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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「青あざは愛より出でて」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


書き下ろし短編。



青あざは愛より出でて



…おかしいな。いるはずなのに。

ヘリの部屋の前で、2度目のインターフォンを押しながら、イヌは首をかしげた。

部屋の中に人がいる気配はする。
なのに、押したチャイムから、しばらく待っても玄関のドアは開かなかった。

シャワーを浴びたばかりで、出られないにしても、
インターフォン画面でイヌの姿を確認したのなら、何かしらの返答があっても良いはずなのに。

イヌが3度目のチャイムを鳴らそうと手を伸ばした時、
カチャリ、とようやく、ヘリの部屋の玄関ドアが中から開いた。

そして、ヘリが開いた扉からおずおずと顔を出した。

「イヌ」

「なんだ。いるんじゃないか」

ほっと息をついたイヌに、ヘリが、「何か御用?」と聞いた。

「素っ気ないな。昨日、電話で、今日は早く帰るって言っていただろ?
それから、すぐに僕の部屋に来るって。なのに、いつまで待っても来ないから様子を見に来たんだよ」

「その、さっき帰ってきて、シャワーを浴びてたところなのよ」

「さっき?帰ってから、かれこれ3時間はたってるはずだ」

「ちょっと、どうして、家に帰ってきたのが3時間前って知ってるのよ?」

とっさに切り返したヘリは、早速イヌに誤魔化していたのを暴露していた。

「超能力者だからね」

「もう、嘘はいいから」

自分の嘘を棚にあげて、食い下がるヘリに、
イヌは、面白くもなさそうに肩をすくめて種あかしをした。

「テラスにいた時、君の部屋の灯りがついたのが見えたんだよ」

ヘリが仕事から帰ってきたのが分かったイヌは、
しばらくすれば、ヘリが、部屋にやってくるだろうと思っていた。

しかし、1時間待てど、2時間待てど、玄関のチャイムはならない。

3時間を過ぎた頃、電話をかけようか、と考えたイヌだったが、
直接出向いて、訪ねた方が早いと判断したのだった。

「部屋にいることは分かってたんだが、もしかしたら、誰かと長電話をしてるのかも。と考えてね」

「元ストーカーさんは、そんなに私の動向が気になるの?」

「元ストーカーで、現恋人の男としては、気になるところだ。
付き合ってる女性が何か隠し事をしているようならね。…どうして手で顔を隠してる?」

ギクリと音がしそうなほど動揺した顔を半分手で隠したヘリが、
気まずそうに玄関扉を大きく開けた。

「入ってちょうだい。わけを説明するから」

「そうさせてもらうよ」

言って、イヌは、ヘリの部屋の中にスルリと入って行った。

ラフな部屋着に着替えているヘリからは、シャワージェルの香気がほのかに漂っていた。

もう、かなり前にシャワーを浴び終えていたのだろう。

「それで?君のやましい事って何だ?」

ヘリの部屋のソファに、どっかりと座ったイヌは、尊大なしぐさで立ったままのヘリに聞いた。

「やましい事なんてしてないわよ」

ヘリは、ぷうっと膨らんだ頬を半分見せた。

「でも、あなたに知られたくなくて」

「何を?」

「これ…」

もう、あきらめのため息をついたヘリが、顔を覆っていた手を除けた。

ヘリの左の目のやや下。頬骨あたりに、あざが出来ていた。

「その怪我はどうした?」

少なからず驚いて聞くイヌに、ヘリは気まずそうな顔をした。

「仕事で」

「仕事だって?検察庁のデスクの角にぶつけたとか言わないよな?」

冗談のつもりで言ったイヌだったが、ヘリは
「当たらずとも遠からずってところね」と、ますます気まずそうな顔をした。

「でも、デスクじゃないの。外で、取り調べ中に逃走した強盗容疑の被疑者を追いかけてた時に、転んじゃったの」

転んじゃった。と、軽い感じに。
まるで、鬼ごっこしていて、転んじゃった。と言っているようなヘリに、
イヌは、自分が転んでアザをつくったかのように顔をしかめた。

「どうやったら、転んで、そんなところにアザが出来るんだ?」

「前を走ってる被疑者を追うのに夢中になってたのよ。それで、下に落ちてたラックにつまずきそうになってね。ぽんっとかっこよく飛び越えたつもりだったんだけど、バランスを崩して、横にとび出ていた材木に顔をぶつけちゃったってわけ。でも、被疑者はちゃんと捕まえたんだから」

すごいでしょ。と言わんばかりに胸をはっているヘリに、イヌは、かける言葉が無かった。

…転んでできたもので良かった。
犯人と格闘して、殴られたものではなくて…。

ふうっと短いため息をつくと、ヘリを手招きして、自分の横に座らせた。

「そのアザをよく見せて」

「んー…」

ヘリの顎を手でとらえ、くいっと角度をかえると、
イヌは、至近距離から、まじまじとヘリの顔のアザを見つめた。

「結構、強く打ったな。明日には、結構目立つ青あざになるぞ」

「分かってるわ。でも、名誉の怪我でしょ?」

「威張って言うことか。こんなのは不名誉の負傷って言うんだ。
君は目の前の事に夢中になると周りが見えなくなる。自分の欠点を大きく晒しているようなものだぞ」

説教口調で諭すイヌに、ヘリは、唇を尖らせ、拗ねた素振りで目線をはずした。

「…ほら。だから、あなたに知られたくなかったのよ」

「なんだって?」

「だって、絶対嫌味か説教を言うと思って」

「その通り。予想が的中して良かったな」

そして、ソファの前のローテーブルの上に置かれていた物を手にとった。

「それで、これで、なんとかアザを薄くしてから、僕のところに来ようとしていたわけだ」

手の中で白い卵をまわしながら、イヌは、今度は盛大なため息をついた。

「そんなすぐに治るなんて思ってないわよ。
でも、何となく、あなたに怒られるような気もして、足が遠のいたっていうか…」

言い訳めいた事を口ごもるヘリの顔にイヌは、卵をあてた。

そして、アザの部分をそっと卵で撫でた。

「君は、本当にいつまでも優等生だな。怒られるのか怖いのか?
そんな怪我をして、被疑者を捕まえて、まさか褒めてもらえると思って無かったよな」

「思ってないけど、ちょっとくらい、見直してくれるかな、って期待はしたのよ。新人の時より、検事として成長したな。とか」

顏のアザを、イヌに卵でコロコロと撫でられて、
ヘリは、若干感じる痛みを我慢しているようだった。

ただ、しゅんとした情けない表情は、アザのせいではなく、
自らの失敗を自覚しているゆえなのだろう。

それに、こうして、イヌの反応が予測済みだったからこそ、
アザのある顔でイヌの部屋に来るのに二の足を踏んでいたヘリ。

おそらく、検察庁でもさんざん上司に言われた内容に違いない。

イヌには、ヘリの期待している慰める気持ちも褒める言葉も無かった。

「被疑者を追いかけるのが、検事の仕事なのか?捜査官も一緒に同行していたのだろう?」

「捜査官もいたけど、私の方が被疑者に近かったから。
あなたが私の立場でもそうしたでしょ?」

「僕が検事だったら、捕り物劇に首をつっこまなかったよ。
ああ、君の場合は、顔か」

素っ気なく答えながら、イヌは、ヘリのアザの上に卵を転がし続けた。

「潜入捜査の時のように、つっぱしって危ない真似をするのは新人の頃から変わってないな」

「ちょっと、イヌ」

自分の非を認めて、うつむきかげんで素直にイヌの言葉を聞いていたヘリだったが、
潜入捜査という言葉で、顔を上げた。

「潜入捜査って、あの賭博事件のことを言っているのよね?
あれって、あなたが紹介した仕事じゃない」

「君が紹介しろって言ったからな。だから、お膳立てしたけど、失敗したのは僕のせいか?」

「違うけど…」

ボソボソとヘリが口ごもった。

「あの時もこんなアザをつくっていたよな」

イヌが、ヘリのアザを卵で撫でていた手を止めた。

そして、卵をテーブルの上のそっと置くと、
代わりに自分の手で、直にヘリの頬に触れた。

「あんなにボロボロになったのは、生まれて初めてだったわ。
私の姿を見たママとパパがすごくびっくりして…」

懐かしそうな顔をしながら、ヘリがクスクスと思い出し笑いをした。

「今となっては、なつかしい思い出ね」

「無事だったから、今、なつかしいなんて言えるんだ」

イヌが、ヘリにつられて、微笑した。
しかし、すぐに真面目な顔で、ヘリをじっと見つめた。

「…あの時、君を見失った僕が、どんな思いで探したか」

嫌味も呆れも消したイヌに、ヘリが、目をみはった。

「探してくれていたの?」

ヘリの問いには答えずに、イヌは指で、ヘリの頬のアザを優しく撫でた。

「あの後、君にあんな危ない真似をさせた事を後悔してた」

あんなアザをつくらせてしまったことも。

だけど、次の日、会ったヘリは、そんな事は何でもないように、
ケロリとしていた。クビにならなかった事が嬉しかったようだった。

しかも、あんなに危険な目にあったのに、ヘリは、イヌの事を責めなかった。

怪我さえ、何でもないように笑みを浮かべて、報告するヘリに、ほっとしながらも、
その純真さに、心が痛んだ。

まっすぐで体当たり。


ヘリの性格を知り尽くしたつもりでいたけれど、
自分の決めた事に真面目に一生懸命取り組む姿に感銘さえ覚えていた。

ヘリの為に、紹介した潜入捜査ではあったが、
ヘリを検察庁で働かせ続ける為に、自分にとっても必要だった事でもあった。

それでも、ヘリを危ない目に合わせた自分を責めた。


「今でも後悔してる」

イヌの言葉に、ヘリはますます目を見開いた。

「…もしかして、今も?」

ヘリが聞いた。

「呆れてるんじゃなくて、今も心配してくれたの?」

「呆れてもいる。でも、それがマ・ヘリだから、とも分かってる。
でも無茶はしないでくれ。じゃないと…」

イヌが、ヘリの顔に、自らの顔を近づけた。

「こっちの身がもたない」

少し開いた唇を、ヘリの頬にのせたイヌは、
チロリと出した舌をアザの上にのせた。

「ふっ…」

ヘリが、目を閉じて、身をすくめた。

「イヌ、何やってるの?」

「アザには、こっちの方がききそうだ」

イヌが、ヘリのアザの上に舌を這わせていた。

「アメリカでは、アザにこうするの?」

くすぐったそうに、身をよじりながらも、ヘリが真面目に聞いた。

「さあな」

…そんなものはない。これはソ・イヌ式だよ。

そう心の中で答えながら、イヌは、ヘリのアザ以外の場所にも
ゆっくりと唇を這わせた。

「早く治るように、まじないみたいなものだ」

「ふーん。卵より効くかしら」

イヌの言葉を真に受けている様子のヘリは、
照れて居心地が悪そうにしながらも、核心は感じとっていた。


「…ありがとう」

ヘリが言った。

「イヌは、怪我をしたこと、本気で心配してくれるって分かってた」


…分かってるなら、やるな。もう心配かけるな。と念を押しても、
マ・ヘリには無理な事は承知している。だけど…。

ヘリの謝礼をイヌは黙って聞いていた。

そして、ヘリの頬から離した唇で、ヘリの口を塞いだ。

「そこに、アザはつくってないわよ」

キスの後、目を開けたイヌの前に、はにかんだヘリの笑顔があった。

守りたいもの。

…もう二度と、あの潜入捜査の時のようなヘマはしない。
これからは、ずっとその笑顔を守りたいから。

…その証だ。


心の中とは、裏腹に、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべたイヌは、

「卵とどっちがいい?」

そんな事を口にすると、
目を閉じ、再び、ヘリの唇にキスを落していった。



(終わり)



全タイトルは、

「青は藍より出でて」をもじって。
「青あざは愛より出でて、卵より口づけ」って、もうわけが分かりませんね(笑)

この前の雑記の「卵妄想」が、膨らんで、小説に書き下ろしました。
イヌに、アザに卵コロコロ。
…別の場所もコロコロする、という、裏箱版妄想もあったけど、
またいつかね。←書くのかな?(笑)

本当に、アザに卵が効くかどうか別にして。
妄想と願望が入り混じって、久しぶりに短編を一気書きして楽しかった♪
今回はイヌ視点でしたけど。ドラマ中のイヌ。
本当にヘリを潜入捜査で危ない目に合わせたこと、
後悔してましたよね。
ヘリ視点は、裏箱版はか、夢小説かな~。←やっぱり書くのかな?(笑)

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何を今さら、な~。

「検事プリンセス」ドラマの中で気になっていた場面を抜き出して、
ちょこっと雑記。

韓国ドラマを見慣れている方や、文化に詳しい方。
検事プリンセスファンの方も、もうとっくに知っているはずな話♪。

ドラマ4話。

ヘリが潜入捜査でへまをして、顔に青あざが出来るんですよね。
翌日、イヌから、現場に落とした靴やらなぜか卵をもらう。

ところで、このブログの、どっか埋もれてる記事で(笑)
4話の中でノーカット版のDVDでもカットされたシーンの事を書いたのですが・・・。

あ~。あった。あった。これ、これ。←

…このころ、やってた仕事も、いつか趣味でも創作できたら…。
…おいおい、ファンになって浅いゆえの怖いもの知らずみたいな事が書いてるぞ。

と、昔記事の感傷とか反省部分は、置いといて(汗)


カットシーン。

イヌとベンチで待ち合わせする前。
潜入捜査から帰ってきた夜に、家の門の前でイヌと話すシーン。

このシーンがカットされていると、潜入捜査以降初めて会うのに、
「どうして、あざが出来ていることを知ってたの?」と、
ますます、イヌの『超能力者』ぶりを不思議にヘリが思っちゃうように見えますね。

でも、もし、4話の幻のカットシーンがあったとしたら、
ヘリにとって、『優しくて気がきく男』の印象に。

どっちにしても、親切すぎて胡散臭い男。イヌ(笑)

ところで、この後、

検察庁で、自分の顔のあざに、イヌからもらった卵でコロコロマッサージしているヘリのシーンがあります。

これ、初めて見た時。

痛そう。ヘリ、何やってるの?
よけい、アザがひろがりそう、とか思った、みつば。

でも、このアザに卵コロコロ。
韓国では、不思議じゃないことらしい。

このシーンを変に思いながら、スルーしていたのですが、
ある時、別の韓国ドラマを見て、ヘリみたいな事をしている人がいたので、
今さら気づいたみつば。←遅すぎる。

しかも、みつばは、ずっと、あの卵は、
ヘリとイヌが一緒にサウナに行った時のゆで卵だと思っていた。さすがに違うよね。腐ってるって。

みつばは、腐った卵でもいいから、イヌに卵で顔をころころされたいな♪♪♪←妄想が腐ってる(笑)


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テーマ:韓国ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「 Halloween Night(後編)」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
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Halloween Night(後編)



恐喝をしている男達は、
イヌが近づいてくることに気付いていなかった。

「携帯電話をよこせ」

「嫌だ」

「往生際の悪い奴だな。少し痛い目みるか?」

そう言って、目の前の男に向けられた拳は、
振り下ろされる前に、割り込んできた者の手で止められた。

「やめろ」

怯えた男も、男を取り囲んだ者たちも、一斉に声を発した人物を仰いだ。

「やめておけ」

割り込んできた人物、
ソ・イヌが、もう一度言って、冷静に周囲の人物を見渡した。

殴られる寸前だった男は、フランケンシュタインの仮装をしていた。

衣装もそれらしい物を着て、顔の血糊やメイクも精巧に施され、恐ろしく不気味に見えた。
…中身の男が半ベソをかいて震えていなければ。

対して、そんな怪物メイクの男を取り囲んでいる3人は、
可愛いアニメキャラクターの面をつけていた。

一見、この3人が

『ぼくたち、悪い奴をやっつけてるんだ』的な光景だったが、先ほどから聞こえた会話と雰囲気から察するに、この場の被害者は、怪物男の方のようだ。

脅され、金品を取られようとしている。
しかも、顔見知りではなく、酒に酔った3人の場当たり的な犯行なのだろう。

イヌは素早い状況判断の後、この犯行現場に介入する事にした。

「なんだ、お前っ」

手を上げていた者は、イヌの毅然とした態度に気圧されながら、
あせったようにイヌに掴まれていた腕を振り払った。

座り込んでいた怪物男は、立ち上がると、イヌにすがりついた。

「助けてくれ。この人達に財布を盗られたんだ」

「この怪物男が、陳腐な格好だ、と、俺らをからかって笑ったんだよ。じゃあ、仮装代を貸せと言っただけだ」

リボンをつけた“美少女”が太い声で反論した。

酒に酔っているとはいえ、自分達のしている事に自覚はあるのだろう。

しかし、常習的な物ではなく、嘲笑された怒りからの突発的な犯行だと主張した。

「多勢に無勢に見えるかもしれないが、さっきまでこいつの他にあと二人男がいたんだよ」

クリクリ目玉のヒヨコが言った。

「言い合いになったら、分が悪いと見てか、こいつを置いて逃げていった。人望の無いヤツだな。あ、怪物だから人望は無いか」

ハハハハと笑う3人を、イヌの背中から精いっぱい去勢を張ったフランケンシュタインが睨み付けた。

「あんたらが、危害を加えようとするからだ。この乱暴者」

「なんだと、先に難癖をつけてきたのは、お前らのくせに」

フランシュタインの言葉に、可愛い妖精たちがいきりたって、再び殴りかかろうとした。

「よせ」

3人を抑えこむように、イヌが間に入り、
背丈がイヌと似たフランケンシュタインは、また、横顔に触れるくらい、イヌの体にしがみついた。

もみ合った状態で、そんな男をチラリと横目で見ながら、
イヌは目の前の3人に言った。

「理由はどうあれ、君たちのしたことは強盗だ。
今なら酔った上での過失になるが、これ以上やれば、留置場で頭が冷える頃には後悔することになるぞ」

イヌの静かな声と佇まいが、不穏な空気を沈静化していった。
イヌの言葉に、3人が我に返ったように振り返り、周囲に目を走らせた。

いつのまにかイヌ以外にも、足を止め、少し離れた場所からこちらの様子を伺っている見物人たちが増えている。

3人が、気まずそうに顔を見合わせた、その時、
見物人たちの中から、制服姿の警察官が3人出てきた。

後ろに、吸血鬼と狼男の仮装をした男たちを引き連れている。

「恐喝されている友人というのは、彼のことか?」

警官がイヌの方を指差しながら吸血鬼に聞いた。

「いえ。その後ろの仮装した男です。
それで、あの3人が、俺らを恐喝しようとしていたやつらです」

逃げたといっていた、フランケンシュタインの仲間が警官を連れて
戻ってきたようだった。

「おい。おまわりさん。俺らの言い分も聞いてくれよ」

焦ったように、口ぐちに喚きだす3人を、警官たちがなだめた。

「わかった。話は、落ち着いて聞くから。
まず、彼から盗った物を出しなさい」

…もう、大丈夫だろう。そろそろ行かなければ。
ヘリとの待ち合わせに遅れてしまう。

イヌが、ふっとため息をついて、その場を離れようとした時、
「君」と呼び止める声がした。

声のした方を見ると、顔を半分仮面で隠した男性が、イヌの前に立っていた。

仮面の男は自分の頬に指をやった。

「顔のこのあたりに、血がついているよ」

「そうですか?教えて下さってありがとうございます」

イヌは自分の頬に手をあてて見た。
指にかすかに朱色がついた。しかし、よく見ると、血ではなく絵具だった。
おそらく、フランケンシュタインの仮装をしていた男が顔につけていたものだろう。

「さっき、あの人たちともみあった時についたのかもしれないね」

そう言って、仮面の男性が、イヌの手に何かを握らせた。

「これは?」

不思議そうに、手のものと仮面の男性の顔を見比べたイヌに、
男は「あげるよ。使いなさい」と言った。

男がイヌに渡したものは、男がしているのと同じ仮面と、ハンカチのようだった。

「いえ、大丈夫ですから」

遠慮して返そうとしたイヌに、「受け取って」と言う声がした。

仮面の男の側に、やはり半分顔を隠した面をした女性が立っている。
どうやら、仮面の男の連れのようだった。

「私達、上から、あなたをずっと見ていたのよ」

女性が言った。

「え?」

きょとんとしたイヌに、「さっきの騒動をね。高いところから見えていたんだよ」と仮面の男が、女の言葉をフォローするように言った。

「ああいう所に行って、人を助けることは、とても勇気のいることだ。いいことをしたね」

仮面の男はそう言うと、イヌの肩を手でぽんっと優しく叩いた。

…この感じ。どこかで…。

不思議な懐かしさを覚えたイヌがボンヤリとしていると、
仮面の男女は、にっこりと笑った。そして、

「元気で。楽しいハロウィンの夜を」

そう言い残して、仮面の男女は連れだって、イヌから背を向けた。

「まって」

イヌがあわてて呼びとめたが、仮面の男女の姿は、
多くなっていた野次馬の中に入って、見えなくなった。

人だかりを見つめて、立ち尽くしていたイヌの意識を警官の声が戻させた。

「ところで、君は、誰だ?この6人との関係は?」

不審そうにイヌを見つめる警官。

イヌが釈明しようと口を開きかけた時、「彼の身元は私が保障しよう」と
警官の前に立った白熊の着ぐるみが言った。

唖然とした警官の前で、着ぐるみの頭をとった中年の男は、イヌも顔見知りの刑事だった。

「ミン刑事」

「彼は、ソ・イヌ。弁護士だ。昔から私も知っている人だよ。
この騒動には通りすがりで仲裁に入っただけだ。彼らも、野次馬で見ていた人も言っている。彼は関係ないから、もう帰してあげてくれ」

「わかりました。御苦労様です」

警官は、ミン刑事に敬礼すると、持ち場に戻っていった。

向かい合ったイヌとミン刑事は改めて挨拶を交わした。

「ミン刑事は、今日はその姿でお仕事を?」

「いやいや。今日は、非番でね。仮装パレードに家族と参加する前に、カフェでお茶を飲んでいたら、あの騒ぎが見えてね。まずそうな雰囲気になったから、出てみたら、彼らの仲間が連れてきた警官や、通報で来た者と一緒になったんだよ」

ミン刑事が白熊の着ぐるみでかいた汗をハンカチでぬぐいながら言った。

「ソ・イヌ君は、仕事だったのか?」

「はい。でも、もう終えて、これから仮装パレードに行く途中でした」

ミン刑事は、イヌが手に持っていた物に目を落した。

「仮面か。そういえば、君のお父上も、昔、仮装パレートに参加されていた時、そんな仮面をつけていたな」

「え?」

イヌはハッとなって、ミン刑事を見つめた。
昔、イヌが韓国にいた頃、近所に住んでいたミン刑事は、
父、ソ・ドングンのことをよく知っていた。

ミン刑事の言っているパレードの話は、ドングンがイヌを誘った時のことだろう。

「父は、その時、母と一緒に参加したはずなんですが、
二人がなんの仮装をしていたかご存じですか?」

うーん…と唸りながら、ミン刑事は思い出そうとするように、
首をひねった。

「たしか、二人の好きな物語のヒロインと主人公と言っていたような…。
二人とも仮面をしていたことは覚えているんだが、忘れてしまったよ。
すまない。最近物忘れが激しくて」

「いえ、いいんです。もう、かなり前のことですから」

イヌでさえ、大切な両親との記憶を全部はっきりとは覚えていない。

微笑するイヌに、ミン刑事は、感慨深い顔になった。

「そうか…」

「じゃあ、僕はこれで」

イヌがミン刑事に軽い会釈をして、立ち去ろうとするのを、
「イヌ君」とミン刑事が呼びとめた。

「さっきの喧嘩。目撃者は大勢いたのに、見て見ぬふりをしている者が多かった。
だが、君は違った。君のふるまいは、まるで、君のお父上のようだったよ」

足を止め、ミン刑事を驚いた目で見つめるイヌに、ミン刑事は優しく笑いかけて続けた。

「ソ・ドングンさんは、人助けを苦にしない、いい人だった」

労わるような口調のミン刑事に、返す言葉が見つからないまま、
イヌは、もう1度丁寧にお辞儀すると、ヘリとの待ち合わせ場所に急いだ。

そして、ヘリとの待ち合わせ時間の少し前に到着出来たイヌだったが、
ヘリの方が先に着いていた。

仮装をしていても、イヌには、すぐにヘリが分かった。

ヘリの方も、イヌに気付いて、同じような待ち合わせの人ごみの中から
「イヌっ」と大声で呼び、手を振ってぴょんぴょんはねていた。

「時間通りね」

嬉しそうなヘリの姿を、近づきながらイヌはじっと眺めた。

「それは、何の仮装だ?」

「なんだと思う?あててみて」

子供のようにはしゃいで、くるくる回ってみせるヘリが着ているのは、
フワリと裾の広がったドレスだった。

カールをまいた髪の毛を、綺麗に結っている。

「おとぎの国のプリンセスの類に見えるな」

「さっすが、イヌ。わかっちゃった?“美女と野獣”に出てくる美女、ベルなの」

「すごいな。ずいぶんと、気合がはいった衣装と仮装だ」

イヌの褒め言葉に、ヘリが、ますますはしゃいだ様子で、クルリと回ってみせた。

「そうでしょ?昼のパレードには、『オズの魔法使い』に出てくる“よき魔女、グリンダ”の仮装をしたんだけど、そっちもかなり好評だったのよ」

完成度はかなり高かったが。
ヘリが電話で言っていたような“セクシー”さは無い衣装だった。

イヌは、内心で軽い安堵のため息を漏らした。

そんなイヌの顔をヘリは、フッと動きを止めて、まじまじと見つめた。

「イヌは、何の仮装なの?」

「僕は、何の仮装もしていないよ」

「でも、顔のところに赤いペイントをつけてるじゃない。
それに、手に持っている仮面と、それは、なあに?」

「ああ、これはー…」

イヌは、仮面の男からもらって、無意識に手にしていたハンカチを広げた。

そして、その柄を見て、ハッと息をのんだ。

コウモリとカボチャの模様。

17年前に父、ドングンが、イヌに買ってきたものとそっくりだった。

…これは・・・。

『いいことをしたね』

そう言って、イヌの肩をたたいた仮面の男。

子供のころのイヌが、何か良い事をした時に、
父が褒めてくれる時もそんな風だった・・・。

そんな事を思い出したイヌに、忘れていた記憶が蘇った。

父と母。二人が好きで、
結婚前、舞台や映画を一緒に見に行ったと聞いたこともあった物語。

あの日のハロウィンパレードで、もしかしたら、両親は、仮面をかぶって、
その仮装をしたんじゃないだろうか。

…まさか、さっきの二人は・・・。

イヌは、とっさに、周囲を見渡した。

仮装をして、パレードの開始を待つ群衆。

イヌは、その中に、
先ほど会った仮面の男女の姿を、両親の面影を重ねて探した。

「イヌ?」

不思議そうなヘリの眼差しと呼びかけに、イヌは、ようやく視線を戻した。

父と母のわけがない。
これは、単なる偶然。

そう頭では分かっていても、
あの日の両親が会いに来てくれたように思えて、
イヌは手の中の仮面とハンカチを握りしめた。

…ハロウィンは、元々、亡くなった親しい人を悼む行事でもあったと聞く。
もしかしたら、あれは、あの日の父さんと母さんだったのかもしれない。

イヌは、目の前で、自分を見守るように立っているヘリの方を向いて、
仮面を顔に装着した。

「これで、君のエスコートをするよ」

「じゃあ、これは…」

ヘリがイヌの手のハンカチを取って、少し思案した後、
イヌの首にスカーフのように巻いて結んだ。

「うん。素敵よ。イヌ」

満足げにヘリがうなずいた。

「ただ、これって、美女と野獣の、野獣じゃなくて、
『オペラ座の怪人』のファントムみたいに見えるけど?」

「一緒だろ」

「どこが?」

首をかしげたヘリの手をイヌがとった。

パレードの開始を知らせる音が、聞こえる。

「野獣も、ファントムも、愛に飢えた孤独な男だっていうところがさ」

「でも、イヌ」

ヘリが言った。

「あなたには、私がいるわ」

イヌの見下ろした先。

ヘリの優しい眼差しが、懐かしい、あの日の夜に誘っている。

「そうだな」

手をつなぎ、
ぎゅっと、握りしめたヘリの手が、イヌの心を温めた。

あの日、父母と一緒に行けば良かった。
ハロウィンが来るたびに味わった、そんな後悔の念が消えていく。

…父さん。母さん。

イヌは、黙とうを捧げるように閉じていた目を開け、
ヘリを見つめた。

「行こうか。ヘリ」

「ええ、行きましょう。イヌ」

にっこり笑ったヘリに、イヌも微笑み返して、足を踏み出した。

日没前の薄闇に、
チロチロと明滅し揺らめく、カボチャのランタンの灯り。

ぞろぞろと、百鬼夜行のようなハロウィンの仮装行列。

あの世のものと、この世のもの。
過去と未来。
暗闇と光の狭間で。

仲良く連れだって歩くイヌとヘリの姿は、

やがて、幻想的な夜へと続く道に、
ゆっくりと、溶け込むように消えていった。


(終わり)





入院中から細々と携帯電話で書いてたのですが、
なかなか構成が進まないので、パソコンにデータを移して後編書き直しました。

今のところ、「検事プリンセス」の二次小説は、短編含めると、最も未来の話は「イヌの誕生日2014年」だとして、このハロウィン話は、2012年の10月話なので、シリーズでは一番先の話に、なります。

あまりシリーズ話の核心に触れていないところなので、アップしました♪
でも、感のいい読者さんは、何かに気付いちゃうかも?

後編に出てきたミン刑事は、ドラマ中12話に出てきた刑事さんです。
ミン刑事は、「聖夜の祈り」後、更新予定の、みつばのたまて箱史上一番シリアスシリーズ長編話にも登場予定です。

誤字、脱字、リンク間違い等の指摘は、コメント欄(小説INDEX)か、拍手コメントから
お願いします。

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修正報告ばかりで、ごめんなさい。

でも、「検事プリンセス」二次小説INDEXのリンク、かなり間違ってたみたいなので、
取り急ぎ修正しました。
「キング」の方は大丈夫だったみたい。

教えて下さった方、ありがとうございます。
他にもリンク間違い等、気づいたら、教えて下さい。

誤字の方は、まじめに間違えている場合、
脱字の方は、うっかり間違えている場合が多いみつばです。

後で、読み返した自分の小説で、それらがなかった事がない。

学生時代の作文や論文で先生から、
イラスト漫画仕事で担当さんから、よく注意されたのは、

内容より、絵より



書き文字の汚さと、誤字。


&うっかりミス。



せめて、ネットが書き文字じゃなくてよかった♪


↑大文字にして威張って言えることじゃない(汗)


そろそろ真面目に国語と字を勉強しようと思うみつばです。

(かなり)遅くなりましたが、「Halloween Night」の後編。
構成済み次第、近々アップします♪


何か、またミスを見つけたら、全国で恥をさらす前に、遠慮なく教えてください♪

↑教えてもらえるころには、かなり恥さらしてますが。



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小説の誤字脱字は、いつものことなんですが、先日アップした検事プリンセスの二次小説「Happy New Year 」。
読み返してみたら、文章が変なことがどうしても気になって、
修正しました。大がかりに変えられなかったので、おかしい箇所のみ
ちょこっちょこっと。

以前は、1話完結の短編は一気に書き上げていたのだけど、
今は、短編なのに、細切れに書いた文章を、後でつなげて構成しているので、
しっかり読み返して編集しないと、こんなおかしなことになっちゃうのね(汗)

物語や展開的には全く関係ないけど、
再度読んでくれた人が「あれ?」って思うかもしれないと、ご報告まで。

追伸:ご訪問、拍手、拍手コメント、新年のご挨拶、ありがとうございます♪
今年も「検事プリンセス」、ノーカット版が、どこかで放送するのかな?
でも、みつばは有料チャンネルだったら見られないから残念。←見られるならDVD持ってるけど見たい(笑)

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「Happy New Year 」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、まだ現在(2015年1月3日)未完成「聖夜の祈り」より未来の短編話になります。
時間軸では、2011年12月~2012年1月のお話





Happy New Year



12月31日。

今年もあと少しで終わるという夜。

ヘリは実家の部屋で、イヌと電話で会話していた。

「もうすぐ今年も終わるな」

珍しくしみじみと言うイヌに、ヘリも、感慨深い思いになって頷いた。

「そうね。今年もいろいろな事があったわ」


今年の1月になった時には、考えられなかった事がいっぱいあった。

二人の再会。

そして一緒にいた濃密な日々が思い出された。

記念日を共に過ごした時も多かった。

ついこの間も、クリスマスをアメリカで一緒に過ごした二人だったが、
今、側にいないという事が寂しい。

ヘリは、自分が腰かけていたベッドの脇にチラリと意識を向け、
イヌに聞えないように静かなため息をもらした。

そして、ふっきるように明るい声を出した。

「映像で見たことがあるけど、ニューヨークの年越しのカウントダウンは、すごいわよね。
もしかして、あなたもこれから外で新年を迎えるのかしら?」

『外にはいるけど、ニューヨークの街中じゃないよ』

「そうなの?じゃあ、今どこにいるの?」

イヌが微かに笑った。

『韓国の空港』

「ええっ?」

思わず耳を疑ったヘリが、ベッドから腰を浮かした。

「いつアメリカから帰ってきたの?」

クリスマスの休暇の後、ヘリが先に一人で韓国に帰り、
まだ用事の残っていたイヌはアメリカに残っていた。

予想通りのヘリの驚いた反応に、イヌは嬉しそうだった。

「だから、今さっき、飛行機で着いたんだよ。びっくりした?」

「したわよ。私、てっきり、あなたは年始をお父さんとアメリカで迎えるものだと思ってたから。
でも、どうして?韓国の仕事で急ぎのものがあったの?それとも、私に早く会いたかったとか?」

最後はからかい半分で聞いたヘリだったが、
意外に、イヌは、「仕事以外の理由の方だな」と軽く返してきた。

「ヘリは今実家か?」

「ええ」

「そうか。これから家を出てこられるか?」

「これから?」

ヘリは、あわてて時計を見た。
パン屋の仕事で、朝も早くに出勤する両親は、もう寝ている時間だ。

書き置きをして、このまま、そっと実家を出て、マンションの自室に戻っても、
二人に咎められることは無いだろう。

ヘリはもう大人で、公認の仲のイヌが理由なら・・・多分。

そんな事を考え、パジャマ姿の自分を見下ろした後、
ヘリは「少し時間をもらえるなら」と答えた。

「帰ってすぐに会いに来てくれるのは嬉しいけど、
これからマンションまで送ってくれるの?」

「君が望むなら、後でまた実家に送り帰してあげるよ」

謎めいたイヌの言葉に、ヘリは、ますます首をかしげた。

「これから、どこかに行くの?」

「忘れたのか?今日は何日だ?」

ヘリの問いかけに質問してきたイヌに、ヘリは素直に「12月31日」と答えた。

「そう、あとわずかで新年だ」

イヌが頷いた。

「遠出になるけど、これからドライブすれば、初日の出が綺麗に見える場所に間に合うだろう」

「あ…」

ヘリは、ようやくイヌの意図を理解した。

「初日の出を見にいくのね?」

「行きたくない?」

「ううん。行きたいわ!すっごく行きたいっ」

興奮したヘリが、大きな声を出した後、
別室に眠る両親を思い出し、ハッとして音量を下げた。

「待っていればいいのね?」」

「今から車で、君の家までむかえにいく。1時間くらいかかるが、着いたら電話するよ」

「分かったわ」

短い応答で、イヌとの電話を終えたヘリは、
すぐに支度にとりかかった。

さっきまで、遠い国にいるはずの恋人を思いながら、
就寝しようとしていた雰囲気が一変した。

ベッドから立ち上がり、あたふたとクローゼットを開けて着替え、
鏡の前で薄い化粧を施すと、両親あての手紙を書いた。

“イヌが帰ってきたから、出迎えに行ってきます”

簡単な文章だったが、両親への説明なら、これで十分だろう。

もしかすると、父サンテは、渋い顔をするかもしれないが、
娘の、好きな人と少しでも離れたくない、という気持ちを分かってくれるはず。

厚い外出着も着込んで、準備を終えたヘリは、
そわそわしながら、携帯電話を持って、イヌの連絡を待った。

そして、小さな音で着信した電話を、勢いよく耳にあて、
1階で眠っている両親を気遣い、足音を忍ばせながら、玄関を出た。

門の前に停まった、見知ったイヌの車の姿を認めると、ヘリは、
駆け足で、向かった。

それから、助手席のドアを開け、飛び込むようにヘリはイヌの車に入った。

冷たい外気を遮断した、イヌの車の暖気がヘリを包み込み、
同時に、運転席に座った恋人の優しい眼差しにヘリが温められた。

品の良いデザインの黒いコートを羽織っていたが、
その下には、ヘリがアメリカで贈った“クリスマスプレゼント”が見えている。

「おかえりなさい、イヌ」

「ただいま。ひさしぶりだな」

ドキドキと、ときめいている胸の鼓動をごまかすように、ヘリがすました顔をした。

「ええ、ひさしぶりね」

「ご両親には、家を出てくることを伝えてある?」

「寝ているから書き置きを残してきたわ」

「では、行くよ」

ヘリがシートベルトをしめたのを見届けると、
イヌはウィンカーを出し、車を発進させた。

イヌの車が高速道路に入って、しばらくすると、新年へのカウントダウンが始まった。

ヘリは、時計の針を見ながら、「10、9、8・・・」と声に出して言った。

「6、5、4…」

ヘリのカウントダウンにイヌも声を重ねた。


「3、2、1…。Happy New Year。ヘリ」

「新年、おめでとう。イヌ」

明るい声で言い合って、イヌとヘリはチラリと視線を合わせた。

「あなたが車の運転中で無ければ、
抱き合って、キスするところよね」

悪戯っぽく言うヘリにイヌが笑った。

「アメリカに来てから、結構大胆になったんじゃないか?」

「そんなことないわ。マ・ヘリは、元々、自分に正直に生きてるのよ。
今年も、きっとそうするわ」

「そうだな」

イヌが頷いた。

「僕のいない間、こっちで何か変わったことは?」

「休日までは仕事が忙しかったけど、他は特にないわ。
あなたの方のアメリカでの用事も終わったの?」

「ああ。だから、予定より早く帰ってきた」

「でも、ニューヨークの新年のカウントダウンに参加しなくて良かったの?」

NYの新年のカウントダウンは、ヘリにとって、かなり魅力的なイベントのように思えた。
しかし、イヌは、もう慣れているのか、それとも別段関心がないのか、「いいんだ」とサラリと答えた。

「今年はここで、君とカウントダウン出来たからね」

ニヤリと笑うイヌに、ヘリが失笑した。

「もう。あなたこそ、アメリカに帰って、口の上手さを磨いてきたんじゃない?」

そう、はしゃいでいたヘリだったが、
アメリカという言葉で冷静さを取り戻して、あわててイヌの方を見やった。

「さっき、飛行機で帰ってきたばかりなのに、
疲れているでしょう?運転をかわるわ」

ヘリの気遣いにイヌが頬を緩めた。

「後でかわってもらうよ。君の方こそ、少し眠ったら?
もう就寝前だったんだろう?急な計画で悪かったな」

「急な計画って、これってサプライズじゃなかったの?
だって、初日の出を見に行くって、私の33のリストの1つだって知ってたでしょ?
計画していたのなら、アメリカにいた時に言ってくれれば良かったのに」

ヘリの“恋人としたい33のリスト”

ヘリ自身も忘れていたが、初日の出を好きな人と一緒に見にいくのは、
毎年、この時期夢みていたことだった。

「できれば遂行したいとは思っていたけど、
アメリカにいた時点では、帰国が間に合うか分からなかったから、約束できなかったんだよ」

「あなたも、こっちで初日の出を見たかったの?」

「君と一緒にね」

イヌが、前を向いたまま答えた。

さっきと同じように、からかっているような言葉だったが、
イヌの柔らかな表情で、
ヘリは、イヌが、本心から言っていることを悟った。

「そう」

むずむずするような嬉しさと、照れくささで、ヘリは、ニンマリと笑みを浮かべた。

直視こそしていなかったが、イヌも、隣のへりのそんな気配を察して、
口元に笑みを浮かべてた。

それから、

甘くて暖かい空気に満ちた車内で、心地よくなったヘリは、
いつのまにか眠ってしまったようだった。

がくんっと項垂れた自分の頭の振動で、はっと覚醒したヘリは、
目の前の景色が、かなり変わっていることに気付いた。

暗い空に陽光の薄明かりが入り、
白々と夜が明けてきている。

背筋をのばして、窓の外に顔を向けたヘリにイヌが気づいた。

「目的地まで、もうすぐだ。
今ちょうど近くのコンビニの駐車場に停まったところだけど、
君も化粧室に行くなら降りるか?」

「ええ」

ヘリとイヌは、車から出てコンビニに入った。

そして化粧室から出た後、
温かい飲み物を買って、コンビニのイートインスペースに並んで座った。

「ごめんなさい。運転をかわるって言ってたのに、
すっかり寝ちゃったみたい。ずっと運転してたの?」

「いや、一回、高速のパーキングで休憩したよ。
ただ、君は熟睡していたようだから起こさなかった。
起こしたら、深夜2時までに眠らないと肌が荒れるって怒りそうだったからな」

憎まれ口を叩いてはいるが、ヘリの事を気遣った様子のイヌに
ヘリは「ありがと」と素直に礼を言った。

外の景色を眺めながら、熱いコーヒーを口にした二人は、
同時に、ほぅっと息をついた。

外は元より、暖房のきいたコンビニの中でも
体にこたえるような真冬の冷気だった。

「あと、どれくらいで日の出かしら?」

「日の出まであと1時間ってところだな」

イヌが自分の腕時計に目をおとして言った。

「もう、空は結構明るくなっているのに、太陽は出て無いのよね。
なんだか不思議」

「日の出を見るのは初めてか?」

「いいえ。試験勉強で朝まで起きてた時に何度も見てるけど、
恋人と初日の出を見るのは初めて」

ヘリはチラリとイヌの顔を見た。

いつものように、“あなたは?”と聞いているような
ヘリの眼差しにイヌが薄く笑うと、空になった紙のコーヒーカップをゴミ箱に捨てた。

「そろそろ行こうか。
お互い、初めて拝む初日の出のチャンスを逃してしまわないように」

「…うん!」

元気よく返事したヘリは、残りのコーヒーを一気に飲み干し、
イヌの後を追って、コンビニを出て車に向かった。

目的地は、本当にすぐだった。

海岸沿いを走るイヌの車から、海と、夜明け前の空が広がって見えた。

ほどなく、
初日の出を見るスポットとして有名な見晴の良い海辺につき、
イヌは車を停めた。

イヌとヘリと同じように、初日の出を目的に来たような人達が
地平線の向こうを見つめながら立っている。

…んん~。寒いっ。

車から出たとたん、防寒着を着ても感じる冷たい海風に、
ヘリは思わず両手で体を抱いて、身震いした。

そんなヘリの背中に、イヌがパサリと毛布をかけた。
ヘリは一瞬驚いた目を横にいたイヌに向けたが、すぐに苦笑を浮かべた。

「あなたの車のトランクって魔法の箱みたいよね。
変身グッズから毛布まで、なんでも入っているんだもの」

嫌味ではなく、感心したように言うヘリに、イヌが軽く肩をすくめて見せた。

「それも、全部、マ・ヘリの為にね」

イヌの言葉と仕草にヘリが笑うと、毛布を隣のイヌの背中の方に広げた。

「一緒に入ってよ。そのほうが暖かいから」

1枚の毛布にくるまったヘリとイヌは、
お互いの身体を暖めあうように、寄り添って、明けていく空と海の境界線をじっと見つめた。

やがて、
日の光が神々しく海の上を照らしだした。

まだ藍色の夜空が、何層にも重なった光に染められた朝焼け。

静かで、それでいて、力強い生命の息吹を感じさせるような光景。

見ていると、体が震え、まるで何か湧き出てくるような不思議な感覚。
新しい年が明けた、という実感がわいてくるような初日の出だった。

ヘリとイヌは、瞬きもせず、となりにいる恋人の存在を強く感じながら
無言でその景色に目を奪われていた。

「…あなたと一緒に見られて良かった」

ヘリが、呟くように言った。

イヌがヘリを見下ろした。

ヘリも、イヌの顔をそっと見上げた。

その瞳が、今見ていた日の出の光を宿したようにキラキラと輝いて見えた。

「…僕もだ。君と見られて良かった」

囁くように言って、イヌは、毛布ごとヘリを腕に抱き包んだ。

そして、そっと抱きしめあったあと、体を離して、
ゆっくりと顔を近づけた。

唇を重ねる前に、イヌが言った。

「今年もよろしく。マ・ヘリさん」

コクリと頷いて、ヘリは、目を閉じた。

「こちらこそ。よろしくね。ソ・イヌさん」

そう、新年の挨拶を交わした後、
まるで、誓いのキスのように、二人は、初日の出の光の前で口づけした。

これから、何が起こるのか分からない新しい年。


…それでも、二人一緒ならきっと…。


キスの後、お互いにそう同じ想いで、ヘリとイヌは、見つめ合った。

そして、まだ知らないこの先の予感に胸をはずませながら、
再び、寄り添うと、明るく昇って行く未来の光を共に見守っていった。




(終わり)




「聖夜の祈り」の後の年末、年始のお話です。
もともと短編で書く予定のプロットだったので、もう先にアップ。
何年も書けないくらいなら、未来に何があるかわからないし、
書けるものは、未来の話でも、今後は更新しちゃえっっつー、感じで(笑)

というかんじで、出来たてほやほやのイヌ×ヘリ話で、
今年も「みつばのたまて箱」をよろしくお願いします♪


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