韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「聖夜の祈り」19話です。
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聖夜の祈り(19話)イヌの母の眠る墓地を後にしたヘリとイヌは、繁華街に向かった。
降りだしていた雪は、イヌの車が目的地に着くころにはやんでいた。
「ベタだけど、観光っていったらこの辺りだな」
そう言ってイヌが案内してくれる所をヘリは巡った。
「帰ったらママに見せるわ。ユナにも自慢しちゃお」
時には、通行人に、イヌとのツーショットを頼みながら、
ヘリははしゃいで写真を撮っていた。
「それにしても、良かったのか?昼食がホットドックで」
「いいの。これがここで食べたかったの。
あなたの方は、物足りない?」
「いいよ。でもディナーの分はお腹をすかせておいて、
ホットドッグはほどほどにしろよ」
「今夜のレストランも、ジョンお父さんお勧めのお店だったわよね?」
「ああ、彼女とイベントディナーを考えているなら、一度はあの店に行っておけ、と強く勧められてね。僕は行ったことが無いけど、父のお気に入りの店だ。だから料理の美味しさは保障出来るな」
「楽しみね。私、このクリスマス休暇はちょっとふくよかになってもいいって気持ちでいるの。だから美味しいって思った料理は遠慮なく食べちゃうつもりよ」
「酒もだろ?」
イヌが笑った。
「今夜泊まるホテルは父がプレゼントしてくれたところだけど、そのホテル内のバーも父のおすすめらしい。雰囲気がすごくいいと言っていた」
「イヌは行ったことが無いの?」
「父と一緒には無いよ」
「他にも、友達とか、そうじゃない人と一緒に、とか…」
最後の方、もごもごと言いながら、探るような眼差しのヘリにイヌが失笑した。
「そういえば無いな。父がホテルやバーを勧めてくれたのも今度が初めてだから。
たぶん、僕にも内緒にしていた父の秘密の場所だったのかもな」
「じゃあ、どうして今回イヌに教えてくれたのかしら?」
きょとん、と首をかしげ考え込んだヘリを横目で見て「僕は、その答えが何となく分かる」とイヌが言った。
「そうなの?何?」
「いや、自分で悟ってくれ」
「えー?もったいぶらないで教えてよ」
「もう、僕に頼らないじゃなかったのか?人に聞いてばかりじゃ、いつまでも新人検事から抜けられないぞ」
「また、深く広く探れって言うんでしょ?
昔から同じアドバイスを言っているあなたも全然進歩ないんだから」
「こういうことは、人に教えてもらうことじゃないからだよ。
君には、もうその意味が分かるだろ?ヘリ」
「うーん…うん?…んん・・・」
まだ、分かったような分からないような顔で首を傾げているヘリにイヌが微笑して、手にもっていたカップのホットコーヒーを飲み干した。
その後、
観光地をめぐり、ショッピングも終えたヘリとイヌは、その日泊まるホテルに向かった。
ホテルは、イヌの養父がイヌとヘリ、二人へのプレゼントとして予約してくれた所だった。
「さすが、お父さんのお勧めね。素敵な部屋だわ」
ヘリは、部屋のソファでくつろぎながら言った。
ベルボーイに案内してもらったホテルの部屋は、上階のデラックスルームだった。
ニューヨークの老舗で有名な高級クラシックホテル。
エレガントな装いを感じさせる調度品に囲まれた部屋。
イヌの実家とは違っていたが、ジョンの好みはこんな感じなのだろうか、と想像させる雰囲気もあった。
「なんだか落ち着くわ。懐かしく感じるくらい」
「君のお母さんの好みと似ているからじゃないか?」
「あら、そういえば…」
イヌに言われてヘリは改めてキョロキョロと辺りを見渡した。
…昔の家の中の雰囲気と少し似ているかも。それにしても…。
「イヌは、どうしてママの好みを知っているの?」
「何度か君の家にお邪魔して中を拝見させてもらったからね。
チン検事の元家ではあったけど、今の家具やインテリアは君のお母さんが変えたものだと思ったからさ」
「でも、パパの好みじゃないってどうして分かるの?」
「会社の社長室の雰囲気と違ったからだ」
淡々と答えながらクローゼットの前で荷物をほどくイヌの後ろ姿をヘリは見つめた。
イヌは、以前、サンテが経営していた会社の社長室を何度も訪れていたはずだった。
弁護士として。
普通に答えているが、その時期からまだ1年半くらいしかたっていないのだ。
まるで何十年も前の他人事だったように思えても。
インテリアや内装など些細なことであっても、イヌの記憶には残っている。
空気をかえるように、ヘリはわざと明るい調子で言った。
「あなたって記憶力がいいのね」
「記憶力がいいのは君だろ?僕には洞察力があるんだ」
「でも、昔の私のことも覚えていたでしょ?」
「ああ、そういえば、頭にヘアバンドをしていた」
「カチューシャと言って。可愛かったでしょ?」
「そう可愛いカチューシャだったな」
「違う。カチューシャの話じゃなくて、わ、た、しが」
「覚えてない」
「嘘。君は変わらないなって言ってたじゃない。忘れたとは言わせないわ」
「忘れてない」
トランクを中に押し込んだイヌは、クローゼットの扉を閉めた。
「変わってないよ。単純なところが」
ヘリの座っているソファの前に立ち、
むくれたふりのヘリの膨らんだ頬をイヌが指で撫でた。
「今もね」
イヌに指で触れられただけでドギマギして固まったヘリにイヌが笑った。
「ほら、変わってない」
「…ほんと、あなたの意地悪も変っていないわよ」
ヘリは、悔しそうに、イヌの手を軽く払うそぶりをすると、
ソファから立ち上がった。
「今夜は、もっと可愛くて素敵な格好をするんだから。
その姿もしっかり覚えておいてちょうだい」
「もうディナーの支度をするのか?まだ少し時間がある」
「これ以上あなたにいじめられている時間は作りたくないの。
“いたずら”される時間もね。だから着替えてしまうわ」
そう言ってクローゼットの方に歩いていくヘリの後ろ姿を
イヌはやれやれという手振りで見た後、自らも後に続いた。
ドレスコードのあるレストランということで、
ヘリがパーティードレスを着込んでいる横で、イヌもシックなスーツ姿に着替えていた。
イヌのスーツ姿は見慣れていたヘリも初めて見るような服に目を見張った。
「そんな服持っていたの?」
「いたよ。職場のパーティーに呼ばれた時は着ていた」
「職場のパーティー?そんなのがあるの?」
「たまにね。でも、こっちでは着ていたけど、韓国では着てなかったかな」
…養父さんの会社のパーティーね。
ヘリは合点がいったように頷いた。
「素敵よ。パーティーじゃなくても時々着てみればいいのに」
「クライアントに会うには不向きだ」
「私と会う時によ」
「だから、今着てる」
イヌがそう言って、ヘリの姿を眺めた。
「君のそのドレスも初めて見たな」
「そうなの?気付いた?」
ヘリがイヌの言葉に嬉しそうにぱあっと顔を輝かせた。
「この服、私が作ったものなの。それも完全オリジナルのデザインで。
どうかしら?」
「へえ、そう聞くまでどこかのデザイナーの新作ドレスだと思ったよ。
でも、いつ作ったんだ?クローゼットにこんな服あったかな?」
「イヌは見て無いと思うわ。だって作ったのは、あなたからNY行きの話を聞いてからだもの」
イヌが目を丸くした。
「あの短期間に作ったのか?」
「そう。クリスマスをあなたとNYで過ごすんだって想像したら、こんなデザインのドレスを着ている自分を急に想像しちゃって。パパっと描いたデザインを今度はどうしても作りたくなっちゃって、すぐに布を買いに行って、仕事から帰ってからミシンかけて…で、
どうにか間に合ったってわけ」
この年末の忙しい時に。
しかし、嬉しそうに話すヘリに大変さはみじんも感じられなかった。
きっとすごく楽しんで作っていたのだろう。
何かいい発想が思いついたら、すぐ行動にうつしてしまうヘリのことだ。
マンションの部屋で一心不乱にドレスを作っている姿が想像できた。
やはりヘリは天才なのかもしれない。
そうは思っても、
ヘリを助長させないために、イヌは感心した想いを面に出さないように努めた。
ヘリは、イヌからクリスマスプレゼントでもらったネックレスを取り出し、
イヌの方に掲げた。
「このネックレス。今のドレスにも合うと思うの。つけてくれる?」
「OK。お姫様」
そう言って、イヌがヘリの首にネックレスをつけた。
「どう?」
「うん。やっぱり素敵。まるであなたがこのドレスの存在を知っていて選んだ気すらするわ」
「父へのプレゼントのシャツとカフリンクスみたいにね」
イヌとヘリは同時に笑った。
イヌがチラリと腕時計に目をやるのを見てヘリが言った。
「レストランまで時間がかかるの?」
「いや、このホテルから歩いていける距離だ」
「お父さんおすすめのレストランに、おすすめのホテル…。
まるでデートコースね」
自分の言葉にヘリ自身が、ん?となった。
…もしかして、これって、ジョンさん自身の秘密のデートコースだったとか?
昔の恋人…、もしかして、まさかイヌのお母さんと…、ううん。友人だったのよね?
でも、でも、ちょっとつきあっていた時期もあったとか?その可能性はあるわよね。
でも、やっぱり、ジョンさんの片思いで…そう、イヌに対するジェニーさんのような…?
考えに没頭するヘリをイヌが呆れた目で見つめていた。
「君の妄想力で今度は何を悩んでいたのか分からないけど、僕に聞くなよ?」
「聞かないし、言わない」
ヘリがあわてて首を横にふった。
ジョンのことにしろ、ジェニーのことにしろ、イヌに聞けることでは無い。
「じゃあ君が余計な事を考える余裕が無いほど、今夜のディナーに夢中になってくれ」
「ディナーだけじゃなくて、あなたに夢中になれって言いたいんじゃない?」
「言わなくてももうなっているだろ?」
「相変わらず自信過剰な人ね」
そんな感じで、素敵なホテルの部屋の中、重厚、可憐な服装に身を包みながらも、いつもと変わらない軽口の応酬をしているうちに時間が過ぎていき…。
予約の時間になり、
イヌとヘリは、ホテルから3ブロック先のレストランに入った。
そこはヘリの思い描いていた通りの素敵なレストランではあったのだが、
予想外な内装に驚いてあたりを見渡した。
「ねえ、イヌ。中央に広い空間があるんだけど、もしかしてここって何かのイベントやショーが見られるの?」
「そうだな。君の新作ドレスのお披露目発表会が出来るんじゃないか?」
「ドレスの発表会の話はしないで。私、もうすっかりトラウマになっちゃってるんだから」
「平気さ。今度は審査員にも高得点をもらえると思うよ」
「審査員って誰よ?他のお客?それともあなた?」
店内は、イヌとヘリのようなカップルでほぼ満席状態だった。
正装していて、男性はタキシードやスーツ、女性はドレスを着込んでいた。
若いカップルもいれば往年のカップルもいる。
このレストランの常連なのか、店内の内装を不思議がっている様子は無い。
皆、それぞれのテーブルで和やかで楽しげに互いのパートナーと談話している。
ごく普通にウエイターがやってきて、イヌとヘリは飲み物と食事の注文をした。
他の客たちもそれぞれ自分達の注文した酒や料理に舌鼓をうっている。
料理は、さすがイヌの義父のおすすめの店なだけあって、どれも美味しかった。
店内にはロマンチックな気分を高めるほどムードあふれる音楽も流れている。
ヘリがデザートをほとんど食べ終えようとした時、
レストラン中央の広間に、2組のカップルが出てきた。
そして、音楽に合わせてダンスを始めた。
「上手ね。お店の方かしら?ここではダンスショーを見せてくれるのね」
ヘリがデザートのフルーツをほおばりながら言った。
「1組は違うようだな。それに…」
イヌが言いかけた時、さらに3組のカップルがテーブルから立ち上がって、
ダンスに加わった。
「仕込みじゃなさそうだ。ここは食事以外にダンスも楽しめる店らしい」
「え?そうなの?イヌ、それ、お父さんから聞いてた?」
「いや。聞いてない」
イヌがフロアを見ながら苦笑した。
「…父にはめられたな」
「はめた?」
ヘリがきょとんと首を傾げた。
「どういうこと?お父さんがイヌと私に嫌がらせをするとか考えられないわ」
「嫌がらせじゃない。でも、父の悪戯だ。君じゃなくて僕への」
「お父さんの悪戯?このお店をあなたに勧めたのは、何か魂胆があったってこと?
それが、このダンスしている人々?」
「ああ。ここは父がお気に入りのレストランって事には変わりないはずだ。
ただ、ダンス愛好者の為の踊れるレストランって事だ」
「あなたは全然知らなかったの?」
「父を信じて、この店はリサーチして無かったよ」
イヌがそう言って、ふと何か思い出したように、ヘリの方に顔を向けた。
「そういえば、父が昔言っていた。
イベント時にダンスフロアになるレストランがあるから、いつか恋人が出来たら行ってみたらいいと。
その時は全く関心が無かったから、空耳程度に受け流したんだが…
まさか何年もたって来させられるとはね」
「もしかして…イヌ、ダンスが苦手なの?」
「苦手じゃない。ただ、好んでしないだけだ」
ひっかかりのあるような口調と、しかめた眉で、
イヌの「弱点」を見つけたような気分になったヘリだった。
そして、ニヤリとしたい気持ちを抑えて、せいいっぱい気の毒そうな顔を作った。
「誰にでも不得意ってものはあるものね。何でも完璧に出来る男っていうのもつまらないもの。大丈夫よ。イヌ」
「その憐れむふりで、面白がっているような目はやめてくれ、ヘリ」
「あら?ばれちゃった?」
「誤解するな。僕はダンスも得意な方だ」
「そうなの?でも、言葉だけじゃ、ちょーっと信じられないのよね」
こんな楽しいネタは逃さないわよ!というヘリのわくわくした顔にロックオンされたイヌは、諦めたように吐息をついた。
「…わかった。君は踊りたいんだろ?」
「ええ。でも、一人で踊って来いなんて言わないでね」
悪戯っぽく唇に指をあててヘリが言った。
「そう言いたい所だけど、そんな事をさせたら、周囲の僕たちを見る好奇の眼差しに居づらくなりそうだ」
おそらく、こうひっそりと思われることだろう。
…彼女を一人で踊らせている…きっと彼氏は踊れないのね。可哀そうに。
イヌはもう一度盛大なため息をつくと、
立ち上がって、ヘリに向かって手をさしのべた。
「僕をたきつけておいて、この後に及んで踊れないとか言わないよな?」
「こう見えてお嬢様育ちよ。一通りの教養は身につけさせてもらっているわ。
いくつかを除いてはね。でも、ダンスはそれに含まれてない」
ヘリはイヌの手をとると立ち上がって言った。
「だから、王子様のダンスのお手並みを拝見させていただくわ。
心の準備は出来ていて?」
イヌは返事の代わりにヘリの手を自分の腕に絡ませると、
エスコートするようにダンスフロアの方に歩いていった。
(「聖夜の祈り」20話に続く)
登場人物
マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)
ジョン・リー…イヌのアメリカの養父
続きは明日更新予定です。
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