「検事プリンセス」のソ・イヌ役、
パク・シフさん出演(キム・スンユ役)の韓国ドラマ「王女の男」の二次小説です。
「王女の男」最終話24話の、スンユとセリョンが、王妃に密かに助けられ、
遠くに逃げてから、ラストのシーンまでの、空白の時間の話を少し二次創作しました。
ノーカット版も、小説も、録画してあるものも、全部はまだ見て無いのですが、
みつばが、勝手に妄想したスンユとセリョンの話です。
ラストのネタバレがあるので、未視聴の方はご注意ください。このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「
お願い」を一読してください。
それでも、良いという方のみ、お読みくださいね。
愛惜慕情…出来たわ。
セリョンは静かなため息をつくと手作業をしていた刺繍布を
そっと膝の上に置いた。
そして、布を綺麗に折りたたみ、籠の中に仕舞い込んだ。
セリョンの刺繍。
最初は、少しでも生活の為の資金になるなら、と、
手持ちの糸と布で刺繍した小物を侍女のヨリを通じて、街で売ってもらったものだった。
それが、買い付けに来ていた商人の目に留まった。
そして、その後、
セリョンの刺繍は、美しく精巧なため、都の方でも評判がいいと、
時々、こうして、商人に刺繍作品を依頼されるようになっていた。
1枚でも、かなりいい値で商人は買い取ってくれる。
多量には作れないものの、セリョンは、この仕事を楽しんで引き受けていた。
とはいえ、依頼物を、期限内では簡単に仕上げられない時もある。
セリョンは、夜、子供を寝かしつけた後、
そして、侍女のヨリも、自室に戻って行き、休んだ頃も、
こうして、小さな灯りの下で、黙々と一人刺繍の仕事をする事もあった。
今夜、仕上げたのは、仲買の商人が、明日の昼ごろに取りに来る予定の物だった。
セリョンは、間に合った事に安堵し、身の回りを片づけると、
灯りを手に子供と夫が寝ている部屋にそっと足を忍ばせた。
暗闇の中、灯りで、眠っている我が子の安らかな寝顔を確認したセリョンは、
口元に優しい笑みを浮かべた。
しばらく、幼子の愛らしい顔を見つめていたセリョンだったが、
肩下まで落ちていた布団をそっと引き上げてかけた後、手の灯りを消した。
灯りを消しても、外の月明かりが、部屋をほのかに照らし、
セリョンの行く手を導いた。
セリョンは、子供の側にひかれた布団で横になっている夫の傍らに膝をおった。
月のやわらかな光が、
目を閉じ、静かな寝息をたてている男の顔を浮かび上がらせている。
セリョンは、その顔を黙って見つめた。
男の少しやつれた頬に、セリョンはそっと手を伸ばし、
優しく撫でた。
目の光を失ってからも、
決して弱音を吐くこともなく耐え忍び、
どんな時も苦難を紡ぐことのなかった唇。
それでも、その心や身体の内にどれほどの苦しみをためているのだろう。
セリョンは、夫…スンユの心情を慮って、
ただ、寄り添うことしかできなかった。
そして、今は、ただ、すべての苦しみや悩みから解き放されたように
穏やかな顔で眠るスンユ。
その寝顔にセリョンは知らず知らずに涙をこぼしていた。
ぽとり…と、
一滴が、セリョンの頬から、スンユの頬に落ちた。
夜露が葉を滴るほどの僅かな感触だったが、
スンユの瞼がゆっくりと開いた。
そして、セリョンのいる方向に、スンユが顔を向けた。
セリョンの姿は見えていないはずだったが、
その気配をスンユはしっかりと感じ取っていた。
「どうした?まだ眠れないのか?」
スンユが、小さな声で傍らに座っているセリョンに聞いた。
光を感じ取れなくても、肌の感覚で、まだ夜中だという事が分かっているスンユだった。
「無理をするな。まだ仕事が終わらなくても、疲れたのなら休め」
セリョンを気遣うスンユの優しい言葉に、
セリョンは、ますます涙をあふれさせた。
「はい。もう仕事は終わりました。もうじき寝るところです」
溢れる涙と気持ちを押し殺し、声を発したつもりのセリョンだったが、
スンユは敏感にセリョンの異変を感じ取っていた。
「…何かあったのか?なぜ泣いている?」
「泣いてなど…」
誤魔化そうと、うつむきかけたセリョンに、スンユは布団から出した手を伸ばした。
そして、セリョンの濡れた頬の方に指を這わせた。
眉をかすかにひそめながらも、スンユは、セリョンの涙をぬぐうように、
頬を優しく手で撫でた。
「…見えなくても、分かる。だが、話して欲しい。
そなたが、今思っている事を全部。私に」
スンユには、セリョンの涙が、決して、うれし泣きで無い事も分かった。
「こんな夜更けに、一人、眠らずに、忍び泣きしている妻の理由が知りたい。
今の私ではそなたの話を聞く力も無いか?」
スンユの言葉に、セリョンは、強く首を横に振った。
「いいえ。申し訳ありません」
「怒っているのではないから、謝らなくてもいい」
「違うのです」
セリョンは、またも首を横に振ると、頬に置かれているスンユの手に
自らの手を重ねた。
「私が泣いていたわけを言えば、きっと先生は、私を軽蔑なさると思ったからです」
「私がそなたを軽蔑?なぜ、そんなことを?」
ますます分からない、という顔をするスンユに、
セリョンは重ねた手をギュッと強く押し当てた。
頬にふれるスンユの暖かな手の平のぬくもりが、
セリョンの心の中にまで入り込んでいく。
顏の表情を見られなくても、
嘘をついても、きっと見透かれてしまう。
「…さっき、先生の寝顔を見ていたら、こんな事を考えてしまいました」
セリョンは、うなだれたまま、重い口を開いた。
「こうして、先生がここに、私の側にいてくれて良かったと。
先生がもう私から離れることは無いのだと、そんな事を思ってしまったのです」
目の光を失って、スンユがどれほど苦しんでいたか、分かっているのに。
そして、二度と、家族の仇を討つということも出来なくなった。
それを現実だと受け止めるのが、どれほど辛いことなのかも、知っていたのに。
…自分は、こうして、愛する人が、生きていてくれる事が嬉しい。
そして、もう自分の側から離れはしないだろう、という想いに、
心から安堵してしまった。
セリョンは、そんな自らの気持ちを悔悟しながら、スンユに正直に話した。
「そんな事を、一瞬でも本気で考えた愚かな自分が、とても浅ましく感じられて、
泣いてしまいました。…本当に申し訳ありません。先生」
言いながらも、ぽろぽろと泣くセリョンの涙を、
スンユは黙ったまま、優しく手でぬぐい続けていた。
少しの間の後、スンユが口を開いた。
「そなたは今でも先生と呼んでくれるが、私はもう、そなたの先生ではない」
「そんな。先生は、夫となった今でも、私の先生です」
「教えた時期はほんのわずかだった」
「いいえ。教えて頂いたのは、勉強だけではありません。
私は、先生から多くのこと学びました」
近くで眠る子供を気遣い小さいながらも、セリョンは必死に言った。
スンユにこれ以上、負い目を感じて欲しくない。
そんなセリョンの気持ちが込められた声を受け止めたスンユが、
微笑んだ。
「私もそなたと同じ気持ちだ」
スンユが言った。
「そなたは、私に沢山の事を教えてくれた」
「私が先生に?」
不思議そうに首をかしげたセリョンの頬においた手を
スンユはゆっくりと下に滑らせて離すと、
今度は、上に重ねていたセリョンの手を取って握った。
つないだ指先から、想いを伝えるように、スンユが続けた。
「誰かを、心から一途に愛し、想うという気持ち。
そなたは、私にそんな感情を教えてくれた」
死と引き換えにしてでも、遂げたかった復讐という、目的よりも。
目の光を失っても、
こうして、愛する人と共に生きていたいという想いが道となり、光となっている。
「だから、こうして、一人でひっそりと泣かないで欲しい。
そなたと、これからも、どんなことも分かち合って生きていきたいから」
月明かりが差し込む、薄闇の部屋の中。
スンユの低く、穏やかな声が、セリョンを温かく包み込んだ。
「セリョン?」
しばらく返事の無いセリョンに、スンユが名を呼んだ。
「…はい」
ようやく、セリョンが、コクリと頷いた。
「はい。先生」
泣きながらも、ニコリと笑ったセリョンの気配に、
スンユが、頬を緩めた。
そして、握っていたセリョンの手を引き寄せ、
セリョンの身体を己の上半身の上に伏せるように、横たえさせた。
「さあ、もう、寝よう」
「はい。起こしてしまって、申し訳ありません」
尚も、謝るセリョンに、スンユが小さく笑った。
そして、スンユの胸の上に頬を寄せ、穏やかな心音を聞くように、
じっとしているセリョンの後ろ髪をスンユは手で優しくなで下ろした。
「そなたが側にいないと、私は熟睡できないらしい。
今夜は、こうして朝までいておくれ」
そう言って、スンユは、セリョンの体を抱き包むと、
その上に、布団をかけた。
「ずっと、います」
セリョンがスンユの腕の中で答えた。
「私は、ずっと、先生のおそばにいます」
…愛しています。
セリョンの心の囁きに、答えるように、スンユが、ギュッと
セリョンの体を抱きしめた。
…私も、愛している。
ずっと。ずっと。
こうなる前も、今も、そなたが私の光だ。
暗闇の中を優しく照らす、愛しい光の名を小さく呼ぶと、
スンユは、微笑みを浮かべたまま、瞼をそっと閉じた。
(終わり)
シフさんファンの方なら見ていると思うのですが、イヌさんファン(笑)の方は、
見て無いかもしれない「王女の男」。
設定は「検事プリンセス」と似ている所はあります。
見て無い方は、機会があれば、ぜひ♪
…漫画仕事を又引き受けてしまったので、←いろいろ大丈夫か?自分(汗)
しばらく創作できないと思い、勢いで、妄想ほやほやの「王女の男」を一気書きしてしまいました。「検事プリンセス」の二次小説楽しみにしていた方、イヌ好きの方、すみません。。。
でも、「王女の男」は、連載にするつもりは無く、
スンユ×セリョン話は、書いてもあと1話くらいかな。←書くんかい。
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