韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「大切な人」3話(最終話)です。
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この話は、シリーズでは「試される絆」の続編です。大切な人(最終話)「どうした?ヘリ。こんな時間にここにいるなんて。今日は休みのはずだぞ」
休みだからこそ、こんな時間にここにいるのだけど。
そう、当たり前のことを、動揺しきっているサンテがヘリに聞いた。
「モーニングを食べに来たのよ。パパ。彼と一緒に」
「そ、そうか」
ヘリの“彼と一緒に”という言葉に、サンテはまたもや、
狼狽したように見えた。
チラリと、イヌを見やったサンテは、ほとんど手元を見ずに、あせった手つきでパンを袋に詰め始めた。
「パパ、レジ打ってないわよ。それに、今モーニングで食べるから、
パンはお皿に移して欲しいのだけど」
「そ、そうだったな」
ふいうちのような、ヘリとイヌの出現で、サンテは完全にペースを乱されていた。
もう、交際を承諾していたとはいえ、働いている店に、大事な一人娘が、
男を連れて、朝食を食べにきた、という現実をすぐに受け入れられない様子だった。
…事前に教えておいてもらえたら、心がまえも出来て、
応対や態度にも余裕をもって対処できたはずなのに。
どうして、この男は、交際宣言の時といい、こうして奇襲をしかけてくるのだろうか。
これは、突発的な行動ではなく、絶対にわざとだ。
事を有利に運ぶために計算した上での行動に違いない。
まったく油断も隙もない男だな。
横にいる娘のヘリがはにかむような、優しげな笑みを向けている男、ソ・イヌを、ささやかな抵抗のように睨みつけながら、サンテは心の中でブツブツと呟いていた。
しかし、イヌと見つめ合って、満面の笑みを浮かべているヘリの顔はとても幸せそうに見えた。そして、それは、サンテが今まで見たことのない美しい“女”としてのヘリの顔だった。
そして、ソ・イヌも。
そんなヘリに、向けるイヌの眼差しの優しさは表面的なものではなく思えた。
心の底から、この女性が愛おしくてたまらない。とても大事にしている…というような想いのこもった男の瞳でまっすぐにヘリを見つめている。
ソ・イヌのそんな表情を目の当たりにしたサンテは、
同じ男として、娘の父親として、イヌを認めざるを得なかった。
それでも、“出来すぎた”娘の彼氏が面白くなく、サンテはふてくされたように、
清算の終わったパンのトレーをイヌに差し出した。
「…ごゆっくり」
おおよそ、客相手のサービス精神を無視したムスっとしたサンテの顔に、
ヘリは思わず小さく噴き出していた。
大きな会社の社長としての顔のサンテを長年見ていたが、
この1年近く、パンつくり“修行中”のサンテも、パン屋として板についてきたように思えた。
そして、交際を認めているとはいえ、こうしてヘリと一緒に店に来たイヌを、サンテなりに歓迎していることもヘリには分かった。
やはり、気恥ずかしいという思いもあったが、ヘリにはそれが何より嬉しかった。
イヌにもサンテの心情が分かったようだった。
サンテに軽く会釈した後、イヌは横にいるヘリに微笑んだ。
そして、サンテから受け取ったトレーを持って、ヘリと一緒に席に戻った。
テーブル席に座って、すぐに、エジャが、モーニングセットを2人分持って、現れた。
「はい。これはイヌ君の。こっちはヘリね。もう紅茶は飲み頃よ」
「ありがとう。ママ」
「ありがとうございます。…いい香りだ」
イヌは、ポットに入れられた紅茶をカップに注いで、嬉しそうに目を細めた。
「ママのいれる紅茶は美味しいわよ」
ヘリが、そう言って、エジャの顔を見た。
エジャも、ニコニコとした顔をヘリとイヌに向けていたが、
そっと、カウンターで返却されたトレーをふいている仏頂面のサンテに目をやった。
「パパには挨拶した?」
ヘリのそばによって、声をおとし、ひっそりと耳打ちするエジャにヘリが頷いた。
「ええ、パンのレジを打ってもらったわ」
「まあ、あの人にしては上出来の態度ね」
エジャがおどけたように言って、ヘリと顔を見合すとクスクスと笑った。
「じゃあね。二人ともゆっくりしていってね」
エジャはイヌとヘリにそう言うと、カウンターに戻って行った。
…エジャ。どこに行ってたんだ?いないと困るじゃないか。
…あら?私がいないとサンテさんは何も出来ない男の方でした?
…おいっ、ばかっ。何を言ってるっ。
聞こえてくる両親の仲睦まじい(?)やりとりに、
ヘリは顔をほころばせながら、カップにいれた紅茶を口にしていた。
「お母さんとお父さん、仲がいいみたいだな」
そんなヘリの様子にイヌも柔らかく微笑んでいた。
「ええ、とっても」
この1年、両親のこんな姿を見てきたヘリだったが、
それをイヌに見てもらえたことが嬉しかった。
焼き立てのパンのいい香りが立ち込め、明るい午前の光がふりそそぐ、店内。
客の相手をしているエジャやサンテの声も聞こえる。
その中で、サンテのこねたパンや、エジャのいれた紅茶と手作りのサラダやジャムのヨーグルトを、イヌと一緒に食べている。
ヘリが心のどこかで、ずっと夢見てきたような光景が今現実になっていた。
…夢みたい。
ニコニコと、今にも小躍りしそうな表情で、朝食をほおばるヘリを目の前にして、
イヌもまぶしい光をずっと見つめているかのように目を優しく細めていた。
…君のこんな顔がずっと見たかったよ。
そう思いながら朝食を食べているイヌの顔も、
ヘリから見て、とてもリラックスして、幸せそうに見えた。
ゆっくりと、モーニングセットを食べ終えた二人は、
残ったパンを包んでもらうために再びカウンターに向かった。
「これから、どこかに出かけるの?」
パンを袋につめながらエジャが聞いた。
カウンターから背をむけて、無言で作業をしているサンテも意識はしっかりとイヌとヘリに向けられているようだった。
「ええ。これから、イヌのお父様が好きだった湖に行く予定なの」
ヘリの答えに、「そう」とエジャが微笑み、サンテが手を止め、厨房に入って行った。
その後ろ姿をヘリがチラリと見た。
エジャもサンテが消えた厨房を流し目で見た後、
イヌとヘリににっこりと笑いかけた。
「お店に来てくれてありがとう。ヘリも、イヌ君も。
また、いつでも来てね。」
「はい」イヌが答えて、ヘリもコクリと頷いた。
「じゃあね。ママ」
そう手を振って、ヘリとイヌが店から出ようと歩き始めた時、
「待ってくれ」と厨房の中から声がして、手に袋をもったサンテが出てきた。
サンテは、ツカツカとイヌの方に歩み寄ると、袋を差し出した。
「ソ・イヌ君」サンテが言った。
「私の作ったパンだ。良かったら、お父上に持っていってあげて欲しい」
…パパ。
…サンテさん。
ヘリとエジャが息をひそめて、向き合っているサンテとイヌの姿を見守った。
「ありがとうございます」
イヌが言って、サンテから袋を受け取った。
「父に食べてもらいます」
固い表情だったが、ほんの少し口元をゆるませて、そう言ったイヌの顔に、
サンテも、コクリと頷いていた。
イヌに渡したパンに、さまざまな思いを込めたサンテの気持ちがイヌに
しっかり届いたようだった。
ヘリとエジャはホッとしたように顔を見合わすと、
それぞれ、恋人と夫の顔を優しく見つめた。
「行ってきます」そう言って、ヘリはイヌと両親に見送られながらパン屋を出た。
街の駐車場に停めていたイヌの車に乗り込んだヘリとイヌが
次に向かった先は、湖ではなく、シン・ジョンナムの花屋だった。
「こんにちは」
ジョンナムは、イヌとヘリが一緒に店に入ってきたことに驚いていた。
「こんにちは。いらっしゃいませ」
どうされたんです?マ・ヘリさんもご一緒とは…。
そんな目でジョンナムはイヌを見た。
「これから、父に会いにいきます。マ・ヘリさんと」イヌが答えた。
「そうですか」
ジョンナムはまだ、戸惑ったようにヘリをチラチラと見ていた。
「今日もフリージアは入荷しています。こちらです」
そう案内しようとするジョンナムにヘリが声をかけた。
「シン・ジョンナムさん、その前に一言お礼を言わせてください」
「お礼?なんのですか?」
きょとんとして足を止めたジョンナムにヘリが頭を下げた。
「記念日のお花の花瓶はシン・ジョンナムさんから頂いたものだと、イヌから伺いました。
今は私の部屋で花を飾っています。とても素敵な花瓶をありがとうございました」
「あ・・・」
ヘリの言葉で、ジョンナムが、ようやく全てを悟ったような顔をした。
そして、目を見開いたまま、イヌとヘリの顔を交互に見つめた。
イヌが訪れて記念日の花束を買った日にジョンナムに言った言葉。
『大切な人との記念日に飾る花です』
そして、その後、ジョンナムがイヌにこう言っていた。
『いつかぜひ大切な人と一緒にお店にいらしてください』
…では、ソ弁護士の大切な人というのが…。
「…そうだったんですか」
やがて、ほおっと息をつくと、ジョンナムは目を細めて、優しく微笑んで頷いた。
…良かったです。本当に良かった…。
ジョンナムは、肩が触れ合う距離で一緒に佇むイヌとヘリの姿を感慨深めに見つめ、
無意識に、こみあげてきた温かい思いに胸をつまらせて、涙を浮かべた。
目の前にいる二人が、どういう経緯で、今のような関係に至ったのか詳しい事は分からなくても、過去の事情を知っているジョンナムにはここまでの過程が平坦な道で無かったことは薄々想像できた。
…お幸せに。
ジョンナムは、心をこめて、選んだフリージアの花を包むと、イヌに手渡した。
「ありがとうございました。また是非、お二人でいらして下さい」
「ええ」
ジョンナムに微笑みながら、そう答えて、イヌとヘリは肩を並べて、店を後にした。
仲睦まじく寄り添い店を出ていく若い男女の姿が、
店内のどの花よりも美しく見えたジョンナムは、イヌとヘリが見えなくなるまで
その背中を見送っていた。
助手席に、白いフリージアの花束と、サンテの作ったパンのはいった袋を膝に乗せたヘリが座ったイヌの車は、それからしばらくして、街の喧騒から離れた静かな湖についた。
周囲の木々は完全に紅葉し、落葉樹は、ハラハラと葉を散らせていた。
寒い時期ということもあって、人の姿はほとんど無かったが、
普段から観光地という場所でもないようだった。
ただ、湖の水面が風で静かにゆれて、木々の葉擦れの音色が微かに響いている、
佇んでいると、ホッと心が安らぐようなところだった。
イヌの実父、ソ・ドングンが生前好きだったという湖。
イヌは、ヘリを伴って、ドングンの遺灰を母親と一緒にまいた付近に歩いていった。
「こんにちは、父さん。来たよ」
湖を見つめてイヌが、フリージアの花を水辺の側に置いた。
「今日は、一緒に連れてきた人がいるんだ。父さんに紹介したくて」
イヌがそう言って、ヘリの方を見た。
そして、ヘリの背中にそっと手を置いて言った。
「マ・ヘリさん。僕の大切な人だ」
…イヌ…!
息をのんで、ヘリがイヌの横顔を見つめた。
『大切な人』
イヌが、自分のことをそう父親に紹介してくれた事に、
ヘリは、感動のあまり泣き出しそうになった。
しかし、グッと踏みとどまって、涙をこらえたヘリは、
息を吸い込んで、湖にむけて頭を深く下げた。
「お父さん。初めまして。
ソ・イヌさんとお付き合いさせて頂いているマ・ヘリです。
ご挨拶が遅くなって、申し訳ありません」
頭をあげたヘリが湖畔を見下ろした。
「息子さんには、常日頃からたくさんお世話になっています。
息子さんは、私の目から見て弁護士としてのお仕事も、優秀で、
何をさせても申し分ないくらい器用です。…ただ、ちょっと、時々、少し自信過剰なところとか、意地悪なところとか、人をからかって遊ぶ癖がある所が玉に傷です」
…ヘリ。
隣で苦笑しているイヌの気配を感じながらも、何食わぬ顔でヘリは続けた。
「でも、息子さん、ソ・イヌさんは、とても優しい人です」
きっぱりと言って、ヘリは微笑んだ。
…本当は、まだ付き合っている年月も短くて、
つい先日まで、初めて微妙な雰囲気の喧嘩もしてしまって、
まだまだお互いに、知らない所や、分かりあえてない部分も多いかもしれないけど。
これだけははっきり言える。
そして、これだけは、イヌの父、ソ・ドングンに伝えておきたかった。
生前、とても優しい人だったという、イヌの父親ソ・ドングン。
彼の背中を見て育ったイヌは、死別した後も、父にあこがれ、尊敬していた。
孤独に生きてきた人生で、どんなに辛い目にあって、傷ついても、
イヌが、『復讐』という道を選ばず、ただ、ひたすらに父親の潔白を証明する事に万進できたのは、イヌを支えた養父や親友のジェニーの存在があったからかもしれない。
でも、それだけでなく、ずっとイヌの中にソ・ドングンは生きていた。
自分の生き様が尊敬する父親に恥じないものでありたい。
そう、強く思い続けていたからではないか。
そんなソ・イヌをこの世に送り出して、育てて、自分に会わせてくれた
ソ・ドングンに、ヘリは、心から感謝の意を伝えたい。
そんな思いで、ヘリは、言った。
「私は、ソ・ドングンさんの息子のソ・イヌさんが大好きです」
ありがとうございます。お父さん。
ヘリは、もう一度、湖に向かって深く頭を下げた。
頭をあげて、湖水に目を落としたヘリの肩をイヌが手で抱き寄せた。
ヘリと見つめ合ったイヌの目元がうっすらと赤く染まっていた。
「…ありがとう。ヘリ。父に会いに来てくれて」
今父に言ってくれた事も嬉しかった。
「私の方こそ。お父さまの所に連れてきてくれて、ありがとう。イヌ」
大切な人だと紹介してくれて、嬉しかった。
微笑みあった後、
お互いの背中に手をおいて、寄り添いあって、
ヘリとイヌは、しばらくの間湖を見つめた。
そして、イヌがサンテから受け取ったパンを二人で、ちぎって
湖にまいた。
晩秋の光はやわらかく、ヘリとイヌを包んでいた。
イヌは、その明るさの中で、ヘリをまぶしそうに目を細めて見ていた。
…父さん。彼女がマ・ヘリだ。
会ってどう思った?
心の中で問いかけるイヌに、
父、ソ・ドングンがこう答えたように思えた。
“ああ、いつもお前の言っていた通りの女性だな。大事にしろよ。イヌ”
…うん。父さん。
マ・ヘリは、
この世の中で一番大事にしたいと思っている人だ。
そして僕にとって、彼女は・・・。
「イヌ、見て。あの魚すっごく大きくて綺麗なの」
ヘリのはしゃいだ声がイヌの意識を戻した。
パンの欠片をめがけて、湖の鯉たちが集まってきて、パクパクと食べていた。
その中でも、ヘリが指さした鯉は、ひときわ大きく、そして美しかった。
「父かもしれない」
イヌが言ってヘリに笑いかけた。
「ええ」
自分に向けられたヘリの優しい笑顔に、
更に温かい想いが胸に広がるのを感じて、イヌはそっと目を閉じた。
…誰よりも大切な人だ。
自分を大切に思ってくれている人に、
自分の大切な人を紹介できた。
その朝。
明るい陽光を反射してキラキラと、
ヘリの足の幸運を招く靴のような煌めきを放っていた湖の前。
イヌの父親ソ・ドングンにささげたフリージアの花たちが、
イヌとヘリを温かく見守るように、いつまでも優しく揺れていた。
(「大切な人」終わり)
登場人物
マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)
パク・エジャ…ヘリの母親
マ・サンテ…ヘリの父親
シン・ジョンナム…花屋の主人
ソ・ドングン…イヌの実父
イヌとシン・ジョンナムとのやりとり、記念日の花の話は二次小説「
君の花」で。
ソ・ドングンの湖が出てくる話なので、検事プリンセスのドラマ13話を見直してました。
イヌの心情を思うと凄く辛いシーンです。
16話で、イヌに心から謝っているサンテのシーンがあるとはいえ、
そして、ヘリの父親とはいえ、ああいう過去があったわけだから、
そんな簡単に水に流せる関係では無い気がしました。
だから、そんな事を分かっているヘリもイヌに、湖に連れていって。と言うことが出来なくて、両親の所にイヌを連れていくことも躊躇っていたと考えました。イヌも同じように思っていたと思います。
お互いに、相手の事を気遣っての行動ではあったのだけど、
いくら最初はラブラブでも、ああいうことが(「試される絆」)、きっといつかはあり、
過去も含めて、いい部分もそうじゃない所も、自分をさらけださないと乗り越えられないことは出てきたのかな?とか思いました。
それで、ようやく、今回ヘリとイヌ。二人がお互いの親にしっかりと相手の事を『自分の大切な人』と紹介することが出来た、というお話です♪
「試される絆」のイヌのヘリへの約束も果たされましが、
まだ、未解決なことや、未遂の事(未遂って(笑))が残っているので、
この後の話は又、タイトルをかえて、続きます。
・・・でも、ちょっと(?)またお待たせすると思いますがご了承ください。
「大切な人」他、ブログや私への拍手、拍手コメントありがとうございます!
「試される絆」の後なので、久しぶりにほのぼのまったりした純愛物を書いた気がしました。
次回はどうなるか分かりませんが…(苦笑)
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