韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「聖夜の祈り」7話です。
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この話はシリーズの最新作になります。「NYへいこう」「招かれるもの」の続編。
聖夜の祈り(7話)ブランチを食べ終えたあと、
ヘリはイヌと一緒にジョンが運転する車に乗り込んで、スーパーに向かった。
車で20分ほど走ったところにある店内も、
クリスマスムード一色に包まれていて、
祝いの為の食材を買い求めにきている客で賑わっていた。
広いスーパーの中で、カートを押しながら、
どこに何があるのか、正確に把握しているらしいジョンは、
一緒に歩くヘリに気遣いながらも、迷う事なく、目的の場所に移動していた。
ジョンの側で歩いていたヘリは、普段、手にしないような、珍しい調味料の容器を手にとって吟味しているジョンに、感心したような眼差しを向けていた。
家は一人暮らしには広く、会計事務所の所長という立場で、日々の仕事も忙しいだろう。
だから、平日は、お手伝いさんが家事や食事の世話をしているようだったが、イヌの話からも、休日は、積極的に、凝った料理を作っているように見受けられた。
「父さんは、人を自分で作った料理でもてなすのが好きなんだよ」
ヘリの隣を一緒に歩いていたイヌが言った。
「僕が家にいた頃も、客人が訪ねてくる日は、お手伝いさんじゃなくて、
父さんが料理を作っていた。人のホームパーティーに呼ばれる時も、手作りを持参して行くこともあったな」
「そうなの?本当にお好きなんですね」
「人に美味しいって言ってもらえるのが嬉しくてね。
料理教室にも通っていたんだよ」
ジョンがヘリに楽しげにウインクしてみせた。
「そんなお父さんを見て育ったから、イヌも料理が好きなのね」
「どうかな」
イヌが首をかしげた。
「君のお母さんも、料理が得意で好きだけど、君はどうだ?」
「最近は好きになったような気がするわ。もともと嫌いだったわけじゃないのよ」
ヘリが、ぼそぼそと取り繕うように言った。
お金を払えば、外で美味しい物は、いくらでも食べられた。
だから、以前は、ただ、料理に関心が無かっただけ。
…もう。お父さんの前で、私の料理の腕前の話はしないでって、
言ったじゃない。
イヌったら、お父さんと一緒にいるとき、いつもより、さらに輪をかけて、
意地悪してくる気がするわ。
ヘリがジットリと、恨めしそうな上目使いで、イヌを見て、
イヌの方はヘリをからかうように、澄ました顔をしていた。
そんな二人を見つめながら、ジョンが口元をほころばせていた時、
「あら?ジョンじゃない」
と、明るい女性の声が、3人の注意を一斉にひきつけた。
ヘリが、声がした方を見やると、カートを押した中年女性が
ニコニコしながら、こちらに近づいてくる所だった。
艶のあるブロンドの巻き毛をしっかりと頭の上で結って、
上品で高級なコートに身をつつんでいたが、とても気さくそうな雰囲気だった。
女性のカートの中には、沢山の食材が入っていた。
「やあ、リジー」
ジョンが親しげな笑みを浮かべた。
「君も、クリスマスの買い出しかい?」
「ええ、そうなの。つい、あの子の好物の材料ばかり、
沢山カートに入れてしまったのだけど。
でも、今年は、あの子が帰って来ないって言っているから、
もう、何だか料理を作る気も失せちゃって…」
はあっと、ため息をついた女性は、ふと、
ジョンの後ろにいたイヌに気付いて、嬉しそうな顔になった。
「まあ。イヌもジョンと一緒に買い物に来ていたのね」
「こんにちは。おばさん」
イヌが、やわらかい笑みをうかべて、一礼した。
ジョンとイヌの態度から、どうやら女性は、
二人の親しい知人のようだった。
…ご近所の方かしら?
ヘリは、会話の邪魔にならないように、
イヌの影になるような立ち位置で、息をひそめていた。
ジョンとも仲が良いようだったが、
女性は、イヌに会えた事をとても喜んでいるように見えた。
「この前は、お土産を沢山ありがとう。イヌ。
私も夫も大好物なのよ。あのお菓子はネットでは扱っていないから」
「いえ。土産のほとんどは、彼女が買ったものですから。
僕はおばさん達に運んだだけです」
イヌの言葉に、女性が、今度はころりと表情をかえて、憂いてみせた。
「あの子もイヌに頼まないで、自分で持って帰って来たらいいのに。
ねえ、イヌ、あの子、クリスマスに家に帰って来られないほど、仕事が忙しいの?」
「今は違った仕事をしているので、詳しい事は僕にも、分からないのですが、彼女がそう言っていましたか?」
「そうなのよ。でも、変だわ。クリスマス休暇もとれないなんて。
いくら、仕事が忙しくても、クリスマスは帰ってくるものでしょう?
あっちで何かあったのかしら?それとも、もしかしたら、本当は…」
そう言って、じっとイヌを意味ありげに見つめた女性の視線が、
ようやく、その後ろにいたヘリの視線と重なった。
「あら?」と不思議そうな女性の眼差しに、ヘリが、小さく頭を下げた。
「もしかして、そちらにいらっしゃる女性は、あなた達の連れの方?」
女性の問いに、ジョンが頷いた。
「そうだ。紹介するよ。リジー。ヘリさん、おいで」
そう手招きされたヘリは、楚々と、女性の前に進み出て、ジョンの横に並んだ。
「今、私の家にお招きしている、韓国からいらした、マ・ヘリさんだ。
ヘリさん、彼女は、近所に住んでいる、親しい友人で、メリッサ・アン。
私はリジーと呼んでいるがね」
「こんにちは。はじめまして。マ・ヘリです」
丁寧にお辞儀をするヘリを、メリッサが物珍しそうに、
じろじろと眺めた。
そして、ハッと何かに気付いたように、メリッサが目を見開いた。
「マ・ヘリさんは、もしかして、うちのジェニーとも知り合いかしら?」
「え?」
ジェニーという名前で、ヘリもハッとして、
目の前の中年女性の顔を見つめた。
…メリッサ・アンということは・・・
「ジェニーさんって、もしかして、ジェニー・アンさんの事ですか?」
「ええ、そう」
頷くメリッサに、とっさの事にうろたえているヘリをフォローするように、
イヌが間に入ってきた。
「ヘリ。彼女は、ジェニーのお母さんだ」
「ああ~。ジェニーさんのお母様でいらしたんですね」
ようやく、分かったヘリは、あわてて、コクコクと頷いて見せた。
「存じています。ジェニーさんには、韓国で大変お世話になっています」
「そう。あなたが…」
あなたが…と、メリッサが感慨深い顔で、何か言おうとした後、
思い留まったように口を閉じた。
そして、口元に無理やり社交辞令的な笑みをうかべた。
「あなたも弁護士なの?」
「いえ、私は検事をしています」
「検事?…ああ、そうなの。それで、休暇に遊びにいらしたのね。
クリスマスなのに、ご両親からこっちで過ごす事を反対されなかったのかしら?」
「いえ、両親は別に…」
微笑んではいるけど、
急によそよそしく感じる雰囲気は気のせいだろうか?
初対面とはいえ、
先ほどまでの、ジョンやイヌと時とは明らかに違う空気に、
鈍いヘリもなんとなく違和感をおぼえて、戸惑った。
そんなヘリに助け舟を出すように、ジョンがスッとメリッサとヘリの間に立った。
「リジー。ヘリさんは、私がお招きして、わざわざいらしてくれたんだ。
あちらの国では、イヌが大変お世話になっている上に、おつきあいしている大事な女性だから、クリスマス休暇をぜひ一緒に過ごしたくてね。
ヘリさんの親御さんは、ヘリさんも私達も信頼して下さっているから、こころよく送り出して下さったそうだよ」
「…そう、イヌとおつきあいしている方なのね」
ジョンの言葉に、メリッサが、うなずいた後、
ニコリと固い笑みをヘリに向けた。
「余計な事を言ってごめんなさい。つい、異国に一人でいる娘の事を想ったものだから。
あちらの国で娘の方も、あなたにお世話になっているでしょう。ありがとう。
ジェニーのこと、これからも、よろしくお願いします」
「いえ、ハイ」
困惑した面持ちで会釈するヘリに、
メリッサは、今度は、少し柔らかく微笑んだ。
そして、「じゃあ、またね」とジョンを見やり、
「良い休暇を」と、イヌとヘリに軽く手を振ると、カートを方向転換させて、
隣の陳列棚の向こうに姿を消した。
「ヘリ」
メリッサの後ろ姿をボンヤリと目で追って、佇んでいたヘリにイヌが呼びかけた。
「あ、うん」
もう数歩先に行ってヘリを待っていたイヌとジョンの後を
ヘリがあわてて追った。
「そんなに驚いた?」
追いついたヘリに、イヌが聞いた。
「ええ、ジェニーさんのお母様にこんな所で会えるなんて、
思ってもみなかったから」
「ジェニーの実家も、この街にあるから、ばったり会うことは、不思議じゃないよ」
へりが頷いた。
イヌの実家とジェニーの実家は近所。
その話は、以前、ヘリは、イヌから聞いていた。
メリッサも、美しいプロポーションと顔立ちの女性だったが、ジェニーとは違う。
メリッサの容姿は、外見も完全に欧米人だった。
ヘリは、ジェニーから、今の両親の養女だという話を聞かされていた為、
その事に疑問は無かった。
ただ、いつも隙が無く、毅然とした態度と物腰のジェニーと違って、
メリッサは、思っている事が素直に顔に出るタイプのようだった。
鈍いヘリでも、一瞬感じた、メリッサのヘリに向けられた冷たい空気は、なんだったのだろう?
ヘリが不思議に思った点はそこだったのだが、基本、深く悩まない性質のヘリは、
すぐに…気のせいね。と考えなくなった。
それでも、まだ、気になる事があった。
「ねえ、イヌ。ジェニーさんの話だけど…」
「ジェニーの話?」
「さっき、ジェニーさんのお母さんがおっしゃっていた、
ジェニーさんが、仕事でクリスマス休暇も家に帰って来ないって話。
その理由、イヌは本当に何も知らないの?」
「ああ」
イヌが近くの棚に並べられた何かに興味を示して、近づくと、手にとりながら言った。
「ジェニーがクリスマスにアメリカに帰って来ないという話も初耳だった。
ジェニーは、おばさんととても仲のいい母子だ。
ヘリと、ヘリのお母さんのようにね。だから、韓国にいる時もクリスマスには必ず家に帰っていた。今回は、僕が一足先にこっちに来るから、ご両親への土産を頼まれはしたけど、後で帰ってくるものだとばかり、思っていたよ」
「ふーん…」
イヌの横顔を見ながら、ヘリは、首をかしげた。
「もしかして、ジェームスと何かあったのかしら?」
それまで、メリッサが言った、ジェニーがアメリカに帰って来ないという話を、ヘリほど深く心に留めていなかったようなイヌだったが、ヘリの口から“ジェームス”という名前が出たとたん、『また、始まったか』というように、目を閉じて、ふうっとため息をついた。
そして、手にもっていた品物を陳列棚に戻すと、ヘリの方を呆れ顔で見やった。
「ジェニーのそういうプライベートな類は知らないと、前も話をしただろう?
ジェニーのお母さんでさえ、聞いていないんだ。もし、何か困っている事に巻き込まれているなら、彼女も、お母さんや親友に相談するさ」
「そうかしら?たとえば、恋の話も包み隠さず、お母さんや、男の親友に相談できる?」
「君はしていただろ?当時は、『何でもない仲の男』にも」
ヘリがユン検事に夢中だった時期を皮肉ったイヌの嫌味に気づいたヘリが、
気まずそうに頬を膨らませた。
「…大昔の話を掘り返さないでちょうだい」
「それを言うなら、“蒸し返す“だろ?
君もいい加減、この話題を僕に振るのはやめてくれ。
聞きたい事があるなら、直接ジェニーに聞けと言ったはずだ」
「そうなんだけど、何だかジェニーさんのお母さんが気の毒な気がしたのよ。
ジェニーさんが帰って来ないこと、とても寂しそうだったから。
それに、休暇の時期まで仕事が忙しいなんて、心配でしょ?クリスマスなのよ?
普通なら、大好きな家族や、友人、恋人と一緒に過ごしたいって思うじゃない」
なのに、異国に残る理由が仕事だなんて…。
本当にそうなら、ジェニーのお母さんも心配するはずだ。
しかし、もし、それは、建前の理由で、実は違う理由があるのだとしたら…。
うつむき加減で考えこもうとしたヘリの思考を止めるように、
ぽんっとイヌがヘリの後頭部に手を置いて、顔を上げさせた。
ヘリがじっとイヌの顔を見つめた。
もう、そこには、呆れたような眼差しも、嫌そうにしかめた眉も無かった。
「君が今ここで心配しても、解決することじゃない。ヘリ。もう止めろ」
突き放すような言葉だったが、イヌの声は優しかった。
「でも…」
「安心しろ」
まだ、何か言おうとするヘリにイヌがコクリと頷いた。
「ジェニーにもし何かあれば、僕は、友達として力になるつもりだ。
その時は、君も、ジェニーを助けてやってくれ」
…だから、ジェニーの事で思い煩うのは、もう止めろ。
イヌには、優しい性格のヘリが、無意識に、人の事を深く思いやるたちだと分かっていた。
とくに、親しくなった人間に対しては。
ジェニーの親友として、純粋なヘリの気持ちが嬉しいイヌだった。
ただ、人にはそれぞれ、事情があるのだろう。
たとえ、家族にも友人にも、悟られたくない理由も。
イヌは、去年の今ごろの自分をボンヤリと脳裏に浮かべていた。
…一人で、仕事に明け暮れていたクリスマス。
養父とも友人達とも、何もかも忘れて、楽しく過ごす気分じゃなかった。
だけど、今は。
ヘリ、君が僕のそばにいる。
去年の今ごろには考えられなかった君がいるクリスマス。
だから、自分勝手な思いだけど、君の時間も全部欲しいんだよ。
この一緒にいる時間を大切にしたいから。
イヌはヘリの顔をじっと見つめると、
ヘリの後頭部においていた手を移動させ、ヘリの頬をゆっくり一撫でした後、おろした。
イヌの言葉の本当の意味を半分だけ理解したヘリだったが、
素直に「ええ」と頷いた。
「ジェニーさんの事は、韓国に戻って、私に出来ることがあったら、
なんでも力になるって約束するわ。イヌ」
「ありがとう」
カートを止めて。
会話は聞こえない位置に立っていたが、何やら、話を終え、微笑みあっているイヌとヘリの姿を、ジョンが、目を細めた優しい表情で見守っていた。
(「聖夜の祈り」7終わり、8に続く)
登場人物
マ・ヘリ
ソ・イヌ
ジョン・リー(アメリカに住むイヌの養父)
ジェニー・アン(イヌの親友で同じ事務所の弁護士)
メリッサ・アン(ジェニーの養母)
メリッサ(愛称:リジー)二次小説「この道の先へ」に登場した、ジェニーの養母さん登場。
どうして、ジェニーがクリスマスにアメリカに帰ってこなかったのか、
どうして、メリッサがヘリに冷たい態度をとったのか~…の理由は、いずれ「弁護士プリンセス」(未公開)で♪
←今年こそ公開できる?(汗)
拍手、拍手コメントありがとうございます♪
夜は悩み事も、書くことも感情的になっちゃいますよね。
みつばも、なるべく夜中に書いた小説も雑記も朝まで待ってから
構成しなおすようにしてます。
・・・雑記の場合は、全部削除しちゃうこともしばしば(笑)
(追記)
誤字のご指摘、ありがとうございました。
直しておきました。ジェニーの実家の所。
他にもあるかな?(汗)
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