韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「聖夜の祈り」10話です。
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この話はシリーズの最新作になります。「NYへいこう」「招かれるもの」の続編。
聖夜の祈り(10話)日が沈み、辺りが薄暗くなった頃には、ディナーの準備はすっかり整っていた。
ダイニングテーブルに置かれた料理から、
空腹を刺激する良い香りがリビング中に漂っている。
マッシュポテトを添えた、こんがり焼けたローストビーフ。
アボカドとクリームチーズのディップ。
キッシュ風にアレンジされたパンプキンプディング。フルーツたっぷりのサラダ。
キャセロール。焼きたてのふっくらパンと甘さ控えめなアップルパイ。
飾り燭台の蝋燭の灯が揺らめき、
部屋のクリスマスツリーに飾られたジンジャーマンクッキーがでゆらゆらと揺れている。
イヌが注いでくれているエッグノッグの甘い匂いを吸い込みながら、
ヘリは、もうすでに酔ったようにうっとりとした表情で椅子に座っていた。
「いつも、こんな風にイヌはお父さんとクリスマス休暇を過ごしていたの?」
「いや、二人きりで過ごすことは少なかったな。
近所の人や、父の友人達が家にくることもあったし、僕達が家に招かれて過ごすこともあったよ」
「男二人だけのクリスマスパーティーだと、華がないからね。
今夜はヘリさんがいてくれるから、嬉しいですよ」
笑って、ジョンがイヌの言葉に付け足した。そして、
「そうだ。クリスマスと言えば、もう一つ欠かせないものがあったな」
と、わざとらしく思い出したように、言って、イヌの方に目配せした。
「イヌ、リビングのブラインドカーテンを開けて」
「OK、父さん」
イヌが、リモコンのスイッチを押すと、天井まで高い、リビングの掃出し窓の
ブラインドカーテンが自動で開いた。
…何が始まるのかしら?
ヘリは、椅子に座ったまま、
開け放たれた窓から、外灯にぽつぽつ照らされた夜の庭に目を凝らした。
そんなヘリの後ろでジョンが、何かのリモコンのボタンを操作した。
すると、
庭の木々達が、一斉にぱっと明るくなった。
クリスマスツリーのように飾り付けられ、無数の電飾がつけられている。
それも、1本ではなく、高めの木全てにつけられていた。
光るオーナメント。サンタクロースや、流星や月。トナカイ。
エンジェルたちも可愛く、木の枝に乗って、光りながらこちらを見て笑いかけている。
広い庭中を煌びやかに彩るイルミネーションの光の洪水に、
ヘリは、圧倒され、吐息と共に思わず、「すごい」と呟いていた。
「すごく綺麗です。クリスマスの時期に、いつもこんな演出をされているんですか?」
後ろのジョンに問いかけながらも、ヘリは、庭から目を離せずにいた。
イヌは、イルミネーションよりも、輝いているヘリの顔を、目を細めた表情でじっと見て立っていた。
そんな二人の姿を後ろから見ながら、ジョンが満足げな顔で微笑んだ。
「ここまで、電飾をつけたのは、久しぶりです。イヌが子供の頃以来かな」
「お一人でつけたのですか?」
「いや。イヌが子供の時は、まだ私も若かったから、一人でつけたけど、
今回は、さすがに業者に飾ってもらいましたよ。気にいって頂けたかな?」
「はい。とっても素敵です」
ヘリは、コクコクと頷いた。そして、隣に佇むイヌと視線を合わせた。
「あなたも、初めて見た時感動したでしょ?イヌ」
「…そうだな」
ヘリに少し微笑んだ後、イヌは、庭に目をむけた。
当時を思い出しているのか、イヌの顔は、感慨深いものになっていた。
「では、パーティーの開式の点灯も無事終えたから、このイルミネーションを眺めながら、ディナーを始めよう」
ジョンの言葉で、イヌも席についた。
「ヘリさんとイヌが手伝ってくれたおかげで、料理も早く出来た。
ありがとう。今夜は、3人でおおいに盛り上がりましょう。ヘリさん。
食事もお酒も遠慮なく召し上がってください」
「お言葉に甘えて」
ヘリは、ジョンが手に持ってきた高級シャンパンやワインのボトルに目を輝かせた。
ジョンも席に座ると、並んで座るヘリとイヌを見渡した後、
乾杯用の酒の入ったグラスを掲げた。
「少し早いですが、こうして、3人でクリスマスの食卓を囲めて、本当に良かった。
イヌ、ヘリさん。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
ジョンにならって、グラスを掲げたイヌとヘリは、微笑み合うと、酒に口をつけた。
一般的なクリスマスの定番料理ですよ。と言っていたジョンの手料理だったが、
見た目だけでなく、深みのある味も素晴らしく、豪勢だった。
普段は、体型を気にして食べる量を控えていたヘリだったが、
ゆっくりと味わいながら、美味しい料理と酒に存分に舌鼓を打った。
ジョンが明るく話し、イヌも楽しそうに笑っている。
心底、リラックスし、こうしていると、まるで何年も前から、
ジョンの家でイヌとこうしてクリスマスを過ごしてきたような気になったヘリだった。
食事が終わると、ソファ席に移動していて、ヘリがデコレーションしたクッキーをつまみ、
お茶を飲みながら、3人はさらにくつろいで歓談を続けた。
ふと、席をたって、部屋を出て行ったジョンが、
しばらくして手に数冊のアルバムを持って戻ってきた。
「ヘリさんがぜひ見たいと言っていたからね。イヌのアルバムを持って来ましたよ」
「わあっ!見せてください」
ヘリは、とびつかんばかりに、ジョンの持ってきたアルバムを受け取った。
「父さん、彼女に見せる前に、僕の許可を取って欲しかったな」
苦笑しながら、そうぼやくイヌに、ジョンが軽く肩をすくめてみせた。
「見られて困る写真は無いだろう?」
「見せたいか、見せたくないかは、僕の判断だよ」
「どうして~?つきあっている彼女に、隠し事があるわけ?」
いい気分で酔っ払っているヘリは、ジョンという後ろ盾もついて、
すっかりイヌの上手にいるつもりになっていた。
「わかったよ」
イヌが、諦めたように吐息をつくと、「好きに見ればいい」とアルバムをヘリの手の上にのせた。
…やった。
ジョンと顔を見合わせて、にんまりと笑い、これ見よがしにピースサインをするヘリに、
イヌがそっけなく言った。
「そのかわり、韓国に戻ったら、君のアルバムも全部見せてもらうからな」
「えええ~?」
大学頃の写真の大半は捨てていたが、
思春期までの写真は、エジャがアルバムにきちんと整理してとってあるだろう。
とくに受験前に、かなりふっくらとした体形になっていた過去のヘリが写った写真も。
「彼氏に隠し事は無いんだよな?」
分かっていて、意地悪く言うイヌを、恨めしそうに見ながら、
「べ、別にいいけど」と、ブツブツ答えて、ヘリは、心の中で、
イヌが韓国に戻ってくる前に、エジャにアルバムの居所を聞いて、全部隠してしまおうと、決意していた。
ヘリは、アルバムをめくった。
…あ、この写真。
最初に飾られていたのは、イヌの部屋で見たのと同じ写真だった。
ジョンとイヌ、そして、イヌの母親が共に写っているもの。
ヘリは、横に座っているイヌと、はす向かいに座っているジョンの視線を感じながらも、
コメントできずに、そそと次のページをめくった。
ソファで眠っている少年のイヌが写っていた。
ソファは、今、リビングに置いてあるものと違っていたが、
ジョンの家のものだろう。
イヌは、やはり眠っているような大きな犬に頭をあずけて横たわっていた。
薄茶色の毛のゴールデンレトリバー。
「もしかして、マリー?」
ヘリの言葉に、イヌが「そうだよ」と答えた。
「マリーも若かったな」
ジョンが、しみじみと言った。
「マリーは、イヌにすぐになついていたな。
散歩も、イヌに連れてもらいたがってね。イヌが大学生の時に亡くなったけど、
それまで、イヌが家にいる間は、べったりとくっついていたよ」
おそらく、ジョンの家に来て、間もない頃の写真。
きっと、不安と緊張に満ち、心に深い傷を抱えながら始まった新しい家と生活。
でも、眠っている少年のイヌの表情は、ひとときの安らぎに安堵しているように見えた。
イヌが、アメリカに来て、最初に心を許したのは、マリーだったのかもしれない。
「マリーもあなたの事が大好きだったのね」
ヘリの優しさが滲んだ声と瞳に、イヌが黙って微笑んだ。
ヘリが次のページをめくった。
そこに、黒いマントをつけて、仏頂面で佇む少年のイヌの姿が写っていた。
ヘリは、思わず吹き出しそうになるのを懸命にこらえた。
ハロウィンの日なのだろう。
かぼちゃのランタンの光が背景に見える。
場所は、ジョンの家の庭先のようだった。
イヌの隣に、ホウキを持ち魔女の恰好をした少女が一緒に写っている。
まだ子供のあどけなさがあったが、スラリと背が高く、その強気がにじみ出た雰囲気の面影は変わっていない。
「ジェニーさんね」
ヘリが微笑みながら言った。
「二人とも、とっても可愛い」
イヌが苦笑いをした。
「父さんに無理やりマントをつけられたんだ」
「本当は、狼男か、ドラキュラのメイクもしたかったんだけどね。
この頃のイヌは、まだ背も低めで、可愛かったな」
「確かに、背は高くなったわよね」
16年前の少年のイヌを知っているヘリが言った。
「ハンサムにもなっただろう?」
過去にマンションの庭先で言ったヘリの言葉を取り出して、
イヌがそっけなく言った。
「そうね。この後、どうハンサムになっていったのか、楽しみだわ」
ヘリがそう言って、わくわくしながら、アルバムをめくっていった。
ヘリの知らないイヌがいた。
バッグを背負って、学校に行く前、スクールバスを待っている様子のイヌ。
ジョンとどこか旅行先で撮ったものだろうか。両手をズボンのポケットにいれて、
ベンチに座って、どこか見ているイヌ。
背景で笑っている人が大勢写っている部屋の中。チラリとこちらを見ながらも、食事を続けているイヌ。
カメラを向けているのは、もちろんジョンだろう。
だが、アルバムの最初の方は、カメラ目線で、イヌが笑っている写真は少なかった。
楽しそうな雰囲気の場所でも、イヌの顔が晴れやかに写っているものは無い。
お母さんを亡くして、ジョンの家に来て、まだ間もない頃なのだろう。
そして、クリスマスの日らしい写真が出てきた。
今と同じようにイルミネーションが輝く、ジョンの庭先が写っていた。
その中で、大きな木の下で、上を見上げて立っているイヌ。
「イヌが、うちに来て、最初のクリスマスの日だよ」
ジョンが言った。
美しく輝くクリスマスツリーの下で。
少年のイヌの表情が、今までより和らいで見えた。
イヌの目に、この光がどう映っていて、この時何を考えていたのだろう?
ヘリには分からなかった。
ただ、この後、写真に写ったイヌの表情がほんの少しずつ変わってきたように思えたヘリだった。
そして、アルバムのページをめくるたびに、精悍さが増してくるイヌ。
丸みのあった顔は細くなり、手足が伸び、
しなやかではあったが、体つきも逞しくなっていく。
カメラに向けて、少し笑顔をむけている場面も多くなってきた。
次の写真までの時間が、数か月も空くこともあるようだったが、
それでも、ジョンは、何かの折には、イヌを写していたようだった。
ジョンの友人が営んでいるという、ワイナリーらしき場所で撮った写真もあった。
イヌが以前、話してくれていたように、緑豊かで美しい土地が写っていた。
「旅行先で撮ったものもいっぱいあるんですね」
「ええ、長期の休みの時には、イヌとよく旅行に行きました。
キャンピングカーで、遠くまで行くこともありましたし、外国も。
短い休暇の時は別荘や友人の家にイヌを連れて遊びに行きましたよ」
「お父さんは、写真を撮るのがお好きなんですか?」
「ええ。好きです。イヌは、カメラを向けられるのが苦手みたいだったけど」
「そうなんですか?でも、人を撮るのは、得意みたいですよ。ね?」
…しかも、こっそりと。
過去に、ヘリを尾行して監視していた時、人に写真を撮らせていたようだったが、
おそらく、自分も撮っていたに違いない。
ヘリのからかうような言葉と視線をイヌは、素知らぬふりで無視し、
紅茶を飲んでいた。
イヌの、大学の卒業式の写真。
そして、司法試験の合格証書を持ったイヌとジョンの写真を最後にアルバムは終わった。
ヘリは、ほーっと深い吐息をついて、アルバムを閉じ、
お礼を言って、アルバムをジョンに返した。
「満足した?」
イヌがクールに聞いた。
「ええ、とっても」
ホームパーティーらしき写真で、ジェニーの姿をちらほらと見かけることはあったが、
このアルバムの中で他の女の子や女性と親しげに映っているイヌの写真は無かった。
実は、そんな事も若干…かなり気にしながら見ていたヘリだった。
そんな気持ちを誤魔化すように、ヘリは、もう1つひっかかっていた事を口にした。
「不思議ね。確かに、昔、1度だけ、子供のあなたに会っているんだけど、
なんだか、もっと会っていたような気がするの」
どうしてだろう?アルバムを見たせいで錯覚したのだろうか?
少年の頃のイヌと会って、もっと話をしたような、そんな記憶があるような気がしてくる。
…会ったのかもな。
首をかしげて、一人で訝しがっているヘリに、イヌが黙って微笑した。
「うん。運命の相手って、どこかで会った気がするって言うから」
自分の問いを勝手に自己完結して頷きながら、ヘリは、もう次の行動の為に
気持ちが切り替わっていた。
「お父さん」
ジョンの方を見やってヘリが言った。
「私、お父さんにクリスマスプレゼントを持ってきているんです。
受け取って頂けますか?」
「もちろん。それは嬉しいな」
ジョンがにっこり笑った。
ヘリは、イヌの方を「あなたの分は後でね」と言う目でチラリと見た。
そして、いそいそと立ち上がると、リビング角の観葉植物の影に隠していた物を取って戻ってきた。
「私の手作りなんですけど…」
もじもじと照れたヘリの言葉と共に手渡された箱に、
ジョンだけでなく、イヌも興味深い視線を向けた。
(「聖夜の祈り」10終わり、11に続く)
登場人物
マ・ヘリ
ソ・イヌ
ジョン・リー(アメリカに住むイヌの養父)
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