韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「 Halloween Night(後編)」です。
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Halloween Night(後編)恐喝をしている男達は、
イヌが近づいてくることに気付いていなかった。
「携帯電話をよこせ」
「嫌だ」
「往生際の悪い奴だな。少し痛い目みるか?」
そう言って、目の前の男に向けられた拳は、
振り下ろされる前に、割り込んできた者の手で止められた。
「やめろ」
怯えた男も、男を取り囲んだ者たちも、一斉に声を発した人物を仰いだ。
「やめておけ」
割り込んできた人物、
ソ・イヌが、もう一度言って、冷静に周囲の人物を見渡した。
殴られる寸前だった男は、フランケンシュタインの仮装をしていた。
衣装もそれらしい物を着て、顔の血糊やメイクも精巧に施され、恐ろしく不気味に見えた。
…中身の男が半ベソをかいて震えていなければ。
対して、そんな怪物メイクの男を取り囲んでいる3人は、
可愛いアニメキャラクターの面をつけていた。
一見、この3人が
『ぼくたち、悪い奴をやっつけてるんだ』的な光景だったが、先ほどから聞こえた会話と雰囲気から察するに、この場の被害者は、怪物男の方のようだ。
脅され、金品を取られようとしている。
しかも、顔見知りではなく、酒に酔った3人の場当たり的な犯行なのだろう。
イヌは素早い状況判断の後、この犯行現場に介入する事にした。
「なんだ、お前っ」
手を上げていた者は、イヌの毅然とした態度に気圧されながら、
あせったようにイヌに掴まれていた腕を振り払った。
座り込んでいた怪物男は、立ち上がると、イヌにすがりついた。
「助けてくれ。この人達に財布を盗られたんだ」
「この怪物男が、陳腐な格好だ、と、俺らをからかって笑ったんだよ。じゃあ、仮装代を貸せと言っただけだ」
リボンをつけた“美少女”が太い声で反論した。
酒に酔っているとはいえ、自分達のしている事に自覚はあるのだろう。
しかし、常習的な物ではなく、嘲笑された怒りからの突発的な犯行だと主張した。
「多勢に無勢に見えるかもしれないが、さっきまでこいつの他にあと二人男がいたんだよ」
クリクリ目玉のヒヨコが言った。
「言い合いになったら、分が悪いと見てか、こいつを置いて逃げていった。人望の無いヤツだな。あ、怪物だから人望は無いか」
ハハハハと笑う3人を、イヌの背中から精いっぱい去勢を張ったフランケンシュタインが睨み付けた。
「あんたらが、危害を加えようとするからだ。この乱暴者」
「なんだと、先に難癖をつけてきたのは、お前らのくせに」
フランシュタインの言葉に、可愛い妖精たちがいきりたって、再び殴りかかろうとした。
「よせ」
3人を抑えこむように、イヌが間に入り、
背丈がイヌと似たフランケンシュタインは、また、横顔に触れるくらい、イヌの体にしがみついた。
もみ合った状態で、そんな男をチラリと横目で見ながら、
イヌは目の前の3人に言った。
「理由はどうあれ、君たちのしたことは強盗だ。
今なら酔った上での過失になるが、これ以上やれば、留置場で頭が冷える頃には後悔することになるぞ」
イヌの静かな声と佇まいが、不穏な空気を沈静化していった。
イヌの言葉に、3人が我に返ったように振り返り、周囲に目を走らせた。
いつのまにかイヌ以外にも、足を止め、少し離れた場所からこちらの様子を伺っている見物人たちが増えている。
3人が、気まずそうに顔を見合わせた、その時、
見物人たちの中から、制服姿の警察官が3人出てきた。
後ろに、吸血鬼と狼男の仮装をした男たちを引き連れている。
「恐喝されている友人というのは、彼のことか?」
警官がイヌの方を指差しながら吸血鬼に聞いた。
「いえ。その後ろの仮装した男です。
それで、あの3人が、俺らを恐喝しようとしていたやつらです」
逃げたといっていた、フランケンシュタインの仲間が警官を連れて
戻ってきたようだった。
「おい。おまわりさん。俺らの言い分も聞いてくれよ」
焦ったように、口ぐちに喚きだす3人を、警官たちがなだめた。
「わかった。話は、落ち着いて聞くから。
まず、彼から盗った物を出しなさい」
…もう、大丈夫だろう。そろそろ行かなければ。
ヘリとの待ち合わせに遅れてしまう。
イヌが、ふっとため息をついて、その場を離れようとした時、
「君」と呼び止める声がした。
声のした方を見ると、顔を半分仮面で隠した男性が、イヌの前に立っていた。
仮面の男は自分の頬に指をやった。
「顔のこのあたりに、血がついているよ」
「そうですか?教えて下さってありがとうございます」
イヌは自分の頬に手をあてて見た。
指にかすかに朱色がついた。しかし、よく見ると、血ではなく絵具だった。
おそらく、フランケンシュタインの仮装をしていた男が顔につけていたものだろう。
「さっき、あの人たちともみあった時についたのかもしれないね」
そう言って、仮面の男性が、イヌの手に何かを握らせた。
「これは?」
不思議そうに、手のものと仮面の男性の顔を見比べたイヌに、
男は「あげるよ。使いなさい」と言った。
男がイヌに渡したものは、男がしているのと同じ仮面と、ハンカチのようだった。
「いえ、大丈夫ですから」
遠慮して返そうとしたイヌに、「受け取って」と言う声がした。
仮面の男の側に、やはり半分顔を隠した面をした女性が立っている。
どうやら、仮面の男の連れのようだった。
「私達、上から、あなたをずっと見ていたのよ」
女性が言った。
「え?」
きょとんとしたイヌに、「さっきの騒動をね。高いところから見えていたんだよ」と仮面の男が、女の言葉をフォローするように言った。
「ああいう所に行って、人を助けることは、とても勇気のいることだ。いいことをしたね」
仮面の男はそう言うと、イヌの肩を手でぽんっと優しく叩いた。
…この感じ。どこかで…。
不思議な懐かしさを覚えたイヌがボンヤリとしていると、
仮面の男女は、にっこりと笑った。そして、
「元気で。楽しいハロウィンの夜を」
そう言い残して、仮面の男女は連れだって、イヌから背を向けた。
「まって」
イヌがあわてて呼びとめたが、仮面の男女の姿は、
多くなっていた野次馬の中に入って、見えなくなった。
人だかりを見つめて、立ち尽くしていたイヌの意識を警官の声が戻させた。
「ところで、君は、誰だ?この6人との関係は?」
不審そうにイヌを見つめる警官。
イヌが釈明しようと口を開きかけた時、「彼の身元は私が保障しよう」と
警官の前に立った白熊の着ぐるみが言った。
唖然とした警官の前で、着ぐるみの頭をとった中年の男は、イヌも顔見知りの刑事だった。
「ミン刑事」
「彼は、ソ・イヌ。弁護士だ。昔から私も知っている人だよ。
この騒動には通りすがりで仲裁に入っただけだ。彼らも、野次馬で見ていた人も言っている。彼は関係ないから、もう帰してあげてくれ」
「わかりました。御苦労様です」
警官は、ミン刑事に敬礼すると、持ち場に戻っていった。
向かい合ったイヌとミン刑事は改めて挨拶を交わした。
「ミン刑事は、今日はその姿でお仕事を?」
「いやいや。今日は、非番でね。仮装パレードに家族と参加する前に、カフェでお茶を飲んでいたら、あの騒ぎが見えてね。まずそうな雰囲気になったから、出てみたら、彼らの仲間が連れてきた警官や、通報で来た者と一緒になったんだよ」
ミン刑事が白熊の着ぐるみでかいた汗をハンカチでぬぐいながら言った。
「ソ・イヌ君は、仕事だったのか?」
「はい。でも、もう終えて、これから仮装パレードに行く途中でした」
ミン刑事は、イヌが手に持っていた物に目を落した。
「仮面か。そういえば、君のお父上も、昔、仮装パレートに参加されていた時、そんな仮面をつけていたな」
「え?」
イヌはハッとなって、ミン刑事を見つめた。
昔、イヌが韓国にいた頃、近所に住んでいたミン刑事は、
父、ソ・ドングンのことをよく知っていた。
ミン刑事の言っているパレードの話は、ドングンがイヌを誘った時のことだろう。
「父は、その時、母と一緒に参加したはずなんですが、
二人がなんの仮装をしていたかご存じですか?」
うーん…と唸りながら、ミン刑事は思い出そうとするように、
首をひねった。
「たしか、二人の好きな物語のヒロインと主人公と言っていたような…。
二人とも仮面をしていたことは覚えているんだが、忘れてしまったよ。
すまない。最近物忘れが激しくて」
「いえ、いいんです。もう、かなり前のことですから」
イヌでさえ、大切な両親との記憶を全部はっきりとは覚えていない。
微笑するイヌに、ミン刑事は、感慨深い顔になった。
「そうか…」
「じゃあ、僕はこれで」
イヌがミン刑事に軽い会釈をして、立ち去ろうとするのを、
「イヌ君」とミン刑事が呼びとめた。
「さっきの喧嘩。目撃者は大勢いたのに、見て見ぬふりをしている者が多かった。
だが、君は違った。君のふるまいは、まるで、君のお父上のようだったよ」
足を止め、ミン刑事を驚いた目で見つめるイヌに、ミン刑事は優しく笑いかけて続けた。
「ソ・ドングンさんは、人助けを苦にしない、いい人だった」
労わるような口調のミン刑事に、返す言葉が見つからないまま、
イヌは、もう1度丁寧にお辞儀すると、ヘリとの待ち合わせ場所に急いだ。
そして、ヘリとの待ち合わせ時間の少し前に到着出来たイヌだったが、
ヘリの方が先に着いていた。
仮装をしていても、イヌには、すぐにヘリが分かった。
ヘリの方も、イヌに気付いて、同じような待ち合わせの人ごみの中から
「イヌっ」と大声で呼び、手を振ってぴょんぴょんはねていた。
「時間通りね」
嬉しそうなヘリの姿を、近づきながらイヌはじっと眺めた。
「それは、何の仮装だ?」
「なんだと思う?あててみて」
子供のようにはしゃいで、くるくる回ってみせるヘリが着ているのは、
フワリと裾の広がったドレスだった。
カールをまいた髪の毛を、綺麗に結っている。
「おとぎの国のプリンセスの類に見えるな」
「さっすが、イヌ。わかっちゃった?“美女と野獣”に出てくる美女、ベルなの」
「すごいな。ずいぶんと、気合がはいった衣装と仮装だ」
イヌの褒め言葉に、ヘリが、ますますはしゃいだ様子で、クルリと回ってみせた。
「そうでしょ?昼のパレードには、『オズの魔法使い』に出てくる“よき魔女、グリンダ”の仮装をしたんだけど、そっちもかなり好評だったのよ」
完成度はかなり高かったが。
ヘリが電話で言っていたような“セクシー”さは無い衣装だった。
イヌは、内心で軽い安堵のため息を漏らした。
そんなイヌの顔をヘリは、フッと動きを止めて、まじまじと見つめた。
「イヌは、何の仮装なの?」
「僕は、何の仮装もしていないよ」
「でも、顔のところに赤いペイントをつけてるじゃない。
それに、手に持っている仮面と、それは、なあに?」
「ああ、これはー…」
イヌは、仮面の男からもらって、無意識に手にしていたハンカチを広げた。
そして、その柄を見て、ハッと息をのんだ。
コウモリとカボチャの模様。
17年前に父、ドングンが、イヌに買ってきたものとそっくりだった。
…これは・・・。
『いいことをしたね』
そう言って、イヌの肩をたたいた仮面の男。
子供のころのイヌが、何か良い事をした時に、
父が褒めてくれる時もそんな風だった・・・。
そんな事を思い出したイヌに、忘れていた記憶が蘇った。
父と母。二人が好きで、
結婚前、舞台や映画を一緒に見に行ったと聞いたこともあった物語。
あの日のハロウィンパレードで、もしかしたら、両親は、仮面をかぶって、
その仮装をしたんじゃないだろうか。
…まさか、さっきの二人は・・・。
イヌは、とっさに、周囲を見渡した。
仮装をして、パレードの開始を待つ群衆。
イヌは、その中に、
先ほど会った仮面の男女の姿を、両親の面影を重ねて探した。
「イヌ?」
不思議そうなヘリの眼差しと呼びかけに、イヌは、ようやく視線を戻した。
父と母のわけがない。
これは、単なる偶然。
そう頭では分かっていても、
あの日の両親が会いに来てくれたように思えて、
イヌは手の中の仮面とハンカチを握りしめた。
…ハロウィンは、元々、亡くなった親しい人を悼む行事でもあったと聞く。
もしかしたら、あれは、あの日の父さんと母さんだったのかもしれない。
イヌは、目の前で、自分を見守るように立っているヘリの方を向いて、
仮面を顔に装着した。
「これで、君のエスコートをするよ」
「じゃあ、これは…」
ヘリがイヌの手のハンカチを取って、少し思案した後、
イヌの首にスカーフのように巻いて結んだ。
「うん。素敵よ。イヌ」
満足げにヘリがうなずいた。
「ただ、これって、美女と野獣の、野獣じゃなくて、
『オペラ座の怪人』のファントムみたいに見えるけど?」
「一緒だろ」
「どこが?」
首をかしげたヘリの手をイヌがとった。
パレードの開始を知らせる音が、聞こえる。
「野獣も、ファントムも、愛に飢えた孤独な男だっていうところがさ」
「でも、イヌ」
ヘリが言った。
「あなたには、私がいるわ」
イヌの見下ろした先。
ヘリの優しい眼差しが、懐かしい、あの日の夜に誘っている。
「そうだな」
手をつなぎ、
ぎゅっと、握りしめたヘリの手が、イヌの心を温めた。
あの日、父母と一緒に行けば良かった。
ハロウィンが来るたびに味わった、そんな後悔の念が消えていく。
…父さん。母さん。
イヌは、黙とうを捧げるように閉じていた目を開け、
ヘリを見つめた。
「行こうか。ヘリ」
「ええ、行きましょう。イヌ」
にっこり笑ったヘリに、イヌも微笑み返して、足を踏み出した。
日没前の薄闇に、
チロチロと明滅し揺らめく、カボチャのランタンの灯り。
ぞろぞろと、百鬼夜行のようなハロウィンの仮装行列。
あの世のものと、この世のもの。
過去と未来。
暗闇と光の狭間で。
仲良く連れだって歩くイヌとヘリの姿は、
やがて、幻想的な夜へと続く道に、
ゆっくりと、溶け込むように消えていった。
(終わり)
入院中から細々と携帯電話で書いてたのですが、
なかなか構成が進まないので、パソコンにデータを移して後編書き直しました。
今のところ、「検事プリンセス」の二次小説は、短編含めると、最も未来の話は「イヌの誕生日2014年」だとして、このハロウィン話は、2012年の10月話なので、シリーズでは一番先の話に、なります。
あまりシリーズ話の核心に触れていないところなので、アップしました♪
でも、感のいい読者さんは、何かに気付いちゃうかも?
後編に出てきたミン刑事は、ドラマ中12話に出てきた刑事さんです。
ミン刑事は、「聖夜の祈り」後、更新予定の、みつばのたまて箱史上一番シリアスシリーズ長編話にも登場予定です。
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