重なった。

『弟や、阿苑に変なことを吹き込む人には、お礼に、いい治療をしてあげるわ』

そういって、手に、数本の太い鍼を持って、魏無羨を脅すように話していた温情。

本気で体のことを気遣っていることが分かっていても、嫌がる魏無羨に、温情は、どこか楽しげな雰囲気をかもしていた。

医術の腕は確かで尊敬は出来ても、口うるさくやっかいな担当医。
そして、同じ集落に住む仲間のような存在だった。


「…やめてくれ」


苦手な鍼治療のことでは無い。

温情のことを思い出すと同時に浮上した苦い記憶の片鱗を払うように、魏無羨が呻くように呟いた。

たとえ、『私は、温情』と語っている、童女が言っていることが本当だとしても。
手放しで喜べる再会というわけにはいかなかった。

「温情は、十数年前に他界した。あの時、乱葬崗で暮らしていた者たちが、処刑された姿を俺は見た。そして、彼らの体は、その後、伏魔洞の血の池に沈められた。温情の姿は見ていなかったけれど、処刑され、灰になり、魂も完全に消滅させられたと。そう聞かされた」

しかし、同じく、そう噂されていた温寧は、密かに、ずっと囚われて生きながらえていた。

温情の体は消えても、魂は生かされていたということはあり得るのだろうか?


「もし、彼女の魂がこの世に残っていたとしても、君の今の、幼子の姿は何だ?」

「魏無羨。あなたは、なんだと思う?」

尋ねた魏無羨に、馮莉(フォンリィ)が問い返した。

「あなたのように、献舎されて蘇った者のように見える?」


童女から『献舎』という言葉が出てきたことを、魏無羨はもう不思議に感じることは無かった。

魏無羨は、かぶりを振った。

「君の体は、献舎の術を行うには幼すぎる」

「そう。…それに、この身体には、金丹の核が無い。献舎はおろか、霊力をため、仙術を駆使することは出来ない」

仙師の素質は、生まれつき、金丹の核を持っていること。
他の人間には無いものだった。

そういう意味で、馮莉(フォンリィ)の体は、仙術を使える者では無いということだった。

一瞬、寂しそうに目を伏せた童女の顔に、魏無羨も視線を下にした。


「温情が献舎されて無いとすると、他に考えられることはある」

「奪舎ね」

すかさず、馮莉(フォンリィ)が言った。

「ああ。だけど、違う」

魏無羨は、目の前に立っている童女をジッと見つめた。

「君が、本当に、俺の知っている温情なら。馮莉(フォンリィ)という女の子の体を奪舎でのっとったとは思えない。温情は、自分の欲の為に人を傷付ける人じゃない。味方も、敵も。どんな人も平等に助ける最高に素晴らしい医師だった」

「その言葉。温情が聞いたら、『光栄ね』と答えるでしょう」

他人事のように語りながら、馮莉(フォンリィ)は儚げな微笑を浮かべていた。

「だけど、魏無羨。あなたは知ってる。温情は己の都合の為に、手を汚していた。
温情のせいで、命を落とした者たちも…」

「それは、弟の為だった」

馮莉(フォンリィ)の言葉を遮り、魏無羨がきっぱりと言った。

「家族を人質に取られてしていたことだ」

…過去の温情は、それを辛く感じていた。

「ええ…。でも、温情…私自身、今の状況を理解できていない」

馮莉(フォンリィ)が心苦しそうな顔で俯いた。

「3か月ほど前。この身体で、温情としての記憶が突然蘇った。でも、どうして、そうなったのか分からない。温情の最後は、金麟台。温寧と共に処刑されたはずだった」

ぼんやりと語った馮莉(フォンリィ)から「温寧」の名が出たことで魏無羨は、ハッとなった。

「そのことだけど、温寧は今も生きている」

生前。弟、温寧の身を、ずっと案じていた温情。

目の前の童女が温情であるならば、記憶がよみがえった時に、真っ先に思い浮かべたことだろう。

「知っているわ」

馮莉(フォンリィ)は、意外にも、冷静だった。

「温情の記憶を思い出してから、この身体で出来うる限りのことを調べたの。温寧が今も生きていることも、私たちが金麟台に行った後に起きたことも。…魏無羨。あなたが、多くの仙家の者たちに追われ、不夜天で消えたことも。そして、十数年の時を経て、献舎の術で、蘇ったことも」

魏無羨を見つめる童女の眼の中に、哀しみと憐みがこもった想い、そして、慈愛のような光があった。


「あなたが、生きていて、そして、姑蘇で安寧に暮らしているようで良かった」


魏無羨の知っている温情とは、容姿も声も全く違う童女。

だが、魏無羨には、童女の言葉を素直に受け取ることが出来た。

「うん…」


しかし、『君も』と返せない状況に、魏無羨は再び、心を鎮めた。

今ごろ、馮莉(フォンリィ)の家にいる両親は、魏無羨が娘を連れ帰ることを信じ、その身を案じながら待っていることだろう。

「さきほど、馮莉(フォンリィ)の両親と会って話をした。彼らは、娘の変化に戸惑っているけど、それ以上に、君がひそかに苦しんでいることに心を痛めているようだった。君は、『温情』が、知らないうちに、病気だった童女の体を奪ったかもしれないと悩んでいたんじゃないか?」

魏無羨の問いに、馮莉(フォンリィ)がコクリと頷いた。

「温情としての記憶と知識があっても、金丹の無い身で、それを確かめるすべはない。それに、体力が無い小さな子どもの体では、一人で街まで行き、この状態を見てもらえる仙術使いを探して会いに行くことも出来なかった」

童女が、ひそかに遠出を試みていたことは、馮莉(フォンリィ)の両親も話していたことだった。

「あの夫婦は。…この童女の両親は、とてもいい人たちよ」

馮莉(フォンリィ)が、おもむろに、魏無羨の前で両手を組み、拱手した。

「魏無羨。力を貸して。私は、あの人たちの為にも、この問題を解決したいと思ってる」

「ああ。力を貸すよ」

外見は全く違っても。
もう、魏無羨には、目の前の童女の中身が、『温情』という確信があった。

「俺が、奪舎を解く術を君に試す。それは、馮莉(フォンリィ)の両親も承諾している。君は、それでいいか?」

「ええ」

「…ただ、本当にいいのか?」

迷いのない顔で頷いた童女に、魏無羨の方が躊躇を見せた。

もし、本当に、奪舎だとしたら。

魏無羨の術で、『温情』の魂は、童女の体からはじきだされてしまうだろう。

「術を試す前に、温寧に会って話したくはないか?」

「・・・・・・」

温情は、弟である温寧のことを第一に考えて生きていた。
記憶があるのなら、大切な家族に会いたいと思うだろう。

「君が望むなら、両親と話し、術をかける前に、俺が温寧のところまで連れていってやる」

…どうする?

問うような魏無羨の顔に、馮莉(フォンリィ)は、すぐにかぶりを振った。

「会わない。意識せずとはいえ、他人の体を奪って生きているのだとしたら、そんな姿を弟に知られたくない。あの子には、姉としての私を覚えていて欲しい」

「そうか…。分かった」

童女の覚悟を決めた強い瞳。

『温情』の、医術師の尊厳と姉としての威厳を守りたいという気持ちが、魏無羨に伝わった。

「家に戻ろう」


魏無羨が馮莉(フォンリィ)を促し、橋を渡り、人里の方へ足を向けた時、「魏先輩」と呼ぶ声がした。

まだ距離は遠かったが、魏無羨の姿を見つけた藍思追と藍景儀が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。

「…阿苑は右の若者ね」

二人を見た馮莉(フォンリィ)の言葉に、魏無羨が「そうだ」と答えた。

「乱葬崗で含光君が助けて、手元で育ててくれた」

馮莉(フォンリィ)は魏無羨を見上げると、小さく頷いた。
そして、「あの子にも、私のことは話さないで」と、低く言った。

「あの子と温寧。そして、あなたが、今は心安らかに生きている。それを知れただけで『温情』は満足してる。含光君には、『温苑のこと、感謝してる』と。いつか、あなたから伝えて」

まるで、遺言のように、穏やかに語る童女に、魏無羨は「わかった」と小さく呟いた。

藍思追と藍景儀が、魏無羨と馮莉(フォンリィ)の近くまで来ていた。


「この辺りにあった民家は、あらかた訪ねました」

魏無羨の前で立ち止った後、藍思追が言った。

「でも、妖魔を見たという者はいなかったです。ただ、気になる話もあって……、魏先輩。その子は?」

魏無羨の上衣の裾に隠れて後方から顔を出した童女に、藍思追と藍景儀が今気付いたという風に視線を落とした。

童女は黙ったまま、つぶらな瞳で藍思追と藍景儀を見上げていた。

「妖魔の件は、いったん保留だ。今から、この子の家に行く」

魏無羨は、馮莉(フォンリィ)の家を訪ねた後の経緯を、童女の中身が『温情』という女性だということは伏せ、藍思追と藍景儀におおまかに説明した。

「俺が『奪舎』の術を解く術を彼女に施す。お前たちは、立ち合い人として一緒にいてくれ」

「承知しました」

物分かりの良い、姑蘇藍氏の子弟たちは、魏無羨の話を理解し素直に頷いた。

ただ、藍景儀は、馮莉(フォンリィ)の家へ向かう道中、何度も不思議そうな顔で魏無羨の横を歩く馮莉(フォンリィ)を見ていた。

「魏先輩。僕には、ただの可愛い女の子に見えます。変に思うところは全く見当たりません」

「『奪舎』は、幽鬼に取りつかれた状態とは違い、違う人間の魂が体という器に入っている。一見した限りは不自然な点は見つかりにくい」

「魏先輩も、以前、江宗主から『奪舎』だと疑われてましたよね。鞭を振るわれてましたけど」

「・・・・・・」

ずけずけと過去の出来事を掘り起こして言った藍景儀を魏無羨は軽く無視した。

対して、藍思追の方は、真面目に考え込んでいるようだった。

「見た目が変わっても、同じでも。深く親交のあった者には分かるものなのでしょうか」

「…そうかもな」

魏無羨が呟くように答えた。

…もしかしたら、自分以上に分かっていることがあるかもしれない。
俺に気づいた、藍湛のように。

魏無羨は、隣を歩き、大人しくついてきている馮莉(フォンリィ)を見下ろした。

3人の会話をすべて聴いている馮莉(フォンリィ)は落ち着いていた。

『温情』に、迷いは全くない様子だった。

魏無羨には、『温情』の記憶と心を持つ童女に、まだ尋ねたいことも、話したいこともあった。

だが、温情の望みは、一刻も早く、この状況を改善することだった。


『奪舎』であるなら、童女に体を返し、彼女を想う両親を安心させてあげること。

そして、これは、魏無羨の想像ではあったが。

温情は、魏無羨と共有している想い出話をすることは望んでいない。

最後に体が滅せられた記憶を持っている人生の記憶は、どれほど苛酷なものだろう。

―――一刻も早く過去から解き放たれたい。

『温情』は、そう願っているのではないだろうか?

・・・だったら、俺は、彼女の想いをかなえてやりたい。

魏無羨は、馮莉(フォンリィ)の横顔を見ながら、そう思った。


その後、しばらくして。

馮莉(フォンリィ)を連れた魏無羨と藍思追、藍景儀は、馮家についた。

馮莉の両親は、娘の無事な姿に安堵し、魏無羨と同行してきた藍思追と藍景儀に丁寧に挨拶した。

姿恰好から、一目で姑蘇藍氏の門下生だと分かる藍思追と藍景儀を馮夫婦はすぐに認めたが、代わりに、魏無羨が、『夷陵老祖』だと知ると驚愕した。

今さらのような夫婦の反応を見て、藍景儀は、魏無羨が名乗りもあげていなかったことを、チクチクと責めるように注意した。

そして、馮夫婦に「魏先輩の術は、姑蘇藍氏の弟子である僕たちが保証しますので安心してください」と、胸を張って言った。


・・・・・・どこかで、牛の糞でも踏んできたのだろう。

靴裏にベッタリと悪臭が匂う物をつけて、家の土間にあがりこんでいる藍景儀に、夫婦は引きつった顔で頷いていた。

馮夫婦が、藍景儀の言葉で真に安心したかどうかはともかく。

美しい所作で挨拶する誠実そうな藍思追と、魏無羨を信用しているような馮莉(フォンリィ)を見て、馮沐と彼の妻は魏無羨を信じることに決めたようだった。

話は決まり、魏無羨は、『奪舎』を解く術の支度を始めた。

魏無羨は、藍思追と藍景儀に指示し、家の周囲に結界陣を張らせた。

さらに、家の中の四方に術符をはりつけると、座らせた馮莉(フォンリィ)を中心として、さらに結界を張った。

迅速に動いている魏無羨たちの様子を馮沐(フォンムゥ)夫婦は、少し離れた場所で見守っていた。

「夷陵老祖…さま。その、人形の型をした紙は何です?」

魏無羨が懐から出し、馮莉(フォンリィ)のそばに置いた人形符を見て、馮沐(フォンムゥ)が不安気に声をかけた。

『屍傀儡を操る』という夷陵老祖の評判を耳にしていた馮沐(フォンムゥ)は、娘を人形符にしてしまうのでは?と、想像したようだった。

「もし、娘さん以外の魂が入っていた場合。術をかけると、体からはじきだされます。強制的に退去させられた霊魂は、近くにある他の肉体に宿ることがあります。それを逃がさず、いったん封じるためのものです」

説明しながら、魏無羨は、チラリと、馮沐(フォンムゥ)の妻の膨らんだ腹に目をやった。

馮沐の妻は、魏無羨の話を完全に理解し、顔を青ざめさせ、自分の腹を守るように両手で覆った。

「大丈夫です。この人形符は、それを阻止する為のものなのです。心配することにはなりません。念の為、お二人にも結界を張っておきますから」

魏無羨の落ち着いた声に、馮夫婦は少し気を楽にしたようだった。

全ての準備が整い、魏無羨が馮莉(フォンリィ)の前に座った。

「はじめるけど。いいか?」

馮莉(フォンリィ)は、自分の様子を固唾をのんで見守っている馮夫婦を見た。

それから、馮莉(フォンリィ)の結界の横に座っている藍思追方にチラリと視線を向けると、魏無羨に頷いてみせた。


魏無羨は腰帯から笛の陳情を取り出すと構えた。

それから、魏無羨が吹く陳情の音術は、馮莉(フォンリィ)に向けて発動した。

『奪舎』であるならば、馮莉(フォンリィ)の様子に変化が現れ、童女の体をのっとっている者の霊魂がはじき出されるはずだった。

だが、半時ほど魏無羨が陳情を奏でても、馮莉(フォンリィ)にも、結界の中にも何の変化も無い。

そばに置いた人形符も、ピクリとも動くことはなかった。

魏無羨は、笛から口を離すと、演奏をやめ、そっと陳情をおろした。

そして、『どうなったのだろう?』と不思議そうな顔で魏無羨を見ている面々を見やった。

「術が効きません」

魏無羨が言った。

術が失敗したわけでは無い。

「この子は、『奪舎』されていない」


・・・ええっ?

馮沐(フォンムゥ)夫婦は、信じられないという表情になり、藍思追と藍景儀も、驚いたように顔を見合わせていた。

「では、いったい、どういうことなのです?」

馮沐(フォンムゥ)は、静かに鎮座している娘を見つめながら、狼狽えていた。

「この子自身も、違う人間の記憶があると言っていて、私たちも、以前の子とは違うものを感じています。それなのに『奪舎』でも無いと・・・。本当に?」

「もし、もう1度『奪舎』を解く術を試したいのであれば、他の技を持つ腕の良い仙師が姑蘇藍氏にいます。その者に頼むことも出来ますが、どうしますか?」

魏無羨の術を疑っているような馮沐(フォンムゥ)に魏無羨が言った。

自分の腕を信じている魏無羨だったが、今大事なのは、馮家族を安心させることだった。

戸惑っている馮夫婦は、すぐに答えを出せない様子だった。

「この体が『奪舎』されていないのなら」

気まずげな空気が場を支配する前に童女が口を開いた。

「答えを知っていそうな人物に心あたりがある」

魏無羨と馮沐(フォンムゥ)夫婦。そして藍思追と藍景儀も。

家の中にいた者たちが一斉に、子どもらしからぬ口調で話す馮莉(フォンリィ)に視線を向けた。

とくに、藍思追と藍景儀は、それまで無言でいた馮莉(フォンリィ)の変わりように息をのんでいた。

「心あたりのある人物とは、誰のことだ?」

一人、冷静に尋ねた魏無羨を見つめて、馮莉(フォンリィ)が言った。

「白華翁(バイファオン)」

・・・白華翁?

魏無羨の遠い記憶の中で、薄っすらと聞きかじったことのある称号だった。

「白華翁って。昔、噂で聞いたことがある。とても博識で、あらゆる術を駆使できる優れた仙師であり、不老不死の存在。伝説の仙人の名だ。」

「白華翁は、実在していた仙人のようです」

馮沐(フォンムゥ)が、おずおずと口を挟んだ。

「というのも。私の曽祖父は、この地を訪れた白華翁から薬草の知識を習ったと伝えられているからです。なので、その後代々、我が家は薬師なのだと、父から教わりました。我が家の庭の梅の木は、「白華翁」が植えたものだという話も。しかし、白華翁のことは、この子に話したことは無かったのですが・・・」

どこで、「白華翁」の名を聞いたのだろう?

魏無羨は、不思議そうに自分の娘を見て言葉を止めた馮沐(フォンムゥ)の話の続きを知りたがった。

「それで、その白華翁は、今はどこにいるのですか?」

「それは分かりません」

馮沐(フォンムゥ)がかぶりを振った。

「私は会ったことがありません。ただ、今はなき父から、『桃源郷』に住んでいるらしい、という話を聞きました。しかし、祖先からの言い伝えがあっても、夷陵老祖がおっしゃる通り、私にとっては、白華翁は、まるで、おとぎ話の人物に近い存在です」

「でも、姑蘇藍氏の者なら、何か知っているでしょう」

馮莉(フォンリィ)が、藍思追と藍景儀の方を振り向いて言った。

「なぜなら、白華翁は、かつて、姑蘇藍氏に属していた仙師だったから」

・・・「白華翁」が元、姑蘇藍氏?

「二人とも、知っているか?」

魏無羨から、いぶかしげに問われ、童女から、鋭い眼差しでヒタと見つめた藍思追と藍景儀は、二人そろって、当惑ぎみに視線を俯かせた。

いつもは、溌剌となんでも話す藍景儀が、気まずげに口を閉じている。
そして、素直な藍思追も、固く口を閉ざしていた。

魏無羨は、二人が本当に知らないのなら、「知らない」と答える者たちであることを知っていた。

藍氏の規則で、何か知っていても、他者に軽く話せない事情があるのか。

「白華翁」は、姑蘇藍氏の門下生にとって、いわくつきの人物のようだった。


「子弟より、藍家の者の方が詳しそうだ。雲深不知処に戻ったら聞いてみるよ」

―――含光君。藍家の二公子。
藍湛なら、何か知っていて、俺が聞けば話してくれるだろう。

黙している若者たちに助け船を出す形で言った魏無羨に馮莉(フォンリィ)が頷いた。

「『白華翁』は、今も生きていらっしゃるはず」

馮莉(フォンリィ)が魏無羨に向かって言った。

「『桃源郷』を探し出すことに協力して欲しい。そして、馮莉(フォンリィ)を白華翁に会わせて」


妖魔探しから、奪舎疑惑の童女探し。そして、おとぎ話だと聞いていた桃源郷探しへ。


あるか、ないかも分からない、伝説の地。
そして、そこに住むといわれる謎の多い仙師、「白華翁」。


魏無羨の胸は未知を探求する予感にワクワクと弾み、心の中で漠然とくすぶっていた憂いの影すらすっかり消し去っていた。


―――これより数刻後。

魏無羨のそんな感情は、雲深不知処に戻った後も表情に出ていたようだった。


「おかえり」

すでに静室に帰っていた藍忘機は、座卓の前で魏無羨を迎えた。

そして部屋に入ってきた魏無羨の顔を見て、すぐに何かを悟ったようだった。

「夕飯を食べた後、先に話をしよう」

濡縁におかれた風呂桶をチラリと見た後、魏無羨は、「うん」と頷いた。


『あなたが、今、生きていて、そして安寧に暮らしているようで良かった』


魏無羨の脳裏に、とっさに『温情』の記憶を持つ童女に言われた言葉が浮かんだ。

・・・俺には、最高の道侶がいるからな。

魏無羨は、心の中で言うと、夕餉の支度を始めた藍忘機に、にこやかな笑顔を向けた。


「ただいま、藍湛」




(続く)




今日は、3月11日です。
みつばが、このブログを立ち上げるきっかけとなった日から12年。

今、自分は生きている。
自分は、今の生で好きなことを精一杯して生きているだろうか。
悔いのない生き方をしているだろうか。

そう、改めて問いかける日でもあります。

自分が生きる為に必要な物を与えてくれ、
ささえてくれている、この世の人。
周囲の人達も、見ず知らずの人達も。
多くの人のおかげで生きている。
ありがとう。感謝します。

そんな気持ちで、「常春の庭」4話を、アップしました。



5話以降の更新日時は未定です。


ブログへご訪問、ありがとうございました。

コメント記入は、「陳情令」二次小説INDEXページの記事のコメント欄からお願いします。
(コメントは全非公開となります。お返事は、個々ではなく、記事内の雑記でまとめてとなりますが、ご了承ください)

この二次小説が気にいった方。
次回も楽しみにして下さる方は、応援がわりに「白い拍手ボタン」を押してお知らせください。
関連記事

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

web拍手 by FC2
// ホーム //