韓国ドラマ「火の女神ジョンイ」の二次小説「永遠の器」です。
最終回のラストからの続き、としてお読みください。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「
お願い」を一読してください。
「火の女神ジョンイ」最終回、ラストの方のあらすじ。
王の次男、光海君と、宮中の陶器製造施設「分院」の女陶工職人、ユ・ジョン。
身分違いでありながら、幼い頃に出会った時から惹かれあい、密かに想いあっていた二人。
倭国との戦の中、光海君は世子となり戦場に赴く。そこで初めて、光海君に自分の想いを伝えるジョンだったが、分院の仲間を救う為に倭国に行くことを決め、一人国を去っていった。ジョンを必死に追った光海君だったが、ジョンはすでに船出した後だった。
永遠の器(1話)「分院で私を待っていると…会おうと約束したのに」
…ジョン、お前は私を置いて行ってしまうのだな。
遠ざかっていく祖国の地。
その岸辺に立ち、今にも海に飛び込んで自分を追ってきそうな人物の影を
ジョンは細めた瞳で悲しげに見つめ続けた。
…光海君様。
出来ることなら、今すぐに私が海に飛び込んで、
あなたの所に戻りたいです。
たとえ、あなたの側にいられなくても、
分院で、あなたに差し上げる器を作りたいです。
でも、出来ないのです。
敵が大勢いる場所にまで私を追ってきてくれた。
それがどんなに嬉しかったか。
もうその気持ちを伝えることすら叶いません。
せめて、あなたへの気持ちと共に過ごした思い出を心に抱いて、
私は去ります。
この想いが、これから過ごす遠い異国の地への不安を
和らげてくれることを感謝します。
光海君様。
ありがとうございます。
ごめんなさい。許して下さい。
…愛しています。
遠ざかる人物の表情までは見えなかった。
それでも、最後の最後まで、愛しい人の姿を目に焼きつけておきたい。
「さようなら…」
ジョンは小さく呟くと、
必死に涙をこらえた目で、光海君が見えなくなるまで岸を見つめ続けた。
「世子様。そろそろここを発たないとと敵に見つかってしまいます」
そう護衛が緊迫した面持ちで声をかけても、
光海君も、ジョンの乗った船が見えなくなるまで目を逸らすことは無かった。
そして
ジョンが倭国に連れて行かれた日から
数年がたち・・・。
倭国との戦で、国は守られたが、その傷痕はまだ深かった。
そんな中、光海君は王となった。
孤独な王座に座り、
光海君は寂しげな目を空に向けた。
…元気でいるか?ジョン…。
その想いは、倭国につながる空に駆けて
ゆっくりと流れる時の中に消えていった。
そして、それから、また年月が過ぎた、
倭国の、とある土地の集落。
その集落は、腕の良い陶工職人達が多く住み、
陶磁器は藩の御用達にもなっている、大きな窯の一つだった。
「千代様」
その声に、
窯の前で、焼けた器の出来を調べていた女陶工が振り向いた。
「どうしました?」
「藩の役人から、千代様宛に文が届いています」
集落の外から戻って来た作業人が千代に手紙を渡した。
「なんでしょう?」
「分かりません。でも、急いで中を読めとのことですよ」
「おおかた、先日命じた器は出来たのか?という催促の文だろうな」
千代の側で窯の薪を並べていた男が横から口をはさんだ。
「窯神様に愛されている千代さんなら1日で器が出来るって思われているからねえ」
「そう思われても違いないからな」
窯で働く陶工や作業人達がどっと笑った。
千代も一緒にはにかむような笑みを見せた。
千代は窯の中で1、2を争うほど腕の良い陶工だった。
その昔、異国から連れてこられてから、千代は集落で陶器を作る先駆者の一人となった。
まだ、寄せ集めばかりだった職人たちを集落でまとめていったのも千代だった。
そんな千代は、藩主だけでなく、窯の仲間達からの信望も厚く、皆から尊敬され慕われていた。
陶器にかける情熱は人一倍だということは誰しも分かってはいたが、
ただ1点、謎なことがあった。
創る器だけでなく、容姿も性根も美しい千代が、なぜこの年になってまで独り身でいるのか?ということだった。
千代がこの地に来てからこれまで、幾人も求婚する男がいた。
すべて、千代が断った理由は、国に結婚した夫がいるからだという話。
または、窯神様に、一生独身を貫くという誓いをたてたからだという話。
どれも噂ばかりで、実のところ、誰もその真相を知らなかった。
陶工とはいえ、女性が一人身でいるのは、不都合が多い時代と土地。
それでも千代の作る神秘的なまでに美しい器が、人々を魅了し、惹きつけ、そのようなことは些細な事だと思わせていた。
「千代さん。手紙にはなんて書いてあるんだい?
もし、器の催促なら協力は惜しまないよ」
「そうですね。もし、そうだったらお手伝いをお願いします」
千代は、そう答え、仲間の視線を浴びながら文を開いて目を通した。
千代の少なからず驚いている表情に、皆が興味を示した。
「千代さん?」
「文によると、この窯の集落に新しく外から来た人が住むことになる、とのことです」
「外からというと…千代さんと同じ国の人かい?」
千代がコクリと頷いた。
仲間達は顔を各々見合わせると、不思議そうに首をかしげた。
「珍しいな。よほど腕のいい職人でも見つけてきたんだろうか?」
集落に新しく人が住むことは珍しいことでは無かった。
ただ、それは藩から許された職人たちだった。
窯の職人たちは、技術を他の藩に漏らさないために、
単独で土地を離れることは許されず、また、別の窯の集落に移ることも無かった。
そのため、外から入ってくる人間に対しても厳しい審査があった。
そんな環境の中で、異国からの職人を新たに集落に加えるとは…。
「この文によると、藩が取引している商団の口利きからの紹介とあります。
私に今後の世話を頼むと。早くて今日、明日には着くから、とも」
千代は困惑した面持ちで、文に何度も目を通した。
…窯の代表の一人とはいえ、なぜ、私を名指しで後見人にするのかしら?
同じ国から来た職人は他にも沢山いるのに。
千代の考えを見透かしたように、仲間達が口ぐちに物言いを始めた。
「何も忙しい千代さんを世話役に命じることは無いのにな」
「同じ国の出身ってだけにしては、なんだか上の人も気をつかってるように感じるが」
「どういう経歴の持ち主なんだろうね。もしかしたら、向こうの国の『将軍様』付の職人だったとか」
「それは、千代さんのような?」
その意見に、皆がハッとなって千代の方に顔を向けた。
千代がこの国に連れて来られた経緯を、集落のほとんどの者は知ってはいたが、
改めて口にすることは暗黙の了解で禁忌とされていた。
口に出した者はしまった、という青ざめた顔で千代の様子を窺っていたが、
千代は別段気にしてはいないようだった。
「とにかく、その人が来たらせいいっぱい歓迎してあげましょう。
きっと遠く国を離れて、心細い思いをしているかもしれないから」
千代の言葉に、皆、あわてて頷きあった。
「そ、そうだな。仕事を早く終わらせて、宴の準備を進めておくか」
「酒はあったかな…」
そう言いながら、めいめい自分の持ち場にあたふたと帰っていく様子を千代は微笑ましい様子で見ていた。
この国の職人と、かの国から来る職人との間で摩擦や衝突が起こることは日常茶飯事だった。文化の違いだけでなく、技術の面に置いてもぶつかることは仕方のないことだった。
だからこそ、長い時間がかかったが、
この窯の集落の職人達がここまで連帯感を持つようになったことは、千代にとって喜ばしいことだった。
ただ、ひたすらに、良い器を作ること。
そして、その環境を作ること。
そんな風に過ぎた日々。
「一体、今度はどんな人が来るのかしら?」
千代は、故郷を懐かしみながら、
新しく出来た器を手に取ると、愛おしげにそっと撫でた。
それから。
集落に新しい住人が現れたのは、その日の夕方のことだった。
商人と思われる男数人と、上級役人の男が二人。
皆上質の着物を着ていた。
そして、農夫のような着物を着、笠をかぶった中年の男が一人。
集落では明らかに目立つ集団に、職人達はそれぞれ作業の手を止めて、
その動向を見守った。
男たちは、集落に入ると、職人達の好奇の眼差しを受けながら、
まっすぐに中央を目指して歩いてきた。
「千代殿はどこにいる?誰かここに呼んでこい」
役人の言葉に、作業人の一人があわてて、小屋で土を検品していた千代を呼びに行った。
「はい。わたくしが千代ですが」
千代は、土で汚れた両手を腰に巻いた布にぬぐいながら小屋から出てきた。
役人の一人は、集落にも時々顔を出す千代のよく知る者だった。
「文は受け取っているか?」
「はい。確かに、拝読いたしました」
「では、話は分かるな?ここにいる者がこの集落にこれから住む男だ。
藩主様もお認めになった腕の立つ職人ということだ。まだこの国に来たばかりだから、
何かと分からないことも多い。いろいろ手を貸してやれとの御命令だ」
「はい」
千代は頭を下げると、役人の横にいる笠をかぶった男に目をやった。
そして、その顔をじっと見たあと、信じられないように瞬きをした。
…似ている…。
確かにどこかで見た面影だった。
それでも、自分の中で覚えている人は、こんな場所にいるはずが無かった。
そう思いながらも、やや混乱した面持ちで、男を凝視したまま千代は突っ立っていた。
男も千代の方をじっと見つめていた.
笠の影の下、その表情は硬く、作ったまま長い年月放置された陶器のように頑なに見えた。
精悍ながらも疲弊したような面持ちが、人生の辛酸を舐めた男の生き様を彷彿とさせた。
…ただの職人じゃない。
この人は、今までただならぬ道を歩いてきた人だ。
そう感じた千代は、それでも男から目を離せずにいた。
(「永遠の器」2話に続く)
予告通り。
「火の女神ジョンイ」の突発二次小説を更新しました。
短編のつもりが、ちょっと続きの中編です。
でも、「キング」と違って、今度こそこれっきりの予定です。
みつばの妄想した「火の女神ジョンイ」のその後。
倭国に連れていかれたジョンと、残され、王となった光海君は…?な
お話です。
小説が気にいって頂けたら、ふつうの【拍手ボタン】か
ランキングボタンを押してお知らせください♪
拍手コメントは現在非公開制になっています。
「常連さん」へのお願い。
リアルのみつばは現在毎日が戦争に近い状態で、
精神的にも肉体的にも疲労困憊してます。
雑記も手を鈍らせないために、日常を少しでも楽しむために書いてます。
拍手や感想は嬉しいですが、中傷めいた応援は控えてくれると助かります♪
「検ぷり」の創作を少しでも楽しみにしているならご協力お願いします。
にほんブログ村