中国ドラマ「陳情令」、みつばの二次小説「邂逅」(4話)です。
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とくに初めてこのブログにいらした方は注意点を一読してから
二次小説をお読みください。
「陳情令」は現時点、日本語翻訳未公開のドラマです。
原作「魔道祖師(作者):墨香銅臭」、アニメ「魔道祖師」をご存じない方。
これから見る予定の方は、ネタバレがありますのでご注意ください。
二次小説はドラマ50話最終回後の話になります。
また、この小説にはBL(男同士の恋愛)描写があります。
そのあたりが受け入れられる方のみお読みください。※この話は「
噂」の続きになります。
邂逅(4話)「魏公子、なぜ、ここに?」
首をかしげる温寧に、魏無羨がまた溜息をついた。
そして、温寧のいる方に歩いて近づいて行った。
「それは、こっちの台詞だ。温寧、ここで何をしているんだ?」
「材木にする木を探しています」
「材木って、何をする為の材木だ?」
「…温氏の…私の一族の祠堂を修復する為の材木です」
温寧が小さな声で答えた。
「公子もご存じですよね。今、私の先祖の祠堂はほとんど朽ちた状態になっています。私はそれを建て直したいのです」
「うん…その気持ちは分かるけど。温寧」
魏無羨は、切り株になっている箇所に目を落として言った。
「この山の木には所有者がいることは知っているか?」
「え?…そうなんですか?」
温寧は、目をぱちくりさせた。
「知らなかったか?」
「はい…」
「そこの木は温寧が切って持っていったのか?」
「はい。1本だけ。丈夫な木を探していて、この山を見つけました。まさか、所有者がいらっしゃるとは知らなくて…」
温寧は、「…良くないですよね」と言ってうなだれた。
「うん…まあ、知らなかったのなら仕方ない」
気の毒なほどしょげているように見える温寧を慰めるように、魏無羨が温寧の肩を優しく叩いた。
「公子…どうしたらいいでしょう?」
そう問う温寧に魏無羨は、うーんと唸って、鼻の頭を指でかいた。
「姑蘇藍氏の宗主、沢蕪君に相談してみるよ。きっと事情を話せば、うまく取り持ってくれるはずだ」
「藍宗主に…。公子、よろしくお願いします」
「うん。任せろ」
そう答える魏無羨に温寧がほっと安堵したような顔(魏無羨にはそう見える)になった。
「じゃあ、温寧。この山から出よう。私有地だからな。所有者の許可なく長居は出来ない」
そう言って歩きだす魏無羨に、温寧もちょこちょことついてきた。
「魏公子は許可をもらって来たのでは無いのですか?もしかして、私の闇狩りの依頼を受けているのですか?」
「俺は、別件で近くまで来たから、ついでに噂の木を盗む屍の正体を探りに来たんだよ。命拾いしたな、温寧。知らずに木を盗り続けていたら、たしかに、今に姑蘇藍氏に正式に闇狩りの依頼が来ていたかもしれない」
「そんなことになったら、阿苑に顔向け出来ません」
温寧が気まずげに俯いた。
「この件も知られれば、彼がどう思うか…」
藍願という名になり、藍思追という字で姑蘇藍氏一門にいる、温寧のいとこの子どもである阿苑。
藍思追は、幼い頃の記憶を思い出し、自分の血族が温氏であることも、もう分かっていた。
住処は違えども、藍思追は温寧と連絡を取り合い、時々会ってもいるようだった。
温寧が、一族の祠堂の為に盗みをした事を優しい藍思追が知れば、ひそかに苦しむのではないかと、温寧は心配したようだった。
「思追は大丈夫だ」
魏無羨が言った。
「温寧。あいつなら、お前の気持ちもしたことも全部分かってくれるはずだ。それに、藍宗主は、きっとこの件を穏便に運んでくれる。信じていい」
魏無羨の言葉に温寧がこくりと頷いた。
魏無羨と温寧。二人が、私有地の山を出た後、「魏公子は雲深不知処に戻られますか?」と温寧が魏無羨に尋ねた。
「いや…俺は朝まで雲深不知処には戻れない」
「…?」
不思議そうな温寧に、魏無羨は、ここまでの経緯をおおまかに説明した。
雲深不知処への帰り道で屍に追われた親子を助けて家まで届けたこと。
雲深不知処の就寝時間が過ぎてしまったこと。
街で聞いた木を盗む屍の噂話を確かめに山まで来たこと。
「通行玉礼を今は持っていない。それに、宿場に泊まれるほどの金もないから、今夜はひさしぶりに野宿だな…」
ふう、と吐息をつく魏無羨に、温寧が「朝までおつきあいします」と申し出た。
「お疲れでしょう。私が火の番と闇の者を警戒しているので、公子はどうかお休みください」
屍傀儡に休息は必要無かった。
正直なところ、疲労を感じていた魏無羨は、温寧の言葉に甘えることにした。
誰の私有地でも無い山に入ると、魏無羨は大きな木の下を今夜の野宿に決めた。
魏無羨が木にもたれて休んでいる間、温寧が集めてきた枯葉や薪を起こした火にくべていた。
体中、疲れを感じているというのに、魏無羨の頭はなぜか冴えていた。
魏無羨は、火と温寧の姿をぼんやりと見つめながら、先ほど目にした犬の屍傀儡の事を考えていた。
「温寧…」
「はい?公子」
「さっき、犬の屍傀儡に遭遇した」
「犬の…屍傀儡ですか?」
「何の目的で、誰に傀儡にされたかは分からないが、とても中途半端な術を施されていた」
「それは…」
温寧が、戸惑いながらも必死で考えをまとめようとしていた。
しかし、答えに行きつかず、魏無羨に困惑した顔を向けた。
「…どういうことですか?」
「うん…つまり、意思を持っているわけでも、操られているわけでも無く、心は少しある。でも、魂もほとんど抜けた状態で、思うように出来ない体でこの世につなぎとめられた存在になってたってことだ」
「それは…心を持っているのなら、つらいですね」
「温寧もそう思うか?」
そう問う魏無羨に温寧が頷いた。
「あれは…俺の編み出した術だ」
魏無羨がぽつりと言った。
「公子が私に施した術と同じ物ということですか?」
「いや…。同じようで異なるもの。術も技も欠けた不完全な物だった。
だから、あんな状態になった。俺にはそう見えた」
温寧に語りながらも、魏無羨は自分の思考を整理していた。
「誰かが、俺の真似をして術を施した。しかも、飼い犬の亡骸に。
何のつもりでそうしたか分からない。情があって、復活させるつもりだったか、あるいは、違う理由か。どちらにしても…」
魏無羨は、懐から、犬の屍傀儡が残した首輪を取り出して眺めた。
…術者は、屍傀儡にすることに失敗したことを知っていたはずだ。それなのに、どうしてあんな状態で世に離したのだろう。
しばらく見つめていた首輪を、魏無羨は再び懐の中に仕舞った。
術を生み出したのは自分のはずなのに、一度世を去ってから長い年月がたっていた。
そして術だけは魏無羨のいない世で勝手に一人歩きしていた。
姑蘇藍氏が闇狩りに使用している召陰符のような物もあれば、適当な知識と技で試せば、取り返しのつかないことになる術もある。
魏無羨には、一夜の夢のような時間だったが、16年という歳月は長かった。
生まれたばかりと聞いていた金陵は少年になり、幼子だった阿苑も立派な青年に成長していた。
「…“うらしま太郎物語”という異国の話を知ってるか?」
突然話題を変えた魏無羨に温寧がキョトンとした。
「知りません。どんな話ですか?」
「俺が子どもの頃、師姉が聞かせてくれたおとぎ話だ」
魏無羨が遠い目をして語りだした。
「うらしま太郎(※日本の昔話)という男が、海辺で、子ども達にいじめられているところを助けた亀にお礼として竜宮城という海の屋敷に連れて行ってもらった。そこには乙姫という美しい仙子みたいな女性がいた。彼女にもてなされた、うらしま太郎だったが、陸の自分の家に帰ることにした。そして、乙姫から土産に決して開けてはいけないという玉手箱をもらって、うらしま太郎が家に帰ると、陸では100年以上時間がたっていた。若い青年のままだったうらしま太郎だけど、たまて箱を開けると、白髪の老人になってしまった…って話だ」
「はあ…」
温寧は感慨深げに首をかしげていた。
「うらしま太郎がもらった、たまて箱は、外側だけ価値のある物だったんでしょうか?たとえば銀で出来た物とか」
「この話で、温寧がくいつくところは、そこか?」
魏無羨が軽い笑い声をあげた。
「俺は、師姉から初めてこの話を聞いた時思ったのは、俺だったら、帰らずに竜宮城に残って乙姫と結婚してそこで暮らすっていうことだったな」
本当は、魏無羨がこの話を思い出したのは、自分の今の状況が、おとぎ話のうらしま太郎に似ていると考えたからだった。
目が覚めたら16年たっていた。献舎された肉体はあの頃のまま。
でも、実は、どこかに、置き忘れた、たまて箱があるんじゃないだろうか。
そんな気持ちになっていた魏無羨だった。
だが、温寧との会話ですっかり話も思考も脱線してしまったようだった。
「結婚といえば…藍二公子…仙督の婚姻話はどうなったのですか?」
ふいに尋ねてきた温寧の言葉に、魏無羨はガバっと身を起こした。
「温寧。その話、誰から聞いた?思追か?」
…藍湛の婚姻の噂話をまさか温寧まで知っているとは!
そんな驚愕の表情で凝視する魏無羨に、温寧がたじたじとなった。
「違います。阿苑からは何も…。私は街で聞きました」
「街の誰が言っていたんだ?」
「いろんな人です。商人や旅人。街を歩いていた時、ちょうど噂している人々がいたので、近寄って少しだけ話を聞いてみました」
「それで?」
「藍二公子のお相手が、玉家の20歳前後の娘さんで、姑蘇藍氏に修行に行っていたことがあって、その時から藍二公子に好意を持たれていたとか。過去に何度か婚姻話が持ち上がっていたとか。ある宴会で、藍二公子も娘さんをまんざらでも無い態度で見ていらしたこともあったとか。それで、藍二公子が仙督となられた今、今度こそ婚姻が成立するのでは?と、それくらいのお話を教えて頂きました」
そう淡々と語った温寧に魏無羨は苦笑した。
…それくらいって、闇狩りの前に俺が宿屋で聞いた話より詳しいぞ。温寧。
そんな噂話を人に聞けるくらいなら、山の所有者がいるかどうかを先に確かめてから木を伐りに行け。
そう思いながらも、過去に、所有者がいる鳥や魚を取ったり、蓮の実を食していた自分が言えることでは無かった為、温寧に言ってやりたいことを心の中で留めた魏無羨だった。
「いや。その噂話の真偽は俺にも分からない」
そう答える魏無羨に温寧が目を丸くした。
「藍二公子からお聞きしていないのですか?」
「うん…まったく」
「じゃあ、デマですね」
あっさりと決めつける温寧に、魏無羨は、一瞬、温寧の純粋さと素直さがうらやましいと感じた。
魏無羨は、ごろりと横になった。
「温寧…俺はちょっとだけ寝るよ。卯の刻(5~7時)の鐘の音が聞こえたら起こしてくれ。
もし、鐘が聞こえなかったら、日の出頃でいいから」
「わかりました」
魏無羨は温寧の返事の後、目を閉じるとすぐに夢路に入っていった。
わずかな仮眠の後、魏無羨は、約束通りの刻に温寧から起こしてもらった。
そして、温寧に、改めて木の件のことは自分に任せるように伝えると、別れをつげ雲深不知処への帰路に向かった。
魏無羨が雲深不知処についた時には、辰の刻(7~9時)になっていた。
魏無羨は開門していた雲深不知処に入ると、階段を上って、清室にむかった。
…藍湛は、もう仕事か鍛練に出かけてしまっただろうか。
そんなことを考えながら、魏無羨は清室の門を開けて中に入った。
…!
魏無羨は思わず足を止めた。
清室の建物の前に藍忘機が背を向けて立っていた。
微動だにしない、その後ろ姿。
まるで、一晩中、その場にいたかのような藍忘機の佇まいに魏無羨は驚いて、すぐに声を発することが出来なかった。
そんな魏無羨の気配を察したかのように、藍忘機が振り返ると魏無羨を見た。
魏無羨の姿をジッと見つめた後、藍忘機が口を開いた。
「魏嬰…帰ってきたのだな」
静かに響く藍忘機の声に、魏無羨は、ただ藍忘機の顔を見つめて、コクリと頷いた。
(続く)
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