韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「素顔のあなた」2話です。
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この話は「
刻印」後のシリーズ最新作になります。
素顔のあなた(2話)…イヌの素顔をつきとめる。
そう、決意したヘリだったが、
イヌの事を思い出そうとすればするほど分からなくなってきていた。
おどけた顔で、ふざけた事を言ったり、
皮肉っぽい顔で嫌みを言ったり、
かと、思えば、熱っぽい眼差しで愛を囁いたり…。
もう、すべて、これが全部『ソ・イヌ』だと思っている。
それを受け入れている自分がいる事に驚いたヘリだったが、
何より、そんな男が魅力的で愛しいと感じているのも事実。
…私も相当『重症』よね。
ヘリはソッと溜息をついていた。
そんなヘリに、隣にいた職場の後輩のキム検事が不思議そうに声をかけた。
「先輩。どうしたんですか?食欲ないんですか?」
ちょうど、検察庁の昼時で、
ヘリは、同じ職場の刑事5部のメンバーと一緒にランチをしていた。
ランチの定食に箸があまり進まず、さらに悩ましげに溜息をもらすヘリに、
キム検事だけでなく、他のメンバーも気づいたようだった。
「なんだ。具合でもよくないのか?」
ナ部長が聞いた。
…だったら無理せずに午後から早退していいぞ。急ぎの仕事が無ければな。
そう続けて言ったナ部長に、近くに座っていたチェ検事が、「違いますよ」と、
ニヤニヤとうすら笑いを浮かべて、ヘリに言った。
「きっと彼氏の事でも考えていたんだろ?」
「ち、違いますよ」
とっさにそう否定したヘリだったが、事実は、確かにそうだった。
「仲がいいよな。マ検事と彼氏は。こっちが“あてられる”くらいね」
嫌味っぽくからかうようなイ検事。
「ああ~。あてられた。あてられた。アレにはあてられたよ。」
チェ検事がイ検事の言わんとしてることを悟って、同調すると、
ユン検事まで巻き込むように声をかけた。
「ユン検事も“アレ”、見ただろう?」
「…さあ…」
普段冷静沈着なユン検事が、当惑したように、目をふせていた。
…こちらに話をふらないでくれ。
そう言っているように。
「・・・・・」
“頼りになる”先輩たちの言っている『アレ』が何を指すのか、
空気を読むのが早くないヘリでもすぐに分かった。
「アレってなんだ?」
一人、会話から残されたように、きょとんとするナ部長が聞いた。
「な、何でもないんですよ~。ハハ。ちょっと先輩たちは勘違いされているんですよ。アレは~、そういうアレじゃないんですからねっ」
ヘリがあわてて、否定した。
「じゃあ、どういうアレ?」
先週、検察庁に来ていたヘリの『男』の首についていたアレ。
すなわち、明らかに女がつけたものだと分かるような跡がいくつもあった。
まるで、男女の行為の最中につけたようなキスマークが。
それは、もう、ここにいるナ部長以外のメンバーだけでなく、検察庁内で
多数の人に目撃されていた。
そして、その日のうちに噂は枯れ草の上の火のように広がっていた。
『マ検事の彼氏が首輪ならぬ、『首印』をつけて検察庁に来たらしい』
真実は、
ヘリが眠っているイヌにこっそりつけた悪戯だったのだが。
堂々と検察庁にやってきた男のせいで、ヘリの方が恥をかいていたのだった。
あの後の一週間、
気のきく(?)先輩たちは、含み笑いをしながらも、
沈黙を守っていてくれていたようだったが、こんな所で暴露するとは。
しかも直属の上司の前で。
「だから、先輩たちが考えてるようなものじゃないんですよ」
「ああ、じゃあ、もしかしたら君がつけた物じゃないってこと?」
チェ検事がとぼけたように聞いた。
「ああ、誰か他の女性につけられたものだったのか」
イ検事が気の毒そうな表情を装って言うのに、ヘリはたまらなくなった。
「私以外、彼にそんな事する女性はいません!!」
つい、そう言ってしまったヘリに、キム検事が
「やっぱり先輩って激しいんですね」とうっとりと吐息をついた。
…ユン先輩~。
そうユン検事に助けを求めるようなヘリの目にも、ユン検事は気まずそうに目を逸らして何も聞こえていないように、ランチを食べるのに集中しているふりをしているようだった。
あ~。もうっ。
ヘリは、やけくそのように箸を取ると、猛然と目の前の定食を食べ始めた。
「だから、アレって何だ?」
一人会話についていけないナ部長は憮然となって、周りを見渡した。
「いや~。マ検事と、マ検事の彼氏の仲がいいって事ですよ」
チェ検事がとりなすように言った。
「マ検事の彼氏っていったら…あの弁護士だな」
イヌの事を知っているナ部長がうなずいた。
「あの弁護士はかなり有能だな。私は直接かかわった事は無いが、あの事件…」
チラリとヘリと見て、一旦口を閉じた後、咳払いしてナ部長が続けた。
「…いろいろな事件でも、裁判は高い勝訴率だと聞いたことがある。やり手だとも。法務法人にいた時はそういう噂は聞いていたが、韓国に戻ってきてからは仕事に磨きがかかっているようだな」
ヘリは、黙々と食事しながらも、ナ部長の言葉に耳を傾けていて、
それが、イヌを賞賛する内容である事を内心嬉しく思っていた。
「常に冷静沈着で、先を読む弁護士。僕も、あれ以来関わった事はないですが、別の事件の担当で彼と一緒だった同期がそう言ってましたね。それに知人の判事も」
…知人の判事?…ソヨン?
ソヨンもイヌのことを有能な弁護士だって認めていたの?
ヘリがイ検事の言葉に反応した。
「かなり頭が切れるらしいな。同じ事件を担当して、裁判で一緒に法廷に立つのは正直避けたいな」
ついそう言ってしまったチェ検事が、しまった。という顔でヘリの方を見た。
他のメンバーも気まずそうに、ヘリの方を伺うように見つめていたが、
ヘリは、何も聞こえなかった風を装っていた。
そして、わざとらしく顔を上げると、
「みなさん、どうしたんですか?早く食べないと時間無くなっちゃいますよ」
と、しらじらしく、テーブルの上を見まわして言った。
刑事5部のメンバー達は、目を合わすとそろって首をすくめて見せて、自分の前の定食を食べ始めた。
「・・・・・・」
食べ物を口に運びながらも、一体何を食べているのか、
どんな味なのか全く分からなくなっていたヘリだった。
職場の仲間たちに自分とイヌの事をからかわれた事よりも、
弁護士としてのイヌの姿を噂された事に意識がいっていた。
…有能。やり手。冷静沈着で、先を読む弁護士。
検察庁の職場の人たちにはそう見られているのね。…イヌは。
でも、それは私も嫌ってほど知ってる顔。
一旦、仕事となれば、たとえ恋人の私にも容赦はしない。
プライベートと仕事をきっちりと切り離す冷静さを持っている。
だけど。
これはあくまでビジネス場の外面の顔だわ。
イヌの『素顔』じゃない。
そういえば…。
もっと他にイヌの事を知っている人は、
イヌをどう見ているのかしら?
そんな疑問が大きくなっていったヘリだった。
「ソ弁護士さんのこと?」
「そう」
その日。
ヘリのお気に入りのカフェに一緒に来ていたユナに
ヘリはイヌの事を聞いてみることにした。
「何?ソ弁護士と何かあったの?…また喧嘩しちゃった?」
そう半分茶化して、半分心配そうに聞くユナに、
ヘリがあわてて手を振った。
…軽口の応酬ならよくしてるけど。
「違うわよ。ただ、ユナから見てソ弁護士ってどんな印象なのかな~?って思って」
ヘリの質問に、ユナは不思議そうに首をかしげたが、
「いい人なんじゃない」
とあっさりと答えた。
「いい人?」
「だって、どこを見ても申し分ないじゃない。仕事は出来て、お金持ち。それにルックスもいいし、ヘリの事をいつも助けてくれるし、すっごく愛されてるでしょ?」
いたずらっぽくからかうように言うユナにヘリが頬を染めて唇をとがらせた。
「ユナ~」
「それに親切よね?ヘリ以外の人にも。たとえば私にも気を配ってくれる。気遣いの出来る男っていいわよね~」
「…イヌはフェミニストなんだと思うわ」
女性に対してとくに優しい。
それは、一般男性なら、当たり前の事かもしれないけど。
幼児や年配の女性なら、親切にしたり、優しい笑みを見せてもいいけど、
若い女性にも愛想をふりまくような甘い笑顔は見せて欲しくない。
それが、たとえ、表面上のものだったとしても。
ヘリの心の声が素直に表れていたらしく、
無意識に唇を尖らせていたヘリにユナが吹き出した。
「もう。ごちそうさま。ヘリの話で、私はお腹がいっぱいよ」
「ユナ~っ」
どうやら、ユナや、その他大勢の女性から見て、
イヌは“いい人”という面を見せているようだった。
いい人。またはいい男。優しくて親切な男。
ヘリの第一印象では、軽い、と思っていたイヌの演技していた態度や、
親切も、別の角度から疑いなく見れば、そう感じるのかもしれない。
ヘリはため息をついた。
…きっと、ママに聞いても同じよね。
そう思ったヘリだったが、案の定、
その夜、実家に帰った時にエジャに聞いたイヌのイメージは、
ユナ以上に好感度が上がったものだった。
「イヌ君のこと、どう見えるかって?
そりゃあ、いい人よね。外見もかっこいいし、仕事も出来て、
そして、何より優しいでしょ?なんの欠点もない。あんな素敵な男性は滅多にいるものじゃないわね。
あ、もちろん、私の中で、一番の男性は、パパ、サンテさんだけどね。ふふふ」
…そこまでは聞いてないわ。
最後、若干の照れもはいったエジャのウキウキとした話を、
ヘリは、ひきつった笑みを浮かべて聞いていた。
…ママは、イヌがお気に入りだから。
なんの欠点も無い、なんて、言えるんだわ。
イヌにだって欠点はいっぱいあるんですからね。
本当は、意地悪もするし、人をからかったり、嫌味を言ったり、
悪戯したり…。ママにはそういう所ほんと見せないんだから。
ヘリは何となく、釈然としない思いだった。
そして、エジャが風呂に入っている時に
思い切って、父親サンテにも話を聞いてみることにした。
「ねえ、パパ聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ、ヘリ」
「ソ・イヌのこと、どう思ってる?」
「どうとは?」
突然、イヌの名前が出た事に、サンテは少なからず動揺したようだった。
「同じ男性として、イヌって、どんな男に見える?」
「…ソ・イヌと何かあったのか?」
サンテの息をひそめたような眼差しに、ヘリがあわてて首を振った。
「違うのよ。ただ、パパから、見て、
イヌの印象を聞きたかっただけなのよ。だから、正直に言って欲しいの」
こんな事はサンテにとっては、実に応えづらい話だと分かっているヘリだった。
サンテにとっては、イヌは大事な一人娘とつきあっているという以外で、
いろいろな事があった過去もついてくる男だったから。
「・・・・・・」
しばらく、ヘリの顔をじっと見ていたサンテだったが、
目の前のお茶を一口すすった後、重々しく口を開いた。
「ソ・イヌ…彼は、弁護士としては優秀な男だな」
…その点は認めている。
1年以上前、サンテの弁護人をつとめたイヌだった。
側にいて、その仕事ぶりを見ていたサンテの率直な感想だった。
「ただ、有能だが、奸智にたける面もある。油断も隙もない所も。
実情の伴わない部分を努力で補って、わざと自信過剰にふるまっているようにも見える…そんな印象だな」
サンテから見たイヌの印象は、プライベートには当たり障りのない、
どちらかというとビジネス面の感想のようだった。
娘の彼氏としての印象とはまた違っていて、聞いたことをそのまま捉えれば、
かなり辛口のようにも思える印象だったが、言葉を良く加味してみれば、
けなしている、というより、逆にイヌを褒めているようにしか聞こえなかった。
奸智にたける、油断も隙もない。
…つまり、思慮深くて、策略家で、ミスが無いってことでしょ?
努力で補っているところを自信過剰にふるまっている。
…って、結局、イヌが裏では勤勉な努力家に見えるって言っているようなものじゃない。
なんだかんだ言って、
大会社の社長にのぼりつめていた男のサンテの目から見て、
イヌは、仕事の出来る優秀な男に間違いない。という事は認めているようだった。
ヘリの職場、検察庁の検事達のイヌへの印象と同じようなものだった。
同性から見ても、イヌは“できる男”という顔を見せているようだった。
「しかし、なんだって、そんな話を聞きたいんだ?」
そう訝しがるサンテを、適当な言葉でごまかしつつ、
ヘリは、心の中で再びため息をついていた。
…イヌの本当の顔ってなんなのかしら?
以前、
スナックのママ、ヒジンという女性から、
『あなたを見た時、彼の本当の顔が見えたわ』と聞いていたヘリ。
それを問うたヘリに、ヒジンは笑いながら、
『恋人のあなたがいつも見ている顔でしょう?』と言っていた。
…やっぱり分からないわ。
実家の自室のベッドでゴロゴロとしながら、ヘリは悶々と考えていた。
ヘリは、一瞬、イヌと長年の親友、ジェニーにも話を聞いてみようかしら?と
考えた。
しかし、おそらく、ヒジンと同じような反応が帰ってくるような気がした。
『恋人のあなたが知らないわけ?』
きっと、そう言われるだろう。
…どの姿も、私にとって、ソ・イヌなんだもの。
本当の顔って…素顔の姿なんてあるのかしら?
ヘリがそんな事を思った時、携帯電話の着信音が流れた。
ヘリが携帯電話を手にとると、相手はイヌだった。
「マ・ヘリよ」
ちょうど、イヌのことを考えていたせいもあって、あせって出たヘリの口調に、
電話の向こうのイヌが少し驚いたようだった。
『今電話大丈夫か?もしかして、もう寝てた?』
「いいえ。まだ寝てないわ。電話も大丈夫よ。今実家の自室にいるの」
『そうか。明日はマンションに帰ってくるのか?』
「ええ、そのつもりだけど、どうかした?」
『明日、僕は早く帰る予定なんだが、君の都合がよければ、
うちで一緒に食事でもどうかと思ってね』
「じゃあ、これって夕食のお誘い?」
ヘリの悪戯っぽい声にも、イヌは軽い反応を見せた。
『ああ、あと、君が望むなら、夕食後も居座ってくれても僕は構わないけど』
「んー…。それは、あなたも望むかどうかによるわね。
とりあえず、ディナーのお誘いはありがたく受けることにするわね」
電話の向こうで、イヌが笑った気配がした。
『じゃあ、明日、仕事が終わって、君の都合の良いころにでも連絡してくれ』
「うん」
イヌの優しい美声に、ときめいて、
自分でも気づかずに、ヘリはすっかり甘えた声で返事をしていた。
電話を切ったあとも、
実家のベッドの中にいても、
心はすでに、イヌと過ごすであろう明日の甘い時間の予感にすべて奪われて、
さっきまで、考えていたことが何だったかすら忘れたヘリ。
一見、どんなに悩んでいるように見えても、
1つのことに夢中になると、それしか見えなくなるのは、
昔とかわらないヘリのようだった。
念頭から、すっかりイヌの素顔をつきとめるという事も忘れて、
ヘリは、ウキウキと明日が待ちきれない素振りで消灯の準備を始めた。
(「素顔のあなた」2終わり 3に続く)
ヒジンさん(オリジナルキャラ)登場の話は
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