韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「聖夜の祈り」12話です。
みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
「
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「
お願い」を一読してください。
この話はシリーズの最新作になります。「NYへいこう」「招かれるもの」の続編。
聖夜の祈り(12話)…ずるい。
ヘリは、きゅっと唇を引き締めた。
意地悪をするくせに。
すぐからかうくせに。
本心を言う時の、この男の声と目は、どうして、こんなにも、
逆らい難く、私の心を強く縛り付けるのだろう。
「クリスマスプレゼントは、明日の夜のお楽しみにしてちょうだい」
ヘリは、必死で平静をよそおったクールな声色で言った。
イヌの言っている「プレゼント」という意味は、おそらく「物」の事だけでは無い。
そんな事を分かっていながら、あえて恍ける事に決めた。
「今夜、くれないのか?」
「だって、クリスマスプレゼントっていうのは、クリスマスイブに渡すのが定番でしょ?
お父さんには、前から、今日のディナーにお渡ししようって決めていたけど、
あなたには、明日の夜も会えるもの。だからあと1日待ってね」
そう言いつつ、吐息が触れ合うほど近くにいたイヌと距離を置くように、
ヘリは、少し横にずれて座った。
そして、じっと、誘惑めいた瞳で見つめ続けるイヌから視線をそらせると、
ヘリは、あえて、はしゃいだように話続けた。
「それにしても、お父さんからのクリスマスプレゼント、びっくりしちゃった。
もう。イヌったら、知っていたのに、隠してるんだもの。ホテルの名前は知っていたけど、
私は泊まった事が無いからすっごく楽しみなの。あ、もちろん、あなたが予約してくれたホテルもよ」
ヘリのNYまでの往復航空チケットは、イヌが支払ってくれていた。
その上、イヌの養父の家に滞在後、明日泊まるヘリのホテル代もイヌが全額持ってくれると言っていた。
どちらも、ヘリの今の給料では厳しく、イヌが出してくれなければ、
クリスマス休暇にNYに気軽に遊びに来ることなど出来なかった。
イヌの予約したホテルは、どこなのかは、ヘリもまだ聞いていなかった。
だが、イヌの事だ。航空券もファーストクラスだったが、
おそらく、明日のホテルも素敵な部屋を予約していることだろう。
「明日の夜が待ちきれないくらい、とっても楽しみ」
素直な気持ちで礼を言ったつもりのヘリだったが、黙って微笑んでいるだけのイヌの顔に、
ハッとなって、あわてて手をブンブンと振った。
「やだ。今、勘違いしたでしょ?違うの。そうじゃなくて。
そんな意味じゃなくて。変な意味でもないからっ」
「そんな意味じゃないとか、変な意味でもないとかって、いったいどんな意味なんだ?」
失笑してイヌが面白そうに聞いた。
ヘリが気まずそうに、頬を指でかいた。
「恋人と一緒にクリスマスイブを過ごせるのが楽しみって意味よ」
ヘリとイヌにとって、初めて一緒に過ごすクリスマスイブ。
そして、外国のホテルで、二人きりで過ごす夜。
ロマンチックな事を考えてはいたが、
本当に、意味深なことまでは込めていないヘリだった。
ベッドの上で並んで座っている状況で、
しかも、今にも情欲が燃え上がりそうな雰囲気の中で、ヘリの発言は、
イヌに、“そんな意味”と受け取られても仕方ないのだったが。
「そういうわけだから、明日は、私、朝は早く起きて、
イヌとお父さんと一緒にジョギングするから、もう寝るわ」
何がそういうわけ、なのかも、意味不明だったが、
誤魔化すように、あたふたと、ヘリは、ベッドの布団をまくり上げると、
その中に深く身をすべり込ませた。
そして、恥かしさで、勢いよく布団をかぶっていたヘリだったが、
ベッドの端にまだ腰かけているイヌの気配を感じて、おずおずと顔を出した。
「眠れるのか?君が寝るまで、ここで添い寝してあげようか?」
からかっているようで、怖がりのヘリを気遣っているイヌの言葉。
ただ、イヌの優しい声色の中に、甘い熱も込められている気がしたヘリは、
思わずうなずきそうになった首を横に振って、「平気よ」と返事した。
「だから、イヌも、シャワーを浴びて、今夜は自分の部屋で寝てね」
ヘリの言葉に、微笑を浮かべながらも、
又も黙ったまま見つめるイヌの目が、どこか切なげに見えたヘリは、
「でも…」とあわてて言い足した。
「あなたが、おやすみのキスをしてくれたら、すぐにぐっすり眠れるかも」
…拒絶しているわけじゃないのよ。イヌ
本当は、強く抱き合いたい気持ちを必死に抑えているんだから。
でも、初めて来た恋人の実家で、そんな事をしたら、
明日の朝、養父さんの顔をまともに見ることが出来なっちゃいそうだもの。
だから、この欲望も二人きりの夜までとっておきましょうね。
そんな事を思いながら、わざと、ふざけて、
自分の唇を指でとんとんさせながら、悪戯っぽい仕草でイヌに笑いかけたヘリ。
そんなヘリの気持ちを汲んだように、イヌが軽いため息をついた。
「…わかった」
そう言って、枕に上半身を持たれて、ベッドに横たわっているヘリの上にイヌがそっと身を屈めた。
ヘリが微笑んだまま、目を閉じると、
唇にイヌの唇の感触が届いた。
ちゅ…っと、軽いキスの後、唇が一度離れた。
しかし、目を開けようとしたヘリの唇に、
イヌの唇が、再び重ねられた。
しかも、今度は、深く。
…イヌっ!
あせって、身をよじろうとしたヘリの動きを封じるように、
イヌが、ヘリの身体の上に覆いかぶさったまま、ヘリの顔に手をそえて、
濃厚なキスを続けた。
自然に開いた唇の間に、イヌの舌がねじ込まれ、
口内で、ヘリの舌と熱くからまり合う。
「ん…んん…」
ヘリの吐息すら奪うイヌの激しい口づけ。
本心では、イヌを求めていた分、抗う力も無くしたヘリは、目を閉じたまま
イヌのキスを受け入れ、次第になすがままになっていた。
やがて、
イヌとのキスで、だんだん気持ち良くなってきて、
身体の深部から、熱を帯びた甘い疼きを感じたヘリは、
思わず、「ぁん…」と艶やかな嬌声を漏らした。
無意識に声のトーンを抑えていたものの、
ハッと、自分のあげた喘ぎ声に驚いたヘリが、ぱっちり目を開けるのと、
ほとんど同時に、イヌがヘリから顔を離した。
イヌの顔の下で、恥らいながらも、トロンとした表情のヘリの顔があった。
気持ちを行為で示したイヌとは違って、
ヘリには、その眼差しだけで、イヌを誘惑する力があるようだった。
…今すぐに、この可愛い恋人を抱きたい。
それが、実家だろうと、家の中に養父がいようと、
本心から構わないと思っていたイヌだった。
表面には出さなかったが、ヘリがここに来てから、ずっと浮かれていた。
こうして、自分が育った家に、ヘリがいる。それも、養父公認の恋人として。
家は広く、マンションの部屋の中のように、遠慮無しに愛し合っても、
養父の寝室まで、気配すら悟られることは無いだろう。
それに、二人ともいい大人だ。
恋人を泊めた時点で、養父も、その辺りのことは、了解済みのはず。
そう、頭の中で分かっていて、さらに、身も心もヘリを強く欲していたが、
建前とはいえ、今はヘリの気持ちを尊重しようと決意したイヌだった。
自分にとっては、なじみ深いテリトリーではあったが、
ヘリにとっては、初めて訪れた、異国の恋人の実家だった。
最初の訪問から、はめをはずす事は出来ないと、ヘリなりに真面目に考えて、
養父への配慮と気遣いから、行動を自重しているのだろう。
それに、もし、今夜、二人で秘め事をしたとしたら、
感情が表に正直に出てしまうヘリは、言葉に出さなくても、
明日の朝、全身で養父に報告する態度を見せることだろう。
自分は平気で、養父もただ、面白がってくれるだろうが、
ただでさえ純粋なヘリを、恥ずかしい思いにさせて困らせるのは可哀そうだった。
でも…。
「…意地悪」
恥らいながらも、ヘリが、すねたように唇を尖らせている。
イヌがクスリと笑った。
…意地悪のつもりじゃなかった。からかっているつもりも。
ただ、これくらいの“つまみ食い”は許して欲しいな。
イヌは、ヘリの耳元にそっと顔を寄せると、
素直な気持ちを言葉にのせて、何かを低く囁いた。
そして、そっと顔を上げて、身体を起こすと、
客室のベッドの上から降りた。
目をぱちくりさせた、ヘリの視線を背中に浴びながら、
部屋を出て行く前の去り際に、イヌがもう一度、ベッド上のヘリを振り返った。
「おやすみ」
ヘリにそう言って、微笑んだ後、イヌは部屋を出ていった。
「お…おやすみなさい」
ヘリの小さな挨拶は、イヌが部屋の扉を閉めた後に
ようやく発せられた。
扉が閉まると、
廊下の向こうのイヌの足音さえ聞こえない静寂に包まれた部屋の中で、
ヘリは、しばらくベッドの中でぼーっとしていた。
そして、ようやく我に返った後、「なんなのよっ」と
照れ隠しに、ブツブツ呟き始めると、赤らめた顔を枕にうずめた。
「あんなキスされたら、余計眠れなくなるじゃないっ。
もう意地悪なんだからっ」
自分でキスをねだっておきながら、文句を言うのもお門違いだと分かっていたが、
こちらの思いも欲望も全部見透かしておいて、置き土産のようなディープキスは、ヘリにとっては、爆弾同然だった。
さらに、
『僕も、明日の夜を楽しみにしているよ。ヘリ』
イヌがヘリの耳に囁いた言葉が、ヘリの内側で核反応を起こし、
睡眠剤どころか、甘い熱を再燃させる起爆剤になっていた。
今すぐ、この部屋から出て、イヌの部屋を訪ねたいという気持ちを、
ヘリは必死で制しながら、しばらくベッドの中で悶々と転がっていた。
そして、少し落ち着いた頃、ふと、ベッド脇のサイドボードの上の
スタンドランプに目を止めた。
イヌの養父ジョンが、ヘリの為に用意したというスタンドランプ。
…ジョンさん…。
ボンヤリとスタンドランプを見つめながら、
ヘリは、今日、イヌが留守の間に、養父がヘリに語った話を思い出し始めた。
ジョンが、イヌの母親に恋をしていたという話。
そして、亡くなった今も彼女を忘れることが出来ないと言っていたことも。
…16年間。こんなに時間がたったのに。
ううん。片思いしていた時間も合わせると、もっと長い間、
ジョンさんは、イヌのお母さんの事が好きだったんだわ。
愛する人と結ばれなかったことも、
そして、会えなくなったことも辛い。
だけど、そんな人を永遠に失ってしまったことは、どれほど辛かったことだろう。
『すべてを忘れたいというように、一心不乱に仕事をする姿は痛々しかった。仕事に人生を捧げているようなイヌの姿を側で見ているのは正直辛かったよ』
イヌがアメリカにいる間の様子をヘリにそう語っていたジョン。
だが、ジョンもそうだったのでは無いだろうか?
クリスマスの休日にさえ、仕事場に行くと言っていたジョン。
もちろん、多忙な時期に、職場の責任者であり、経営者であるジョンが行かなければならない用事もあるのかもしれない。
だけど、今までもそうやって、
イヌの母親の事を忘れようと、仕事に打ち込んで生きてきたのではないだろうか?
愛する人の忘れ形見である息子の成長を支え、見守りながら。ずっと…。
そんな、自分の考えが、
あくまで、勝手な想像だということは分かっていたヘリだった。
だが、自分には計り知れないはずの、ジョンの痛みを内包した愛し方を感じ、
ヘリは、切ない気持ちになって目を細めた。
そんなヘリが横たわるベッド周辺を、
ジョンが用意したスタンドランプが、やわらかい光で満たしながら照らしている。
…自分の愛する男を育ててくれた人…。
暗闇の中、怖がりのヘリも、ホッと安心させる、その灯りは、
まるでジョンの優しさと温かさ、そのもののようだった。
しばらく、その灯りをボンヤリと見つめていたヘリだったが、
やがて、1つ深呼吸をすると、眠りにつくために、そっと目を閉じた。
翌朝。
ヘリは、イヌとジョンへの宣言通り早めに起きた。
しかし、そんなヘリより、イヌとジョンはさらに早く起きていた様子で、
リビングで朝のコーヒーを飲んでヘリを待っていた。
「ジョギングをするにしても、その恰好じゃ寒いな。
ウエアは少し大きいかもしれないが、僕のを着るといい」
ヘリのカジュアルな、いでだちを見たイヌが言って、
ヘリに厚めの防寒ウエアを持ってきて着せた。
そして、軽い準備体操をした後、ヘリとイヌとジョンは共に、家を出て、
街中を軽くジョギングした。
ヘリの体力を気遣ってだろう。
途中から、ジョギングではなく、ウォーキングの速度で、
イヌとジョンは、ヘリを誘導した。
「この散髪屋は、父さんが常連の店で、僕もここに住んでいた時はよく行っていた」
イヌが言って、指を指したシャッターが閉められた店。
朝だからということではなく、クリスマスで今は休みなのだろう。
しばらくしてジョンが言った。
「このカフェは、時々イヌとモーニングを食べに来た店です。
パンケーキが美味しくてね。明後日までクリスマス休みのようですが、
ヘリさんも今度こちらに来た時に、食べてみてください」
郊外の閑静な高級住宅街の中の店や建物。
都心ほどの数もなく、まばらに点在しているようだったが、
そこ、かしこで、イヌのここでの昔の生活を感じさせてくれることが、
ヘリには嬉しかった。
それに、ジョギングが目的ではなく、ヘリに、そうした事を紹介しようとしてくれているジョンの気遣い。
そして、ヘリに自分の過去をさりげなく教えてくれているイヌの優しさに、
ヘリは、防寒着を着ても感じる冷気にも負けない暖かな気持ちになって、歩いていた。
そうして、2時間近く、ゆっくりと家の周辺の道をまわった後、
3人は、家に帰った。
家に戻ったジョンは、ヘリとイヌに、ブランチでパンケーキを焼いてくれた。
運動をして、お腹がぺこぺこな上に、パンケーキの話を聞いて、
ちょうど食べたくなっていたヘリは大喜びした。
カフェのパンケーキが美味しいと言っていたジョンだったが、
ジョンのパンケーキの味の素晴らしさに、…これより良いのかしら?と心の中で首をかしげながら、舌鼓を打った。
そして、食事後、
しばらく楽しく歓談していた3人だったが、
刻々と別れの時が近づいていた。
(「聖夜の祈り」12終わり、13に続く)
登場人物
マ・ヘリ
ソ・イヌ
ジョン・リー(アメリカに住むイヌの養父)
プレゼントおあずけイヌ(笑)
ブログ更新が、最近連投してますが、
体調が本調子になったわけでないので、
当分は不定期で、更新に間隔があく時もあるかと思います。
でも、出来る限り、記事をアップしておきたいです。
小説が気にいって頂けたら、ふつうの【拍手ボタン】か
ランキングボタンを押してお知らせください♪
にほんブログ村