韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「告白」です。
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※この二次小説は、時系列では、「
高く飛ぶ君へ」の後。二次小説第2シーズン「最高の日(未公開二次小説」の後、「
Halloween Night」 「
聖夜の誓い」の前の話になります。
(これまでのあらすじ)
春川地検に異動になったヘリは、恋人、イヌと同じマンションを出て、春川で一人暮らしをしていた。
一方、勤めていた弁護士事務所を辞め、独立し、新たな事務所を立ち上げたイヌ。
二人が、遠距離恋愛になって数か月後。
ヘリの父親、マ・サンテの病が発覚するも、手術は成功し順調に回復する。
告白―――マ・サンテ。
ヘリは、入口のプレートにそう書かれた部屋の扉をノックした。
「はい」
中からしっかりとした声が返ってきた。
「パパ」
サンテは、入ってきたヘリを見ると、
寝台の上で半身を起こし、読んでいた新聞をたたんだ。
「ヘリ。どうした?
明後日には予定通り退院だ。仕事が忙しいだろうに、わざわざ見舞いに来なくても良かったんだぞ」
そう言いながらも、サンテは嬉しそうに口を綻ばせていた。
「昨夜からソウルに来ていたの。
それで、これから春川に戻るから、その前にパパの顔を見ておきたくて」
「そうか」
頷いたサンテには分かっていた。
ヘリは、恋人の誕生日を祝う為に、昨日、春川からソウルに来ていた。
そして、昨夜は、そのまま、その恋人の部屋に泊まったのだろう・・・。
そこまで想像したサンテは、おもむろに咳払いし、
ヘリに、ベッド脇に置かれていた椅子をすすめた。
「パパは退院したら、しばらく家で療養するでしょ?
私も次の週末には実家に帰るから、パパの快気祝いをしましょう。
ママにその事を伝えたら、はりきっていたわ」
「ああ、エジャのはりきりは、私の祝いというより、娘が帰ってくるからだろう」
「パパ、どうして、そんな拗ねた口ぶりで言うの?」
「拗ねていない」
「ママがどれだけ、パパのことで心配していたと思うの?
パパを心配させないように、気丈に振舞っていたけど、本当はとっても動揺していたわ。『パパに万一のことがあったら、私は生きていけない』とまで言っていたのよ」
「本当か?」
「ええ。言っていたのは本当よ。ケーキを5個も食べながらね」
「ケーキを5個……」
「知ってるでしょ?ママは、ストレスがたまると、甘い物を沢山食べてしまう人だって。きっと、とても不安だったのよ」
「うん。…まぁ。そうだな」
サンテは、気まずげにヘリから目をそらせると、病室を見回した。
「しかし。何もこんな豪華な個室にしなくても良かったのに。贅沢すぎて勿体ない」
「今まで頑張ってきたパパに、ゆっくり休んで欲しいって、ママは考えたのよ。私もそう思うもの。それにしても……」
ヘリが、面白そうにクスっと笑った。
「昔のパパは、人間ドッグの検査入院の時でさえ、一番上等な個室じゃないと嫌だと言い張っていたのに。今は、贅沢過ぎて勿体ないだなんて」
「人は、環境に応じて変化できると、前にも話しただろう」
「そうね。私もそうよ」
クスクスと笑いながらヘリが言った。
「今住んでいるマンションの部屋。以前の私だったら、狭くて嫌とか言っていたと思うの。でも、すっごく快適だし、ちょうどいいわ」
「そうか。ヘリが元気に過ごしているなら、いいんだ。
だが、何か困ったことがあるなら、いつでも相談するんだぞ。
生活費が足りないと感じたら、遠慮なく言いなさい。
贅沢な物でなくとも、必要最低限な物は買わないとな」
「はい。あの…パパ。話したいことがあるの」
「どうした?」
急に声色の変わったヘリの様子に、サンテが背筋を伸ばした。
笑みをおさめ、顔も真剣になったヘリに、
サンテは、気を引き締め、息をひそめた。
「あのね」
ヘリが。コクリと息をのんで言った。
「私、イヌと結婚するわ」
一瞬、病室の中が静かになった。
だが、すぐに、サンテが「そうか」と答えた。
短い言葉だったが、了承したようなサンテにヘリが目を瞬きした。
「そうかって?どういう意味、パパ?」
「わかった、ということだ」
「わかった、というのは、私たちの結婚を許すという意味?」
「そうだ」
あっさりと答えたサンテに、ヘリは、しばし言葉を失った。
「どうした?ヘリ。なぜ、そんな顔をする」
「だって。今のは、パパの本心なのかな?って思っちゃって」
「駄目だと言えばよかったか?」
「ううん」
ヘリは、慌てて首を横に振ると、
まだ信じられないという顔で、サンテをまじまじと見つめた。
サンテは軽い溜息をつくと、「ソ・イヌから、プロポーズされたんだな?」と聞いた。
「ええ」
ヘリは、コクリと頷いた。
「もしかして。パパは、私がプロポーズされたこと、知っていたの?」
サンテの落ち着いた雰囲気から、ヘリは直感で悟った。
「ああ。数日前に彼が来て、お前にプロポーズすると言った」
「ええっ!?」
驚いたヘリに、サンテは苦笑を浮かべた。
「聞いていないか?」
「彼がパパのところに来たことも、
そんな話をしたことも聞いていないわ」
「彼は策士だからな」
サンテが面白くなさそうに言った。
「本丸より先に外堀を埋めておいたのだろう」
「彼は、パパに何と話したの?」
「『娘さんにプロポーズします』と。
あれは、承諾をもらいに来たんじゃない。宣言だ」
むすっと、眉をしかめながら話していたが、
サンテが内心では怒っていないことはヘリにも分かっていた。
「彼、パパのことを、ずっと気遣っていたわ。
病気が分かった時も。手術が決まった時も。
手術が成功したと話した時も。だから、本心からお見舞いに来たのよ」
「お前の父親だからな」
「うん……」
そこで会話がとまった。
サンテが、チラリと、サイドテーブルの上に置かれた花を見やった。
黄色のフリージアの花。
イヌが来た時に持って来た花だった。
フリージアを見つめているうちに、サンテの中で、ある決心が固まった。
「ヘリ、お前に、言っておきたいことがある」
「何?」
キョトンとなったヘリに、サンテは、「2年前にした、ソ・イヌとの約束のことだ」と続けた。
「16年前の事件の真相をソ・イヌに尋ねられていた時。
私は、ソ・イヌに約束させた。
過去の事件の事を話すかわりに、ヘリと永遠に別れろ、2度と会うなと。
それも、彼の父の名にかけて誓わせた」
「!」
「ずっとお前に、隠していた」
「ソ・イヌから何も聞いてないようだな」
ヘリが黙って頷いた。
サンテは、深い吐息をつくと話を続けた。
「あの時、私は誤解していた。ソ・イヌのことを。
ソ・イヌが、過去の事件の復讐のために、お前を利用しているのだと思っていた。
仮に本気の想いがそこにあったとしても、こんな境遇の二人が一緒になることは難しいと思った。ヘリ、私は、お前が傷つくところを見たくなかったんだ」
「パパ……」
何か言おうとしたヘリを手で制して、サンテが「最後まで聞いて欲しい」と言った。
「だから、ソ・イヌが、あの後、お前から離れたのは、私との約束のためだ。1年もの間、思い合っているお前たち二人を引き裂いてしまった。私があんな約束さえしなければ、お前たち二人は、苦しい思いをすることは無く、もっと早く、こうなっていただろう」
サンテは、手術痕の痛みではなく、
心の呵責に苛まれているかのように、胸に手をあてていた。
「すまない」
サンテが、うなだれるように、ヘリに頭を下げた。
過去の事件が解決し、落ち着いた後。
サンテの会社が倒産し、ヘリたち家族が住んでいた家を出なければならなくなった時も。
サンテが心苦しそうに、小さく呟いていたが、今は、はっきりと口にしていた。
「パパ、もういいの」
ヘリの声にサンテが頭を上げた。
ヘリは、落ち着いた表情でサンテを見つめていた。
「パパと彼で、そんな話をしていたことは知らなかった。
彼は、約束を絶対守る人だから。
でも、そんな彼が帰国した後、私に突然会いに来たのは、パパとの間で、その約束が無くなったからなんでしょう?」
「ああ」
「たぶん、イヌは、その事で苦しんだと思う。それは想像できるの。
そして、パパも。パパも、イヌと約束したことを後悔していたんだって思う。違う?」
「違くはない。後悔した。彼と別れたお前の姿をそばで見ていたからな。
しかし、前向きなお前のことだ。いつか、忘れると考えていた。だが、違った。
その事に、真に気づいたのは、エジャの言葉でだったがな。私は、ただ、お前に幸せになって欲しかったんだ」
「パパ、私、とても幸せよ」
ヘリが言った。
「自分を一番に考えてくれる両親に愛されて。
一番好きになった人にプロポーズされた。
そして、パパの体も無事だった。今、最高に幸せな気分」
「そうか」
サンテは心からの言葉をつぶやくと、
潤んだ目を隠すように、眼鏡を手で押し上げた。
ヘリの純粋な笑顔に、サンテの心を重くしめていたものが消えた。
以前、『ヘリには言うな』と話したサンテとの約束を、イヌは守っていた。
そのことも知れた。
「ヘリ。良かったな」
…ソ・イヌにプロポーズされて。
一番好きな人のお嫁さんになること。
それが、お前の一番の夢だったから。
「うん」
ヘリは、サンテに輝くような笑顔を見せた。
それは、まぎれもなく、娘のヘリだったが、
一人の成熟した大人の女性が見せる顔だった。
サンテは、ヘリが病室を去った後、
ぼんやりと窓辺を見ながら、イヌが病室を訪ねた時のことを思い出した。
黄色のフリージアを活けた花瓶を手に病室を訪れたイヌは、
「おかげん、いかがですか?」と固い表情でサンテに尋ねていた。
「悪くは無い」
…だが、病み上がりに、娘の交際相手に会うのは正直、心臓に悪い。
サンテは、扉の前で佇んでいるイヌを手招きしながらも、心の中で思った。
サンテの比喩表現は、イヌが『ヘリにプロポーズします』と告げた時、本当になりかけた。
もし、自分が元気な状態だったら、勢いで一発殴っていたかもしれない。
そう思ったサンテだったが、きっと、健康な状態でも、殴りまではしなかっただろう。
そんなサンテの動揺を無視して、イヌは、淡々と話を続けた。
「もし、ヘリが承諾してくれたら、結婚させてください」
…この男は、いつも、どうして、こう不意打ちなのだろう。
サンテは、心の中で舌打ちした。
しかし、手術後、病ごと、毒気も抜かれていたのか。
不思議と腹が立たない自分にも呆れながら、サンテは「娘の気持ちを優先する」と答えた。
「ヘリがいいと言うなら」
「はい」
…神妙な顔で頷いているが、この男は、高い確率でヘリの答えがイエスだと分かっているのだろう。
そうでなければ、娘より先に親に承諾を得るような真似はするまい。
・・・いや。彼は、ソ・イヌだ。
一番やっかいな男親を篭絡させて、事を運びやすくしにきたのか。
サンテは、油断ならない娘の恋人の顔をジロジロと眺めた。
「君の体調は大丈夫なのか?この前、倒れたらしいじゃないか」
おもむろに尋ねたサンテに、今度はイヌの方が、ふいをつかれたようだった。
「平気です。今は何ともありません」
「独立したばかりで仕事が忙しいのだろう。
それで、結婚して生活していけるのか?」
娘の気持ちを優先すると言っておきながら、やはり、結婚後のことを心配したサンテだった。
「健康も収入も問題ありません。
もし、彼女が今の仕事を辞めても、養っていく自信はあります」
ジッと挑むようなイヌの目に、サンテも負けじと見つめ返した。
「ならいい。だが、もし、君の言葉に偽りがあると分かったとき。
ヘリを悲しませるような真似をしたとき。私は、君を許さないからな」
「はい」
「それと…」
サンテが声を落とした。
「君に、言っておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「以前、私が、君に言ったことだ。
ドングンは君のような息子がもてて、幸せだと。
あれは、本心だ。私は心からそう思っている」
「……」
黙ったまま見つめるイヌに、サンテは続けた。
「あの時、私は、君のことを父親に似ていないとも言った。
だが、間違っていた。今の君は、私が知っているドングンにそっくりだ。
彼は、他者を思いやる、とても優しい男だった。
私に息子がいたら、君のように育てたかった」
まるで、遺言のような台詞。
イヌは、サンテの告白に、そっと目を伏せた。
そして、ゆっくりと瞼を開けると、
「ありがとうございます」と言った。
「お大事に」
そう言い残し、ソ・イヌは、来た時と同じように、静かに病室を去っていった。
―――あの後。
ソ・イヌはヘリにプロポーズし、ヘリもそれを受けたのだろう。
サンテは、病室の窓の景色から、花瓶にいけられたフリージアの花に目を落とした。
20年前。
会社を大きくすることに邁進していたサンテが体調を崩し、寝込んだ時があった。
その時、部下だったイヌの父親、ソ・ドングンも、フリージアの花を持ってサンテの見舞いに訪れていた。
『会社の雑務は私に任せて、あなたは、ゆっくり休んでください』
ソ・ドングンは、にっこりとした笑顔をサンテに向けて言った。
―――あんなに、心根のいい男に、私は何という仕打ちをしたのだろう。
…保身のために、己がおかした罪を着せ、君と君の家族を苦しめた。許してくれ。ドングン。
サンテは、過去を回顧しながら、辛そうに目を細めた。
そして、フリージアに囁いた。
「私は、まだしばらく生きて、結婚する君の息子と私の娘を見守ることにする。
いつか、君に会えることがあったら謝罪したい。
そして、子らの話を君としたい」
『そうですね。課長。
私たちの愛する息子と娘の幸せな未来を、一緒に見守っていきましょう』
まるで、優しく微笑むソ・ドングンのように。
フリージアの花が、サンテの前で小さく揺れていた。
(終わり)
(「告白」 最終保存日 2014年7月 2022年6月、加筆修正版)【あとがきとお知らせ】この記事で、書いていた「告白」というタイトルの二次小説です。
10年前にすでに予告していながら、アップできずにいたもの。
イヌがヘリにプロポーズして、婚約する。
その報告をイヌが入院していたサンテにする、という話です。
これで、10年前、「最終回まで、二次小説は、未来の話までプロットはできています」と書いていた証明がようやくできました。
未公開の二次小説が、まだ沢山ありますけど、過去の作品にいれた大きめの伏線を拾って、話は繋がったと思います。
「告白」というタイトルだけど、甘い話ではないですよ~。って説明していた意味。
「告白」したのは、ヘリの父サンテだから(苦笑)
ドラマ中、サンテがイヌに約束した話を、イヌは、ヘリと恋人になってからもしていないと思う。
だから、二次小説「聖夜の祈り」でも、イヌは、ヘリに言わなかった。
イヌは、サンテと約束したことを激しく後悔していましたが、サンテもそうだったのかもと。
そして、自分が約束させなければ、二人はもっと早く結ばれたのでは?と。
でも、二人には時間と距離が必要だったように感じてしまいます。
あのまま一緒にいられても、辛いだけだったかも。
1年離れても、やっぱり想いあっていると分かるラストシーンが、素敵なドラマでした。
次の「検プリ」記事では、いよいよ、二次小説最終回の話を蔵出し予定です。
時間が飛び飛びになっていますが、シーズン3。(ヘリとイヌは夫婦)のラストストーリー。
未公開の二次小説の話は、あらすじで補足書きします。
「検事プリンセス」が好きだった方。
もし、ブログにいらしていたら、10年前から予告していた、ドラマ最終回からの10年後。
みつばの二次的妄想世界の最後の物語を、どうか見届けてください。
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