「検事プリンセス」パラレル二次小説 シリーズ。
「愛の鎖」の続編、「背徳の双翼」です。
検事プリンセスのドラマ本編の二次小説シリーズは、
こちらから。
この話は、パラレルワールドで、イヌとヘリは兄妹という設定になっています。
今までの展開は、「
愛の鎖」シリーズで。
この小説のイメージイラストが裏箱にあります。
「裏箱」に関しての説明は
こちらから。
注意事項をよく読んでご覧くださいね。
(注意)
この話には、大人向けの表現や描写が出てきます。
自分は精神的に大人だと思える方のみお読みください。背徳の双翼漆黒の闇の中で、白い物が舞い散っていた。
イヌは、空に腕を伸ばし、それを掴み、手を開いた。
そこにあったのは、白い羽根だった。
ぼんやりと光を放っていた純白の羽根は、
イヌの手の平の中で、まるで息絶えるように、黒ずんでいき、
やがて、灰のように塵と化し、消えていった。
羽根の消えた手を握りしめたイヌは、顔を上げた。
目をこらすと、白い羽根が山のように降り積もっている場所があった。
イヌが近づくと、羽根は散り散りになって、
中にうずもれていた人物を露わにした。
衣服を何もまとっていない裸の女が、
両足を抱えて、うずくまって座っている。
その見知った姿に、イヌは瞠目した。
…ヘリ!
女がゆっくりと頭を上げた。
やはり、ヘリだった。
辺りに無数に舞っている羽根と同じくらい
白い肌が、暗闇の中に浮かび上がっている。
まるで、ヘリの純粋さが具現化したような光景に
イヌは、息を飲んで、立ち尽くした。
ヘリは、はらはらと涙を流して、
イヌをジッと見つめていた。
…どうした?
そう、声をかけたいのに、なぜか声が出ない。
イヌは、うろたえて、ヘリの方に手を伸ばした。
その手が、ヘリに届く前に、ヘリが口を開いた。
「…羽根を失くしちゃったわ」
…羽根?
ヘリが悲しそうな顔で、また涙を流した。
「もう、私は、飛ぶことが出来ない…」
…一体何を言っている?
イヌは、声の出ないもどかしさと、ヘリの謎かけのような言葉に、
あせりを感じて膝を折ると、ヘリの肩に手をかけた。
そして、ヘリの背中に目をやって、ハッとなった。
ヘリの背中から白い大きな翼が生えていた。
…鳥?いや、まるで、これは…。
白い翼があるヘリの姿は、
美術品などで、目でする“天使”と呼ばれる存在に似ていた。
しかし、ヘリの背中の肩甲骨の翼は、1つしかなかった。
片方の翼は、ほとんど羽を失って、無残にも折れ曲がっている。
非現実的な事を目の当たりにしながらも、
イヌは、ヘリのあまりにも悲壮な様子の方に心を奪われていた。
「どうして、こんなことに?」
ようやく声の出たイヌをヘリが、潤んだ瞳で見つめた。
「イヌがしたんじゃない」
「僕が?」
ヘリがコクリと頷いた。
「覚えてないの?イヌが、私の翼を折っちゃったの」
「僕が、そんなことを。どうして?」
全く身に覚えのない話に、イヌは、かぶりを振った。
「僕が、ヘリをこんな風に傷つけたりするなんて、ありえない」
…だって、僕は、ヘリの事を…。
「ええ。イヌのせいじゃない」
ヘリが言った。
「私が悪いの。私がイヌを愛しちゃったから。
これは、その罰なの。私が、イヌに翼を折られることを望んだから」
「ヘリ」
ヘリが何を言っているのか、イヌには分からなった。
ただ、体も心も傷ついているようなヘリをそのままにしておく事は出来なかった。
「分かったから、もう、泣くな。ヘリ。
翼が欲しいなら、僕が何とかしてやるから」
イヌは、そう言って、ヘリの涙に濡れた頬を指で撫でた。
「ほんと?」
「ああ」
…お前のためなら、何でもしてやる。
イヌは力強く頷いて見せると、立ち上がった。
頭では、この状況がよく呑み込めていないはずなのに、
何故か、イヌには、自分がどうすべきが分かっていた。
「僕の翼をやるから」
そう言って、イヌは、肩上から、自分の背中の方に手をまわした。
そして、手に触れたそれを掴みとると、握りしめ、勢いよく引きちぎった。
背中に灼熱のような痛みを感じたイヌだったが、
全く気にならなかった。
目を見開いて、こちらを見ているヘリに、
手の中のものをゆっくりと差し出した。
それは、周囲の空間を埋めつくす闇と同じ色をした黒い翼だった。
イヌの手の中の、鴉の濡羽のような艶やかな黒い翼を、
ヘリは茫然とした顔で見ていたが、やがて、フッと悲しそうな笑みを浮かべた。
「こんな事しても、イヌの翼は、私にはくっつかないのに」
「そうなのか?」
「そうよ。それに、一度折った翼は、もう元には戻せないのよ。
イヌも、もう前みたいに自由に飛べなくなるのに。どうして、こんな事したの?」
ヘリの問いかけ。
闇の中。
白い羽と黒い羽根が入り乱れて、舞い散っている。
意味不明の混沌とした世界の中で、
イヌは、これだけは、はっきりしていると思った。
その答えをヘリに言おうと、口を開きかけたイヌは、
体をゆすぶられるような感覚に、意識を戻した。
「イヌ…イヌ?」
目の前に、心配そうな顔で覗き込んでいるヘリがいた。
「…ヘリ」
「こんなところで寝ていると風邪をひくわよ」
ヘリが言った。
ソファのサイドテーブル上のスタンドランプがついている。
イヌはヘリの後ろのローテーブルの上にある封筒に目をやった。
…書類を見て考え事をしているうちに、ソファで眠って夢を見ていたのか。
自分のマンションの部屋。
イヌは、薄暗い空間で、まだ夜だということを認識し始めた。
今立って、自分を見ている現実のヘリは、
上半身に、白いシャツを着ていた。
寝間着替わりに、イヌが貸したシャツ。
イヌは、ゆっくりとソファの縁にもたれていた体を起こすと、
テーブルの上の封筒を手で引き寄せて、ヘリの目から隠すように小脇に抱えた。
「仕事をしていたの?」
「ああ、ちょっとな」
そう言って、イヌは立ちあがり、デスクに向かうと、
引き出しを開け、封筒を中にしまいこんだ。
そして、ヘリのところに戻ってくると、
ベッドの方に誘導するように、そっと腰を抱いた。
「灯りで起こしてしまったか?」
「ううん。トイレに行きたくて、目が覚めたの。
そしたら、ソファにイヌが寝ていたのが見えたから」
イヌは、チラリと、デスクの方に意識を向けた。
寝てしまう前、書類は全部封筒に入れていた。
ヘリの目に中身は触れてはいないだろう。
ほっと溜息をついたイヌを、ヘリは申し訳なさそうに見た。
「ごめんね。起しちゃって。
でも、ソファで座ったまま寝ていると体に良くないと思って」
「いや、起こしてくれて良かった。
さあ、まだ朝まで時間があるから、ベッドで寝よう」
そうベッドの中に促すイヌに、ヘリが複雑そうな表情になった。
「もしかして…私と一緒じゃ眠れなくて、ソファで寝ていたの?」
「違うよ」
「でも・・・」
ぽんっとイヌがヘリの頭に手を置いた。
「気にしないでもう寝ろ。2時を過ぎると、肌の調子が悪くなるっていつも言っているだろ?睡眠不足は美容の敵じゃなかったのか?」
「そうだけど…」
尚も歯切れ悪い感じで、目を泳がせているヘリは、何かを戸惑っているようだった。
「ヘリらしくないな。何か言いたい事があるのか?」
「言いたいことっていうか…」
ヘリは、スタンドランプの光に照らされている自分の顔をイヌから隠すように、
うつむきかげんで、思案しているようだった。
しかし、黙ったまま見つめ続けるイヌの視線に
意を決したように、顔を上げた。
「私、やり直したいの。あの夜の事」
真剣な声と表情で言うヘリに、『何を?』と、イヌは聞かなかった。
ヘリの言う“あの夜”が何を指しているのか、イヌにはすぐに分かった。
お互いの想いを確かめて、抱きしめあって、濃厚なキスをしたが、
それ以上の事は何もしなかった、今夜の事では無い。
・・・ヘリを強引に無理やり抱いたあの日の夜のこと。
「…私、イヌにちゃんと…抱いて欲しいの」
夜の静かな部屋の中で、小さなヘリの声が、大きく響いて聞こえる。
「あれが、初体験だったけど、あの時は体も心も準備できていなかったから。
でも、今だったら、大丈夫な気がするの」
ヘリが大きく息をすって、イヌを見上げた。
「…駄目?」
恥かしさからか、暗闇の中でも、ヘリの頬が上気して赤らんで見えた。
それでも、必死な形相で、純粋な光を宿した眼差しをまっすぐに向けている。
そんなヘリの体当たりな気持ちを、どうして断ることが出来るだろうか。
先ほど、一緒のベッドに横になっていた時も、
すやすやと眠るヘリの横顔を見つめながら、必死で愛欲を抑えていたというのに。
イヌは、答えを言葉で返す前に、ヘリに手を伸ばしていた。
そして、その身体を、腕の中に引き寄せ、強く抱きしめた。
「…しょうがないな」
抱きしめられながら、ため息交じりのイヌの呟きに、
ヘリは、不思議そうに小首をかしげた。
「イヌ?」
…もう、傷つけたくなくて、我慢していたというのに。
「本当は、ずっとこうしたかった」
苦笑して、イヌは、ヘリの頬に横顔を摺り寄せた。
そして、そのまま、ヘリの白い首筋に、ゆっくりと唇を這わせた。
「イヌっ…」
唐突に始まった、官能的な愛撫に、ヘリが狼狽えて、
身をよじった。
「そっちこそ、もう駄目だとか言うなよ。
僕はもう今度こそ、止められない」
イヌの言葉に、ヘリがクスリと笑う気配がした。
「前も、私が嫌だって言っても、止めなかったくせに」
「そうだったな」
イヌも微かに笑った。
そして、ヘリを抱きしめていた手を、スッとずらすと、
その体の線をなぞるように、動かした。
熱のこもったイヌの指先にヘリが感じたように、目を閉じ、甘い吐息をついた。
もう、あの時のような拒絶は無かった。
イヌの気持ちも体も。
そして、二人の“背徳”という関係も。
すべてを受け入れたようなヘリの心と体が、イヌを誘いこんでいる。
背くことなど出来ない。
たとえ、現実に許されないことだとしても。
…愛し合う気持ちから背を向けることは出来ない。
イヌとヘリは、そんな思いで、唇を重ねて、ベッドの上で体を絡め合った。
薄闇の中、
イヌの体の下で、ヘリの白い裸体が、浮き上がっては、沈んでいく。
シーツの上で、慣れない情事と、背徳の愛に溺れそうになっているヘリを、
イヌは、力強い腕で抱きとめていた。
目を閉じて、
清純な面影を残しながらも、妖艶な女の色香をまとっているヘリに、
イヌは全身で溺れていたのだったが。
「愛してる。愛しているよ。ヘリ」
意識だけは、繋ぎ止めようとするかのように、イヌが、愛の言葉をヘリに囁き続けた。
ヘリがそのたびにコクコクと頷いた。
「うん…私も愛してるわ。イヌ」
やがて、背後から、イヌが愛すると、
ヘリは強く感じたように、すすり泣きながら、喉元をそらせ、背中を弓なりにさせた。
滑らかに盛り上がったヘリの肩甲骨に、
イヌは、唇を寄せた。
夢の中で、イヌが折った、とヘリが言っていた翼があった場所。
もちろん、現実のヘリには、そんな翼など無い。
だけど、イヌには幻視のように、白い翼があるように感じた。
…真実。確かに、ヘリの翼を折ったのは、自分なのだろう。
ヘリの肩甲骨の輪郭を唇でなぞりながら、イヌは思った。
自分の手の中に入れるために、無理やり、ヘリの翼をもぎ取って、
飛べないようにした。
「愛してるから」とどんなに言いつくろっても、罪深い行為の言い訳にもならない。
それでも、夢のヘリが許してくれたように。
現実のヘリは、今、イヌと、現状を受け入れてくれている。
イヌは、目を閉じ、先ほどソファで見ていた書類に書かれていた事を脳裏に浮かべた。
自分とヘリとの関係に関わりのある書類…。
紙切れ数枚に書かれた内容は、変えようも無い事実なのかもしれない。
今後、その現実が、二人の未来に重要な変化をもたらすのだとしても。
「ヘリ」
イヌは、目を開けると、ヘリの背中に向かって言った。
例え、ヘリの、もう片方の翼を折ってしまうことになっても、
自分の翼も全部無くしたとしても。
愛してるから。
夢の中で、言おうとした言葉の続きをイヌは口にした。
「お前を離しはしない」
イヌの言葉に、ヘリが、また頷いて見せた。
「離さないで」
まだ何も知らないはずのヘリの言葉だったが、
イヌには、絶対の承諾だった。
「…愛してる」
現実と幻が交差した混沌の中で、
この気持ちだけは本物だから―――。
きつく繋げた体と心を離すまいと、
イヌとヘリは、禁じられた愛を封じ込めるように抱き合いながら、
目を閉じ、深く口づけて、闇の中に沈んでいった。
(終わり)
「愛の鎖」7話の続き
「続・愛の鎖」の序章みたいな話。
ほんとは、裏箱版と、表版にしようとしていたのだけど、
裏箱は、予約投稿できないし、表版のエピソードは、
「続・愛の鎖」にまわしました。…いつか更新できる日を夢みて。
裏箱バージョンもね(笑)
この記事は予約投稿になります。
今年9月から12月までの「みつばのたまて箱」の更新については、
こちらから。
マビョンもいいよ~♪
やっぱり、ソビョンでしょ!という方も、
記事が気にいって頂けたら、【拍手ぼたん】でお知らせください。
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