韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「聖夜の祈り」14話です。
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この話は「聖夜の祈り」シリーズの最新作になります。「NYへいこう」「招かれるもの」の続編。
聖夜の祈り(14話)ホテルの高層階の特別ラウンジに入ったイヌとヘリは、座り心地の良いソファに座り、
サービスビュッフェの美味しい軽食をつまみながらお茶を飲んだ。
そして、十分に寛いだ後一度部屋に戻り、厚めの防寒着を着込んだイヌとヘリは、
クリスマスイブイベントを楽しむ為にホテルの外に出ることにした。
ホテルのエントランスを出ると、肌を突き刺すような冷気が頬をなぶり、
ヘリは思わずふるっと身震いして、空を見上げた。
「寒いわね」
「ああ、今夜は本当に雪が降るかもしれないな」
ヘリと一緒に空を見上げたイヌが言った。
「クリスマスイブに雪…いいわね」
ロマンチックで♪
そううっとりとした表情のヘリの横で、「吹雪かなければいいけどな」と
イヌがあっさりと答えた。
そして、ぷうっと頬を膨らませて立ち止まっているヘリに、
「置いていくぞ」と声をかけて歩き出した。
あわててイヌの後を追って、その横に並んで歩き出したヘリは、
一瞬躊躇した後、イヌの腕に自分の腕を絡めた。
それでも、「何?」と聞いてくるイヌに、ヘリは唇を尖らせた。
「寒いんだもの。くっついていた方が温かいでしょ」
「マフラーを貸そうか?」
「それに、土地に不慣れだから、もし、あなたと離れたら迷っちゃいそうだもの」
「万一はぐれたらホテルで待ち合わせしよう」
「・・・・・・」
無言になったヘリをイヌがチラリと見下ろした。
頬を両手で挟んだら、ポンっと音が出そうなくらい膨らんだヘリのふて腐れた顔に、
イヌがフッと吹き出した。
「なによ」
ヘリは恨めしそうにイヌを見上げた。
「見てよ。通りのカップルたちは、皆ベッタリとくっついているじゃない。
例え雪が降っても恋人達の熱で溶けちゃいそうなくらい。
でも、私達の歩いたところだけ雪が積もりそうよね」
ヘリの言葉に、イヌがますます楽しげに笑い声を上げた。
そして、ヘリに組まれていた腕をはずすと、その手でヘリの肩を抱き寄せた。
ヘリの気持ちを分かっていて、わざとからかっていたイヌだった。
本心では、この土地の寒さに慣れていないヘリを、
両腕に包み込んで暖めてやりたいとさえ思っていたのだったのだが。
「確かに温かいな」
ヘリの肩を抱いたまま歩き、すました口調で言うイヌに、
ヘリはそれでも、嬉しそうな顔をした。
「でしょ?」
ヘリは、まるでイヌとはぐれまいとするかのように、
イヌの背中に手をまわして、きゅっとコートを掴んでいた。
ヘリにとっては、先ほどの台詞は、
単にイヌとくっつく為の口実ではなかったようだった。
厚めのコートを着ていても、感じる冷気と、
慣れない異国の地に若干緊張しているように小さく震えているヘリ。
いつもは、好奇心旺盛で、新しい事を開拓することにも躊躇の無いヘリが、
珍しく心細げな瞳でイヌを見上げていた。
そのことに気付いたイヌが、ヘリの体をさらに己に強く引き寄せ、
手でその肩を暖めるように、撫でさすった。
「ほら、もっとくっついていろ」
イヌが言った。
「モニカとの待ち合わせの時みたいに、
道に迷って、面倒なことにならない為にな」
イヌの言葉に、ヘリが一瞬何か反論したいような顔をしたが、
すぐに、素直にコクっと頷いた。
ヘリは、自然にほころんだ顔を前方に向けながら思った。
…寒いと感じていたのは、本当は少しの間だけだったの。
こうして、イヌと一緒にいられるだけで、
心も身体も、ポカポカと幸せな気分で暖かくなっていくから…。
声には出さなかったが、ヘリのそんな心情は、イヌと同じものだった。
二人の歩く街の通りは、クリスマスムード一色に染められ、
恋人達の浮かれた空気が発散され、明るい活気に満ちていた。
やがて、ヘリとイヌが、目的地についた頃には、
ヘリの緊張はすっかりとかれていた。
大きなクリスマスツリーを目の前にしたヘリは、
瞳を輝かせると、「綺麗…」と呟いて足を止めた。
「毎年違うのよね。映像で見たことはあるけど、
近くで見るとすごい迫力」
「しばらくここで見てるか?」
そう提案したイヌにヘリは首をふった。
「先にスケートリンクの受けつけに行きましょう。ツリーはスケートをしながら見られるから」
まるで、勝手知ったるは自分、と言うように、
ヘリは、イヌの腕をとると、ぐいぐいと引っ張って、スケートリンクの方に歩き出した。
ヘリの勢いに押されながらも、イヌは、まるで散歩中にはしゃいでいる犬を御すように、
ツリーの見物人で混雑している道を、注意深く歩いて行った。
スケートリンクは案の定かなりの混雑だったが、
イヌとヘリは予約をしていた為さほど待たずにリンクに上がる事が出来た。
借りたスケート靴を手早く履き、氷上に軽やかに滑り出したイヌは、
すぐ横に気配の無いヘリに気付いて、後ろを振り返った。
そして、スケートリンクの入り口で手すりに両手でつかまりながら、
何とか立っている風のヘリを見つけると、ツイっと滑って戻った。
「どうした?滑れるんじゃなかったのか?」
「滑れるのよ。嘘じゃないわ」
ヘリは、反論しながらも、ギュッと手すりを握りしめたまま、
必死にバランスをとっている様子だった。
「本当よ。でも、スケートはずいぶん滑って無かったから、感覚を取り戻すのに時間がかかるのよ。ちょっと練習すれば大丈夫だから、イヌは先に滑ってて」
おかしいわね。…と、ブツブツ言い訳めいた独り言を口ごもりながら、
ヘリは、ふらつく足元を必死にとどめていた。
…負けず嫌いはどっちだ。
イヌは、苦笑を浮かべると、ヘリに手を差し出した。
「1度も滑ったことが無くても慣れれば大丈夫だ。
僕がエスコートするから。
ほら。まず手すりから手を離して」
「ん…うん…」
おっかなびっくりの態で、ヘリがフラフラと手すりから手を離すと、
イヌの手に寄り掛かるように、飛びついた。
「わっ。わわわ。イヌ!」
ぐらぐらするヘリの体をイヌがグッと力強く支えると、
リンクの上に立たせて落ち着かせた。
「あせらないで。僕を見て」
イヌの優しく響く声と手に誘導され、安心したヘリは、
次第に滑るコツが分かってきたようだった。
「だんだん思い出してきたみたい」
「だろうな。君は記憶力だけは抜群にいいから」
「否定はしないけど、長所が記憶力の良さだけってわけじゃないんだからね」
「模倣も得意だったよな。じゃあ、僕の後に続いて同じように滑っておいで」
そう言って、ヘリの手を離して、
ツイっとスケートリンクの中央まで滑って行くイヌを、ヘリはあたふたしながら追いかけた。
しばらく優雅に滑るイヌと比べて、なんとか形をとっていたヘリも、
数十分後には、イヌと互角に滑れるようになっていた。
イヌに近づいたヘリは、イヌの方に手を伸ばした。
振り向いたイヌが、その手をとってヘリと並んで滑った。
微笑みあって、
大きなクリスマスツリーの下で一緒にスケートを滑るヘリとイヌ。
気温は低かったが、ヘリとイヌの体は暖まっていった。
こうして、時間いっぱいスケートを楽しんだ二人は、
スケートリンクから出ると、今度はディナーをとるためにその場を離れた。
イヌの予約した店は、歩くと30分ほどかかる場所にあった。
まだ時間があることもあったが、ヘリとイヌはタクシーには乗らず、手をつないで
クリスマスムード一色の街を眺めながらメインストリート沿いをゆっくりと歩いて行った。
「素敵な店ね」
店に入り、予約していた席に案内され落ち着いた頃、
辺りをそっと見回したヘリがイヌに囁いた。
マンハッタンの夜景が一望出来る、人気の高いレストラン。
少し早い時間だったが、店の中はすでにクリスマスディナーの予約客で、
ほとんどの席が埋まっている状態だった。
高級で落ち着いた雰囲気の店内で、客の多くは大人のカップルだったが、
離れの個室にはファミリー層も訪れているようだった。
セレブだった頃のヘリは、こういう店でよく食事をしていたが、
“恋人”とクリスマスに一緒に来るのは初めてだった。
「イヌは、この店に来たことはあるの?」
「いや、初めてだ」
そう答えるイヌにヘリは嬉しそうに顔をほころばせた。
自分でも自覚するほど、今日は口元がずっとゆるみっぱなしのヘリだった。
対面で、じっと見つめているイヌに気付いたヘリは、
うつむき加減で、頬を指でかいた。
「あなたはクリスマスにこんな風に過ごすのは、当たり前だった?」
「こんな風って?」
あえて聞いてくるイヌに、ヘリが体をもじもじさせた。
「こんな感じに、ロマンチックに過ごすって意味」
慣れない経験で、恥ずかしいほど舞い上がっている。
悟られているとはいえ、そんな姿をイヌにずっと見せている事が、
今さらながら、照れくさくてしょうがないヘリだった。
クリスマスに高級レストランでの食事も、異性をエスコートすることも、
イヌには、慣れっこになっているのだろう。
落ち着いた様子のイヌに、ヘリはそんな事を考えていた。
しかし、イヌは、意外にも首を傾げて見せた。
「君の言っているロマンチックという言葉の意味をそのままとるなら、
こんな風に過ごした記憶は無いな」
「そうなの?」
「養父の家にいた頃のクリスマスは、父と一緒に過ごす事が多かったし、
受験の年は、気分的にそんな余裕も無かったからな。
その後、司法試験に受かってからもね」
父の無実を証明する為に残された時間は、刻々と削られていた。
世間的に盛り上がった雰囲気のイベントに、
浮かれている気分でも場合でもなかった。
「うん。そうよね。私も受験の時はそれどころじゃなかったわ」
あわてて同意するように、頷きながらも、
ヘリは、当然、イヌの必死さが、自分と比較にならないほどだったという事は分かった。
…私ったら。
少し考えれば分かることだったのだが、
ヘリは、イヌに過去を思い出させるような事を聞いてしまった事に気付いて、
自分のうかつさを心の中で責めた。
しかし、イヌは、全く気にしていない様子で、
ウエイターから受け取ったアルコールメニューに目を落していた。
「君の好きな銘柄もそろっているみたいだが、どれがいいかな」
「えーっと…。この中であなたのお勧めのお酒は?」
「ん…。これは、好きだな。君は飲んだことある?」
「ないわ。でも、飲んでみたい。最初はこれにしましょう」
「最初は、って、今日は何本開ける気だ?」
「イヌのお財布が空になるか、私がつぶれない程度に、までよ」
「酔いつぶれたら、この店に置いていくからな」
「あら。せっかくのクリスマスイブの夜なのに、魅力的な女性をお持ち帰りしなくていいのかしら?」
相変わらず、普段と全く同じような会話を繰り広げてはいたが、
イヌとヘリは、心を弾ませながら、共にクリスマスディナーを楽しんでいた。
少し酒も入っているせいもあったが、
何度も明るい笑い声をあげるイヌの顔を見て、ヘリも嬉しくなった。
「今日のあなた、とってもリラックスしてるみたい」
「当然だろ。素敵な休日だ」
イヌが言った。
「天気も良くて、気楽な相手と一緒。
それで、美味しいものを食べるって、気分は最高だよな」
「どこかで聞いたことがある台詞ね」
ヘリが笑った。
かつて、一緒にイヌと食事をした時に、ヘリが言った言葉だった。
「こんな日は、好きな人と一緒にいるべきよね」
ヘリも、ふざけて、あの時のイヌの言葉を模倣した。
イヌはわざとらしく肩をすくめてみせた。
「僕はそうしている。君は?」
「私も、そうよ」
…好きな人と一緒にいる幸せ。
酒が入っているだけでなく、
甘い雰囲気が、二人の理性をどんどん蕩けさせていく。
このまま、いつまでもこうしていたい。そんな気持ちと、
今すぐにホテルに戻って二人きりになって、
さらにこの甘い空気を濃厚にさせたい。
そんな思いが膨らんでいる。
ただ、雰囲気にもイヌにも甘えて酔いしれているヘリに比べて、
最後までヘリをエスコートするという使命をおっていたイヌにはしっかりとした理性が残っていた。
夜景だけでなく、窓から見える夜空の雰囲気で、
もうしばらくすると、確実に天気が崩れる事を、予想していた。
デザートも食べ終えて、お茶もほとんど飲んだ頃、
イヌがチラリと腕時計に目を落して言った。
「そろそろホテルに戻ろう。店からタクシーに乗ればすぐにつく」
「待って」
ヘリがあわてて身を乗り出した。
「私、まだクリスマスツリーが見たいの」
「クリスマスツリーなら、明日も見られるよ」
イヌには、ツリーより、天気が荒れて、万が一でも
ヘリを凍えさせることの方が気がかりだった。
「そうなんだけどね。でも、私、さっきのクリスマスツリーを、
今夜、もう一度、見に行きたいの。
他のクリスマスツリーも興味あったんだけど、
ずっと、クリスマスイブの夜に一番見たかったのは、
あの場所のツリーだったのよ。それに、せっかくカメラを持ってきたのに、
さっきは撮るのも忘れちゃったから。ねえ、イヌ…駄目?」
ヘリに、お願い、と、上目使いな請う瞳で見つめられて、
“駄目だ”と返せるイヌでは無かった。
短い吐息をつくと、イヌは、「わかった」と返事した。
そして、店を出て、タクシーに乗ると、
先ほど、ヘリとスケートをした場所で降りた。
遠目からでもはっきりと目に映る光の集合体。
スケートリンクに隣接して立っているクリスマスツリーの灯りは、
昼間の時より、その煌びやかを際立たせていた。
「すごいわっ」とヘリは、思わず歓声をあげた。
そして、タクシー代を払っていたイヌから離れて、
ぱたぱたと、ツリーの方に駈け出していた。
「ねっ。イヌ。凄く綺麗よ!早く来て」
走りながらも、振り返り、手招きして呼ぶヘリに、イヌが苦笑を浮かべた。
観光地としても有名なスポットだったが、
この土地に長く住んでいたイヌには、何度も目にしていた光景だった。
そして、ネットやニュースで画像を見たことがあると言っていたヘリの、
おおはしゃぎする姿は、あまりにも想像通りだった。
スケートをしていた昼間、1度見ていたのに。
「前を見ろ。ヘリ。人にぶつかるぞ」
恋人の気分から、子供の保護者のような気持ちで、
イヌは、思わず、ヘリに声をかけた。
「えー?何か言った?」
イヌの警告が逆に、ヘリの注意力をそらせてしまったようだった。
前に足を動かしながらも、振り返って急に立ち止まったヘリは、
横を歩いていた人のバッグに軽くぶつかった。
「あっ…」
バッグの持ち主らしき女性の驚いた声を聞いたヘリは、
慌てて、顔をそちらに向けた。
「ごめんなさいー」
とっさにそう言いかけたヘリは、
接触した人物の顔をはたと見て、目を見開いた。
「ヘリ」
ヘリが口を開くより先に気付いたらしい女性がそう名を呼んだ。
「モニカ!」
目の前にいたのは、ニューヨークに住む、ヘリのネット友達、
モニカだった。
「モニカ、知り合い?」
モニカが腕を組んでいた男性が不思議そうに聞いた。
「ええ、友達よ」
そして、小走りで、ヘリに追いついてきたイヌがその場に揃うと、
偶然とはいえ、再び会えた異国の友人の姿に、ヘリとモニカは、
驚きながらも、ニッコリと笑みを浮かべあった。
(「聖夜の祈り14終わり 15に続く)
大変お待たせしております。「聖夜の祈り」14話です。
13話を更新したのは1年半くらい前でした(汗)
その間にゆるーく短編更新したりしてましたが、
シリーズ話はひさしぶりの更新ということで。
構成しながら、懐かしく←おいおい。小説読み返していたら、
スケートを滑るイヌが鮮明に妄想出来て楽しかったみつばです♪
今年も、妄想世界ではイヌで始まりイヌで終わるみつばの1年でした(笑)
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