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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」20話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(20話)



検察庁で、1日、何事も無かったかのように、
普段通りに、仕事をこなしたヘリは、
自分自身、思いの他冷静でいることが不思議だった。

残業をしてオフィスに残っていたヘリは、
イヌの便箋にあった時間になると、退出して、
呼び出されていた検察庁駐車場横の公園に向かった。

外灯はついていたが、真っ暗な公園の夜道。

いつもの、怖がりのヘリだったら、
『亡霊が出るかも』と震えあがっているところだったが、
なぜかそういう気持ちもなかった。

ただ、心の中にわきあがる不安と必死に闘いながら、
ヘリはイヌの待つ公園のベンチに1歩、1歩足を踏み出していた。

…もしかして、イヌから別れ話を出されるかもしれない。
それでも、私も伝えたいことがある。


公園の道の角を曲がると、

いつも待ち合わせをしたベンチに、イヌが座っているのが見えた。

イヌは、ヘリが近づいてきたのが分かっていたように、
ずっと来た方向に目をむけていた。

「こんばんは」

ヘリが『ワンダーウーマン利用券』を手でちらつかせて、
イヌの前に立った。

「約束通り、駆けつけたわ」

「ああ、時間通りだな」

イヌがチラリと腕時計を見て言った。

「じゃあ、亡霊が出る時間までに話を終えようか」

ワンダーウーマン利用券を使用しながらも、
ヘリが怖がらないように、亡霊が出るという0時前に
呼び出したのだろう。

そんなイヌの優しさと気遣いが、ヘリの胸をジンっとさせた。

久しぶりと言っても、何週間もたっていないはずだったのに、
ヘリにはもうずっと会ってなかったように思えた。
まるで、1年間、音信不通だった頃と同じくらいに。

こうしてイヌと向かい合って見つめあっているだけで、
瞳の奥がツンっとして、泣いてしまいそうになったヘリだった。


「話って?」

ヘリが聞いた。

「その前に座ったら?」

イヌが、ヘリを促すように自分の座っていたベンチの隣に眼差しを向けた。

ヘリは、かぶりを振って佇んだままだった。

「私もあなたに話があるの」

ギュッと手を合わせた両手を前で握りしめてヘリが言った。

「ううん。言いたいことがあって…」

「分かった。後で聞く。でも、呼び出したのは僕だ。
僕から話させてもらう」

イヌがそう言って、ベンチから立ち上がった。

目線の高くなったイヌに、ヘリの緊張が高まった。

「私から言わせて」ヘリが言った。

「レディファーストでしょ?」
そう言ったヘリにイヌが少し目を細めて、肩で息をついた。

…話せよ。

そう、促しているイヌの無言にヘリが意を決した。


…怖い。

ヘリは思った。

昔、チン検事が言ったことを思い出した。

真剣な想いだから拒絶されることが怖くて告白できないと。

今は分かる。
1年前イヌにどう思われようと、「愛している」と告白してしまった自分だったが、今は…。

…拒絶されるのが怖い。

もう、自分を愛していないと言われたら?
告白しても受け入れてもらえなかったら?自分はどうしたらいいのだろう?
…それでも、私はやっぱり・・。

「イヌ、私…」

ヘリが大きく息を吸い込んだ。

「イヌを愛してる」

「・・・・・・」

自分を見つめるイヌの瞳が少し揺れたような気がした。

「私、あなたを愛しているの」

ヘリがもう一度言った。

こんな風になってしまっても。

今後、法廷でたたかうことがあっても。
イヌが誰か別の女性に心が動いたとしても。

「これが、今の私の気持ちだから」

伝えておきたかった。
その結果がどうなったとしても。

「…離れたいと言ったのにか?」

まっすぐに見つめるヘリの瞳から、イヌも目を離さなかった。

「もう会わない、と決めたんじゃないのか?僕と別れたいと思ったんじゃないのか?」

…違う。

ヘリは、必死で首を横にふった。

「少し距離をおきたかっただけなの。私って一つの事しか集中して考えられないのに、今回は、一度にいろいろなことがあったから、一人で冷静になって考える時間が欲しかっただけなの。」


仕事のことや、結婚ということや、将来の事…イヌとのこの先のこと。

「それで?冷静になって考えて答えは出たのか?」

「ええ、おかげさまで」

ヘリの応えに、イヌは溜息を1つついた。
その顔は心底呆れているように見えた。

「自分探しのために、僕を遠ざけたかったのか?」

「自分探しもあったけど、あなたとのことも考えたかったの。」

「・・・・・・」

無言で先を促すイヌにヘリが続けた。

「私ね、物事を頭で考えることも苦手みたい。
それに恋愛ってことも良く知らないから、どうしたらいいかもまだよく分からないけど…。
この先もイヌと一緒にいたい。あなたが私と別れたいって言っても。
これが私の出した答えよ」

言い終わったヘリが不安げにイヌをじっと見つめた。

「…マ・ヘリ」

名を呼んで、
イヌは、今度は盛大に深い溜息をついて目を閉じていた。

…君にはかなわないな。

「僕がいつ、別れたいなんて言った?」

「え?」

「別れ話をするために、君をわざわざここに呼び出したわけじゃない」

「そうなの?」

面くらったように、きょとんとしたヘリは、
本当にイヌから別れ話をされる覚悟までしていたようだった。

そんなヘリの様子にイヌは、頭を抱えたい気分になっていた。

…別れ話をされたと思っていたのは僕の方だ。
ここに来るまでの間どんな思いでいたか、全く分かってないな。この顔は。

「君にどうしても言っておきたい事があったんだ」

イヌが自嘲めいた笑みを浮かべるのを、ヘリが不思議そうに見つめていた。

「マ・ヘリ」

「はい」

真面目な顔と口調になったイヌにヘリが背筋を伸ばした。

「以前…僕が、『検事としての君が必要だ』と言ったことがあったのを覚えているか?」

居酒屋で。
1年以上前。

ヘリを計画のために利用した事を謝るために、イヌは居酒屋にヘリを誘った。
そして、言った言葉だった。

父の無実を証明するために、マ・サンテの娘で検事の君が必要だったと。

「ええ…」

ヘリがコクリと頷いた。

記憶力がいいからではなく、イヌとのことは、
身を切るように辛かった時期の頃も、
交際をはじめて浮き足だって過ごした楽しい時間も、
全部覚えている。

「あの時はああ言ったけど」

イヌが続けた。

「今の僕には、君が必要だ。マ・ヘリという存在が」

イヌ…!

ヘリが息をのんだ。

真剣な顔で、まっすぐな視線でイヌに語られた言葉に、
ヘリが、縛られたように身動きできなくなった。

「それって…」

ややあって、戸惑ったようにヘリが視線を泳がせた。

「…私と別れたくないってこと?また一緒にいられるってこと?」

どこまでも、鈍くて、憎らしいくらい恍けているようなヘリに
イヌが苦笑した。

そして、黙って手を伸ばすと、強く自分の方に引き寄せてヘリを抱きしめた。

「僕は、離れるつもりも、別れるつもりも無かったよ」

…こんなことで、別れられるなら、
君と出会ってから、そして、離れていた1年間で
気持ちの整理が出来ていただろう。

イヌの腕に包まれ抱きしめられているヘリは、その温もりにホッと息をついた。

…イヌに愛されている。

ようやくそう実感して、緊張と不安が溶けていくようだった。

「もう、こういうことは…」

「これからもこういうことはあるだろう」

きっぱりと言うイヌの言葉にヘリは、目を見ひらいた。

「きっと、これから先もおこることだと思う」

イヌが話を続けた。

仕事でぶつかることもあるかもしれない。
弁護士と検事として、法廷で闘うことになるかもしれない。
お互いの意見が合わなくて喧嘩をするかもしれない。
衝動的に『離れたい』と思うことだって出てくるだろう。
この先もずっと付き合っていくのなら。

「でも、僕達ならそのたびに必ず乗り越えられる。一緒に。
僕はそう思っている。君は?」…どう思う?

「…ええ」

ヘリがうなずいた。

「ええ、イヌ。そう思うわ」

「じゃあ、取り消してくれ」

「え?」

「君が僕に言ったことだよ」

もう会わない。

「うん…」ヘリがうなずいた。

「取り消す…私、これからもあなたに会いたい」

少し照れながらもきっぱりと、ヘリが言った。

「OK」イヌがフッと笑った。

「でも、私、もう会わない。じゃなくて、しばらく会いたくないっていうつもりだったのよ」

言い訳のように腕の中でそう言うヘリに、イヌがヘリの体を抱きしめたまま
肩で息をついた。

「“もう会わない”と“しばらく会いたくない”じゃ、全然意味が違う。
まったく、検事なのに、そういう言い間違いは、どうかと思うぞ」

切なく、甘い空気が戻ってきたと思ったら、
イヌの嫌味っぽく責める口調に、雰囲気を台無しにされて、ヘリが唇を尖らせた。

「なによ。あなたのそういう人の上げ足をとった言い方が人を不愉快にするんじゃない。
私より言葉が達者なのは十分に分かってるけど、これみよがしに指摘するのはどうかと思うわ」

「言われた方の身になってみろ」

イヌが言った。

恋人に、「もう会わない」と言われたこと。

偉そうに言うイヌに
ヘリは、悔しくなって、イヌに言い返した。

「あなただって、手紙に“最後に話をしたい”なんて書くから紛らわしいのよ。
あんな事書かれたら、別れ話をされるって思っちゃうじゃない。
敏腕弁護士なんて言われていても、はったりかましているだけなんじゃないの?」

お互いに抱きしめあって、体を離さないまま、
軽口を言い合っている姿は、傍目から見るとかなり滑稽なものに違いなかった。

傍目から…と言っても、深夜の寒い公園を通るものは誰もいなかったのだったが。


以前と変わらないやりとりを終えた後、

「…イヌ、私寂しかった」

ギュッとイヌの背中のコートを握りしめて
ぽつりと、ヘリが言った。

「とっても寂しかったのよ」

いくら仕事だと割り切ろうとしても、会えない日々の中、声も聞けない事が辛かった。
だから、いつもは気にしない事にもこだわって、
聞いていないのに、何もかもイヌから話して欲しいって思ってしまった。

「ワガママだって、無理な事だって分かってるけど…。
こんな事もうヤダって何度も思ったの。私、検事としてまだまだ未熟なのね」…人間としても。

「それで未熟だというなら、僕も同じだ」

イヌが言った。

「分かっていてもらえると思っていた。
君はこの1年で検事としてとても成長していたから。
だから肝心なことを伝えておくことをおろそかにしていた」

事件の詳細のことではなく、たとえ、仕事で争うことになっても、
自分たちは大丈夫だと、そう確認しておけば良かった。
そうすれば、ヘリを不安にさせることも、余計な事で我慢させることも無かった。

…いや、それだけじゃなくて。
ずっと不安だったのは僕のほうだ。

君が離れてしまうことが、怖かった。
だけど、口に出して、気持ちを伝えることもできずにいた。
恋人として、交際するようになってからも。

両親をなくしてから、
誰かをこんなに必要としたのも、愛したのも初めてだったから。

「不安にさせた…ごめん」

…うん。


そっと体を離して、イヌとヘリはお互いの顔を見て微笑み合った。
イヌがヘリの右手に目線を落とした。

「指輪はどうした?」

「あるわよ」
…持ってきてる。

ヘリがバッグからジュエリーボックスを出した。

「つけて」

イヌはヘリからジュエリーボックスを受け取って開けると中から指輪を取り出した。
100日記念日にイヌがヘリに贈った、ティアラの形の指輪。

「もう、外すなよ」

そう言いながら、ヘリの右手の薬指に指輪をはめるイヌ。

「それって束縛って言うんじゃない?」

素直に頷く事が照れくさくて、ヘリはわざと素っ気なく言った。

「そうだ」
…好きな女性を束縛したいと思って何が悪い

意外にも、まともに返してきたイヌにヘリは益々気恥ずかしくなって、イヌを上目づかいで見つめた。

「もう。勝手なんだから」

束縛はされるのも、するのも嫌だって言ってたのに。


…信じてないわけじゃない。

イヌはそんなヘリの顔を見つめて思った。

だけど、君には自覚が無くても、鈍い男やマヌケな男が近づいてくる事があるからな。
いっそ君の目立つ所に『売約済』という判を押してやりたい気分だった。

イヌは、ヘリを車で送ってきたという男の姿を脳裏に浮かべていた。

遠目からでも、はっきり分かるほど、
男のヘリを見つめる目は、熱っぽく煌めいていて、
ただの知人には見えなかった。

あれで仮に下心が無いと言われても信じる事など出来ない。
底抜けに鈍いヘリがそれを信じこんでいたとしても。


「うん…。もう外さない」

指輪をはめた指をかかげて、嬉しそうに頷いている素直なヘリの顔に
愛おしさが募ったイヌだった。

イヌもうなずき優しくほほ笑むと、ヘリの頬にそっと手を置いた。

「冷たくなってる」

「寒い季節だから…」

冷気に微かに身震いしているヘリの頬に手をおいたまま、
イヌはもう片方の手でヘリの肩をひきよせ、再び腕の中に包んだ。

イヌの腕の中のヘリが、甘えたようにイヌの肩口に顔をすりよせた。

冷たい晩秋の空気からも、暗闇からも守ってくれるイヌの腕の中。

ヘリはようやく、自分が帰りたい場所に戻り、
たどりつきたい答えを見つけたのだと確信した。

「あたたかい。イヌ…」

イヌは、そんなヘリをぎゅっと抱きしめた。

…すぐにでも君をもっと温めてやりたい。


「ヘリ」

イヌがよんだ。

「…なに?」

うっとりとイヌのぬくもりを感じながら、ヘリは返事をした。

イヌが、ふっと息を吐いて、ヘリを抱きしめていた手の力を強めた。

そして、ヘリの耳に顔をよせると、低い声で、でもはっきりと言った。


「部屋に帰ったら、君を抱きたい。…いいか?」


イヌの言葉、一つ、一つに、体の奥が熱くなってくるのを感じて、
ヘリはそっと目を閉じた。



(「試される絆」20終わり 最終話につづく)



登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)


「試される絆」次回(明日更新予定)最終話です。

更新の間、拍手、励まし、応援、感想など、
たくさんありがとうございました!←って最終回ではないですけど。
拍手コメント、非公開の方も全部ありがたく読ませて頂いてます。

今回の話でようやくホッとした方も多いと思いますが、
あと1話ラストまでおつきあいください♪

ちょっとコメントレス的は話。

昨夜、満月でしたね。
天気が良いので、うちからもきれいに見えました♪
私も自分で書いた「月と泥棒」思い出しました(笑)

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」19話です。

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この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(19話)



「イヌが一時期荒んでいたような頃よ。
父親の事と母親の事がほとんど同時期に重なったから仕方ないのだけど、
でも、そういう影のある男って妙に女にもてたりするから」

ヘリがコクリとうなずいた。

その時のイヌがそういう状態だったのだろう。

「言い寄る女子を大抵冷淡にあしらっていたけど、それでもしつこく寄ってくる子には、
来るもの拒まずな所もあったわ。はたから見ていたら軽薄な男だったでしょうけど」

…イヌは、誰も本気で好きになどなっていなかった。

ただ、もうどうでもいいという風に、まとわりつく女をそのままにしておいただけ。

「イヌは、いつもどこか冷めていたように見えた。彼女に対しても恋愛に対してもね。
だから、そんなイヌの態度に気づいた彼女たちは、すぐにイヌから離れていった。
イヌの方もそんな彼女たちに惜しむそぶりは無かったわ。
イヌが、女性だけでなく、誰かに本気になることなんてなかったのかもしれない」

…いつも頭の中にあったのは、父親の無実を証明するということ。

それでも女性とつきあっていたのは、
ただ、温もりと優しさに飢えていたからかもしれない。

冷たくしても、それでも自分の事を好きだと言ってくれる言葉を、
本心でずっと求めていたから…。

ソ・イヌは、

本当の姿を隠して、誰にも心を開くことなんて無かったのかもしれない。
…親友にさえも。


ヘリが初めて聞く、昔のイヌの話だった。

衝撃的な内容にもかかわらず、ヘリはショックを受けるより、
別の感情に支配されていた。

ずっと心の目で見ていたイヌの本性が、過去の少年のイヌのイメージとぴったり重なって、
ヘリは、胸の奥がジンっとした切なさで満たされて、涙があふれそうになるのを感じた。

そして、淡々と話ながら、どこか寂しそうなジェニーの横顔をヘリはそのうるんだ瞳で
ジッと見つめていた。

「…でも、イヌは、ジェニーさんのことは心から信頼しているわ」

過去のイヌだけでなく、話しているジェニーもまるでずっと傷ついていたように感じて、
ヘリは思わずジェニーを慰めるように言った。

ジェニーがフッと笑った。

「私は、彼の幼馴染でもあり、友人でもあり、同士みたいなものだから」

「同士?」

「ええ、イヌと私は境遇が似ているのよ。初めて会った時から、
お互いを同じ「仲間」意識で見ていた。だから、腐れ縁みたいなものね。
私はアメリカにいる今の両親の養女なのよ」

「そうだったの…」

イヌが渡米して、母親と死別して、今の養父の元に引き取られた後、
ジェニーと出会ったのだろう。

16年来の親友…と言っていたが、
そこにはそういう事情もあったのか。

「イヌは、ずっと人を愛することを恐れていたみたい」

ジェニーが言った。

「愛する両親をあんな形で失って、
もう二度と愛する人を失うことが耐えられないと思っていたのかもしれない」

虚空を見つめて、独り言のように呟いた後、
ジェニーはヘリに向き合った。

「ねえ、ヘリさん、私も一つ聞いていいかしら?」

「何?」

「人って本気で誰かを愛したら、弱くなるのかしら?それとも強くなるのかしら?」

ヘリさんはどう思う?

そう聞くジェニーは真剣な目をヘリに向けていた。

ヘリは、そんなジェニーの顔を少し見つめたあと、

「強くなると思うわ」
…少なくとも私はそう。とヘリはきっぱりと言った。

本気で人を愛した時、
その人を守れる強さを持ちたいと願う。

それは強くなるということなんじゃないかしら。

「…あなたはそう思うのね」

ジェニーが、ヘリから目線をはずして、つぶやくように言った。

そして、何か考え込むように少し沈黙した後、顔をあげた。

「ヘリさん。あなたの答えがそれなら、もうどうしたらいいか本当は分かっているんじゃないかしら?イヌとのこと」

「え?」

「本気でヘリさんがイヌのこと愛しているなら、そして、イヌも、本気でヘリさんのこと愛しているなら、一人だった時よりずっと強くなっているはず。こんなことで壊れたりしないわ」

「ジェニーさん」

「イヌに、自分の事をどう思っているか聞いたことがある?」

「…いいえ」ヘリは答えた。

「私、相手から言ってこない限り、自分からは聞かないようにしているの」

イヌは、聞かれない限り自分から話さないと言っていた。
自分も、言われない限り人の内面に踏み込みたくないと思っていた。


『愛してる』

そうイヌに言われただけで、嬉しかったし、十分だと思っていた。
それに、過去の事も、今もこれからの事も。
つきあっていくうちに、いつかイヌが話してくれるだろうと思っていた。

…『結婚』…。

自分との未来をどう考えてるのかも。

それでも、これまではお互いうまくいっていた。
話さなくても心の中は通じ合っていると思っていたから。

でも…。

「聞かないと分からないこともあるわ」とジェニーが言った。

「それに、言葉で言わないと伝わらないこともね。あると思うのよ」

どこか遠くを見つめるようにジェニーが続けた。
その瞳と言葉と思いはヘリ以外の他の誰かにも向けられているようだった。

「ヘリさん。さっきも話したように、イヌは人を愛することをずっと恐れてきた。
だから、今、私たちが想像している以上にイヌは苦しんでいるかもしれない。
あなたを傷つけたことで自分を責めて、そして、自分からあなたに歩みよることをためらっているような気がするのよ」

1年ほど前のあの時のように。

…そう、まさにこのバーで、
イヌは、強い酒を何度も煽りながら、ジェニーの前で自暴自棄の姿を見せていた。

『マ・ヘリには何もしたくない』

マ・ヘリを、苦しめるのも、愛するのも嫌だ。
そう言って、涙して、取り乱し、苦しんでいた。

ジェニーも初めて見るようなイヌの姿だった。

あれが、イヌの本当の姿だとしたら…。

ジェニーはあの時のイヌの事を思いだしながら続けた。

「これは、親友だから分かるというより、私も同じタイプの人間だから分かるのよ。
だからね、これはイヌの友人としての私からのお願い。
もし、ヘリさんが、これからもイヌと一緒にいる事を決意したのなら、
あなたの方からイヌに近づいてあげてくれないかしら?」

ジェニーの真剣な眼差しと懇願には、
親友を心から案じているという気持ちが込められていた。

そして、縋るようにヘリを見つめるジェニーの目の奥に、
イヌの悲しげな瞳と似た色を見つけたヘリは、とまどいつつも、
コクリとしっかりうなずいた。

「ええ…」

ヘリの返事にジェニーは安心したようにホゥっと息をついて
微笑むと、ワイングラスの残りをあおいだ。


“自分からイヌの方に近づく”

そうジェニーに、約束してしまったヘリだったが、
まだ、どこかで気持ちの整理がつかないまま、イヌに連絡をとることが出来ずにいた。

しかし、ジェニーと会った翌日のこと。


仕事から帰ってきたヘリは、マンションの管理人から宅配の荷物が届いているという
メッセージを受け取った。
荷物の送り元はアメリカになっていた。

…何かしら?通販でも頼んでいたかしら?

差出人の名前は『ジョン・リー』。
やはり聞き覚えのない名前に、ヘリは、訝しがりながらも、
荷物の箱を開けた。

箱の中には、丁寧に梱包されたワインボトルと、
1通の手紙が入っていた。

“マ・ヘリ様”

表書きにそう書かれている封筒を、
ヘリは、ドキドキしながら開けて中に入っていた便箋を開いた。


“はじめまして、マ・ヘリさん。
突然の手紙で驚かれたでしょう。

私は、ソ・イヌの養父のジョン・リーと申します。

ヘリさんのことは、イヌから電話でよくお話を伺っています。
イヌとお付き合いして頂いているということ。
息子がいつもお世話になりありがとうございます。

じつは、最近ワイナリーを営んでいる私の親しい友人から、
今年収穫した葡萄で作ったワインを入手することが出来ました。
イヌは、このワインがとても好きで、ヘリさん、あなたもワインが好きだと伺っていたので、失礼ながら勝手に送らせて頂きました。

どうか、イヌと一緒に召し上がってください。

イヌがお世話になっているヘリさんにもっと早く、このようにお手紙を出すところを、
御挨拶も遅れて申し訳ありません。

息子イヌは、根がとても優しい、いい男です。
どうか、末長く仲良くしてやってください。

そして、いつかイヌと一緒にアメリカに遊びにいらして下さい。
3人で一緒にワインを飲みましょう。

その日がくるのを楽しみにしております。

韓国の方も寒くなってきているでしょう。
ヘリさんもお忙しいお仕事だと聞いております。
どうかお体にお気をつけて、お過ごしください。 

ジョン・リー。


ヘリは、便箋の文面に何度も何度も目を通した。

…イヌの養父さん!!

丁寧な文章の中に、ヘリに対する優しい心づかいや、
養子のイヌを気遣う気持ちが溢れていて、
それだけで、イヌの養父という人柄が
伺い知れるような手紙だった。

今のイヌとヘリの現状を
おそらく養父のジョン・リーは知らないはずだった。

それにしても、あまりにもタイミングが良い手紙と荷物。

ジョン・リーが送ってくれたワインは
以前、イヌがごちそうしてくれた貴重なワインと同じものだった。

それをこうして、手紙と一緒にわざわざヘリに届けてくれたこと。

ヘリには、それが、

『どうか、このワインを持ってイヌの所に行ってあげて下さい』

そう言っているような気がした。

まだ、1度も会った事のない、アメリカにいるイヌの養父。
全く知らない人なのに、遠くにいるイヌの『父親』がとても身近に感じられた。

側にいなくても、離れていても、イヌの事をこんなに大事に思っている。
そして…。

イヌが電話で養父にヘリの事をよく話していたということを知った。

…イヌ…お父さまに、私のことを話してくれていたのね。

ヘリは、胸の奥が熱くなって、ギュッとジョン・リーの手紙を抱きしめた。


しばらく、キッチンカウンターの上に置いたワインボトルを
見つめながら、
ヘリの中で、ここ最近の出来事がようやく整理できるようになっていた。

父サンテの話、母エジャの言葉。ユナとの会話。
後輩のキム検事、職場の先輩たち、チン先輩、ユン検事、

彼らと交わした言葉が、ヘリの中に降り積もっていた。

そして、ペク・ユンス、ジェニー、イヌのこと…。

まるで、複雑に絡まって、
ほどく事の出来ないように思われていた思考の紐は、
自分の中を見つめ直してみたら、あっさりととかれていた。

その答えにいきついた時、

ヘリは、あまりに悩んでいた自分が馬鹿らしくなって、
クスクスと笑いだしていた。

まるで、ずっと出口のない悪夢の中に閉じ込められていたようだった。

目が覚めたら、なんということは無いことだったのに…。

ヘリは、立ち上がり、5階のイヌの部屋に向かおうとした。

そして、玄関扉を開けようとしたとき、
下に先ほどは気づかなかった物が落ちているのが目に入った。

玄関ドアから差し込まれたように落ちていた封筒。

…何かしら?

ヘリは、不思議になって、その封筒を拾い上げた。


“マ・ヘリへ”

見覚えのある表書きの字にヘリはハッとなって息をのんだ。

イヌ!!

いつから、ここに封筒があったの?
朝出勤する時や、帰宅した時には無かったはず…。

ヘリは、あわてて封筒の端を切った。

中には、2枚の便箋。

折りたたまれた便箋を広げたヘリは、
時間が止まったかのように、瞬きもせずに、それを見つめていた。

1枚目の便箋はよく知ったものだった。

ヘリが、イヌの誕生日にプレゼントとして渡したもの。

『ワンダー・ウーマン利用券』

“1度だけ、どんな時でも呼ばれたら駆けつけるわ”

そうヘリが書いた契約書。

ヘリは震える手で便箋の2枚目をめくった。

2枚目の便箋にはイヌの字でこう書かれていた。

“券を使用させてもらう。
最後にしっかりと会って話がしたい。
金曜日の夜10時にいつもの公園で待っている。

ソ・イヌ”


――― 最後?


ヘリは何度もその文面に目を落としながら、
目の前が真っ暗になっていく気がした。

ジェニーと会った時に聞いた、過去のイヌの話。

つきあった女性が去っていっても、
惜しむそぶりが無かったということ。

…イヌは私と別れたつもりなのかしら?
ううん。別れるつもりなの?
この『しっかり会って話をしたい』っていうのは、そういう話?
手紙をさっきここに置いたのだとしたら、今は部屋にいるはず。

ヘリは、すぐに確かめたいという思いにとらわれて、携帯電話を取り出そうとした。
しかし、思いとどまってやめた。

…明日会える。その時に決着をつけよう。


その夜、

ヘリは、イヌからもらった便箋を何度も何度も見返していた。

それは、『ワンダー・ウーマン利用券』に添えられていたものでなく、
イヌの誕生日に、もらったもの。

“愛している”と、一言書かれた文面。

それから、心の中と記憶に重ねられた
イヌと再会してから一緒に過ごした時間も全部思い出していた。

ヘリは、その便箋を封筒にしまい、再び鏡台の上の引き出しに入れたあと、
100日記念日でもらった指輪がはいったジュエリーボックスを取り出した。

そして、ギュッとジュエリーボックスを腕に抱いたあと、ヘリは覚悟を決めたように、
それをバッグの中にしまった。

次の日の朝、

ヘリは、シューズクロークから、1足の靴を取り出した。

“幸運を招く靴”

1年半前、スキー場のオークション会場でヘリが競り落として、イヌから譲り受けたもの。
大切にしていたジオベルニの靴だった。


…私に幸運をちょうだい。


靴を履いたヘリは、1つ息をつくと、
まっすぐに前を向いて、出勤するために玄関ドアを開けた。



(「試される絆」19終わり 20に続く)



登場人物

マ・ヘリ(マ検事)

ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士

ジョン・リー…イヌの養父


イヌのアメリカの養父の名前登場。

ジョン・リーさん。
あれ?どこかで聞いた名前?と、よく韓国ドラマを見ている方なら思ったかも。
そう、韓国ドラマの「シティ・ハンター」に出てきた名前ですね。
私もテレビで見たのですけど、もう見る前には、養父さんの名前はジョン・リーさんって決めていたもので、迷ったのですけど、そのままにしました。
ジョン・リーのジョンは、みつばがイヌの次くらいに好きな韓国ドラマの男性キャラ。
「チャングムの誓い」のミン・ジョンホ様のジョンホから♪
二次小説「この道の先へ」のコメントで書きましたが、養父さんのみつばの勝手なイメージは、ミン・ジョンホ様だったので。
苗字のリーは、実際にアメリカに住んでいる知人の友人さんから。

そして、

いよいよ「試される絆」は完結にむけてクライマックスにはいります。

過去に書いた二次小説ではった伏線がいろいろ、
ようやく、つなげられましたが、ラストまで気を抜かずに更新続けます。

明日も小説の続きを更新予定です。
よろしくお願いします。

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「試される絆」もあと少しです。応援ありがとうございます。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」18話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(18話)




『電話に出てくれてありがとう』

ジェニーの第一声を、ヘリは冷静な態度でうけとめた。

「…用件はなんですか?」

電話の向こうでジェニーの苦笑したような気配がした。

「電話では話しづらいわ。外で会って話しましょう。
ヘリさんの明日の夜の都合は?」

「定時頃にあがる予定だけど」

「じゃあ、高陽にある「エス」というバーを知ってる?」

「ええ」

「そこで、8時に待ち合わせしましょう」

「わかったわ」

そう言って、ヘリはジェニーとの通話を終えた。

よもや、かけようと思っていた相手から
かかってくるとは想像していなかったヘリだった。

しかし、自分が話したいことと、ジェニーが話したいことは
おそらく同じ…。

…よし。いくわよ。マ・ヘリ。

ヘリは、全ての事に向き合う決意を固め、
出陣前に士気を高めるように、意気込んで
熱いシャワーを浴びにバスルームに向かっていた。


翌日の夜、仕事を終えたヘリは、
その足でまっすぐにジェニーとの待ち合わせのバーに向かった。

先に来ていたジェニーが手をあげてヘリを迎える姿に、
ヘリは、固い表情で黙ったまま会釈して横の椅子に座った。

「話って、この前のことよね?」

ヘリが切り出した。

「私も、ジェニーさんに聞こうと思っていたの。
あの日何があったのかって」

イヌの部屋の前で、イヌと抱擁していたジェニー。

…やっぱり、言ってないのね。

ジェニーは、脳裏にイヌの顔を浮かべて、浅い溜息をついた。

「イヌから何も聞いてない?」

「聞いてないわ。ただ、誤解だと言ってたけど」

あのシーンの何をどう誤解するのか、
そう自分の心をよんだイヌの発言だと思うけど、それ以上に、一体どうしてあんな風になっていたか、その肝心の訳をイヌは話してくれなかった。
それは、きっとジェニー側の方に理由があるからだろう。
そんなことは薄々想像出来たヘリだったが、イヌが何の言い繕いもしないことで、かえって不安を大きくしていた。

ただ、信じろ。と言われたけど…。

「あれは、私が取り乱したのを、イヌが支えてくれただけなのよ」

ジェニーが言った。

「ジェニーさんが取り乱した?」
…どうして?そう問うようなヘリの視線にジェニーがフッと目をふせた。

「じつは、この前…そう、あの日、私の身内が亡くなったという知らせをもらったのよ」

「それは…」ヘリは息をのんだ。

そんなことがあったの。

「お気に毒に…つらかったでしょうね」ヘリは言った。

ヘリの言葉にジェニーは「ええ…」と答えた。

ヘリの前にカクテルが、ジェニーの前にワイングラスが置かれた。

ジェニーは自分のワインを一口飲んだあと、息をついた。

「もう随分会ってない身内だったけど、亡くなったと知ってね。自分でも驚くほど動揺したのよ。ずっと冷めた感情でいたけど、本当は心の中でずっと愛していたんだって気づいたのね」

それが、あの時言っていた

『…ずっと愛してたのよ』のジェニーの言葉。

…イヌに言ったんじゃなかったのね。

ヘリの中で、ようやくあの時のジェニーのセリフに合点がいった。

「韓国で私のこんな事情を知っているのはイヌだけだったから、ついイヌを頼って訪ねてしまったのよ。部屋には入らなかったけど…」

かえってそれが、あんな結果をまねいてしまった。

「私のせいでね。あなたとイヌが、気まずいことになっているんじゃないかって思って、連絡したの。きっとイヌの事だから、詳しい事はあなたに話してないかもしれないと思ったから」

イヌは、親友の秘密を人に話すような人じゃない。

「ええ」

ヘリはうなずいた。

「ねえ、ヘリさん。これで、もしまだイヌとぎくしゃくしていたとしても、もう何の問題もないでしょ?」

「…ジェニーさん」

ヘリは俯いて、目の前のカクテルの中にうつった
自分の顔を見つめた。

「今回のことは、今の状態になった原因のすべてじゃないの」

検事と弁護士として向かいあった時から、
いや、その前から、曖昧な空気をひきづっていた。
今回のことは、その付属にすぎない。

ジェニーとの一件があってもなくても、
いつかはこんな風になっていたかもしれない。

でも。

「いい機会だから、私、ジェニーさんにずっと聞いておきたかったことがあったの」

「なにかしら?」ジェニーが首をかしげた。


ずっと心の中に留めておこうと思っていたけど、
でも、こんな今だからこそはっきりさせたい。

ヘリは、コクリと喉を鳴らしたあと、口を開いた。

「ジェニーさんはソ・イヌのこと、愛してるの?
親友としてではなく、女として」

ジェニーがじっとヘリを見つめた。


『ヘリさんは、イヌの事が好き?愛してるの?』

以前、ジェニーからそう聞かれたことがあったヘリだった。

ヘリ自身、あの頃ジェニーとイヌの関係をずっと疑っていた時もあった。
別れた後、イヌがジェニーと共にアメリカに渡った後も。

もし、ジェニーがヘリの実家を訪れて、
イヌが今もマ・ヘリの事を想っている…という話を聞かなかったら、
ヘリは、イヌとジェニーがアメリカで付き合っているかもしれない、とさえ
考えたこともあった。

…たとえ、今まで本当に親友だったとしても。

「ジェニーとは長年の親友だ」イヌはそう言っていた。
でも、ずっと親友だったのかしら?
もしかしたら、恋人だったときもあったのかもしれない。

そんな考えもふと頭によぎることもあった。

だが、イヌと交際するようになって、そんなことはどうでもよくなっていた。
今、イヌと恋人なのは自分で、イヌが愛している女性も自分だけ。

そう自信を持っていたから。

だけど、今の自分には、この答えがどうしても必要のように思えた。

…それが、イヌの言う『束縛』だとしても。

しばらくの間、息を潜めて応えを待つヘリの顔をじっと見つめているだけの
ジェニーだったが、フッと口元に笑みを浮かべた。

「もし、“そうだ”って答えたら、ヘリさんはイヌを私にゆずってくれるの?」

「え?」

自分から聞いておきながら、固まって、完全にうろたえた様子のヘリに
ジェニーは今度こそ失笑した。

コロコロと一人で笑っているジェニーにヘリは唖然としていた。

「…貴女もイヌも。困った人たちね」

ふーっと息をついて、笑い終えたジェニーがヘリに向き直った。
薄暗いバーの明かりの下で、ジェニーはどこか晴れ晴れとした顔になっていた。

「なに?」

少し馬鹿にされたような気分になったヘリは、
ムッとしたように首をかしげた。

「私、普段はこんな事人に聞かないのよ?
でも、どうしても聞いておきたくて、思い切って話したのに…」

ジェニーとの会話は、
なんだかイヌと話をしている時の空気に似ている。
そんな事を感じたヘリが、拗ねたように唇を尖らせた。

「じゃあ、その思い切りに敬意を表して、私もはっきり言わせてもらうけど」

笑いを収めたジェニーが真剣な目をヘリに向けた。
ヘリがコクリと息をのんだ。

「イヌには、イヌの大事な人と一緒にいて、幸せで欲しい。
今は、そうはっきりと思っている。それが私の本心。
そして、ソ・イヌは私の大切な友人。
これまでもこれからもずっと…これが真実よ」

「ジェニーさん…」

きっぱりと言いながらも、

“今は”と言ったジェニーの一言で、ジェニーの隠された答えが分かったヘリだった。

『イヌを男として愛していた。でも、今は違う』

そう、ヘリに答えたジェニー。

そして、これまでも、これからも、ずっと大切な友人ということは…、
過去に恋人だったことは無いということ…。

ジェニー自身、今ヘリに言った事を実際にイヌに伝えていたのかどうか
分からなかった。ただ、過去にイヌに告白したと言ったヘリを責めていたジェニーを思い出したヘリは、おそらくずっと秘めていた想いだったのだと感じた。

そんな気持ちを、今自分に打ち明けたジェニーに、
ヘリは、ひどく申し訳ない気持ちになってきた。

「…変なこと聞いちゃってごめんなさい」

むしろ謝ることの方が失礼だと思いながらも、ヘリはそう言わずにはいられなかった。

しゅん…とうなだれるヘリにジェニーが苦笑した。

「ほんと、以前から思っていたけど、おかしな人ね。
でも、そんな貴女だから、イヌも愛したのだと思うけど」

「イヌは、私のこと愛しているの?」

ヘリの言葉にジェニーが目を剥いて、そして
呆れた顔になった。

「私にそれを聞くわけ?」

「違うのっ。そうじゃなくてっ…」

何が違って、何がそうじゃないのか
ヘリ自身混乱していたが、あわてて手と首を振っていた。

「まだよく分からないのよ。その…恋愛ってものが。
私、イヌに出会うまで、まともな恋愛をしたことがなかったから…」

そう気まずそうに言うヘリにジェニーが首をふった。

「イヌだって、まともな恋愛をしてきてないわよ」

「え?」

驚いたヘリの顔にジェニーが苦笑して、

「少なくとも私が知っている範囲ではね」と付け足した。

「昔、アメリカに住んでいた時、つきあっていた彼女もいたようだったわ。
それに、もてていた一時期なんて、女をとっかえひっかえしてた事もあったぐらいだもの」

とっかえ、ひっかえ・・・。

ヘリは、驚愕を通り越して、唖然とした顔でジェニーの話を聞いていた。

そんなヘリの様子に気づいてジェニーは、

「ティーンエージャー時代の大昔の話よ」と気まずそうに微笑んだ。



(「試される絆」18終わり 19に続く)



登場人物

マ・ヘリ(マ検事)

ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士


イヌの過去のねつ造妄想に関して、
イヌファンの方からブーイングがきそう…と思いながらも書きました。

女性経験はともかく、私は、イヌが複数の女の子とつきあったという過去より、
万一でも、ジェニーと1回だけでも関係を持った事がある、という事実があったら、ショックで寝込むでしょうね(汗)

以前、雑記で、イヌとジェニーの過去の考察の件はブツブツ書いたので、
この件は、みつばの中でははっきりと言い切れるほど設定は出来てるのだけど、
二次小説の中で、はっきりしておきたかったんです。
ヘリ視点で、女としてイヌを見た時に、どうしても気になってたから。

ジェニーの、身内うんぬんの話は、16話のチン検事の過去の話と同様、公式設定から。
ジェニーがイヌへの協力以外の目的があって韓国に来ていた…という件をチラリと。
詳しいことは、いつか「みつばのたまて箱」で更新予定のジェニー・アン主役の「弁護士プリンセス」(未公開)で♪←これ、私、1年前から言ってますね。(汗)

明日も小説の続きを更新予定です。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」17話です。

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試される絆(17話)



「大丈夫か?」

唐突にイヌが言った。

「何が?」

ヘリが冷たく聞いた。

「・・・・・・」

横顔を見ているイヌの気配を感じながら
ヘリは、そっけない口調で続けた。

「大丈夫かって?それは、私の体のこと?それとも、今後の私達二人の事かしら?」

「へり」

「私が今何を考えているか、お得意の超能力であててみたらどうかしら?」

「・・・・・・」

イヌの無言が、かえってヘリにはこたえた。

…私ってば、最低。

ヘリは、唇をかみしめて目を伏せた。

…サングラスをかけていて良かった。
こんな目をイヌに見られたくない。

しかし、イヌの方もサングラスをかけていて、
その瞳の奥の心情は計り知れなかった。

チン☆

エレベーターが1階につくと、ヘリはそそくさと先に降りた。
しかし、エントランスを出て、少し歩いた先で、ヘリは思いとどまって
足を止めて、イヌの方に振り返った。

「薬…ありがとう」

小さな声だったが、はっきりと言ったヘリに、
イヌがそっと微笑んだように見えた。

「熱はもう無いのか?」

「ええ、すっかり下がったみたい。もう大丈夫」

「そうか…」

イヌが尚も何か話しかけようと口を開きかけたのを見て、
ヘリがあわてて目をそらした。

「私、もう行かなきゃいけないから。さよなら」

「ヘリ」

背後で、自分を呼ぶイヌの声を聞き終える前に
ヘリはスタスタと歩き出した。

そんなヘリの背中をじっと見送った後、
イヌは、微かな吐息を漏らして足を踏み出した。

正反対の方角に歩く二人の間隔は広がっていく。
その間を、晩秋の冷たい風が、
イヌとヘリの体も心も冷やすように、吹きすさんでいった。


その日、検察庁で、ヘリは淡々と仕事をこなした。

会議の後、ユン検事がためらいがちにヘリに声をかけた。

「ジョンソンから聞いたが、体の調子はもういいのか?」
そう聞くユン検事に、ヘリは「平気です」と答えた後、
チン検事へのお礼を改めて伝えた。

「なら、いいが」

ユン検事がホッと安心したように息をついた。

「何かあったら誰かに相談しろ。
君は時々、一人で問題を背負い込む癖があるからな」

世間知らずなお嬢様育ちのせいなのか、
それとも頭が良いせいなのか、はたまた人を気遣う性格からくるものなのか。
ヘリは、自分の考えを人に話さずに行動する傾向があった。

「仕事の事はともかく、プライベートな事まで
いちいち職場の先輩に相談するわけにはいきませんよ」

そうぼやくように言ったヘリにユン検事が静かにかぶりを振った。

「人に相談するのと、愚痴をこぼすのは違うぞ。
自分の決めた思いをすぐに実行に移せるのは、いいとか悪いとか決めつける事は出来ない。
でも、時に、誰かの意見に耳を貸して、自分の中でしっかりと答えを導きだしてから行動する事があってもいいんじゃないか?」

「・・・・・・」

「これも経験を積んだ先輩の一つの意見だ。参考までに聞き流しておいてくれ」

「はい…」

頷くヘリに、微笑みかけると、ユン検事は自室に戻っていった。


ヘリは、午後から所用で外に出た。

用事をすませた帰り道。

ヘリはふと、見覚えのある店の前を通りかかって車を停めた。

花屋…。

1年以上前に担当した事件、シン・ドンハの父親シン・ジョンナムが経営している
店だった。
16年前のユン・ミョンウ事件の時、警備員をしていたシン・ジョンナム。
現場にいたイヌの父親、ソ・ドングンを最初に目撃した人物でもあった。

ヘリは、1年前。

ソ・ドングンの潔白が裁判所で証明され、イヌが渡米した後、
再びシン・ジョンナムの店を訪れていた。

店に現れたヘリをジョンナムは驚いた顔で迎えた。

「あなたは…あの時の検事さん…いえ、
マ・サンテ氏の御嬢さんのマ・ヘリさんですね」

「はい。近くに寄ったもので、つい立ち寄ってしまいました。
ご迷惑でしたか?」

「いえ、どうぞこちらへ」

ジョンナムはヘリに店内に置いてあったテーブル席をすすめた。

「…新聞でソ・ドングン氏の記事を読みました。無罪が証明されたとか。
ほんとに良かった。…それで、ソ弁護士…ソ・イヌさんはどうされていますか?
最近はこの店にもいらしていないので」

そう言うジョンナムにヘリが悲しげに目をふせて首をふった。

「私にもわかりません。彼はアメリカに戻ってしまいました」

「アメリカに…そうですか…」

どこか寂しげな目になったジョンナムに、
ヘリは気になっていた事を思いきって切り出していた。

「ソ弁護士をどう思われていました?」

「どうとは?」

「どんな人だと思ったか、率直に言って欲しいんです」

「…大きな方だと思いました」

ジョンナムが答えた。

「お父上の事で、私の事を恨んでも当然なのに、息子を助けてくれたばかりか、私の罪を許してくれました。彼にはどれだけ謝っても足りない罪を」

「息子さんの事件…都合が良すぎるとは考えませんでしたか?」

被害者が起訴を取り下げた事も襲われた女性が示談に応じて事件が急速に終結した事も。


「…ソ弁護士が、恩を売る為に仕組んだ事だと?」

ヘリは黙っていた。

事件が解決した後、

そしてこうしてイヌがいなくなってから、
ずっと出会ってからのイヌの事を細かく思い起すたびに、
たった一つだけ、気にかかっていた事があった。

すべて自分に近づくためにいろいろ仕組んだ事がいっぱいあったが、
あの事件もそうだったのだろうか?
自分を騙していた数々の出来事はともかく、
証人に近づくために起こした事件があったのなら…。

しかし、ジョンナムはゆっくりとかぶりをふった。

「ありえません。あの方はそのような事をする方ではないです」

そう、きっぱりと言った後、ジョンナムは続けた。

「…もし仮にそうだとしても、私は彼を責めません。結果、息子は助かり就職試験にも間に合いました。他の被害者の方々も損はしていない。
お父上の無実を証明するという意志を強くもちながらも、ソ弁護士は関わった人達の人生に真っ直ぐに向き合っていらっしゃったと思います。自分の事だけ考えて弁護士という仕事はしていないと思いました」

ジョンナムの言葉は、ヘリの心の中の声と同じだった。

…良かった、という思いと共に、
せめて、今側にいない、忘れようにも忘れられない男の汚点の1つや2つ見つけていれば、
自分は彼を恨むことも、嫌いになることもできるかもしれない。

そんなバカげた考えが却下された事に、ヘリは少し落胆してしまっていた。


今回、ヘリが担当した事件は、シン・ドンハの時の事件に似ていた。
ヘリとイヌが検事と弁護士として向き合った事件に。

そんな事を思いだしながら、ヘリは、店の側までふらふらと近づいて
店頭に並べられた花を見ていた。
そして、ちょうど店の中から花桶を持って出てきたシン・ジョンナムと目があった。

「こんにちは」

「こんにちは…ああ、検事さんでしたか」

シン・ジョンナムが驚いたように目をみはった。

「ご無沙汰しています」

ヘリは微かに頭を下げると、ジョンナムの持っていた花に目を落とした。

「それ、フリージアですよね?」

「ええ、そうです。花はお好きですか?」

「はい。好きですけど、その花はシン・ジョンナムさんに教えて頂いてから覚えました」

「ああ、ソ弁護士のお父上がお好きだった花ですね」

「ソ弁護士のこと、覚えていらっしゃいますか?」

ヘリの言葉にジョンナムがきょとんとした後、微笑んだ。

「ええ、もちろんです。忘れようもありません。
それにソ弁護士は今もこの店の常連さんです」

ヘリが驚いて目を見張った。

「ソ弁護士がこのお店に来ているのですか?」

「はい。今年の5月ころ、1年ぶりにいらして、韓国に戻って来たとおっしゃっていました。そして又以前のように時々フリージアを買って行かれます」

フリージアを…。

「その花をどこに持って行くかご存知ですか?」

「お父上が好きな花だったと聞いていたものですから、私も思いきって聞いた事があります。墓地の場所を教えて欲しいと。せめて墓前でお詫びを言いたいからと。墓は無いそうです。罪人として亡くなって墓地に入れてもらえなかったから遺灰はお父上が好きだった湖に撒いたと。だから花はその湖に手向けておられるそうです」

「どこなんですか?」

「街から離れた静かな湖畔だとお聞きしました」

「そうですか…」

ヘリは、ジョンナムの持っている白いフリージアの花を
じっと見つめた。

「あの方は、相変わらずいい人です。
私とも、以前と変わらずに接してくれて…」

ジョンナムもヘリの見ている花に目を落とした。

「そういえば、いつもはフリージアしか買わないあの方が、
夏の終わりころ、違う花を買っていかれた事がありました」

「違う花?」

「はい。華やかな花を多めにした花束を作って欲しいと言われました。私が女性に差し上げるのですか?と伺ったら、珍しく照れたようなお顔で、大切な人との記念日だから…と」

ヘリが、ハッと息をのんだ。

ジョンナムの言っている話の花が、
自分とイヌの100日記念日の祝でイヌのキッチンカウンターに飾ってあった物だということを思いだした。

…あの時の花が…。

茫然としているヘリの様子に、ジョンナムは気づかずに、
フリージアの花を優しげに見つめ続けた。


「ずっと辛い思いをされてきたあの方を支えていらっしゃる人がいることが分かって、
私は嬉しかったです。あの方には大切な人と幸せになってほしい。そう本気で願っていますから」

風に揺れるフリージアの白い花の姿と、
ジョンナムの言葉は、ヘリの中で残像のようにいつまでも残った。


その日。
ヘリは実家に帰っていた。

遅い夕食をサンテとエジャと一緒に食べながら、談笑していたが、
ふと、サンテが思い出したように言った。

「そういえば、今週の金曜日の夜は何か予定が入っているか?」

「金曜日の夜?何かあるの?パパ」

「ペク・ユンス君が、今回ソウルに滞在する最後の週なんだそうだ。
それで、ユンス君が、両親も呼んで、みんなで食事をしないか、と提案してくれたんだが」

みんな、というのは、ペク・ユンスと、そのご両親。そして、サンテ、エジャに、ヘリを含めてのことだろう。

「ヘリ、お前はどうする?」

ヘリは、静かにかぶりをふった。

「私は辞退するわ。パパ」

「…そうか。わかった」

ヘリの答えは予測済みだったらしく、サンテは、あっさりと頷いていた。

エジャは、そんな二人の顔を見比べたあと、黙って微笑んでいた。

食事が終わったあと、
エジャが風呂に行ってしまい、サンテと二人きりになったヘリは
おもむろにサンテに話を切り出した。

「パパ…、この前話していたことなんだけど」

「この前って、いつの話だ?」

きょとんとしたサンテにヘリが続けた。

「あの、パパが私に検事を続けるつもりなのか?って聞いた日のこと。
パパは、『結婚は…』って何か言おうとしてたわ」

「ああ…」

思い出したのか、サンテが少し気まずそうに目を伏せた。

「私ね、パパ」

ヘリが続けた。

「あの時、初めて真剣に考えたのかもしれないの。
結婚っていうこと。だから、パパやママにはっきりと言えるほど自信を持ってはいないんだけど」

この数週間。

自分のこれからの将来の事を生まれて初めて真面目に考えたかもしれない。

「いつか、したいと思ってるのよ。
それが、いつとか、どこでとかは分かっていないのだけど、
はっきりと決めているのは、1番好きな人とっていうことなの」

検事になりたての頃は、サンテからの見合い話もとくに関心がなかった。
結婚や恋というものがよく分かっていなかったため、
親の決めた事に従っていれば、問題はない。そう思うところもあった。

あのまま何もなければ、ソ・イヌと出会わなければ、
自分はサンテの進める縁談にのって、とくに知らない誰かと結婚していたかもしれない。

父サンテは、かつてヘリに「たとえ、恨まれても、娘のお前を愛している」
…だから、幸せになってほしい。そう言っていた。

両親の望む結婚をしたら、自分も幸せになれる。そんな考えもあったけど、
今は違う。

相手が、“ソ・イヌ”かは今は分からない。

でも、結婚は自分が一番好きな人と。
それだけは今のヘリにはっきり言えることだった。

自分の将来を案じてくれているサンテに、ヘリははっきりと伝えておきたかった。

ヘリの話を黙ってじっと聞いていたサンテだったが、
話終えて、自分を真剣にみつめる娘の顔にふっと微笑んだ。

「ああ、お前の考えは分かった。ヘリ。好きにしなさい」

「パパ…」

「勝手にしろ、と、突き放しているわけじゃない。
もうヘリは、人生の責任を自分でとれる立派な社会人だ。
私はそんな娘を信じているということだ」

サンテの父親としての暖かい眼差しに、
ヘリはジンっと心が熱くなって目を潤ませた。

「パパは、この前、結婚は…の後、本当はなんて言おうとしていたの?」

「あれは…、ついでにお前の考えを聞いておきたかったんだ…結婚ということのな」

サンテが、浅い溜息を1つついた。

「信じていても、心配はしてしまう。それが親ってものだ。
お前もいつか誰かの親になったら分かるだろう」

…だが、親が口を出すまでもなかった。

ヘリの毅然とした態度に、サンテも父親として心の中で感銘を受けていた。

学生時代や、検事になりたての頃、
自分の顔色を伺って、言いなりだったり、
目を盗んでこっそりと遊んでいた娘とは違う。

「自分でいいと思った道を進めばいい。だが、心配はかけないで欲しい」

父親として、見守っているから。

「はい。パパ」

…ありがとう。

話し終えたあと、照れくさそうに、黙ってそれぞれお茶をすする
父子の姿を、とっくに風呂からあがっていたエジャが、
バスタオルで目頭を押さえながら影で見守っていた事に、二人は気づいていなかった。

ヘリは、自分の中の未消化だった物が1つ無くなったことに、
ほっと息をついた。

だが、まだ、決着をつけなければならないことも、
けじめをつけなければならない事もあった。
会って、話をしなければいけない人も・・・。

しかし、その夜、

実家の2階の部屋にいたヘリが、
その相手に連絡をとる前に、携帯電話に着信があった。

相手の名前を画面で確認したヘリは、
息を深く吸って、吐いた後、電話を耳にあてた。

「…はい」


『ヘリさん?』

電話の向こうでジェニーのほっとしたような声がした。


(「試される絆」17終わり 18に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)

ソ・イヌ(ソ弁護士)

ユン検事…ヘリの先輩検事

シン・ジョンナム…花屋の店主、16年前の事件の目撃者

マ・サンテ…ヘリの父親
パク・エジャ…ヘリの母親

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士


今日の記事は予約投稿なので、コメント等のお返事は遅くなります。
よろしくお願いします。

明日も小説の続きを更新予定です。


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試される絆(16話)



「私は…」チン検事が口を開いた。

「ずっと検事を続けるつもりだった。何があってもやめる気なんてなかったわよ。
亡くなった父の事がきっかけで、検事になるって決意して、それはなってからも変わらなかった。
結婚適齢期とかで、周囲や母にもとやかく言われるようになった事もあったけど、
結婚は考えてなかったわ…というか、考えられなかった。好きな人がいたから」

想いが届かなくても、側にいたかった。

傍にいて、好きな人の公私ともに助けになりたかった。

昔、チン検事がヘリに言った、
『あなたの愛し方が正しいとは限らないのよ』

人には、それぞれ愛し方があるんだということ。

1年前のあの事件の後
ヘリもイヌと別れて、会えなくなった時、
チン検事の言っていたことが本当の意味で分かった。

人を好きになるということも。
仕事のことも、結婚のことも。

チン検事は、自分の気持ちにまっすぐにひたむきに生きてきた人なんだ、と
感じたヘリだった。

「悩みませんでした?」

そう聞くヘリに

「悩まないわけないでしょう。いっぱい悩んだわよ」とチン検事が言った。

「でも、どんなに悩んでも自分の中の答えは決まっているんだもの、仕方ないわ」

検事という仕事を続けたい。
ユン・セジュンが好き。

それを貫く事がたとえ、辛くとも。
それは、変えられない。

「自分の人生なのに、他人がとやかく言うことや、はいってくる情報にふりまわされたりしていたら、選択肢は他にも沢山あるんだって気づかされて迷う時もあった。
でも、自分のやりたい事や想いが決まっていたら、選ぶ道は一つだったのよ」

以前イヌに言われた言葉がヘリの脳裏をよぎった。

『自分がどうしたいか、頭でなく心で分かっていれば答えは出るはずだ』

ヘリは、チン検事の話に思わず力強くうなずいていた。


食事を終えた食器を洗って、
ヘリが薬を飲むのを見届けたあと、チン検事は立ち上がった。

「じゃあ、私は帰るけど、明日まだ熱が高いようなら病院に行くのよ」

「はい。先輩、お手数おかけしてすみません。
すっごく助かった上に、嬉しかったです。ありがとうございました。」

「あなたにそんな殊勝な態度を見せられると面くらうわね」

ペコリとお辞儀して礼を述べるヘリに照れ隠しのようにチン検事が言って、
肩で息をついた。

「とにかく悩み事は、体が回復してからにしなさい。
体調がよくない時は、悪い方にばかり考えがちになるから」

「はい」

「それと…」

チン検事がややためらった後に続けた。

「恋愛のこと、私だって、人にとやかく言えるほど長けているわけじゃないけど、
いろいろあっても、それでも一緒にいる事をあなたが選んだ人なのでしょう?
なら、何があっても大丈夫なんじゃないのかしら」

「チン先輩…」

チン検事なりに、ヘリを慰めて、
励まそうとしている事が分かったヘリだった。

…ありがとうございます。

もう一度ペコリとお辞儀するヘリに
微笑んだ後、チン検事は玄関から出ていった。

パタン…。

玄関ドアが閉まり、ヘリだけになった空間に静寂が戻ったが、
ヘリは、もう心細さも孤独も感じなかった。

とにかく熱を下げて、体を回復しよう。
これからの事は後でゆっくり考えよう。

そう決めたヘリは、ベッドに戻ると、横たわり目を閉じた。


その日の夕方。

事務所で雑用の仕事を済ませたイヌは、
ジェニーに呼び出されていた繁華街の中のカフェに向かった。

待ち合わせ場所にやってきたイヌを、
先に来ていたジェニーが席に座って待っていた。

疲労と憂いの色を滲ませながらも、感情を消している男の顔を見て、
ジェニーが思わずため息をもらした。

…まるで、アメリカにいた頃のイヌに戻ってしまったわね。

「用事って何だ?」

注文をとりにきた店員に、メニューも見ずに、
「コーヒーを」と、機械的に頼んだあと、イヌがジェニーに聞いた。

「聞かなくても分かっているでしょ?昨日の件よ。
あれから、ヘリさんとどうなったの?」

イヌの部屋の前で、イヌと抱擁している姿をヘリに見られていた。
あれだけで、ヘリがあそこまで取り乱すとは思っていなかったが、
それにしても、尋常ではない様子だった。

ヘリの後を追いかけていったイヌだったが、
すぐに戻ってきた。

そして、「私に説明させて」と行こうとするジェニーを引き留めていた。

「後で、もう一度僕から話すから、君は帰ってくれ」

そう、言ったあと、
「すまない」と辛そうに顔をそむけたイヌ。

…すまない。なんて、むしろ謝るのは私の方なのに。

そう思いながらも、ジェニーは「分かった」と答えて、
その場を去っていた。


あの後、いったいマ・ヘリとどうなったのか。
ジェニーは気が気でない休日を送っていた。

一向に連絡のないイヌに、戸惑いながらも電話したジェニーは、
今日もイヌが事務所で働いていることを知って、カフェに呼び出していた。

「ヘリさんにはちゃんと説明してくれた?
当然、仲直りできたんでしょう?」

そう聞くジェニーに、イヌは返事をしなかった。

「イヌ?」

無言で、能面のような顔で目をふせている男に、
ジェニーは、じれたように、もう一度呼びかけた。

「ジェニー、僕は…」

イヌが口を開いて、顔をあげた。

その表情にジェニーがハッと息をのんだ。

今まで見たこともないようなイヌがそこにいた。

悩んだ姿も、落ち込んだ顔も、暗い表情も。
長年一緒に過ごしていた親友の塞いだ様子は今までも
見てきたはずだったが、

ここまで儚げなイヌは初めてだった。

自嘲の笑みを浮かべながらも、
うっすらと目元を紅く染めたイヌの瞳は、
細かく悲しげに揺れていた。

「僕は、そんなに信用出来ない人間かな?」

ポツリと呟いたイヌの言葉は、
流れ落ちた一粒の涙のようだった。


「…何があったの?」

ジェニーが思わず声をひそめて聞いた。

「昨日のことだけじゃないわね。もしかして、この前話していた
担当事件の事でヘリさんと何かあったの?」

「別に、話すような事は何もない」

「それが何もないって顔?誤魔化しても無駄よ。
どれだけ付き合いが長いと思っているの?」

「付き合いが長いからって、僕の事が全部分かるのか?」

静かな物言いだったが、剣の入ったイヌの声色と、
挑むような鋭い眼光に、ジェニーは眉をひそめた。

イヌが苛立っていて、そして喧嘩ごしになっているのが分かった。

それだけで、イヌとヘリが今どんな状況なのか、
イヌの状態で、この場にいないヘリもどんなことになっているのかを
薄々感じとったジェニーだった。

しばらく、お互い目をそらし、
カフェの店員がコーヒーを運んでくる間、イヌとジェニーは
無言のまま過ごした。

ホットコーヒーを口に含んだあと、
カップを置いたジェニーが、やおら口を開いた。

「イヌ…あなた、ヘリさんに自分の気持ちを打ち明けた事ある?」

ジェニーが聞いた。

「自分の気持ち?…あるよ。当然だろ?」

付き合っているのだから。

「私の言ってるのは、『好き』とか『愛してる』って言葉じゃないわ」

「どういう意味だ?」

「あなたがヘリさんをどう思っているか、ちゃんと伝えてる?」

「それが、さっきの言葉じゃないのか?」

「…わざと聞いてる?」

ジェニーは眉をひそめて顔をしかめた。

いつもなら、本心を知られたくない時、しらじらしく恍けるこの男の癖を嫌いではないジェニーだったが、今は違うようだった。


「イヌ」
ジェニーは溜め息を一つついた。

「黙っていても分かってもらえると、ヘリさんに甘えているのはあなたの方に見えるわ」

「・・・・・・」

「失いたくないんでしょう?なら、自分の気持ちをぶつけなさいよ」

まだ、何も話していないというのに、
全てを察したような親友の言葉に、薄く笑いながらも、
イヌは、内心ざわつく物を感じていた。

「いつもの君らしくないな。ジェニー。
他人のプライベートに踏み込まないのが、君のポリシーじゃなかったのか?」

親友といえども、今までも、こういう事には口を出さず意見をおしつけなかった君が珍しいな。

皮肉がこもったイヌの言葉もジェニーは、軽く受け流していた。

「…後悔するわよ」

声を落として低くなったジェニーの声にイヌが目を細めた。

「本当に失いたくないなら、プライドもポリシーもトラウマも
何もかも捨てて、しがみつかないといけない時もあるのよ。
何と引き換えにしても、それだけ価値のあるものだったと、後で気づいても遅いのよ。
イヌ、あなたには、後悔してほしくない。…私みたいに」

「・・・・・・」

言い終えて、寂しげに目をふせたジェニーをイヌがじっと見つめた。

その眼差しには、もう苛立ちも怒りも含まれていないようだった。

「ジェニー」
イヌが名を呼んでジェニーの視線を上げさせた。

「昨日は言えなかったけど、君の事を大事に想ってくれている人がいる。
僕も友人として君を大切に思っている」

ジェニーがじっとイヌの顔を見つめた。

「だから、元気を出せ」

柔らかい笑みを浮かべて、励ましの言葉をかけるイヌに、
ジェニーは思わず苦笑を漏らした。

…まったくよく言うわね。

「今のイヌにそう言われても説得力に欠けるわ」

イヌが笑って、

イヌとジェニーの間の空気が和らいだ。

…君の言葉には説得力があったよ。ジェニー…。

そう思いながら、イヌはコーヒーカップを口に運んで、
ジェニーに言われた事と自分の想いをじっくりと加味するように、
目を閉じた。


翌日。

ヘリの熱はすっかり下がっていた。
鼻水や咳という風邪の症状もなく、体調はほとんど回復しているようだった。

…ほんとにチン先輩が言っていた通り、ただの知恵熱だったのかしら?

そんな事を思いながらも、自分を看病してくれた
チン検事に心の中で感謝を述べたヘリだった。

そして、キッチンカウンターの籠の中に入れていた
薬袋を手にとってじっと眺めた。

薬はイヌが持ってきてくれた物だとチン検事が言っていた。

せめて一言お礼を言わなければと思いながらも、
ヘリは、まだメールすら、することを躊躇っていた。

ひとまず、出勤の準備をして、ヘリは部屋の外に出ることにした。

ボンヤリとしながらも開いたエレベーターに乗り込んだヘリは、
顔をあげて、そこにいた先客に驚いて足をすくめた。

イヌが目の前に立っていた。
イヌもヘリに気づいたようだった。

「あ…」

そのまま後ろのドアは閉じて、エレベーターが動きだした。

ヘリは、気まずさを感じながらイヌから少し離れた場所に立った。



(「試される絆」16終わり 17に続く)


マ・ヘリ(マ検事)

ソ・イヌ(ソ弁護士)

チン検事…今は春川地検にいるヘリの先輩検事。ユン検事の妻。

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士




明日も小説の続きを更新予定です。

今日、明日の記事は予約投稿なので、コメント等のお返事は遅くなります。
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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」15話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(15話)




今まで熱を出すことなどほとんど無かったヘリは、
どうしたら良いのか全く分からなかった。

一瞬、実家に帰ろうか、とも、
真っ先に、エジャに来てもらおう、と考えたヘリだったが、
今、こんな状態を両親にも見せたくなかった。

休日診療の病院に行くのも億劫だった。

…気持ちの整理がつくまでは、誰にも会いたくない。

ヘリは、なんとか立ち上がると、
薬箱に生理痛用に常備してあったアスピリンを水と一緒に飲んだ。

そして、ベッドの上に倒れこむと、
まるで鉛のような体と、それ以上に重く感じる心を鎮めるように、
目を閉じた。


どれくらい眠ってしまったのか。

…ピンポン…ピンポン…という微かなインターフォンベルの連続音に
気づいたヘリは、気だるげに体を起こした。


部屋の中はすっかり明るくなっていた。
いつのまにか1夜を寝て過ごしてしまったようだった。

それでも、まだフラフラする体を何とか歩かせて、
ヘリは、インターフォン画面を確認しにいった。

玄関前にチン検事が立っていた。

…チン先輩?

驚いて、ドアロックをはずして玄関扉を開けると、
まぎれもなくチン検事がそこにいた。

「こんにちは。マ検事。お休みの日に突然悪いわね」

「こんにちは。チン先輩。どうされたんですか?」

「これ」

チン検事が持っていた紙袋をヘリに差し出した。

「春川土産。…と言っても、お礼のつもりなの。
ビンにくれた人形のドレスとか、他にもいろいろあなたにはお世話になってたから。
中身はお菓子なんだけど、野菜を使ったもので、砂糖不使用の物よ。
私たち家族が今はまっていて、いつも沢山買うから遠慮しないで受け取って」

「ありがとうございます」

ヘリは、ぎこちなく微笑むと、おずおずと紙袋をうけとった。

大した重さでは無かったのだったが、
ズシリとしたその手ごたえに、ヘリの体が揺らいだ。

「ちょっと、大丈夫?」

チン検事が驚いて、ヘリの体を手で支えた。

「なに?具合悪いの?」

「ええ…あの、少し熱があるみたいで」

「少し?」チン検事がヘリの額に手をあてた。

「…少しどころじゃないわね。結構熱いわよ。
病院には行ったの?今お母さんか、彼氏は近くにいるの?」

ヘリは、弱弱しく首を横にふった。

そんなヘリに、チン検事は大きな溜息をつくと、
「早く寝なさい」と
ヘリの体を手で部屋に押し入れた。

「チン先輩?」

一緒に強引に部屋の中に入ってきたチン検事に、
ヘリがあせって振り返った。

「まず、熱が何度あるのか、しっかりはかって。体温計はどこ?」

ヘリは、救急箱からほとんど使ってなかった体温計を取り出した。

…電池切れてないかしら?

厳しい顔をしたチン検事に、内心びくびくしながら、
ヘリは、体温計を口にいれた。

「38度ね…」

ヘリの差し出した体温計を、眉をひそめて見ながら、
チン検事は溜息をついた。

「まず、その服を着替えて、ベッドに横になりなさい。
あと、クスリを飲む前に何か口に入れないと。このお菓子…って
いうわけにもいかないわね。冷蔵庫に何かある?」

そう言いながら、キッチンの冷蔵庫のドアを開けた
チン検事は、再び盛大に溜息をついた。

「…ちょっと、あなた普段一体何を食べているの?
冷蔵庫の電源をいれておくのも勿体ないわよ」

最近の週末イヌと部屋で食事することもなく、
母エジャも訪ねてくることが無かった。
残業続きで、夜は適当に食べていたヘリは、
冷蔵庫の中にほとんど食料というものをいれていなかったのだった。

「…すみません」

「怒っているわけじゃないから謝らないの。呆れてはいるけど。
いいからあなたはベッドで寝ていなさい。私、これから食料や薬を買ってくるから」

「ええっ?そんな、いいですよ。チン先輩。
せっかくのお休みなのに、ユン先輩やビンちゃんの所にすぐに帰ってあげてください。
私は平気ですからっ。もう子供ではありませんし」

そうあわてて言ったヘリを無視してチン検事が立ち上がっていた。

「スペアキーはどこ?戻ったら、勝手に部屋に入るから、眠っていていいわよ。
あなたって子供より手がかかる人ね。ビンの方がこういう病気の時よっぽど扱いやすいわよ」

8歳の少女と比較されて、さすがにヘリは、
気まずそうな顔になって、おとなしくベッドの中に入った。

「じゃあ、行ってくるけど、何か食べたいものとか欲しいものある?」

ヘリは、布団の中で、弱弱しく首をふった。

「それなら、適当に見繕ってくるわ」

そう言って、チン検事は、部屋に入ってきた時と同じように、
颯爽とした足取りで出ていった。

あいかわらず、きつい物言いのチン検事だったが、
ヘリの事を心配して、そして、呆れながらも、ほおっておくことが出来ないという
態度も昔とかわらないようだった。

それに、誰かの世話をするという事にも手慣れたような雰囲気だった

…さすが、ユン検事の妻で、ビンちゃんのお母さんね。

強引だったが、チン検事の出現で、ヘリは、心底ほっとした思いになっていた。
そして、ベッドの中で再び目を閉じた。

…しばらくして。


ベッドの後ろのキッチンから聞こえてくる物音でヘリは目を開けた。

「…チン先輩?」

ヘリが起き上がって、後ろを振り向いた。

「ああ、起きた?今、粥を作っているの。もうじき出来るから少し待ってて。
キッチン勝手に借りているわよ」

買い物から戻ってきたチン検事が、料理をしていた。
あれから又しばらく時間がすぎたようだった。

「ありがとうございます」

そう言って、ヘリは、ふらふらとキッチンカウンターまで歩いた。

食欲は無いと思っていたが、チン検事の作った料理の匂いに、
ヘリの胃が刺激されたようだった。

「熱いうちに食べて。でも、やけどしないようにね」

まるで、本当に子どものビンに言うようなチン検事の言葉に、
ヘリが内心微笑んで、差し出された匙で粥を食べ始めた。

ヘリの食事を前の席に座ったチン検事が見ていた。

「まだ鍋に粥が残っているわ。果物と、水やジュースは冷蔵庫の中よ。
あと…缶詰くらいは開けられるわよね?」

「もちろんです。そこまでもう世間知らずじゃありませんから」

「そう、良かったわ。じゃあ、粥を食べたら、この薬を飲むのよ」

「これも先輩が買ってきてくれたんですか?」

「違うわ。あなたの彼氏よ」

薬袋をしげしげと眺めていたへりは、
チン検事の最後の言葉に驚いて顔を上げた。

「イヌ、ソ弁護士が、ですか?」

チン検事が頷いた。

「この部屋を出た後すぐに、そこの廊下でばったり会ったわ。
あなたの様子を聞かれて、まだ熱があると言ったら、この薬を渡して欲しいって言われたの」

「それで?それで、イヌは、他に何か言ってました?」

興奮したように身をのりだして聞くヘリに、チン検事が呆れた顔をした。

「私がこれから買い物に行くって言ったら、『お願いします』って頼まれただけよ。
そのまま別れたわ。これから仕事に行くような恰好をしてたけど」

「…そうですか」


ヘリは、薬袋を手にとった。
このマンション近くの薬局のもので、袋も真新しかった。
イヌは、わざわざこれを買って、自分の様子を見にこようとしていたのだろうか…。
今日も日曜日だというのに外出着なんて、まだ仕事は忙しいのかしら。
それとも…。

虚ろな目で考えこんでいるヘリを、カウンターに頬杖をついたチン検事が
じっと見ていた。

「…彼と喧嘩でもした?」

「え?」

「あなたも、そして、ソ弁護士も何か変だったから。
そう感じただけ。話したくないなら話さなくてもいいわよ」

おそらく、ユン検事はチン検事に何も言っていないのだろう。
ユン検事は、例え、妻にでも軽々しく、職場の人間のプライベートな事に関する噂話をするような人では無かった。

ヘリは、気まずそうにコクリと頷いた。

「…いろいろありまして。どこから、何から話せばいいのか分からないんですけど。
というか、今自分でもよく分からないんです。どうしてこんな事になったのか」

「それで、知恵熱を出しちゃったわけね」

「知恵熱…ですか?私、今まで熱を出したことなんて無かったものですから」

「基本、いつも深く物事を考えていないからでしょ?」

「・・・・・・」

チン検事の容赦のない言葉に、ヘリが首をすくめた。

「昔のあなたって、後先考えずに行動したりするから、何かにじっくり悩んだりってすることがほとんど無いみたいで、他人に迷惑かけたりもしてたけど」
…それで、さんざん手こずらせてもらったけど。

チン検事が思い出したように苦笑していた。

「無自覚だったのよね。他意がないというか、無邪気というか。
それに気づくまで、私も頭を痛めたけど、そのくせ、妙に他人の事を気遣ったり、
想いや感情に踏み込みすぎたり、思い込みも激しかったりするのよね」

「…なんですか?チン先輩は春川地検で分析の仕事でもしてるんですか?」

「分析するほどでもないわ。あなたってわかりやすいのよ」

拗ねたように唇を尖らせたヘリにチン検事が失笑した。

「根が真面目だから、たまに、真剣に思考使ったせいで疲労したのよ。
熱を出した原因が彼氏とのいざこざのせいかは分からないし、何があったのかも知らないけど…」

チン検事が言った。

「でも、仲直りしたいなら、どちらが悪かったとかにこだわらないで、歩み寄った方がいいわよ?」

ユン検事に言われたことと、そっくりな言葉を口にしたチン検事に、
ヘリが盛大に吹き出した。

「それ、ユン先輩にも同じこと言われました」
…やっぱり夫婦ね。

「あの人、そんなことを言ったの?」

自分で口にしておきながら、呆れたように苦笑するチン検事の顔に、
ヘリは、少し心が晴れたような気分になってきた。

「チン先輩…私、人を真剣に好きになることって、実はとても大変なことなんだって。
この年で初めて知りました」

片思いは辛くて、苦しくて、
会えない時は、悲しくて、
でも、一緒にいられる時は、嬉しくて楽しいのに、
喧嘩したら、こうして、気まずくなってしまったり、
相手の事で悩んだり、傷ついたり、傷つけたりしてしまう…。

好きなのに。

ポロリと自分の想いを吐露するヘリに、

「別に年齢は関係ないわよ。年月もね」

チン検事がさらっと言った。

「私がどれだけ一人の人間に片思いしていたと思うの?
だけど、今だって、よく分かってないわ。つきあって結婚した今だって、
相手のこと完全に知ろうなんて、無理だと思う」

「それって…好きだけど、チン先輩は、片思いしてた時から、ユン先輩の嫌いなところとか、許せない部分があったってことですか?」

「当たり前でしょう?片思いしてた時から、全部好きなんて、逆におかしいわ。
自分の幻想に相手を当てはめているだけじゃない。嫌な部分もひっくるめて、好きになっているんだから」

…チン先輩。それって、矛盾している上にのろけに聞こえます。

ヘリはそう思ったが口には出さなかった。

「…先輩、一つ聞いていいですか?」

「なに?」

「先輩が中部地検にいた時…、まだユン先輩とつきあっていない時、
先輩は、自分の将来ってどう考えていたんですか?
結婚とか、仕事を続けるかどうかとか」

後輩のキム検事がヘリにした質問。

そして、最近になって、自分の中ではっきりと浮上してきたこと。

先輩としてチン検事の答えを知りたいと思ったヘリだった。



(「試される絆」15終わり 16に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)

ソ・イヌ(ソ弁護士)

チン検事…現在は春川地検にいるヘリの先輩検事。ユン検事の妻。


「試される絆」沢山の拍手、拍手コメントありがとうございます!!
予想以上の反応を頂いて、私も驚いていますが、嬉しいです。

初めてコメントをしてくださった方もありがとうございます。
非公開のコメントもこちらで全部読ませて頂いてます。
詳細なあとがきや、コメントレス的な話は「試される絆」が最終回になってから
書くつもりですが、この長編も去年から絶対書くと決めていたものです。
今後も「検事プリンセス」の創作を続けていく上で、
私なりに伝えたい重要なテーマも入っているので、辛いですけど、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

明日、あさっての週末はプライベートでたてこむので、
予約投稿になりますが、小説の続きを更新予定です。
コメントのお返事などは遅くなりますが、週明けに読ませていただきます。
よろしくお願いします。



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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」14話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(14話)




伏せていた目を上げて見ると、
イヌは、仕事着の恰好をしていた。

ヘリは、苦しくなっていく心を抑えて、玄関の扉を大きく開けた。

「…入ってちょうだい。でも話はすぐ終わるから…」

そう言って、ヘリはイヌを部屋に招き入れた。

黙ったまま部屋の中を歩いていくヘリの後ろでイヌが立ち止まった。

「その前にさっきのことの説明をさせてくれ」

後ろから聞こえるイヌの声がどこか遠くに聞こえた。


「あれは、君の誤解だ」

イヌが続けて言った。

「…誤解ってどんな?あんな場面を見せられて、話を聞かされて、
何を誤解するなって言うの?ちゃんと説明してくれないと分からないわ」

振り向きもしないでヘリは言った。

イヌが溜息をついた。

「話を全部聞いていたわけじゃないだろう?
だけど、君にショックを受けさせたことは自覚している。
何を思われたのかも。でも、全部君の勘違いだ。ジェニーは…」

そこで、イヌの言葉が少し途切れた。

「ジェニーと僕が、君を裏切るような関係でないことは
君も分かってくれていると思っていた」

説明すると言いながら、
イヌは先ほどの光景の詳細な事情は教えてくれる気はないようだった。

ただ、誤解だと。
自分を信じろ。と言うイヌにヘリが苦笑した。

「イヌにはジェニーさんがお似合いなのかも」

「…なんだって?」

にわかに険しい空気をまとった
イヌの声色に、気づかないふりでヘリは続けた。

「ずっと長い時間一緒に過ごしてきて、
お互いのこと誰よりも分かっているみたいだし、
それに今だって、これからだって…」

同じ事務所に働く弁護士同志で、
どちらかが、違う事務所にうつらないかぎり、法廷で争うということもないだろう。

検事のように決まった異動があるわけではない。

それに、二人とも家族がアメリカにいる。
幼馴染ということだけでなく、家族同士も仲がいい。

付き合っていく上で何の不都合もなく、
むしろ、とてもいい環境のように思えた。

…自分とイヌと違って…。

ヘリは、自分の考えでどんどん息苦しくなってきた気持ちを
吐き出すように、口を開いた。

「二人とも親友だって、言ってるけど、
ほんとは、つきあった事あったんじゃないの?」

つい、ボロリと言ってしまった言葉は、
ヘリの頭の隅の方で、密かに考えたことがあったことだった。
だが、それを口にして聞かないと決めていた。
「友達だ」と言っている二人のことを信じている気持ちもあり、
そして、もし、自分の邪推が本当だとしても、今は些細な事だと
割り切ろうとしていたからだった。

だけど、さっきあんな場面を見てしまった以上、
イヌの口からはっきりと聞きたかった。

たとえ、これがイヌの言っていた『束縛』になるのだとしても。

…ねえ、言って。
お願い。違うなら、違うって。
そうなら、そうだって。

ヘリの問いかけに、イヌはしばらく無言のままだった。

そして、口を開いた。

「…僕を信じないのか?」

ジェニーとの関係のことだけでなく、
さっきの出来事も、話すことも、
弁護士としての自分も。
そして、何より、

恋人としての僕を。

ヘリの最近の言動に含まれた、自分への不信感や疑念。
それらをイヌは、ヘリよりも敏感に察知していた。

ヘリの問いかけの答えではなく、
逆にそう問うイヌの方が、寂しそうだった。

…信じたいと思ってた。でも…。

ヘリが自嘲した。

「あなたは、時々はぐらかすんだもの。事実も本心も。
だから、分からなくなる時だってあるの。
1年前アメリカに行っちゃったことも。
私のこと想ってくれてたって言ってくれたけど、じゃあ、何にも言わないで、どうして遠くに行っちゃったの?どうして側にいてくれなかったの?」

ほとんど捲し立てるように一気に口にした言葉は、
ヘリが心の中でずっとため込んでいたことだった。
ずっと、聞きたくて。でも、イヌは今までそのことを説明してくれたりなんてしなかった。

ゆっくりと振り返ると、
ヘリは、イヌをにらみつけるように見上げた。

その視界がぼんやりと歪んでいるように見えた。


「あなたのこと…、付き合うようになってからも、
ソ・イヌって人の事を全部理解したなんて思ってないけど、
自分の気持ちだけははっきりしてるって、分かってるつもりだった」

この人を愛してるって。
ずっと信じてるって思ってた。

「だけど、今は分からないの」

聞かないと何も話してくれない。
聞いても教えてくれないこともある。
イヌの本心がどこにあるのか、分からなくて、
ずっと不安で仕方なかった。

仕事だからと割り切っているつもりだったけど、
あまりにも冷たい態度を見せられて、突き放された気持ちだった。

ヘリが言った。

「私、何を信じたらいいか、どうしていいか分からない」

「へり」

…だから、今は。


「あなたから離れたい」

イヌが息をのんだ。

見開かれた瞳が、ヘリを凝視している。

「…それは本気で言っているのか?」

イヌが言った。

低く、静かな声。

「…本気よ」

そう答えて、ヘリは唇をかみしめて、言葉をためた。

そして、口を開いた。


「もう会わない」

ヘリの言葉の後、
恐ろしいまでの静寂が二人を包んでいた。

マンションの部屋の中。

週末の二人きり。

いつもだったら、
この時間は、楽しくて、甘い時を共有していたはずだった。

こんな風に、冷えきった部屋の中で、
お互い見つめあったまま直立不動でいるなんて。

いつもの軽口の応酬や口喧嘩の雰囲気と全く違っていた。

向かい合っているのに、見つめ会っているのに、
お互いの心が全く分からない。

…今、お互いが本心で何を考えているのかも。

――‐ こんなことになるなんて。

気を緩めれば、泣きだしてしまいそうな心を
奮い立たせるように、ヘリは、グッとイヌを睨みつけていた…。

まるで、時が止まり、
数十秒の間が凍りついたように、永遠に感じられた
ヘリとイヌだった。

「…もう、会わないというのは、僕と別れるということか?」

イヌが聞いた。

…別れる?

ヘリが目を見開いた。

…イヌと別れる…。

そんなことは…そこまでは考えていなかった。

ただ、とっさに、『今は会いたくない』と思っただけで…。

「気持ちの整理をしたいし」

ヘリが言った。

「…会いたくない」

いろいろなことがあって
気持ちが混乱している。
落ち着くまで、会うのはやめた方がいい。

感情的になって、思ってもいないことを口走ってしまいそうだから。

別れるとか、そういうことまでは考えていなかった。


「ヘリ」

名をよんで、
イヌが足を踏み出したのを見たヘリがビクリっと体を震わせた。

そんなヘリを見つめながら、イヌは歩みを止めようとしなかった。

ゆっくりと近づいてくるイヌにヘリは顔をこわばらせて、一歩足を後退させた。

「逃げるな」

イヌの、突き刺さすような視線と低い声がヘリの動きを止めた。

息がかかるような距離で、イヌがヘリを見降ろしていた。

ヘリは気まずそうに視線をイヌの肩の方にそらせた。

「君は、今感情的になっているだけだ」

イヌが言った。

「冷静になって考えてくれ。僕のことを」

…これまでのことを。

「そんなに僕が信用できない?」


さきほどのジェニーとのことも。
弁護士としての自分も。
ヘリへの想いも。

「…今は何も考えられないの」

…だから時間が欲しい。

うつむいたままそう答えるヘリに、イヌが目を細めた。

「ヘリ」

手を伸ばして、イヌがヘリの手首を強く握った。

「僕を見ろ。見るんだ。ヘリ」

そう言ったイヌが自分の手を見つめて、ハッと息をのむ気配がした。

ヘリの右手の指。
そこにいつもはめていた指輪が無いことにイヌが気づいたようだった。

「・・・・・・」

手首を強く握られたまま、指を凝視されている事に耐えられなくなったヘリは、
物憂げにイヌを見上げた。

そこに予想以上に驚いて目を見開いているイヌの顔があった。

「…?」

…イヌ、どうしてこんな顔してるの?

不思議になって内心首をかしげる
ヘリの手首を掴んでいたイヌの手が、今度はヘリの手を捕らえた。

そして、イヌのもう片方の手がヘリの額にあてられた。

「すごい熱だ」

「え…?」

イヌの言葉にヘリはキョトンとなった。

寒い部屋だから、体がゾクゾクして、氷のように冷たくなっていると思っていた。
感情がたかぶって、興奮しているから、頭が痛くて、熱いように感じていると思っていた。

ヘリは、過去に風邪というものをひいたことが滅多になく、
高熱を出して寝込むという事も無かった。

…私、熱があるの?

自分のことなのに、まるで気づいていないというヘリに、
イヌの方が、険しい表情になって、ヘリの手をグッと握りしめた。

そして、ヘリをベッドの方にひっぱった。

「一体いつからこんな状況だったんだ?
いい大人が自分の体調のことも分からなかったのか?
早くベッドに横になれ。今氷枕と薬を用意するから」

自分をきづかってくれているのは分かっていたが、
乱暴な言葉と叱咤に近いきつい言い方に、今のヘリは素直にイヌの言葉を行動にうつすことができなかった。

「ほおっておいてよ!」

ヘリは、力をふりしぼって、イヌの手を振り払って歩みを止めると、
キッとイヌを睨みつけた。

「いい大人なんだから、自分のことは自分で出来るわ。
いつまでも、何もできないお嬢様扱いしないでよっ」

脳裏に、検察庁で弁護士と検事として対峙した記憶がよみがえった。

…いつまでも、新人検事みたいに見くびらないで。

「ヘリ!」

「お願い!帰って!」

もう、完全に癇癪に近いヘリの叫びに、イヌが、顔の表情を凍らせた。

何か言おうと、口を開きかけたイヌだったが、
思いとどまったように、唇を閉じた。

そして、一つ、浅い息をついたあと、「…わかった」と言った。

スッとイヌの手がのびて、ヘリの頬におかれた。

ヘリの頬を優しくなでるイヌの指の冷たさを、ヘリは無言で感じていた。

「よく休め。何か必要なことがあったら遠慮なく言うんだ。
そして…落ちついたら連絡してくれ。」

イヌの言葉を聞きながら、ヘリは俯いたままだった。

冷静で、ゆっくりとした、イヌのどこまでも優しい声と言葉だった。

…仕事では、つきはなすような態度をとって、
偉そうな態度で、説教するような物言いをするのに、
ジェニーさんとのことも、十分納得するような説明もしてくれないくせに、
いつだって、自分の本心を簡単に見せてくれないのに、

どうして、この男は肝心な時に、
こうやって泣きたくなるくらい優しいんだろう。

思わず、両腕を伸ばして、イヌの胸にすがりついて身をゆだねたくなるほどに。

そして、

「さっき言ったことは噓だからね」
そう自分が言いさえすれば、
この男は、意地悪の一つや、二つ言ってくるかもしれないが、
きっと、自分の体を優しく抱きしめ返してくれるだろう。

それからは、何もなかったように、今まで通りになるのだ。
そんな事が、熱で朦朧としたヘリの頭でも想像がついた。

でも…今は、だめ。

ヘリは思った。

自分の中で、はっきりしていないことがある。

それが解決出来るまでは、今ここで折れてしまって、
何事も無かったようにしても、いずれ、同じことで立ち止ってしまうことだろう。

ヘリは、ゆっくりとかぶりをふって、もう一度静かに言った。


「…行ってちょうだい」


イヌの手がそっとヘリの頬から離れた。

イヌの溜息を聞いたあと、
ヘリは、イヌの足音が自分から遠ざかっていくのを感じた。

そして、俯いたままのヘリの耳に、静かにパタン…という玄関ドアが閉じた音が届いた。

ヘリが、顔をあげると、部屋の中にイヌの姿は無かった。


イヌが完全に部屋から出て行った事を確認したヘリは、
力尽きたようにその場にへなへなとしゃがみこんだ。



(「試される絆」14終わり 15に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士


このあたりの話を書いている時、正直吐きたい気分でした。
…というか、実際に吐いてました(涙)
つわりが酷いから、小説書けなかったんじゃなくて、
ちょうどこういうシーンに突入してたから、体調が悪くなったんじゃないかとさえ
思っちゃいました。

もう、シリアス場面はイナフ(十分です)と思われた方は、
二人のラブラブ話か、ドラマのハッピーエンドシーン、
または、動画サイトの例のイヌ×ヘリ(パク・シフさんとキム・ソヨンさん)のラブラブ動画を見て、気分転換してくださいね♪

明日も懲りずに小説の続きを更新予定です。

今日の記事は予約投稿なので、コメント等のお返事は遅くなります。
よろしくお願いします。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」13話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(13話)




「どうして、迷っているの?」

検事になって半年ほどの新人が、そろそろ仕事にも慣れてきて、
いろいろな事を知るようになる時期。
検事としての自分の適性に疑問を感じたり、
仕事自体に戸惑いを感じるのはよくあることだった。

ヘリ自身、最初の方ですでにその壁にぶちあたった事があった。

だからこそ、キム検事の気持ちもわかると思っていたヘリだったが。

「検事としての仕事を続けるということ自体に迷っているわけじゃないんです。
ずっと憧れていて、いっぱい勉強して、苦労した司法試験にも受かった仕事ですから。
何があっても続けていこうって思ってたんですけど…」

そこで、キム検事は、目をふせて一旦口を閉じた。

「母親が最近体調を崩して入院してしまって。幸い大した事にはならなかったのですけど、
妙に弱気になってしまって。私の将来の事を心配することばかり言っているんです。

『検事の仕事は人を助ける立派な仕事だけど、あなたの人生ももっと考えなさい』とか。

私の姉は結婚して遠くの街で暮らしているんです。
検事の仕事には転勤がつきものですよね。
だから、母の本音は、私には近くにいてほしいっていう気持ちがあるんです」

「そう…」

一人っ子のヘリには、
キム検事の言う話は、身に沁みるようだった。

エジャは、キム検事の母親のような事を言ったことは無かったが、
心の中ではそう思っているのかもしれない。
そして、サンテも…。

『だが、ヘリ、結婚は…』

検事として仕事を続けていくと言ったヘリに言ったサンテの言葉は、
ヘリの将来の事を案じた気持ちから出たものだったのだろうか。

「父も最近は母と同じことを言うようになって、
この前は見合い話まで持ってきました」

「見合い話?」

ヘリの驚いた問いかけにキム検事が自嘲しながらコクッと頷いた。

「親も勝手ですよね。もちろん子供の事を考えてってことは分かってるんですけど。
検事の仕事の件はともかく、私、結婚だけは絶対、自分で好きになった人としたいって思ってましたから、つい両親と大ゲンカしちゃいました。それで親も決まった相手を家に連れてくるなら、検事を続けてもいい、なんて言い出して。言ってることもめちゃくちゃです」

話していることは、親への愚痴のようで、
いつもは元気のいい後輩のキム検事の、しょぼんと沈んだ様子に、
ヘリは、本気で悩んでいた事を知った。

それでも、職場では、ずっと明るく元気よくふるまって、
仕事にも熱心に取り組んでいた。

プライベートな事で、不機嫌さをあらわにして、周囲にバレバレだった
ヘリに比べて、キム検事の方がよっぽど先輩のように感じて、
恥じ入ったヘリだった。

「それで…、私、ヘリ先輩のアドバイスとご意見を伺いたくて。
同じ女性検事として、ヘリ先輩ご自身はこの先のこと、どう考えているのか知りたかったんです」

「私の考え?」

「ええ、もちろん、事情はそれぞれなので、先輩の意見もあくまで1つの参考とさせていただきたいだけです。仕事とか結婚とか、その後の人生の事。どう考えているかってこと」


「・・・・・・」

ちょうど店員が持ってきたビールと焼酎がテーブルに置かれると、
キム検事が「私が混ぜますね」と言って、爆弾酒をつくりはじめた。

キム検事がビールを注ぐ手を見つめながら、
ヘリは、頭の中で、必死に答えを探そうとしていた。

まるで、やってこいと言われた宿題を、あと伸ばしにしたため
白紙状態なのに、先生から突然答えを指名された。…そんな気分だった。

今まで同期の女性検事たちと飲み会でもそんな話になったことはなく、
ヘリも聞いたことなど無かった。

今、目の前にいる後輩が、まるで鏡にうつった自分のように、問いかけている。

その問いに対する答えは、マニュアル本や教本というものは存在しない。

いつもはアドバイスをくれる、頼もしい恋人も今は側にいない。
それにいたとしても、聞くことが出来ない質問だってあるのだ。


…チン検事だったら、こういう時、なんて言うのかしら?

ヘリは、懐かしい女性先輩検事の顔を思い出しながらそう思った。


結局。

ヘリは、キム検事に
「検事の仕事は続けるつもり。結婚のことはまだ考えてない」と答えた。

ヘリの答えは、キム検事には、ほとんど予測済みだったらしく、
微笑んで、頷いていた。

「先輩には、弁護士の彼氏さんがいらっしゃいますものね。
いざとなれば、先輩も弁護士に転職して一緒に働くことだって出来ますもの」


決して、嫌味や羨望で言っているわけではなさそうなキム検事の、
思いもしない話に、ヘリは内心の激しい動揺をおさえて、キム検事に曖昧に笑ってみせた。


それは、ヘリが今まで全く考えた事もない選択だった。

検事をやめて、イヌと同じ弁護士になる…。
…そんな道も選ぶことができるの?


その後、

ヘリは、キム検事と、食事と酒を共にして、
酒がはいって陽気に戻ったキム検事の「あ~、彼氏がほしいです~」という
笑い混じりの愚痴に付きあって、
タクシーでキム検事と相乗りして家まで送り、マンションに帰った。

部屋についたヘリは、
シャワーを浴びたあと、ベッドの上に寝そべって物思いにふけっていた。

酒は入っていたが、全く酔ってはいなかった。

ただ、妙に頭と体が重くだるいように感じた。

ヘリはここ最近の一連の出来事を思い返しながらも、
心の奥では、ずっとひとつの事しか考えられなくなっていた。

…イヌに会って話したい。

ヘリは携帯電話を手に取ると操作した。

数コールの後、電話が通じた。

『はい。ソ・イヌです』

その声だけで、涙ぐみそうになる気持ちを抑えるように、
ヘリは、携帯電話を握りしめた。

「ヘリよ。明日会えない?…ううん。会って話がしたいの」

そう言ったヘリに電話の向こうのイヌが「ああ」と答えた。

『明日は夕方以降の時間はずっと空いている。会おう』

「うん…じゃあ、帰ってきて落ち着いたら、私の部屋に来て」

『わかった。じゃあ、明日』


電話を切ったあと、

ヘリは、ほっとしてベッドの布団にはいった。

イヌとは、公園で気まずい感じで別れたままだったが、
ちゃんと会って、面とむかって話をしたかった。
限られた短い時間でなく、そして職場でない場所で。

…そうよ。こんな状態はマ・ヘリには耐えられない。

たとえ、いつものような口喧嘩になってもいい。
今のようにぎこちないままでいるよりは。
言いたいことは率直に言おう。

そう決意して、ヘリは、いつもより寒く感じる体を温めるように、
うずくまって、布団の中にもぐりこんで目を閉じた。



翌日の土曜日、18時を過ぎたころ、

ヘリは、5分おきくらいに時計の時間を確認していた。
同時に、携帯電話の画面にも目を落としたが、イヌからの連絡は入っていなかった。

そわそわと、部屋の中をうろついていたヘリだったが、
意を決して、自分からイヌの部屋を訪ねることにした。

マンションの階段をあがって、5階のフロアに到着したヘリは、息を切らしていた。

…おかしいわね。たった1階分階段をあがっただけなのに、
運動不足かしら?

そう首をかしげて、前を向いた時、
廊下の向こうに重なっている二つの人影が目に入った。

廊下の一番奥の部屋のドアの前。

ヘリは愕然として、二人を見つめた。

抱擁していたのは、イヌとジェニーだった。

ジェニーが、涙声で言った。

「…ずっと愛してたのよ」

「分かってる…」イヌが答えた。

そして、イヌの背中に腕をまわしていた
ジェニーの体を抱きしめ返していた。


…どういうこと?
今の二人の会話は…、

これは、一体どういうこと?

ヘリは混乱する頭の中で必死に何か考えようとした。
そして、思わず一歩あとずさって…

カツンっと履いていた靴の踵が壁にぶつかった。

その音で、イヌとジェニーがヘリの方を見やって…
二人同時にそっくりな顔で、驚いたように、目を見開いて、ヘリを見つめた。

「ヘリ…」イヌが呼んだ。

「・・・・・・」

さらに、イヌがヘリに何か言おうと口を開きかけたのを見ると同時に、
ヘリが、踵を返して、駈け出していた。

「ヘリ!!」

後ろで、イヌが叫んだ声がしたが、ヘリの足は止まらなかった。

もう、思考することが限界だった。
とにかく、この場所から離れたい。その一心で、ヘリは走った。

「イヌ!追いかけて!」という、ジェニーの声が聞こえた。

それでも、ヘリは、必死で走り続けていた。振り返りもせずに。

ヒールの高い靴で、早く走れないことがもどかしかった。

エレベーターを待っている時間も惜しくて、ヘリは階段を駆け下りていた。

…が、すぐに階段に別の足音が響いたと思うと、

階段の踊り場で、ヘリの腕が後ろから掴まれた。

「ヘリ!!」自分を呼ぶ声で、それが見なくてもイヌだと分かった。

息を荒くして、珍しく切羽つまったようなイヌの声。

「話を聞くんだ。ヘリ」

「…命令しないで」ヘリがつぶやいた。

「ヘリ」

「私に命令しないでよ!」

ヘリが、思いっきり、自分の腕をつかんでいるイヌの手をふりはらった。

そして、後方にたたずむイヌの顔を睨みつけた。

自分でも意識していなかったが、ヘリは泣いていたようだった。
涙で曇った視界の向こうに、イヌの困惑したような顔があった。

…何よ。その顔。傷ついたような顔しちゃって。
傷つけられたのは私よ。

「今私が見た光景の言い訳に来たんでしょ」ヘリが冷たく言った。

「ヘリ」

「言い訳なんてしなくてもいいから。もうどうだっていいのよ、そんなこと」

ヘリが言い放った。

そういいながらも、ヘリの目から涙があふれてきていた。
…言っていることと体が全く反対の反応をしている。

「ジェニーさんのところに戻って」
…私のことはほおっておいて。

少なくとも、今はほおっておいて欲しい。
こんな、グチャグチャに混乱して、自分自身でも分からなくなっている姿を見られたくない。
気持ちが落ち着くまでは離れていたい。

ヘリは、手で顔を覆って、かぶりを振った。

「お願い。行って!」

しばらく、じっと、ヘリを見つめていたイヌだったが、

すぐには変わりそうもない、ヘリの頑なな態度を察して、
フッと溜息を一つついた。そして、

「…わかった。へり」

そう言って、そっと手をのばして、
ヘリの頬に流れる涙を指でぬぐった。

「あとで、君の部屋に行くから」

「・・・・・」

俯きかげんでイヌの言葉を聞いていたヘリは、返事をせずに、
そっとイヌから体を離すと、階段を下りはじめた。

そのヘリの後ろ姿を見送りながら、イヌは、もう一度静かな溜息をついていた。


パタン…。

4階の自室に戻ってきたヘリは、後ろで玄関のドアがしまる音を聞きながら、
壁によりかかったまま、玄関先でへたりこんでしまった。

走ったせいか、心臓がバクバクと激しく動いているようだった。
さっき見た光景のせいで、頭も心も大混乱に陥っているようだった。

何より、聞こえてしまったジェニーのセリフ。

『…ずっと、愛していたのよ』

あれは何?
誰に対して言ったの?…イヌに?

それに対してイヌが言った言葉。

『分かってる』

…分かってるって何を?

自分一人では堂々巡りになっている問いかけを
ヘリは、ぼんやりした頭の中で繰り返していた。

しばらくして、

玄関のドアチャイムが鳴る音がした。

ヘリは、インターフォン画面で確かめもせずに、
玄関のドアを開けた。

「ヘリ」

そこにイヌが立っていた。


「中に入っていいか?話がしたい」



(「試される絆」13終わり 14に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

キム検事…ヘリの後輩検事

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士



とうとう、ここまできちゃいましたね。
…ええ、コメントするのも重い内容ですけど、
明日も続きを更新予定です。とだけ言っておきますね。。。

「検事プリンセス」他、「デュエリスト」記事への
拍手もありがとうございます!!
「デュエリスト」の二次小説はシリアス路線スタートと言ってますが、
今日の話の展開の方がある意味よっぽどシリアスかもしれません(汗)

最近ブログにいらっしゃった方もようこそ♪
ちょうど、シリアス長編話になってますけど、ラブラブ話も大人話(笑)もあります。
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「試される絆」12話です。

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試される絆(12話)




ベンチの前で佇むヘリにイヌもすぐに気づいたようだった。

とくに歩調をかえずに、イヌがヘリに近づいてきた。

「こんなところで一人でランチか?」

「別にいいでしょ」

気まずそうに、目を泳がせてヘリは言った。

「あなたこそ、まだ検察庁で仕事していたの?」

「他の案件や雑用もあってね。これから事務所に帰るところだ」

「そう…」

検察庁で仕事をしていたとはいえ、この公園を通って、
駐車場まで行くのは若干遠回りになる。

とはいえ、イヌがヘリを探して公園に踏み込んでいた、というより、
気分転換をしたくて、歩いていたようだった。

イヌは、木々の多いこの公園を気にいっている。
やはり、自分と同じように癒されたい気分でいたのだろうか?

「お疲れ様」

「ああ、君も。落ち着いたら連絡するよ」

イヌがチラリと腕時計に目を落とした後言った。

…落ち着いたら連絡する。

それって、弁護士として?恋人のソ・イヌとして?

そう聞きたい気持ちをヘリはぐっと抑えた。
おそらく、今日この後もイヌの予定はつまっていて、多忙なのだろう。

それでも、ヘリは恋人としての立場を捨てて、
イヌにどうしても聞いておきたいことがあった。

「ソ弁護士、一つ聞きたいことがあるの」

「なにかな?」

「ソン・チュヒョンさんの傷害事件のこと。あなたは、何もしてないわよね?」

「“何もしていない”とはどういう意味だ?」

いぶかしげに眉をひそめるイヌの顔をヘリはじっと見つめた。

「目撃証人や被害者の家族に裏から圧力をかけたんじゃないわよね?」

ヘリの言葉にイヌが目を見開いた。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、心情を隠したように影を落とした目を細めていた。

「疑っているのか?」

「そうとられてしまうなら、それも仕方ないわ。
でも、今回の事件のことで腑に落ちない点があったから」

イヌが動いたわけでなく、パク・ミンソの権力で、身内、または店の誰かが裏から勝手に手をひいた可能性もあったのかもしれない。
それでも、もしそんな事があれば、弁護士としてイヌが気づかなかった事があるだろうか?

有能な敏腕弁護士と巷で言われているソ弁護士が。

イヌには、一言、否定するか、「知らない」と言って欲しかった。

それで、自分は心からこの事件の結果を納得できる。
そう思ったヘリだったが、イヌの答えは期待を裏切るものだった。

縋るような目を向けるヘリに、イヌがゆっくりと口を開いた。

「もう事件の話はやめよう。マ検事。終わったんだ」


16年前、

カップケーキを再び差し出した手を少年のイヌに邪見に振り払われた時のような、
そんな思いで、ヘリは、茫然となってイヌを見つめていた。

「…どうして?」

ややあって、当惑したヘリが口を開いた。

どうして、そんなことを言うの?

「その事件はもう解決した。しかも君は不起訴にした。
申し開きや不信な点があったのなら、調査を終わらせるべきじゃなかった。
終わった後で、こうして聞くのは間違っている。そうだろ?」

しかも、こんな時に。
仕事とプライベートにしっかりと区切りをつけろ。

冷静な声で、
そう言っているイヌの言葉は、容赦のないもので、
ヘリの検事としてのプライドを少なからず傷つけていた。

上司にも同じような事を言われていたヘリだったが、
それを今、イヌから言われた事に釈然としない思いがあった。

イヌが自分に言ってきた数々の助言やアドバイスは、
今までヘリの中で多大な糧となっていた。
仕事にしてもプライベートにしても。

ただ、今回の事に関しては、なぜか素直に『そうね』と
納得できない自分がいた。

「…私が知りたいのは、ソ弁護士。
あなたが職務に誠実で、事件に対しても、
たとえ、クライアントに不利な事だとしても、
それを包み隠さない正義をもって仕事をしているのかって事なのよ。
もしそうなら、あなたの口からはっきりそう言って欲しいの」

お願い。一言「そうだ」と言って。

自分を見つめるヘリの揺れる瞳に、イヌは目をそらさなかった。
その目の光は、今の公園の外気のように冷え込んでヘリをとらえていた。


「勘違いするな。ヘリ」

イヌが静かに言った。

「弁護士は正義の味方じゃない…検事もだ」

「……」

無言で返したヘリにイヌが続けた。

「それは君も知っているはずだ」

知っている、というより分かったはずだ。
この仕事にまっすぐに向き合って続けてきたのなら。

「あなたに教えてもらわなくても、そんな事は知っているわ」

ヘリが答えた。

…イヌの言っている事は分かってる。

法の下の公正、平等。
そして、その中では計り知れない人の想いと、幸せの基準。

子供の時に信じていた『正義』という物の実態は、
その正体は、形の無いものだという事も。
だけど、自分の信念が揺らいでしまったら、この仕事はできない。

だからこそ…

「分かっているけど、それをあなたに…ソ弁護士の口から聞きたくなかった」

ヘリのまっすぐな眼差しと言葉はイヌの心に突き刺さった。

ソ弁護士には、イヌには正義の味方でいて欲しかった。
例え、この感情が職務や立場を超えたものからきているとしても。


しかし、そんなヘリの想いのこもった射抜くような目にも、イヌは表情を変えなかった。

あくまで、ある意味『正論』を楯に鉄面皮を崩さないイヌの姿勢に、ヘリは、落胆の色を隠せなかった。

…こういう人だという事を知らなかったわけじゃないけど。

「あなたには失望したわ」

ヘリが言い放った事は、まるで口論の末の負け惜しみのようだった。

こんな時でさえ、感情的にならず『正しい』男が恨めしかった。

そして、最後の一矢にも、顔色を変えないイヌに、
ヘリは虚しさを感じ、顔を背けた。

無言で踵をかえすと、ヘリは、イヌを置いて歩き始めた。


イヌと口喧嘩してヘリが勝てた事はほとんど無かった。
悔しい思いをしたこともあったが、それはほとんどたわいも無い戯れ言だった。

でも今回はその意味も雰囲気もいつもと全く違う…。

ヘリは唇をかみしめて、うつむき加減で足早にイヌから遠ざかっていた。

立ち去るヘリをイヌは引き止める事も、追いかける事もしなかった。

そこだけ、

まるで、1年前に時間が巻き戻ったかのように、
二人の間に見えない壁が出来ていた。


イヌは、ヘリが完全に去って、姿が見えなくなるまで、
その場に佇んで、後ろ姿を見送った。

ヘリは、背中を見つめ続ける切なげなイヌの瞳に気づくことなく、
振り返りもせずに、検察庁に入って行った。


その後、

淡々と時間だけが過ぎていき、
数日たっても、その週はヘリの所にイヌから連絡がくることは無かった。

ヘリもイヌに電話をかける事もメールをする事もしなかった。

ある朝、

目覚まし時計が、いつもの時間に吹き込まれたイヌの声を出す前に、
ヘリは、スイッチを止めた。

『愛してる』

そう、最後に入っているイヌの声を聞くのがつらかった。

ヘリは鏡台の前で出勤前の化粧をしていて、
ふと自分の右手の薬指につけられた指輪に目を落とした。

イヌから100日記念日でもらった指輪。

他のどんなアクセサリーも日によって気分で変えていたが、
これだけは毎日つけていた。

ヘリはその指輪を左の手の指でそっとはずすと、
ジュエリーボックスの中にいれて、蓋を閉じた。


その日の昼休み時間、

刑事5部のメンバーでランチに出ていたヘリは、

「最近、マ検事は元気がないな。彼氏と喧嘩でもした?」という、
チェ検事のいつもの何気ないからかいにも「ほっておいて下さい」というムッとした態度で答えた。

ヘリが醸し出す剣呑な空気に、それ以上つっこむ事も出来ず、
刑事5部のメンツはそれぞれ、アイコンタクトで、「そっとしておこう」というサインをとった後、何も無かったように食事を続けていた。

そっとしておこう、という暗黙の了解で済ませたにもかかわらず、
食事後、ヘリが一人になった時、職場の仲間たちは、何かとヘリを励まそうとしたり、
慰めようとするように近づいてきていた。

「僕もよくかみさんと喧嘩するからな~。まあ、長引いても大抵男から折れるから安心するといい」

そう言うチェ検事に、

「喧嘩するほど仲がいいっていうだろ?あっ。これ、最近ネットで話題の面白いニュースばかり集めてみた。気晴らしに読んでみれば?」
というイ検事に、

「やっぱり、あれですか?この前の事が原因なんですか?ソ弁護士の連絡先教えてください。私、ちゃんと説明しますから」

と言うキム検事と、

「男女の心は秋の空って言うからな…いや、言わないか」

と、何を言いたいのか分からないナ部長に声をかけられて、

ヘリは、そのたびに、ひきつった笑みで頷いたり、首をふったりしていた。

しかし、こういう事には気をきかせてくれると思っていた
ユン検事まで、ヘリを呼び止めた時、ヘリは、思わず、うんざり、という顔で、
足を止めていた。

「喧嘩してこじれた場合は、どちらが悪かったか、ということに意地をはらないで、何気なく歩みよった方がいい時もあるぞ」

ユン検事の言葉に、ヘリは、疑わしそうな目で、ユン検事を見上げた。

「…それ、先輩がチン先輩とそうなった時に使う手ですか?」

ヘリの、先輩に対するには、あまりにも失礼な態度とトゲトゲしい言い方にも、ユン検事は、気を悪くする様子はなく、失笑ぎみで頭をかいた。

「経験者としての私の意見だ。参考程度に心の隅にでもおいておけばいい」

「はい。ためになるご意見、ありがとうございます。先輩」

まったくタメになっているとは思えないヘリの声色に、ユン検事は苦笑してうなずいた。

…ずいぶんと意固地になっているな。マ検事も。これでは、相手も近寄りたくても近づけないのではないか。

ユン検事は、オフィスに戻っていくヘリの後ろ姿を見ながら、
脳裏に、ヘリが今おそらくわだかまりを抱えている相手の人物、ソ・イヌの顔を思い浮かべて、気の毒そうに、心の中で溜息をついた。

そしてその日の夕方。

仕事終わりの時間を少し過ぎたころ、
ヘリのオフィスにキム検事が訪ねてきた。

「マ先輩、今夜これから少しお時間ありますか?
もしご都合が良かったら、私と一緒に食事か飲みに行きませんか?」

昼間の話で、ヘリに予定がなさそうな事は分かっていたようだったが、
律儀に聞きに来るキム検事に、ヘリが苦笑した。

「いいわよ。今日はもうじき上がるつもりだから」

「良かった。じゃあ、帰り支度をしたら、休憩室で待ってますね」

…もしかしたら、この前話しそびれた相談したいってことかしら?

ヘリは、そんな事を考えて、帰り支度を始めた。


ヘリの考えた通り、

キム検事と一緒に居酒屋に入ったヘリは、
テーブルについて、ドリンクの注文をした直後に、キム検事から

「じつは…」と切り出された。

「私、検事を続けるかどうか迷っているんです」

そう言ったキム検事の、ある意味予想していた話の展開を
ヘリは落ち着いた姿勢で聞いていた。


(「試される絆」12終わり 13に続く)



登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ユン検事…ヘリの先輩検事
チェ検事…ヘリの先輩検事
イ検事…ヘリの先輩検事
ナ部長…ヘリの上司
キム検事…ヘリの後輩女検事


二次創作への拍手、拍手コメントいっぱいありがとうございます!

コメントレス的な話。

お待たせしました。コメントで、リクエストされた内容で、
「今後の更新予定の話にあります」と言っていた話の1つをようやく更新する事が出来ました。

ペク・ユンスもストーカー疑惑(笑)確かに偶然会いすぎですよね。
でも、みつばは、リアルでもかなり、奇跡の偶然再会率が多いもので、
縁があると、ありなのかもしれませんよ。ブログの読者さんともいつかどこかで
すれ違っているかもしれないし♪

という…小説は、シリアスが増してきているので、
コメントは明るめに書いてみました。

体調は落ち着いてます。お気遣いありがとうございます。
行事と仕事がまだたてこんでますが、それなりにこなして、
明日も、小説の続きを更新できそうです。

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」11話です。

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この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(11話)




「今、仕事帰りなの?お疲れ様」

スーツ姿にコートをはおったイヌの姿は
どう見ても、仕事帰りのようだった。

「君はどこかに出かけていたのか?…だれかと」

イヌの言葉に、ヘリが目を丸くして固まった。

やはり、先ほどユンスに車で送られた後、道路で話をしていた所を
イヌに見られていたようだった。

「一人で街に買い物に行っていたのよ。
帰りにバス停にいたら、たまたま知人が通りかかって、車に乗せてくれたの」

「へえ、親切な知人だな。検事仲間か?」

「検事じゃないわ。パパの友人の息子さんなの」

「父親の友人の息子とはそんなに親しいのか?」

「子供の頃に1度一緒に食事をしたことがあって…って…ねえ、これって尋問?」

「世間話だ」

やはり、どこか嫌味っぽく聞こえるイヌの口調と言葉に
ヘリは唇をとがらせて口をつぐんだ。

…こんな世間話なんてしたくない。せっかく偶然でもこうして会えたのに。

「イヌ、何か勘違いしているようだけど、私は誤解されるような事は何もしてないわよ。
ほんとに、ただ、親切で車にのせてもらっただけなんだから。それに雨が降りそうだからってユンスさんが…」

「ユンスさん?」

「そう、ペク・ユンスさん」

「ふーん…ユンスさんね。君は知り合いだったら、気を許して、
誰の車にもほいほい乗ってしまうのか?」
…それが若い男でも。

「ユンスさんは、紳士的でとってもいい方よ」
…間違っても、何かされるということは無いはず…たぶん。

目線をそらしたイヌのそっけない態度に、
次第にイライラしてきたヘリだった。

「親しい人と会ったら、異性でも話すことだってあるでしょ?
職場の人でもそうだわ。あなただって親友と二人きりで一緒にお茶したり食事したりするじゃない」

それは、先日目撃したイヌとジェニーとのランチの事を
含めて言ったヘリの言葉だったが、イヌにもそれがすぐに分かったようだった。


まるで、人が浮気している所を見たとでも言うような
イヌの冷たい態度。
もっと言いたい事があれば、はっきり聞けばいいのに。

「そんな嫌味っぽく、人を責めるように言わないでよ」

「責めてないよ」

感情的に逆上しかかっているヘリに対して、
イヌが、静かに答えた。

「確かに、親しい人との交際は自由だよな。いくら恋人とはいえ、互いに束縛し合うのは君も嫌だろ?疲れるしな」

「・・・・・・」

ヘリに同意を求めるイヌのセリフは、正論のようにも思えたが、
心底納得できるかどうかは別だった。

本気で好きになった人と恋人として交際をするのは
イヌが初めてだったヘリにとって、恋人との距離感というものの基準が分からなかった。

…束縛?異性の友人との交際まで口を出すのは束縛なのかしら。
でも、確かに、自分以外の異性との交際を一切絶て、なんて、たとえ恋人でも
言われるのは嫌よね。

少しの間、ヘリとイヌの間に沈黙が流れた。

俯いて考え込んだヘリに、イヌが手を伸ばした。

しかし、思い直したように、
ヘリの髪に触れる前に、その手をイヌは静かにおろした。

ややあって、そんなイヌのそぶりに気づかなかったヘリが顔を上げた。

「そうね。別にお互い逐一報告し合う事じゃないわね」

恋人だからといって、
自分の考えやプライベートの事をすべて打ち明ける必要はない。

「・・・・・・」

イヌの無言の返事にヘリが曖昧な笑みを浮かべた。

再び、気まずい沈黙が流れようとした時、
ぽつぽつとマンションの庭の草花をたたく雨音が聞こえた。

予測通り雨が降ってきたようだった。

「あなたは明日も仕事なの?」

庭に顔を向けながら、ヘリが聞いた。

「事務所の方に顔を出す用事はあるよ」

イヌもヘリと同じ方向を見ていた。

「そう…大変なのね。休めるうちによく休まないとね」

ヘリはイヌに向き合うと、にっこりとほほ笑んで見せた。
自分では、自然に笑えていると思っていたヘリだったが、
イヌの目には無理してぎこちないヘリの笑顔がうつっていた。

もう、『今からうちに来ない?』と冗談でも言えるような雰囲気ではなかった。
気のせいでなく、どこかヘリを拒絶しているようなイヌの空気が
鈍いヘリにも分かった。

それが、今同じ事件を担当していることと無関係ではないと
分かっていても、ヘリは内心の失望と寂しさを隠すことは出来なかった。

社会人としても弁護士としても仕事もヘリより長いイヌは、
ヘリと違って、きっぱりとこういう事に割り切れているのかもしれない。

そうでなくとも、ずっと世間知らずだったヘリと比較して、
イヌの方が世の中の道理を分かっている気がする。

ヘリは自分の検事としても、人間としても、異性と付き合うという事にしても
経験不足や未熟さを、イヌの冷静な姿と目を通して、無言で思い知らされているような気がして、いたたまれない思いになっていた。

しかも、それはきっとイヌに悟られている。

ヘリは、ついっとイヌから目をそらすと、マンションのエレベーターに向かった。
そのあとを、イヌがゆっくりと追って歩いていた。

ついたエレベーターに乗り込んで、二人は別々に、4と5階のボタンを押した。

エレベーターの中で無言ですごし、4階についた時、
ヘリが振り返ってイヌの方を見て「おやすみなさい」と声をかけた。

「おやすみ」

そう、少しだけ微笑んで言った社交辞令的なイヌの顔に
ヘリは、やはりがっかりして、しばらく途方にくれたような目をすでに閉じたエレベーターの扉に向けて佇んでいた。


「ねえ、ユナ。恋人を束縛するのっておかしいことなのかしら?」

イヌと別れた後のヘリは、すぐに眠りにつくこともできず、親友のユナに電話をしていた。

『束縛ってどういう風に?』

「んー…相手の異性の知人や友人の交友関係にまで口を出しちゃうってことって束縛って言うわけ?」

『度が過ぎれば確かに束縛よね。いくら恋人だからって何もかも指図されるのは私だって重いって思っちゃうわ』

…別に指図したわけでもされたわけでもないけど…。

「…なんとなく、友達っていっても女性と楽しそうにしているイヌが嫌だったの」

そう、素直に答えたヘリに電話の向こうでユナが失笑していた。

『はいはい。ごちそう様。のろけは十分よ。ヘリ。』

「のろけじゃなくて~。ユナ、私真剣に悩んでいるのよ。真面目に聞いてよ」

『聞いているわよ。そうやってつまらない嫉妬をし合っているうちが花なんだから。せいぜい今のうちに悩んでおきなさい』

ユナとの電話を切ったヘリは、
ベッドの中で、まだ悶々とした気持ちをひきずって、眠れずにいた。

…嫉妬?
ヘリは、ジェニーと一緒にいたイヌの事や、
今日ユンスと一緒にいた自分の事を考えた。

さっきのイヌのあの態度は嫉妬だったのかしら?

「あ~っ!もうっ!考えすぎて頭痛くなっちゃう」

大声でそう言ったあと、
布団を頭からかぶると、ヘリは目を無理やり閉じた。


翌日の日曜日。

ヘリは、部屋の中で、編み物をして過ごしていた。

クリスマスプレゼントとしてイヌに渡す予定のもので、
順調にいけば、クリスマス前には余裕に出来上がるはずだった。

しかし、ヘリは、そっと溜息をつくと、
編み物を中断して、編みかけのものを籠の中にしまった。

そして、ゴロンとソファに横たわると、目を閉じた。

今イヌと一緒の事件さえ、うまく解決できればこの気持ちは晴れるし、
ぎくしゃくしているイヌとも元通りになる。
…たとえ事件の解決が長引こうとも。

ヘリはそう思い込もうとした。


しかし、翌週、

事態はヘリが想像もしていない方向に向かっていた。

傷害事件の被害者であるソン・チュヒョンが、
ヘリに「訴えを全面的に取り下げる」と言ってきたからだった。

あまりの急な展開に唖然としているヘリにソン・チュヒョンが淡々と続けた。

「これ以上話がこじれれば、裁判にもなる。あの女性とこれ以上長く関わるのもごめんです。相手がもう二度と私に近づかないと約束してくれるなら、それでいいと思ったんです。」

「でも、ソン・チュヒョンさん。怪我を負わされたんですよ?」

ソン・チュヒョンが気まずそうな顔でヘリを見たあと、
頭を下げた。

「…すみません。本当は、私が自分で傷つけました」

「なんですって?」

「でも、パク・ミンソと別れたくなくてしたことではありません。
実際にもみあっていましたから、包丁で傷ついたことをパク・ミンソのせいにしたかったんです。だから、あれは事故だった」

「では、包丁を持ち出したのは、やはりソン・チュヒョンさんだったのですか?」

「持ち出したというより、ちょうど私が手入れをしていた包丁を近くに置いていて…」

「それは本当ですか?」
ソン・チュヒョンが固い表情で頷いた。

「包丁の件ではあちらに証人がいる。裁判になったら、私に勝ち目はないでしょう?」

「証人の話が本当かどうかはこちらでまだ事実確認中です。
それよりも、ソン・チュヒョンさん、あなたの話が、どちらが真実なのか聞いているのです」

静かに話しているつもりだったが、
ヘリの苛立った気持ちは表に出ていたようだった。

「今日話した事が本当です。検事さん。でも…」

チュヒョンが力なく微笑んだ。

「今、店をクビになって失業中ですが、私には妻と子供を養う義務がある。再就職できるうちに早くしたい。
こんな事が公になって、妻は寝込みがちになってしまった。これ以上家庭をあの女に壊されたくない。それが本音です。訴えは取り下げます」

ヘリは、もう完全に意思が固まっている様子のチュヒョンに、
それ以上かける言葉が見つからなかった。


ヘリは、実際に街に出て、そして、ソン・チュヒョンや、パク・ミンソの店の従業員、そして、ソン・チュヒョンの家族に会って話を聞いていた。

ソン・チュヒョンの家を訪ねた時、ソン・チュヒョンの妻が応対した。

ソン・チュヒョンの妻は、こわばった顔と声色で、何かを隠しているような感じがした。
明らかにヘリの訪問を快く思っていないというより、後ろめたさがあるようなおどおどした態度だった。

ソン・チュヒョンの家の部屋の中は、ほとんど家具がなく、すっきりとしていた。

「今、引っ越しの準備の最中なんです。忙しいので、お話がお済だったら、帰って頂けますか?」

そう、妻に急かされるように、ヘリはやんわりと家から追い出された。
玄関を出る前に、家の中にいた小さな子供たちが無邪気にヘリに言った。

「今度は、もっと大きくて広い家に住むんだよ。父ちゃんが仕事でお金をいっぱいもらったんだって」

子供の話に、妻の顔が青ざめるのを、ヘリは見逃さなかった。

「退職金なんですよ。あんなことで店をクビになりましたけど、主人は店のトップシェフだったので、給料はちゃんと頂きました」

「…そうですか」

ヘリは、それ以上何もいわず、ソン・チュヒョンの家を後にした。

その後、パク・ミンソの店も訪ねたヘリだったが、

店の従業員たちは、気まずそうに顔を見合わせながら、
オーナーであるパク・ミンソに不利になるような事を話すことは無かった。


ヘリは、病院に、ソン・チュヒョンの傷の事を確認に行ったが、
ソン・チュヒョンの右手の甲の怪我に関しては、ソン・チュヒョンの利き手が左手だということもあって、自傷したという話も不思議ではないということだった。

何より、ソン・チュヒョン自身が認めて、訴えを取り下げてきた。

ヘリの検事としての感は絶えず、疑念を持ち続けていたが、
調査を続けても、証拠をならべても、ソン・チュヒョンの“虚言”以外不自然な点は見つからなくなってきた。

こうなってくると、むしろ、訴えられたパク・ミンソの方が、
名誉棄損で、ソン・チュヒョンの事を訴えることもできるのだったが…。

「パク・ミンソさんは、ソン・チュヒョンさんを訴えないと言っています」


再び、検事、弁護士、としてヘリとまみえたイヌがそう言った。

「痴話げんかのもつれで起きた事故だったということで納得されています。
それに、ソン・チュヒョンさんとは、綺麗に別れるつもりだったからと」


…自分の力不足だったのだろうか?

すべてが終わって、
焦点の合わない目を向けて、ヘリは、あえてイヌと視線を合わさなかった。

事件は急速に解決に向かったが、
靄がかかったようにはっきりしない後味の悪さをヘリは感じていた。

ヘリはその日、
書類に正式に“不起訴”と記入して、
刑事5部の上司、ナ部長に事件の終結の報告をした。

「分かった」とだけ言って、
書類を受け取ったナ部長に、ヘリは黙ったまま目を向けた。

「何か他にも言いたいことがあるのか?」

そう問うナ部長にヘリが一息飲んだあと、言った。

「私は、自分が感情的な性格だってことを自覚していますが、
事件のことにかんしては、冷静に対処してきたつもりでした。
でも、無自覚に、頭に血の気がのぼったりしていたんでしょうか?」

被害者の事情に加担しすぎていた?
被疑者の人柄や態度に個人的な主観が入っていた?
それとも、被疑者の弁護人がソ・イヌだということに、
割り切ることが出来なかったのか。

事件を客観的に、冷静に判断することが出来なかったか?
何かやり残したことや見落としたことがあったのではなかったか?

自分は、せいいっぱい事件にあたったつもりだったのに。
こんな結末になるなんて…。

「まあ、マ検事は人より細いように見えて、
血の気は2割増のような気がしないでもないな」

ナ部長が言った。

「だが、今回は、私が見ていたかぎり、マ検事は公正な態度で、
事件にあたっていた。…私情をはさむことなくな。
これも経験だ。思うところがあるのなら、次の事に活かせるように精進しろ。
マ検事ならできるだろう」

珍しく部下を慰めているような、褒めているようなナ部長に、
ヘリは、少し励まされた。

しかし、その日の昼食時間を職場の同僚たちと一緒に過ごす事も
ためらったヘリは、軽食を買って、一人で食事をする事に決めた。

重苦しくなる空気を変えたくて、寒空の下、検察庁横の公園のベンチに座って
一人もそもそとサンドイッチのランチを食べ終えたヘリは、
オフィスに戻ることにした。

その時、ふと公園の道を向こうから歩いてくる人物に気づいて、
ヘリは、思わず足を止めた。

…今は会いたくなかったのに。


そう、思いながらもヘリは、歩いてきた人物、ソ・イヌの姿に
視線を釘づけにして、立ち尽くした。



(「試される絆」11終わり 12に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ペク・ユンス…ヘリの父親の友人の息子

ユナ…ヘリの親友

ソン・チュヒョン…ヘリの担当事件の被害者
パク・ミンソ…イヌが弁護している被疑者

ナ部長…ヘリの上司


本日も日中は立て込んでいるので、予約投稿記事です。
…と言っても、いつもの時間に更新されているはずなので、
何がどう違うというわけではないのですけど、
管理画面が見られないので、コメント等のお返事が遅くなります。
よろしくお願いします。

週末、小説を読んだ方は悶々とされたのではないでしょうか?
そして、「試される絆」ますます、雲行きが怪しくなってきてますけど、
現在は、まだ、起承転結の「承」~「転」あたりの話になります。
もう少々がんばって(?)おつきあい下さい(ぺこり)

明日も小説の続きを更新できる予定です、


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」10話です。

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試される絆(10話)




その週の休日、ヘリは実家に帰らなかった。

続けて週末に帰れば、さすがに母親のエジャだけでなく、父サンテにも、
何か悟られてしまうと思ったからだった。

『ソ・イヌと何かあったのか?』

そう聞かれるかもしれない。

とくに何があったというわけでなく、
イヌの仕事が忙しいから会えないだけなのだけど。

そう言ってしまえればそれだけなのだが、両親に何でもないように話す自信がなかった。
どんなに誤魔化したとしても、きっと、何かしら見抜かれてしまうだろう。

かといって、今担当している事件がイヌと同じという事を話すつもりも無かった。

ヘリは、マンションの部屋で軽く昼食をとった後、
久しぶりに気分転換に外で買い物をすることに決めた。

昔のように勢いで買い物をする、ということは無かったが、
ウインドーショッピングは、今のヘリの精神状態にはかえって良くないようだった。

たった一人で繁華街を歩いていて、
隣に不在の人物への想いを、ひしひしと感じたヘリは、
時間がたつにつれて余計に寂しさを募らせていた。

さらに、晩秋の冷気がそんな心の隙間に入り込んで、
ヘリの体を冷やしていた。

いつもならこんな時、手を握ってくれる暖かさも、肩を抱いてくれる腕も、
寒さを忘れるような楽しい軽口の応酬も、今は無い。

体を動かしていれば、気分も晴れるだろう、と
車でなく、その日は徒歩で出かけていたヘリの体に、その日の秋風は特に冷たく感じられた。

…帰ろう。

気分転換どころか意気消沈しそうになったヘリは歩く気力もなく
バスに乗って帰ることにした。

帰り道、
着ていたコートの合わせを引き寄せ、少し震えながら、バス停にいたヘリの近くで
1台の車がとまった。

「ああ、やっぱりヘリさん」

車のウインドーが開いて、そこから顔を出したのは、
ペク・ユンスだった。

「こんばんは」

ヘリがあわててお辞儀した。

「どちらに行かれるんです?よかったら乗って行きませんか?」

「いえ、買い物をしてきて、これからマンションに帰るだけですから。お気になさらずに」

そう、やんわりと辞退したヘリだったが、ユンスが車からわざわざ降りてきたのを見て、困惑した。

「僕もこれから大学の宿舎に帰る途中なんです。もう今日の用事は無いので、どうぞ乗って行ってください。それにもうじき雨がふりそうな天気ですよ」

ふと空を見上げると、確かにどんよりとした雨雲が垂れ込めているようだった。

「でも…」と、まだためらっている様子のヘリに、
ユンスが車の助手席のドアを開けた。

「ご心配するような事は何もありませんよ。それに、ヘリさんに何かあったら、ヘリさんのご両親にも、うちの父にも顔向けができませんから。さあ、どうぞ」

ヘリが内心少し危惧した事を、見透かしたように、軽く笑って、
ユンスがヘリを車の助手席に促した。

…ここまで言われて断るのもかえって失礼よね。


「ありがとうございます」

ヘリは、ぎこちなくユンスに微笑み返すと、車の助手席に座った。

車内の暖かい空気がヘリを包んで、ヘリはほっと安堵の息をついた。

「マンションはどちらです?」

「第3大通り沿いの「シーズ・ビア」というところです。ご存じですか?」

「ああ、わかります。白いマンションですね」

頷いたユンスが車のエンジンをかけた。

次第に温まってきた手をすり合わせながら、ヘリはチラリと運転席のユンスを見やった。
ラフな服装だったが、どこかで遊んでいたという感じではなかった。

「ペク・ユンスさんは、どこかに行かれていたんですか?」

そう聞くヘリに「ユンスでいいですよ」とユンスが言った。

「今日はずっと大学の研究室にいたんですよ。学会で発表する準備もあって」

「お休みの日まで大変なんですね。教授のお仕事って」

「自分で好きでやっている事ですから、大変だという思いはほとんど無いです。
むしろ仕事をしているのが楽しくて、つい没頭してしまう。父にもよく言われてます。
お前は仕事と結婚して、大学の研究室を家にするつもりなのか?と」

ハハハっと、おどけたように笑ってみせるユンスにヘリも口元をほころばせた。

「何を研究されているんですか?」

「ああ、簡単に説明すると、実は酒とキムチです」

「お酒とキムチ?」

「そう、酒と言っても、主に発酵させる菌の研究です。
結構奥が深いですよ。酒も、発酵食品も」

目を輝かせて話すユンスに、…本当に仕事が好きなのね…と思ったヘリだった。

「じゃあ、ユンスさんはお酒好きなんですか?」

「ええ、大好きです。ソコソコ飲める口だと自分でも思いますし。研究のためでなく、純粋に飲むのも好きでいろいろ飲んだりしますよ。ただ、自分ひとりで飲むより、人と飲むのが好きで、友人や研究室の学生達ともよく飲んだりします。ヘリさんはお酒は好きですか?」

「私も大好きです。でもやっぱり一人で飲むより、人と一緒に飲むお酒が好きです」

「そうですよね。楽しいですよね」

ほのぼのとした会話を続けて、ヘリは、ユンスの車の中で、
次第に体だけでなく、心もほっと休まってきたのを感じていた。

そんな和んだ様子のヘリの横顔をチラリと見たユンスが言った。

「もし、夕食がまだならご一緒しませんか?」

「え?」

「美味しいお酒を沢山置いてあるいい店を学生から教えてもらったんです。
料理も評判が良いらしいですよ。これから一緒に行きませんか?」

「・・・・・・」

唐突な、ユンスの誘いに、ヘリは少しの間寡黙になった。

初めて会った時も、
こうして話をしても、ユンスはいい人のように思えた。
一緒にいて、穏やかな安心感もあり、頼もしくて優しいお兄さんという印象も強くしていた。

しかし、丁寧な物腰と紳士的な対応のユンスにも、
先ほどのように思いもかけないほど強引な所もあるという事を見抜いたヘリだった。

こちらが曖昧な態度をとっていたら、かえって申し訳ないことをするかもしれない。

そう思ったヘリは、意を決したように口を開いた。

「ユンスさん、私つきあっている人がいるんです」

食事の誘いの返事ではなく、そう切り出したヘリにユンスが驚いたようにヘリを見た。

「だから、一緒に二人きりで食事したりすることは出来ません。ごめんなさい」

そう、しおらしくペコリとお辞儀するヘリに、
ユンスが少し黙ったあと、クスっと笑った。

「え?」

…どうして笑うの?

そんな視線を送るヘリに、ユンスが笑みを抑えられない顔をフロントに向けて、
車の運転をしていた。

「すみません。ヘリさんがあまりにも可愛らしいもので」

「はい?」

「気にしないで下さい。本当に食事に誘っただけですから。さっきの誘いには他意はありません。
でも、きっぱりふってもらって良かったですよ。OKされていたら、その後淡い期待を持ってしまっていたかもしれませんしね」

「ふるなんて、そんなっ。ユンスさんはいい方だと思いますよ。
でも、そういう事もあって…父の言っていた見合い話の件も、知らない話だったとはいえ、そういう気持ちになれなくて」

「見合い話がある」ということは知っていたヘリだった。
だが、それがユンスの事だとは知らなかっただけだった。
自分の心の中にソ・イヌがいる限り、相手が誰であろうと、全く意味のないことだったから。

「あの…ユンスさんにはそういう人本当にいないんですか?」
…つきあっている女性が。

ユンスという人柄に少し触れただけのヘリだったが、
彼女がいない、という事が信じられないような気がしていた。

そんなヘリの問いかけに、ユンスが気まずそうに苦笑を浮かべた。

「過去につきあった人はいたんですけどね、たぶん自分の研究以上に好きでは無かったのかもしれない。相手にとても失礼な話ですが、結婚を考えるほどじゃなかった。
僕もそうしているうちに、いつか本気で好きになる女性と付き合いたいと思うようになって…それでも積極的に出会いを求める事もなく仕事に没頭していたら、両親から見合い話を出されるようになりました」

「そうなんですか…」

ユンスの話にヘリの方が気まずくなって、首筋を手でそっとかいた。

「僕にはもう結婚して家庭を持った兄がいましてね。両親はその兄夫婦と同居してます。
なので、次男の僕の事はずっと放任しておいてくれるだろうと考えていたら、
裏で見合い話を進めるほど心配していたとは。なので、ヘリさんとの見合い話を聞いた時は僕も驚きました。
でも、全く知らない女性では無かったのでそこは安心しましたけど」

「昔の印象と、今の私ではかなり変わっていたでしょう?」

昔はもっと、体型もふくよかで、おどおどしていた。
ユンスと初めて会った頃の思春期のヘリはそんな少女だった。

意外にも「いえ」とユンスが答えた。

「ヘリさんは僕の中では変わってないですね。こうしてお話させて頂いて、もっとよく分かりました。外見だけでなく、性格も可愛くて、優しい女性だと思いましたよ」

「・・・・・・」

臆面もなく、可愛いと連呼して、さらりと褒めているユンスに、
ヘリは気まずさを通り越して、その場にいるのがいたたまれなくなってきた。

車という密室の中で二人きり。

別に愛の告白をされたわけでも、「好きだ」と言われたわけでもないのに、
ユンスのまっすぐな言葉がヘリの心をドギマギさせていた。

お世辞や、女性との交際で慣れているという感じでもなかった。
きっとユンスの育ちや性格の良さから出る、素直な気持ちなのだろう。
それが分かったヘリは、なぜ自分がユンスとして、安らげるのかが何となく分かった気がした。

おそらく育ってきた環境が似ていたのだろう。
気は合うかもしれない。

その後、
車の中で、先ほどのヘリの会話はまるで無かったように、
たわいもない話をユンスと続けたヘリは、さらにそんな思いを強くしていた。

話をしてみると同じ趣味や共通点もたくさんあるようだった。

そして、ヘリの母親エジャも柔らかい応対をしていた理由もわかった気がした。
ユンスの人柄はまわりの人間をおもわずホッとさせ温めるような空気を持っていた。
友人も多そうだったが、きっと年上の人間から可愛がられ、年下の人間には頼られるような人なのだろう。

考えではなく、直観でそんな事を感じていたヘリ。

やがて、ユンスの車がヘリのマンションのエントランス前の道路についた。

「送って頂いてありがとうございました」

ヘリがそう言って、車から降りようとすると、
そんなヘリをエスコートするようにユンスが先に車から降りて、
助手席のドアを開けていた。

「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。ヘリさん」

にっこりと笑って言うユンスにヘリは思わず微笑んでいた。

「じゃあ、さようなら」

そう言って、お辞儀をして去ろうとするヘリをユンスが呼び止めた。

「ヘリさん」

「はい?」

「さっき、車で言っていたことですが」

外灯の下に浮き上がっていたユンスの長身が一歩ヘリに近づいた。

「ヘリさんに彼氏がいるという話。実は正直に言うと、ショックを受けていました。自分でも驚くくらいに」

真面目な顔で続けるユンスにヘリが戸惑ったように目を泳がせた。

「あの、それって…」

イヌに普段さんざん『鈍い』と言われてきたヘリだったが、
さすがにユンスの言わんとしていることを悟って、どうしていいか分からなくなった。

「僕は、ヘリさんに惹かれている」

ユンスがはっきりと言った。

「女性に対して、ここまでこんな感情を持つのは僕も初めてだから戸惑っていますが、せめて伝えておきたくて。ヘリさんの心を煩わすと分かっていても言わずにいられなかった」

「お気持ちは嬉しいのですが、ユンスさん、私は…」

ヘリの言葉を手でさえぎって、ユンスは微かにうなずいた。

「ええ、分かってます。どうか気になさらないでください。そして出来れば、今後こうして偶然会った時も気軽に話してくれませんか?二人きりでなくていい。友人達も交えて、いつか一緒にお酒も飲みたいです」

「…ユンスさん」

やはり、感じた通り、ユンスの中には優しいだけでなく、情熱的な所もあると知ったヘリだった。

恋人がいると分かっても、
こうして素直に自分の気持ちを伝えてくるユンスにヘリはある種の感銘を受けていた。

今までイヌ以外の男性にも告白された事は何度もあったヘリだったが、
こんな風に面と向かって、気持ちを包み隠さずまっすぐに伝えられたのは初めてのような気がした。

…それでも、私は。

「ごめんなさい。失礼します。ありがとうございました。おやすみなさい」

ヘリは、ユンスにもう一度頭を下げると、踵を返して、マンションのエントランスに向かって歩き出した。

背後でしばらくそんなヘリの後ろ姿を見送っているユンスが立っていたが、
やがて、車に乗り込むと去って行ったようだった。

遠ざかるエンジン音に、心のどこかでほっとしながらも、
ヘリは、申し訳ない気持ちで振り返った。

通りに車は無かったが、夕暮れのマンションの庭をほのかに照らす明かりの中に
人影が浮かび上がっていた。

そのシルエットが、よく知る人物のものだと気づいたヘリは、
もう驚く事も忘れて、思いっきり溜息をつきたい気分になった。

「奇遇だな。ヘリ」

そうどこか嫌味っぽく聞こえる男の声…ソ・イヌの言葉に、
ヘリはひきつった笑みを無理やり浮かべてみせた。

…ユンスさんといい、イヌといい、最近こんな偶然ばかりね。

「腐れ縁よね」

そう答えたヘリに、薄闇の中のイヌが薄く笑った。



(「試される絆」10終わり 11に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ペク・ユンス…ヘリの父親の友人の息子


今日の記事は予約投稿です。
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試される絆(9話)




店の窓ガラスの向こうにいるイヌとジェニーの会話は聞こえなかったが、
テーブルに食べかけの料理があることから食事をしている事は分かった。

少し遅いお昼時、一緒にランチに出たのかもしれない。

ジェニーが何かを話していて、イヌが笑った。

ここしばらくヘリが見なかったイヌの笑顔だった。

「・・・・・・」

…何、むっとしてるのよ。マ・ヘリ。
あの二人は長年の親友じゃない。
それに同じ弁護士で、同じ事務所に働いている。
一緒に楽しそうにランチしていて何がおかしいのよ。

ヘリは、湧き上がった不穏な感情を抑えようとした。

きっと普段通りのヘリだったら、ここまで心を乱れさせなかったかもしれない。

最近、イヌと仕方無い事情とはいえ、疎遠状態で、会うどころかあまり話もしていなかった。
それなのに、仕事では、同じ事件を扱う検事と弁護士として事務的な会話はかわす必要があった。

お互いの役割を分かっていて、割り切っていたつもりだったが、
真っ向から対立する検察側と弁護側が主張する事件。

裁判も避けられないかもしれない。

なのに…。

肩を並べて、何の遠慮もなくイヌと会話をしているジェニーが、
とたんにうらやましくなったヘリだった。

知らず知らず、食い入るようにレストランの窓をジッと見ていたヘリ。

レストラン内にいたジェニーが、ふと外を見て、
窓の向こうでこちらを見ているヘリに気づいた。

「イヌ、ヘリさんが外にいる」

「え?」

イヌが、ジェニーの言葉で、ヘリの方を見た。

ヘリとイヌの目があった。

イヌとジェニー、二人の自分を見る視線に気づいて、
ヘリはハッとなって目を逸らした。

しかし、

…どうして目を逸らすのよ。私は何もやましいことをしてないのに。
あの二人だって…。

そう思い直したヘリは、ソッと視線を戻すと、ぎこちない笑顔を
二人に向けて、小さく手を振った。

そして、わざとらしく時計を見ると、
時間がないわ、という風をよそおって、背を向けてそそくさとその場から
歩き出した。

…ほんと、分かりやすいわね。彼女。

ジェニーは、内心溜息をついて、イヌの方を見やった。

「大丈夫?」

「何が?」

イヌがジェニーの質問の意図が分からないという顔をした。

「ヘリさん、何か様子がおかしかったけど。私達のこと誤解してない?」

「まさか」

イヌがフッと息をついた。

「君と僕が親友だってことは彼女も知ってる。それに誤解されるような事もしてない」

「そう?最近会ってる?」

「会ってるよ。仕事ではね」

「仕事では?どういう意味?」

「僕の担当事件の検察側の担当者がヘリになった。
これから公判に持ち込む可能性もあるかもしれない」

ジェニーはイヌの言葉に唖然としたように口を開けた。

「それって…。・・・・ねえ、大丈夫なの?」

「今度は何の心配だ?僕は負けるつもりはないよ」

「そうじゃなくて」

この男の弁論の腕は分かり切ったほど知っている。
そんな事を心配しているのではなくて。

「分かってる?相手はヘリさんよ?…やりづらくない?」

イヌが溜息をついた。

「やりづらくないと言ったら噓になる。でも、これは人の運命がかかった仕事だ。
相手が誰だろうと、それが恋人だろうと、全力をつくすだけだ」

「もしかして、プライベートで会うことを避けてるの?」

鋭いジェニーの指摘にイヌが、少し目をふせた。

「…今は事件の解決に集中したいんだよ。それに慣れ合っていれば彼女もやりにくいだろう」

他のどんな事でも、彼女を第一に考えてやりたい、と思っている。
だが、弁護士としての仕事の領分に検事として入ってくる彼女は別だ。

今は、なるべく二人の関係の事は抜きにして、
気持ちも切り換える努力をしなくてはいけないだろう。


それがヘリの…そして自分自身のためだ。

それきり黙ったままのイヌの、少し眉をひそめた表情を見つめて、
ジェニーはそれ以上何も言わずにソッと溜息をついた。


一方、

裁判所で用事をすませたヘリは、検察庁に戻ろうとしていた。

そして、そこでばったりと、イ検事とヘリの大学時代の同級生のソヨンに会った。

「お疲れ。マ検事も裁判所に来ていたんだな」

イ検事が言った。

「お疲れ様です。先輩。ソヨン、こんにちは」

「こんにちは。ヘリ」

ソヨンがにっこりと笑った。

以前、直接話し合ってから、ヘリとソヨンは
裁判所で会っても気軽に挨拶できるようになっていた。

「マ検事は、担当事件の起訴請求の件だったのか?」

「いえ、起訴の件ではないです。でも、もう終わったので今から検察庁に戻るところです」

「そうか、僕は他にも用事があるから、もう少し残るよ」

「そうですか。じゃあ…」

ヘリは、イ検事とソヨンに手をふった後、裁判所の出口に歩いて行った。
そんなヘリの後ろ姿を見送りながら、イ検事が
「マ検事も大変だな」とポツリとつぶやくのをソヨンが聞き逃さなかった。

「何かあったんですか?」

「マ検事が今担当している事件の1つの弁護人が彼氏なんだそうだ」

隠そうともせず、あっけらかんと話をするイ検事に「え?」とソヨンが眉をひそめた。

「彼氏って…ソ弁護士?」

「そうそう。ソ弁護士。僕は担当事件で直接かかわった事はないけど、以前、マ検事の父親の事件の時の印象ではかなり有能だった。そんな弁護士と争うなんて、しかもつきあっている男だろう?マ検事は口には出してないけど、結構こたえているんじゃないかな?」

「そう…」

ソヨンは、小さくなっていくヘリの背中に視線を送りながら、
考え深げな顔をしていた。

「でも、もし裁判になったら、チケット入手困難なサッカーの試合の観覧席より傍聴席に座りたいと思うよ。あの二人の対決は興味深い。ソヨンもそう思わないか?」

のほほん、とそう続けるイ検事にソヨンが呆れたような目を向けた後、溜息を1つついた。

「そうかしら」

「そうかしらって?」

「私は、もしそうなったら、判事としてもその場にいたくない気がします」

「それは、マ検事が負けるところを見たくないということ?」

「そうではなくて…。私、昔の、法学部生時代のマ・ヘリを知ってるから。
ヘリって、とても真面目なだけでなくて、すごく負けず嫌いな所があるの。
私よりテストの成績が悪かった時とかも、目に見えて、闘争心を出したりしてました。
あの頃、普段はおとなしくて控えめで地味だったヘリが。きっと今もそういう所は変わってないんじゃないかしら?」

さらに、正義感が強くて、感情にとらわれやすく、優しい気質もあって、
他人に必要以上に肩入れしてしまうところもある。

検事として、成長したならなおさら、ヘリは全力で被害者のために事件にあたろうとするだろう。

素直で、頭もよく、優秀な分、その気になったヘリがまるで水を吸うスポンジのように、仕事を吸収するのは人より何倍も速いかもしれない。

だからこそ、

経験を重ねて知ることもあるということ。
知識や頭でわかっていても、上司や先輩からアドバイスをうけていたとしても、
本人が本当に知る、ということにはならない。

それを知る1つのきっかけが、この事件だということもありうる。

そして、それが、誰よりも大切な人と対立することになるのだとしたら…。

ソヨンは、「だから?」と、よく分からない、という顔をしているイ検事に
苦笑すると、「私たちは私たちの仕事を一生懸命やりましょう。先輩」
そういって、頭を下げると、きょとんとしたイ検事をおいて、去って行った。

そんな会話がイ検事とソヨンの間であったことをもちろん知らないヘリは、
その後も検察庁で淡々と仕事をこなしていた。


他の案件の対面尋問を行ったり、新しい調書を読んだり。

ソン・チュヒョンの傷害事件の件でも、
目撃者から事情聴取を行ったりしていた。

ソン・チュヒョンが包丁を持ち出したのを見たと言ったキム・ウソクは、店でウエイターをしている男だった。

「どうして、証言を変えたのですか?」

そう聞くヘリに、キム・ウソクは空調のきいた部屋の中で、
額にハンカチをあてて、汗をふくようなそぶりをしながら話をしていた。

「変えてません。ただ、思い出しただけなんです。最初に包丁を持ってきたのはソン・チュヒョンさんだったことを。それに、ソン・チュヒョンさんが取り乱して、自分の手を傷つけていたことも思い出しました」

「…だれかに何か言われました?」

ヘリの刺すような視線と問いにキム・ウソンは目をしばたたかせた。

「どういう意味です?」」

「証言を変えてくれ、とだれかに頼まれたりしませんでしたか?」

「まさかっ。そんなことはありません」

キム・ウソンがあわてて首をふった。

「事実です。なにもありません」

取り乱して、そう重ねて言うウソクの姿をヘリは、じっと疑わしい目で見つめていた。


・・・私、何を考えたのかしら?

定時の仕事の終了時間もすぎて、ヘリの捜査官と事務官も帰ってしまった後、
ヘリは、資料室のソファに座ってそっと溜息をついていた。

『証言をかえてくれ、とだれかに頼まれたりしませんでしたか?』

そう、目撃者におもわず聞いてしまったこと。

ヘリが、はあっともう一度大きな溜息をついたとき、
開いた資料室の扉からユン検事が部屋に入ってきた。
そして、中にいたヘリに気づくと、驚いた顔をした。

「まだいたのか?」

「ユン先輩こそ。仕事たてこんでいるんですか?」

「いや、急ぎの案件じゃないが、休日にはいる前に片づけておきたくてな」

「そうですよね」

ユン検事は、今、休日出勤はほとんどしていないようだった。

1年以上前のユン検事は連日潜入捜査をしたりすることもあったが、
チン検事と結婚してからは、以前のように鬼気迫る感じではなくなっていた。

休日は、かならず、現在はまだ春川にいる妻のチン検事と、そしてそこで共に暮らしている娘のビンに会いに行ったり、二人が来た時も一緒に過ごす時間を何より大切にしているようだった。

事情を察して微笑んでいるヘリに、ユン検事が柄にもなく照れた表情になって、
それをごまかすように言った。

「マ検事は、いいのか?今日は金曜日だぞ」

…彼氏とデートしないのか?

暗にそう聞いているようなユン検事の言葉にヘリの顔が曇った。

「私も片づけておきたい仕事があるので・・・」

沈んだヘリの声色に、ユン検事が心配そうな顔になった。

「そんなに難しい案件があるのか?もし、手助けが必要なら話を聞くが?」

そう、首席検事として、部の先輩としてヘリを思いやったように申し出た
ユン検事に、ヘリが、心細そうな目を向けた。

「仕事の話ではないのですけど、ユン先輩に聞きたいことがあります」

「なんだ?」

ヘリの前のソファに腰かけたユン検事が聞いた。

一つ息をついた後、ヘリは思い切って口を開いた。

「昔のソ弁護士のことなんですけど」

「昔のソ弁護士のこと?」

ユン検事が微かに首をかしげた。

「昔のソ弁護士の何を聞きたい?」

「以前…私が検事になったばかりの頃、先輩が話してくれたことです。
法務法人「ハヌル」の代表だったソ弁護士のこと」

「ああ…」

ユン検事は、以前、ヘリに、『ソ・イヌという男には気をつけろ』と言ったことを思い出していた。

『優秀で仕事はできるが、何の見返りもなしに親切にする男じゃない。
証人を買収して証言を取り下げさせたこともある…』

「あの話をもう少し詳しく知りたいんです」

…今さらな話だろう。
もうソ・イヌはハヌルの代表弁護士でないし、以前とは変わっている。

そう言おうとしたユン検事だったが、縋るようなヘリの瞳に、
小さく吐息をもらすと、ゆっくりと話し始めた。

「彼が法務法人の代表をしていた時の話だ。

たしかに、賄賂を渡して、証人を買収したということもあった。
他にも勝つために手段を選ばないという噂もあった。
その一方で、無報酬同然で、弁護を引き受けてもいたようだ。
「ハヌル」の事は、検察庁でも有名だった。
とくに代表弁護士をしていたソ・イヌに関しては。
アメリカ帰りで司法試験をうけた弁護士としても、設立してから短期間で
「ハヌル」の知名度を上げたことや、あれだけの資金力もどこから手にいれたのか。
アメリカの富豪の息子という噂までたつほどだった。
しかし、本当のところその実態は謎で、あくまで他人が勝手に推測したに過ぎない噂もあったようだ。…私が知っているソ弁護士の事はそれくらいだ」

噂半分、真実半分。

ソ・イヌ、ソ弁護士という男の印象は、
それだけミステリアスな魅力に包まれていたのだろう。

黙って聞いているヘリにユン検事が続けた。

「だが、これは、私の意見だが…今の法律事務所での彼の働きは昔と違うような気がする。
今でも勝訴率は高いようだが、以前のような事はしていない」

…あくまで私の見解だが。

ユン検事は、ヘリの顔をじっと見つめた。

「マ検事。君がソ弁護士の本当は何を知りたいのか分からないが、
プライベートと仕事は切り離して考えた方がいい。
君達の職業上、それは難しいことかもしれないが、こういう事はよく起こることだ。
この先も彼とプライベートでつきあっていくつもりなら、そういう割り切りが必要だろう」

ユン検事にはすでに、ヘリの考えが読めていたようだった。

「それは…わかっているつもりでした」

ヘリは答えた。

あの1年前の花屋の息子、シン・ドンハ事件の時に弁護士と検事として対峙した。

イヌが韓国に戻ってきて、そして弁護士として再び仕事についた時に、
いつかああいう日が再びくるんじゃないかと思っていた。

イヌを信じている。
弁護士としてのソ・イヌも。
そう強く思っていたはずなのに…。

「…本当に、自分の心が自由にならない時もあるんですよね」

以前、ユン検事に言われたセリフを口にして、
力なく微笑んでみせるヘリに、ユン検事が苦笑して立ち上がった。

「マ検事は、マ検事の信じたことをまっすぐに突き進めばいい。
誰が何と言おうと、何を言われようとも。それがマ検事の持論なんだろう?」

「はい」

慰めのような、励ましのような言葉をかけて、ヘリに笑いかけると、
ユン検事は資料室の棚から何冊か本を持ち出して、部屋を去って行った。

そのユン検事の後ろ姿を見送ったあと、
ヘリは、ソファの背もたれに体を預けて脱力し、もう1度深い溜息をついた。



(「試される絆」9終わり 10に続く)


登場人物


マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士

ソヨン…ヘリの大学時代の同級生で判事
イ検事…ヘリの先輩検事、ソヨンの高校時代の先輩

ユン検事…ヘリの先輩検事

キム・ウソク…事件の目撃証人


ドラマ5、6話、二次小説「過去の亡霊」でも出てきたソヨン登場。
ソヨンは判事なので、言動にいろいろ規約や規制があるようなので、
裁判所内で検事と親しげに話すのもどうかな?なのですが、
創作の範囲ということで♪


今日、明日の週末記事は予約投稿になります。
明日も小説の続きを更新しておきます。
コメント等の返信は遅れますが、何かありましたら、拍手コメントの方にお願いします。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」8話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(8話)




その夜も、

ヘリは、マンションの自室に帰るなり、
真っ先に、仕事疲れでぐったりとした体をベッドに投げ出していた。

あれから、
被疑者の弁護人としてイヌと検察庁のオフィスで会ってから
数日がたとうとしていた。

あの日の仕事帰り、イヌと話をしたいと思って、連絡をとろうとしたヘリだったが、
何度かけてもイヌの携帯電話は留守電応答にきりかわった。

…仕事が忙しいのはわかるけど1度くらい出てくれてもいいのに。

そう思ったヘリの携帯電話に、イヌからメールが届いたのは深夜になってからだった。

『まだ事務所にいるけど、急ぎの用事なら電話して』

…急ぎの用事じゃないけど…。


こんな時間まで仕事中だといわれて、それでも電話をかけるほどの用件ではなかった。

ただ、職場での検事と弁護士としての堅苦しい会話で、
今日1日を終わらせるのは嫌だった。

それにメールで伝えるには、ためらわれるような話だった。
出来れば声を聞いて、口頭で言いたいことで、
欲をいえば、会って直接話をしたかった。
昼休み時間にイヌに聞かれた、資料室でのキム検事との会話の内容のことについて。

改めて掘り起こすことでもない、という思いもあったが、
はっきりとイヌに伝えておいた方がいい。
そんな気がしていたヘリだった。

『今週の土曜日も会えない』
そう言っていたイヌだったが、平日でも、または休日も少しの間くらいなら、
会って話はできるだろう。

…こんなに近くに住んでいるんだから。

ヘリはそう考えると、携帯電話のメール画面を開いた。

“とくに急ぎの用件じゃないから、また今度会ったときに話すわね。
お仕事お疲れ様。おやすみなさい”

そう打つと、ヘリはイヌにメールを返送した。

しばらくして、“君もお疲れ様。よく休め。お休み”とイヌから返信メールが届いた。

短い文章だったが、ヘリを気遣うようなプライベートな内容のイヌのメールに
ヘリはほっと息をついた。


しかし、その日から、
ヘリが平日にイヌに会える機会は無かった。

職場では、

担当している傷害事件で、最初は、訴えを変えることはない。裁判になってもいい。
強い姿勢でそう言っていたソン・チュヒョンが、ヘリの尋問にひるんだような顔を見せていた。


「パク・ミンソさんになんと別れ話を切り出されたのです?」

「違う。別れ話をしに行ったのは私の方です。
パク・ミンソは、私と別れるなら、店を解雇すると言いました」

「それで、あなたが怒って口論になった。では、包丁を持ち出したのは、ソン・チュヒョンさん、あなたの方だったのですか?」

「いえ、そんなバカな…。パク・ミンソが包丁を持ちだして、私に切りかかってきたという話には目撃者もいるのですよ」

ソン・チュヒョンが包帯を巻いた右手を見せた。

「私の手が仕事でどれだけ大切なものか、分かっていて、あの女は傷つけたんだ。
その上、嘘までつくなんて…」

うつむき、震えながらそう言うソン・チュヒョンを、ヘリは黙ったままじっと見つめた。

資料の中に、傷つけられたという手の傷の写真があった。

手の甲で、それもさほど深くない。
自作自演という傷にも見えなくは無かったが、目撃証言があった。
その第三者にももう1度話を聞く必要がある。

ヘリはどこか釈然としない気持ちになっていた。

上司のナ部長に言わせれば、「それが、まだマ検事の経験値不足からきているものだ。感情的に事件をとらえるな」と言われるところなのかもしれないが…。

そのための準備や資料をそろえていたヘリは、その仕事内容というより、
精神的な緊張で疲労しているようだった。


…イヌじゃなくても、相手が誰であろうと、私は全力で仕事をするだけ。

頭でわかっていても、
そうして、検察庁にいる間、マ検事としているときは、
強くそう思っていても、こうしてプライベートな空間に戻ってくると、
心なしか重くなる気分は何をしても晴れそうもなかった。

そんな状態で、イヌに私的な連絡を取るのも憚れた。

…今は考えるのをやめよう。イヌだって私と同じ気持ちのはず。
この事件が解決したら…。

ヘリは、化粧も落としていない顔を枕に埋めると、
目を閉じて、その夜はそのまま眠りについた。


幾日かたって、

ヘリは再びイヌと検察庁のオフィスで顔を合わせていた。

「被害者と、事件を目撃した証人と話をしました。
やはり、証言に間違いは無かったようです。
パク・ミンソさんは、いぜん犯行を否認されていますが」

ヘリはチラリと前に座ったイヌを見た。

イヌは、まったく動じていない冷めた表情で、手を組んでいた。
そして、タイミングを見計らったように口を開いた。

「ソン・チュヒョンさんが、包丁を持ち出したという話には証人がいます」

…え?

イヌの言葉にヘリも固まったように目を丸くした。

「店の従業員が目撃しています。確かに、口論になる前にソン・チュヒョンさんが包丁を持っていたという証言です」

「待って下さい。弁護人」

ヘリがあわてて止めた。

「そんな目撃情報はなかったはずです。口論になる前、部屋の中にいたのは、ソン・チュヒョンさんとパク・ミンソさんのお二人だけ。ソン・チュヒョンさんが刺された時に目撃証人がいたのは事実ですが」

「二人きりになる前に、見かけた人がいました。それに…」

イヌが静かに続けた。

「店の包丁の管理しているのは、調理現場を任されているソン・チュヒョンさんです。オーナーといえどもパク・ミンソさんにはわかりませんでした」

「証人って誰ですか?」

この時期になって、また、新たな目撃者が出てくるなんて。
何かおかしい。そう思ったヘリは、強い語気でイヌに問いかけた。

「店の従業員のキム・ウソクさんです」

「キム・ウソクさん…?」

…キム・ウソクさんですって?

ヘリは、目の前の資料をめくって、首をかしげた。

「変ですね。キム・ウソクさんは、つい先日までパク・ミンソさんが、ソン・チュヒョンさんを刺そうとしたところを目撃したと証言されてます。こんな包丁を持ち出すところから見られているというお話はされていません。それに、包丁についた指紋は、パク・ミンソさんのものしかありませんでした。これをどう解釈すればよいのでしょう?」

「そこがすでにおかしいですね」

イヌが言った。

「なぜ、他の調理人や、ソン・チュヒョンさんの指紋がないのでしょう?店で営業中にも使用されていたはずの包丁に。洗ってタオルでふき取ったのだとしても、包丁を仕舞い込むときには手で握りますよね?」

イヌの言わんとしている事を悟って、ヘリは口を閉じた。

包丁を持ち出した者は、その前に指紋をふき取っていたか、
または、布のようなもので持っていたか…。

冷静な思考は保てたが、心の中は焦燥に駆られていた。

前もって調べていたことや、用意していた尋問資料とはまた違った証言や事実関係が出てきた。
パク・ミンソには、傷害に対する罪はないと言っているようなものだった。


改めて証拠や証言の事実確認をし直さなくてはいけないということ。
キム・ウソクからも話を聞かなければならない。

「目撃証人が嘘を言っている可能性があります」

ヘリが言った。

「本当のことを全部話さなかっただけでしょう」

どこまでも冷静なイヌの目に、ヘリの瞳が揺れた。

検事として、毅然とした態度を見せているつもりだった。
なのに、まるで、上司から調査の見落としを的確に指摘されているように、
ヘリは、気まずく苦い思いを噛みしめていた。

イヌとの対面が終わり、イヌがオフィスを去った後、
ヘリは、重苦しくなった空気に耐えられなくなって、化粧室に向かった。

検事になってから、落ち込んだり、何か考え事をしたかったり、
気分転換したい時に、ヘリはトイレの個室にこもる癖があった。

ふ~っと盛大に溜息をつき、ヘリは、鏡の前で一人気合を入れたあと、
化粧室を後にした。

ふと、前を見ると、イヌが前方から歩いてくるのが見えた。

とっさに、化粧室に再び入りたい衝動に駆られたが、
手を握りしめると、立ち止まった。

イヌもヘリに気づいていたようだった。

すれ違う前に微かに目礼した後、イヌはヘリから視線を前に向けた。

そして、無言のまま歩いていくイヌが、スッとヘリの脇を通り過ぎた。

触れ合うことのない距離をあけて、

ほとんど顔を合わせることなく、過ぎ去ったイヌの、
いつもつけているオードトワレの微かな残り香だけが、冷ややかな風になって、
ヘリの頬を掠めていった。


イヌが通り過ぎた後、ようやくヘリはオフィスの方に足を向けた。

振り返るとエレベーターの方に向かって歩いているイヌの背中が見えた。
その後ろ姿を少し見送ったあと、ヘリは、頭を1振りして、イヌとは反対の方角に歩き出した。


その日の昼。

ヘリはいつものように刑事5部のメンバーと外で昼食をとっていた。

ボンヤリとしていたヘリに、不思議そうにイ検事が声をかけた。

「マ検事、さっきから料理が口の中に入っていないみたいだけど」

「え?あっ…やだっ」

ヘリは、箸につまんでいたものをボロボロと膝の上に落としていた。

「いったいどうしたんだ?マ検事がそんな深刻な顔をしているのは珍しいな」

「そんなに深刻な顔してました?」ヘリが自分の服におしぼりをあてながら、あわてて聞いた。

「いや、深刻ってほどじゃないが、心ここにあらずって顔だ」

「何か悩みことなら聞くぞ。プライベートなことか?」

そう心配半分、からかい半分で聞いているらしい上司や先輩の言葉に、ヘリの横に座っていたキム検事の方が呆れたようにわざとらしく溜息をついていた。

「先輩たち、年ごろの女性にはそっとしておいてほしいことだったあるんですよ?もっと気をきかせてください」

「俺たちは十分気をつかっているから聞いているんだよ。キム検事」

「そうだよ。かわいい後輩が何か悩んでいるなら力になってあげたいだろう?」

「そうですか?ただ、好奇心で聞いているように見えますけど?ねえ、ヘリ先輩」

「ハハ…そうね。でも、ほんと、とくに話すようなことはありませんから。
あえて言うなら、最近ちょっと仕事疲れがたまっているみたいで…」

乾いた笑みを浮かべてそう言うヘリに、
先輩検事たちが、とたんに訳知り顔になって顔を見合わせていた。


「ああ~・・・。そういえば、あの傷害事件の案件どうなった?」

イ検事がサラリとそう聞いた。

すでに、会議で報告していたからでもあったが、
ヘリの担当事件の弁護人がソ弁護士…イヌだということは知られていた。

面白そうな顔をしているイ検事と、気の毒そうに半笑い気味のチェ検事の横で、ユン検事が、眉をひそめた微妙な表情でヘリを見つめていた。

「仕事の話は今はいいだろ。みんな。せっかくのランチの場だ。何かこうもっと別の会話で盛り上がろう」

空気を察したナ部長が、ポンっと膝を打って、そう言うと、
それを合図に、ヘリへの尋問は終わったようだった。

時々癖のあるところを見せるナ部長だったが、
さすが上司という態度で、その場の空気をかえていた。

しかし、食事がすんだあと、ナ部長は、検察庁に戻る前にヘリに声をかけてきた。

「マ検事、昼休みが終わったら、私のオフィスに少し顔を出せ」

「はい…」


ヘリがナ部長のオフィスを訪ねると、ナ部長が言った。

「調査状況は、また改めて報告してもらうとしても、マ検事。大丈夫か?」

「大丈夫って何がです?事件が解決できるかどうかということですか?」

そう問うヘリにナ部長が言いづらそうな顔をした。

「公判に持ち込むかどうかを心配しているんじゃない。
担当事件の弁護人のことだ。やりづらくないか?ということを聞いている」

「それは…」ヘリは返答につまった後、正直に言った。

「やりづらいです。でも、これは仕事ですから。割り切っています」

「本当か?」

「はい」

力強くコクリと頷いてみせるヘリにナ部長が静かに溜息をついた。

「それならいい。裁判になるようなことになっても…わかっていると思うが、
君は検事だからな。万一、仕事に支障が出るようなそぶりがあれば、容赦なく事件の担当から外すから、そのつもりでいろ。いいな?」

「はい、わかりました」

ナ部長らしい矜持と、そして、気遣いが感じられた言葉をもらって、
ヘリは、ナ部長のオフィスを後にした。

…大丈夫よ。たとえ公判になったとしても、私は…私たちは大丈夫だから。

そう改めて心に刻んで、ヘリは、その日の午後他の案件のことで裁判所にむかった。

その道すがらの事だった。

「あら?あれは…」


…イヌと…ジェニーさん?

ヘリは、通りに面したレストランの窓側の席にいる男女が、
イヌとジェニーである事に気づいた。

ヘリは思わず店の前で足を止めた。



(「試される絆」8終わり 9に続く)


登場人物

マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ソン・チュヒョン…ヘリの担当事件の被害者
パク・ミンソ…イヌが弁護している被疑者

ナ部長…ヘリの上司
ユン検事…ヘリの先輩首席検事
チェ検事…ヘリの先輩検事
イ検事…ヘリの先輩検事
キム検事…ヘリの後輩検事

ジェニー・アン…イヌの親友で同じ事務所の弁護士


イヌとヘリがマンション前ですれ違うというシーンありましたよね。
お互い、すれちがった後に、振り返ろうとするんだけど、
思いとどまって、同時に前に歩きだすシーン。
袖も指もふれあいそうで触れないところ。
14話のエレベーターの中の二人の指が触れ合うシーンも、そうだけど、
セリフが無くても、二人の心情がすごく伝わってくる演出がすごいな~って
改めて思いました。


小説の拍手&拍手コメント、ありがとうございます♪
明日も小説の続きを更新予定です。


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「試される絆」7話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
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この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(7話)




…イヌ!いつからそこに?


とっさに声を出す事も出来ず、固まっているヘリの返事を待たずに
イヌは、スッと背を向けて行ってしまった。


「今の話、聞こえちゃっていたでしょうか?」

ヘリの心の声を代弁するように、困惑したキム検事の声が聞こえた。

「…さあ、どうかしら」

開いていた戸口から、声は漏れていたかもしれない。
いつから、イヌがそこで、自分とキム検事の会話を聞いていたのかは分からないけど…。

気落ちしたようなヘリに、キム検事が申し訳なさそうに「ごめんなさい」と謝っていた。


「どうして、キム検事が謝るの?」

「だって、ヘリ先輩の彼氏さんに今の話で何か誤解されたかも」

「誤解も何も。聞かれて後ろめたい話でもないし…。
たとえ、聞かれていたとしてもキム検事が気にすることじゃないわ」

「そうですか?でも、何かあったら言ってください。
私から彼氏さんにちゃんと説明しますから」

キム検事の言葉にヘリが曖昧に笑ってみせた。

万が一にも、キム検事にそんな事を頼んだら、事態は余計混乱するように思えた。

第一、説明することも、弁解することもない。

ペク・ユンスとの見合いのことは、もうとっくの前に無かった話なのだ。
今日会ったことも、偶然であって、しかも二人きりではない。

何も自分が罪悪感を持つことは無いのだ。

たとえ、話を聞いたイヌがどう思っていようと…。


結局、キム検事がヘリに何を相談したかったのかも分からないまま
昼休み時間が終わっていた。


ヘリは、重い足をひきずるように、自分のオフィスに戻った。

ヘリのデスクの前に宣告通り、イヌが座っていた。

ヘリの捜査官が、部屋に入って来たヘリを見ると、
「ソ弁護士が先ほどからお待ちですよ」と言った。

「ええ…」

ヘリは、イヌの側を通って、デスクにまわりこむと、
おずおずと、椅子に座って、イヌと対面した。

「今日は、どのようなご用件で?」

そう聞くヘリに、イヌがうっすらと微笑んだ。

だが、その笑みには、親しげな温かみも、
からかうような愉快さも入っていなかった。

どこか侮蔑したようなイヌの冷笑に、ヘリの心がスッと冷え込むような気がした。


「パク・ミンソさんの弁護人としてきました。
お手元に資料があると思いますが」

…パク・ミンソ…。

ヘリは、デスクの上に重ねてあった書類の一つをあわてて引き出して開いた。

今受け持っていた案件、ソン・チュヒョン傷害事件の被疑者として訴えられているパク・ミンソ。
その弁護人が、イヌだったなんて…。

「パク・ミンソさんは、ソン・チュヒョンさんを包丁で切りつけて傷を負わせた容疑で逮捕されました。警察での供述で、相手の体を傷つけたという事に関しては、パク・ミンソさんも認めていらっしゃった、とあります」

ヘリが調書の資料を読み上げた。

「ソン・チュヒョンさんを傷つけたということはパク・ミンソさんも認めていますが、刃物で体を傷つけてはいないそうです」

イヌが言った。

「どういうことでしょう?」

パク・ミンソは、ソン・チュヒョンが働く店のオーナーだった。

そして、二人は愛人関係でもあったらしかった。

妻子のいるソン・チュヒョンが別れ話を切りだしたことに逆上したパク・ミンソが店の包丁を取り出して、切りつけた…というのが取り調べでの供述だった。
なにより、その時のことを目撃した証人もいる。

それは、幸いかすかな傷で済んだソン・チュヒョンの証言と一致していた。

物的証拠となる包丁にもパク・ミンソの指紋が検出されている。

「殺意は無かったということですか?」

ヘリの問いにイヌが首をふった。

「殺意は全く無かったと、もとより否定されてます。ただ、別れ話をしただけだと。それでソン・チュヒョンさんを精神的に“傷つけた”ことはあっても、包丁で切り付けたという訴えは事実無根だということです。何より包丁を持ち出したのはパク・ミンソさんではなく、ソン・チュヒョンさんだということです」

「そんな…」

調書と全く違うイヌの話にヘリは、唖然となって閉口した。

ここにきて、パク・ミンソが供述を翻したということになるのだろうか。
それとも…。

「別れ話をしに店に行ったのは本当のようです。そして、パク・ミンソさんの別れ話に激昂したソン・チュヒョンさんの方が包丁を持ち出して、パク・ミンソさんを脅した」

「そんな話は、ソン・チュヒョンさんの話には出てきませんでしたが?」

ソン・チュヒョンさんが噓を言っていたと?

問い詰めるようなヘリの顔にもイヌは、冷静な表情を変えずに淡々と話を続けていた。

「パク・ミンソさんの目の前でソン・チュヒョンさんが自分で自分の体を傷つけたということです」

「傷は、ソン・チュヒョンさんの自作自演だった?」

「そうです。再度、被害者や目撃者から事情を聞いて、証言の裏付け調査を行っていただけませんか?
これが事実なら、パク・ミンソさんは無実の罪で訴えられ逮捕されたことになります」

ヘリは、資料を閉じた。
たしかにイヌの言うとおりだ。
この事件は、1度調べ直す必要がある。


こうして、弁護士としてのイヌと向かい合うのは2度目だった。

だが、1年前の新人の時と異なって、今は、イヌの話している内容も、
そして、今まで自分の培った経験上からの答えもはっきりと理解していた。

何より、その2つが完全に相入れるものでなく、真っ向からぶつかっている事も。

…私はパク・ミンソさんに全く非が無いとは思えない。
それに、殺意が無かったということも納得出来ない。

ヘリは思った。

パク・ミンソと1度対面尋問で会っていたヘリは、
そのふてぶてしい態度と、始終、人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべた姿勢に、
内心、ざわつく心を必死に抑えていた。

愛人ということだったが、
大手レストラン店のオーナーということもあって、シェフとして働いていたソン・チュヒョンが、パク・ミンソの強引な誘いを断り切れず、脅されて、関係を結んでいたという話もあった。

何より、自作自演という話。

実際に、パク・ミンソが包丁でソン・チュヒョンを切りつけたのを見たという目撃証言がある。

それも確認しなければ。

「分かりました。事件の再調査も含めて、
事実確認を詳しく行いますので、少しお時間を頂きます」

「よろしくお願いします」

イヌのどこまでも冷静な返事と対応に、ヘリは逆に落ち着かない気分になっていた。

…失礼します。とイヌが立ち上がり、オフィスを出て行く後ろ姿を見送ったヘリは、
まるで1日の終わりのような疲労を感じた。


「…驚きましたね」

そんなヘリの心情を思いやったように捜査官のチャ係長が声をかけた。

「代理人がソ弁護士とは」

「マ検事、大丈夫ですか?」

事務官も遠慮がちにヘリに言葉をかけてきた。

「平気です。こんなことはよくあることですから」

そう、自分は何の動揺もしてなどいない、というように装ってみたヘリだったが、
内心の混乱は自分でもわかっていた。

イヌと検察庁で顔を合わすことは、よくあることかもしれなかったが、こうして、
同じ事件の検事と弁護士として、対峙するのは再会してからは初めてのことだった。

それだけでも、十分戸惑う要素になっていたのに、その前に、資料室であったことが
ヘリの心を重くしていた。


あの、固い態度は、あくまで仕事上だからよね。
あの資料室の会話の件はまったく関係ないわよね。

そう思いながらも、ヘリは、モヤモヤした気分を振り切るように、
一旦、自分の中で消化しきれていない各諸問題を考えるのを後回しにして
仕事に没頭することに決めた。

今は、私の役割をしっかりこなさなくては…。

事件の弁護人がイヌ…恋人でも、自分は自分の仕事に全力をつくすだけ。
たとえ、この先、「ソ弁護士」と法廷で争うことになっても…。

閉じられたオフィスのドアの中で、ヘリがそう決意を固めていたころ、
廊下に出たイヌは振り返りもせずに、検察庁の出口に向かって歩いていた。

途中、資料室の前を通りかかったとき、チラリと目をやったが、
部屋には誰もいないようだった。

…さっき、開け放された扉から聞こえていた会話。

『ヘリ先輩のことが好きなんですよ』

『どうしてそんなことを思い込んだの?』

声で、ヘリが部屋の中にいることがすぐにわかった。

それでも、無視して、ヘリのオフィスに向かおうとしていたイヌだったが、
耳にはいってきたキム検事の言葉に思わず足を止めていた。

『見合い相手だったんでしょう?』


…見合い相手?


聞こえていた、それ前後の会話の流れから推測すると、
おおよそ、それはヘリの後輩の女検事の邪推の類のものに違いなかった。

ただ、その中に含まれた事実らしきことを、イヌは無視することができなかった。
そして、驚いた顔で自分を凝視していたヘリの表情も。

聞かれたくないことを聞かれた…。そんな顔をしていた。

確かに、ヘリからそんな話を今まで聞いたことはなかった。
だが、自分もあえて詳しくは聞いたことがなかったし、話したこともなかった。

離れる前、そして離れていた1年の間にお互い何があったのかを。


昨夜会ったヘリの様子が少しおかしかったのは、このせいだったか、
それともまた別の理由だったのかは分からなかったが、
ヘリのいつもと違う態度には気づいていた。
だが、自分にも、あのとき気がかりなことがあった。

今のクライアントの事件の担当検事がヘリだということ。

そのことを知ったとき、
会ったときに話すべきか迷っていたイヌだった。

だが、話すタイミングを逃しただけでなく、
結局、打ち明けることはできなかった。

昨夜も、まずはヘリの話を聞こうとしたつもりだったが、
ヘリの方も何も話を切り出してこなかった。


…これでいいんだ。

イヌは、1年前とは明らかに違う、検事としてのヘリの姿にそう思った。

『わかっていたなら教えてくれたら良かったのに。友達だと思っていたのに』

1年前、検事と弁護士として対峙した時、プライベートで落ち込むことと重なったとはいえ、
事件の詳しい調査内容を知らなかったことに対して、イヌを責めていたヘリ。

もうあの頃の君じゃない。

僕たちはプライベートと切り離して、弁護士と検事として向き合えるはずだ。
そうだろ?

心の中で、ヘリにそう問いかけながら、
イヌは外に出ると、振り返り、検察庁のヘリのオフィスがあるあたりの窓を仰ぎ見た。

・・・この事件が解決したら…。

『いつかって…いつ?』


目を閉じて、眠っているふりをしていた時に聞こえた
ヘリの小さな呟きは耳と心に残っていた。

心細そうで、どこか不安げなヘリの声。

その声に、すぐに起きて答えてやりたかった。


「約束は守るよ」…ヘリ。


あのとき、答えられなかった言葉をつぶやくと、
決意を秘めた瞳を1度閉じ、再び開いたイヌは、
2度と振り返らず、検察庁を後にした。


(「試される絆」7終わり 8に続く)



拍手&拍手コメントありがとうございます!!
体調へのお気遣いや、励まし、感想等、
いつもありがたく読んでます♪

ドラマ前半のソビョンは、なんとなく軽いイメージがありましたが、
やるときはやる、弁護士でしたよね。
スーツ姿がよく似合います♪…仕事中のイヌもLOVE!!私も仕事頑張る!(笑)

明日も無事に(?)小説の続きを更新できそうです♪


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」6話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(6話)




その日、検察庁のオフィスでヘリは何度目かの溜息をついていた。

書類に目を通しながら、受け持っている案件に重く暗い気持ちになろうとするのを、
ふるいたたせるように仕事に没頭していたヘリだったが、
プライベートで、うまく気分転換出来なかった事が尾を引いているようだった。


今朝、

イヌは前夜の予告通り、早い時間に出勤して行った。

すっかり準備が整って、出かける直前のイヌに、ようやく気付いて、
目を覚ましたヘリに、イヌは「寝ていていいよ」と声をかけていた。

「キッチンに、朝食がある」
…良かったら食べろ。というイヌに、ヘリはますます申し訳ない気持ちになった。

「それから…」

イヌは、コートを羽織りながら、少し戸惑ったように言った。

「今週末の土曜日も会えない」

「え…?」

「仕事がたてこんでいるんだ。今度埋め合わせする」

「…そう」

がっかりした気持ちより、イヌの過密な仕事スケジュールが心配になったヘリだった。

「無理しないでね」

本心から、そう言ったヘリの顔に微笑みを見せた後、イヌは部屋を出て行った。


…あの感じだと、今週もとても忙しそうね。

平日も電話すら出来ないかもしれない…。

同じマンションの4階と5階。それもすぐ近くの。
テラスに出れば、お互い顔を会わせることも出来る距離にいるのに。

もし、あの時…。

自分達が再会した後に、イヌの提案した「同棲」をしていたなら、
こんな思いをすることは無かったのかしら?

ヘリは、あれ以来初めて、「同棲」という話を思い直していた。

一緒の部屋に住んでいたら、お互いがどんなに忙しくても、
休日出勤があったとしても、毎日、顔を合わせることは出来たはず。

でも…。

『自分がどうしたいのか分かっていたら答えは出るはずだと思うけど?
頭じゃなくて心で分かっていればの話だが』

イヌが以前ヘリに言った言葉。

あの時、自分は考えてではなく、思った通りに選択した。
だから、その選択が間違っていたとは思わない。

…思わないけど。

ヘリは再び溜息をついて、絆創膏が貼られた手のひらをさすった。
深く切ったわけではなく痛みももう無かったはずだったのだが、
傷口が疼いているような気がした。

その時、ヘリのパソコンにメールが入った。
後輩のキム検事からだった。

“マ先輩。今日のランチ、二人だけで一緒に出来ませんか?相談したいことがあるんです”

…相談したいこと?何かしら?

そう思いながらも、ヘリはキム検事に返信を打った。

“いいわよ。他の先輩方のランチは別に予約しておいてね。”

“ありがとうございます。では12時に”


キム検事は、刑事5部の中で、ヘリの唯一の後輩女性検事だった。
『出来る女性検事像』にあてはめて、ヘリを崇拝しているキム検事はヘリに一番の信頼を寄せているようだった。

仕事のことでも、何かと相談をもちかけてはきていたが、
こうして、わざわざ外のランチに誘うということは、プライベートの事か、又は、他の先輩達には聞かれなくない話なのかもしれない。

ヘリは、そんな後輩の事を思いやると、自分の悩んでいる事も忘れて、
気分を一新して、昼休みまでの時間を仕事に没頭することに決めた。


…そして、昼休み時間。

「女性二人で、こそこそとあやしいな~」と言う上司や先輩達の声も無視して、
キム検事は部屋から出て来たヘリの腕をとってさっさと歩きはじめた。


「他の先輩方のランチは、ナ部長がお気に入りの韓国料理の店にしておきました。
私達は、イタリアンにしたんですけど、良かったですか?」

「ええ、いいわよ」

キム検事が予約したという店は昼時ということもあって、かなり混雑していた。

「大丈夫です。予約してありますから」そう言って店内に入ったキム検事に続いたヘリだったが、案内する店員の困惑した応対に足を止めた。

「すみません。お客様。ご予約が手違いで、キャンセルになっておりまして」

「どういうこと?」

眉をひそめて、店員の持った予約表を覗き込むキム検事に、
店員がますます恐縮した顔になった。

「お客様と同姓同名のお客様がいらっしゃいまして…、応対した者が、勘違いをして、後の時間のお客様をキャンセルさせてしまったのです」

「なんなの、それ。でも、席は空いているんでしょう?」

「いえ、ただ今はあいにく満席状態で。もう少々お待ち頂ければお席を御案内出来るのですが…」

大変申し訳ありません。と頭を下げる店員にキム検事が食ってかかっていた。

「ちょっと、そちらの手違いなのに、すぐに席を用意出来ないと言うの?」

声を荒げて憤慨しているキム検事を店内の客達が、チラチラと何事かと見ていた。
ヘリは、納得いかない様子で、まだ店員に何か言おうとするキム検事の肩にそっと手を置いた。

「キム検事。私は待っていてもいいわよ。もちろん別の店に行くことも構わないし」

尊敬する先輩の前で恥をかかされた、という思いもあってムキになっていたキム検事は、
ヘリの優しい言葉に、潤んだ瞳になった。

「すみません。マ先輩~」

よしよし、と落ち着かせるようにキム検事の背中を撫でていたヘリに背後から声がかかった。

「マ・ヘリさん?」

ヘリとキム検事が振り返ると、そこに、先日ヘリの実家にいたペク・ユンスが立っていた。

「ペク・ユンスさん?」

キム検事が不思議そうに、ヘリとペク・ユンスの顔を見比べた。

「やっぱり、マ・ヘリさんでしたか。店に入って来た時に似た方だな、と思って見ていたのだけど。今、お食事にいらしたんですか?」

そう聞くユンスに、ヘリが答える前にキム検事が横から口を出した。

「予約していたのに、キャンセルにされていて、今席が空くのを待っていたところなんです」

とにかく、誰かにこの愚痴を聞いてもらいたい、というようなキム検事の言い方に、ヘリだけでなく、ユンスも心なしか微笑んだように見えた。

「もし、良かったら、我々と同席しませんか?」

ユンスが、そう言って、ヘリとキム検事に店内の窓側の席を指差した。

そこに、ユンスの連れと見受けられる若い男性が一人座っていて、
にこやかに笑って軽く手をあげていた。

「4人席ですし、僕達も今来たばかりですから」

「ええ~?いいんですか?」

聞きながらも、すでに、乗り気になって、声を躍らせたキム検事とは対照的に、ヘリは、気の進まない顔になった。

「でも、いきなりで連れの方に申し訳がないです。それに…」

今日のランチは、キム検事がヘリに相談事があるから、とわざわざ、他の男性検事達をはずして設けた席だった。

ユンス達と相席になってしまったら、キム検事が話をしずらい…そう思ったヘリだった。

その自分の気持ちを伝えるようにキム検事にチラリと目をやったヘリだったが、
キム検事の方はすっかり相席に同意していて、ユンスの後に続こうとしていた。

「いいですよね?」

店員に確認をとるユンスに、店員はホッとした表情で、頷いていた。

「キム検事、相談ごとは?」

ヘリが、ユンスに聞こえないように声を落として、キム検事に囁いた。

「いいんです。いつでも出来る話ですからっ」

そう言って、キム検事は何事も無かったかのように、ヘリの手をとって
ユンスの案内する席に向かった。

なかば呆れながら、ヘリはそんなキム検事と一緒に、ユンスとその連れの男性が譲った席に並んで座った。

「ヘリ先輩のお知り合いの方ですよね?お二人を紹介してください」

キム検事はメニュー表も開かずに、ウキウキした様子で、目の前の二人の男性に目をやっていた。

…ペク・ユンスさんの事もそんなに知らないし、
その連れの方のことは全く分からないのだけど。

ヘリは、そっと溜息をつくと、まずユンスと、その連れに自分とキム検事を紹介した。

「マ・ヘリです。こちらは、職場の後輩のキム・ミンジョンさん」

「マ・ヘリさんとは、ちょっとした知り合いなんだよ」

ユンスは横に座った連れの男性にそう言ったあと、ヘリとキム検事に向き直って自己紹介を始めた。

「ペク・ユンスです。今はソウルの大学で客員教授をしています。
彼は、その大学で講師をしているイム・ジュウォン君。僕の大学時代の後輩でもあるんですよ」

「はじめまして。こんにちは」

イム・ジュウォンと紹介された男性がニッコリとヘリとキム検事に笑いかけた。

年の頃は、キム検事と同じくらいのようだったが、カジュアルな服装と髪型のせいか、学生のように若く見えた。

今時のイケメンという感じで、端正な顔立ちのイム・ジュウォンの顔に、キム検事がぽーっと一瞬見惚れたような表情になっていた。

「もしかして、マ・ヘリさんは中部地検の検事さん?」

ジュウォンの問いに、ヘリが、え?と言う顔でユンスを見やった。

先日会ったばかりの私のことを、話してたの?

「そうですけど」

「ジュウォン」

驚いた様子のヘリに、ユンスは何故かあわてた様子で、ジュウォンの話を遮ろうとした。
が、そんなユンスは、全く周囲の雰囲気を気にとめない、といった様子で、

「じゃあ、以前、ユンス先輩が言っていた父親の友人がもってきた見合い相手って、ヘリさんの事だったんですね。一目でわかりました」

と、あっけらかんと、得意げに続けた。

「見合い相手?」

キム検事が興味深そうに、ヘリとユンスの顔を交互に見比べた。

「ヘリ先輩。ペク・ユンスさんとお見合いされていたんですか?」

「してないわ!」

思わず、声高になって否定したヘリは、ハッとなって身をすくめた。

「お前は…余計なことを」

困惑したように頭を抱えてみせたユンスと気まずそうなヘリをよそに、
キム検事とジュウォンが勝手に話を始めていた。

「私も検事なんですよ」

「そうなんだ。検事ってもっと固い感じの人ばかりだと思ってたけど、こんな綺麗な人や可愛い人もいるんですね」

「お上手ですね~。大学で教えていらっしゃるのは、女性の口説き方とかですか?」

食事をしながらも、きゃっきゃっと話を続けるキム検事とジュウォンの横で、
ヘリとユンスは、苦笑しながら顔を見合わせていた。

食事も終わり、ユンスが全員の分の食事代を出すというのをヘリは、必死になって辞退しようとした。

「ここは、ごちそうさせて下さい。楽しかったですし、
お二人のおかげで美味しいデザートにもありつくことが出来ましたから」

4人のテーブル席には、店からお詫びとお礼して、デザートの盛り合わせがサービスで運ばれていた。

でも…と言いかけるヘリの横で「ありがとうございます。ご馳走様でした」とキム検事が元気よくお礼を言っていた。

「・・・・・・」

当惑しているヘリに去り際、ユンスがますますヘリをうろたえさせる事を口にした。

「まだソウルにいるので、これからもこうして会えるかもしれませんね」

「そうですね」

愛想笑いを浮かべつつ、ヘリはユンスにお辞儀した。


ユンスとジュウォンと別れた後もキム検事は始終はしゃいだ様子だった。
それは、検察庁についてから、二人で資料室に入った時も続いていた。

「イム・ジュウォンさんもかっこ良かったけど、ペク・ユンスさんも素敵な人ですよね~」

「そうね」

キム検事のテンションの高さにヘリは内心少々辟易していたが、言っていることには同意していた。

先日会った時は、そんなに気にも留めていなかったが、
まじかで会ってみて、そうしてよく見てみると、外見的にもかなり洗練されている男性だった。

背も高めで、着ている服のセンスも良かった。
寡黙になると真面目な印象を与えていたが、柔らかい物腰と丁寧で相手に安らぎを与えるような話し方と優しそうな笑顔が、心をなごませていた。

「今お付き合いされている方はいないとおっしゃっていたけど、ペク・ユンスさんは私とは付き合ってくれないですよね」

はあ~っと溜息をつくキム検事にヘリが首をかしげた。

「あら?どうして?」

「どうしてって…ヘリ先輩って、ほんと、そういう所鈍いですよね」

キム検事がジットリとヘリを見つめた。

…なにが?

キョトンとして、本当に分からないというようなヘリにキム検事がもう1度わざとらしく溜息を大きくついて言った。

「ペク・ユンスさんは、ヘリ先輩のことが好きなんですよ」

「ええっ?」

思いもしなかった指摘にヘリが驚くと同時に呆れたような目をキム検事に向けた。

「どうして、そんな突拍子もないことを思いこんだの?」

「突拍子も無くないですよ。分かんなかったんですか?ペク・ユンスさん、ずっとヘリ先輩の事ばかり見てましたよ?」

「向かいあっていたからでしょう?」

…それにキム検事は連れの方と話が盛り上がっていたじゃない。

「違いますよ」キム検事が大きくかぶりを振った。

「見合い相手だったんでしょう?ヘリ先輩とペク・ユンスさんって。きっと、ペク・ユンスさんの中では無くなった話じゃなかったんじゃないですか?後輩に話をするくらいですもの。ヘリ先輩との結婚を真面目に考えてたかもしれませんよ?」

「まさか…」

アハハと、ヘリは乾いた笑いを浮かべてキム検事の迫力に押されていた。

キム検事の話は飛躍しすぎた推測と、観察によるものだと思った。
だが、実際、去り際に、ヘリに、この前は渡せなかったから、とユンスが名刺を渡しながら言った言葉も心の中でひっかかっていた。

『また今度、一緒に食事か、飲みに行きましょう』

…あれは、そういう誘い?

ヘリが、真面目にそう考えこんだ時、キム検事が「あっ…」と何かに気づいて声をあげた。

キム検事が見ている方向に何気なく目をやったヘリは、
瞳を大きく見開いて、体を硬直させた。

そこにイヌが立っていた。

朝見た時の服装で、コートを腕にかけバッグを手に持って、
資料室の戸口に佇んで、こちらを見ていた。

驚きのあまり声も出なくなっているヘリと視線の合った
イヌはニコリともしなかった。

そして、固い口調で言った。


「オフィスで待っています。マ検事」



(「試される絆」6終わり 7に続く)



マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

キム・ミンジョン…ヘリの後輩検事

ペク・ユンス…ヘリの父親の友人の息子
イム・ジュウォン…ユンスの大学の後輩



テレビ放送の時は、カットが多かったのですが、
ノーカット版(DVD)で見ると、
イヌのヘリに対するほとんどストーカー行為(笑)は半端ないです。
自分が尾行できない時は、スパイ(みつばがカン室長と誤解してた人)に
代行させて、逐一報告させてます。
イヌ自身、どこかの物陰や車の中からジッとヘリを見てるんですよ。
ほんとに、計画のためだけだったのか?って思っちゃうほどに。
4コマ漫画の方で、そんなイヌを描いてみたのはコチラ

…って、自分の書いたシリアスシーンに耐え切れずに
茶化したコメントはともかく、明日も小説の続きを更新予定です。

小説への拍手、拍手コメントありがとうございます!
辛抱強く、「試される絆」おつきあいください。
よろしくお願いします。
(書いた私でも倍速でとばしたかった(苦笑))


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「試される絆」5話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
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この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(5話)




「テイクアウト出来る店なら教えてあげたいんだよ。ジェニーはよく利用するからね」

イヌは食べ終えたラザニアのパッケージに書かれた店名に目を落としていた。

…ジェニーさんはあまり料理をしない女性なのかしら?

ヘリは、内心首をかしげながら、ワイン売り場で会ったジェニーとの会話を思い出していた。

「ラザニアといえば、イヌはパスタ料理が得意なの?」

「ん?」

「ジェニーさんが、今日会ったときにそう言っていたのだけど」

イヌのパスタ料理とワインはとても合うわね…って。


「私は、イヌのパスタ料理は食べたことがないから…」

最後の方はボソボソとつけたすように言ったヘリの口調に、
どこか拗ねたような響きがこもっているのを感じとったイヌが苦笑した。

「君は普段、炭水化物を多くとりたくないと言っていたから、
パスタは作ったことが無かっただけだ。食べたかったのか?」

…そりゃあ、今まで、イヌが料理してくれる時「何が食べたい」と聞かれて、
どうしてもパスタが食べたいって言ったことは無かったけど…。

「パスタは好きよ。ラーメンだって時々食べているじゃない。
それにイヌの得意料理だったなんて、初めて聞いたわ」

イヌの事で、ジェニーが知っていて、自分が知らないことがあるということに
少なからずショックを受けていた、ということを今さらながら自覚したヘリだった。

ジェニーは、イヌがアメリカにいた時からの幼馴染で親友だということは知っていた。

アメリカでも、韓国でも。

話を聞いたかぎりは、アメリカで住んでいたお互いの家も近かったのだろう。
学校でも顔を合わせていただろうし、同じ弁護士として、仕事のパートナーとして一緒にいた。

自分よりずっと長い時間を共有してきた二人。

まだ、実際に交際して半年未満しかたっていない自分と比較すれば、
ジェニーの方がイヌの事を沢山知っているのは当然かもしれない。

そんなことは頭では分かっていても、

そして、何より、ジェニーはイヌの親友で、自分はイヌの恋人だと思っていても、
なんだか、付き合いの時間の長さと深さの差を改めて知った。そんな気がした。


イヌの好みのワインも、得意料理も知らなかったなんて…。

しかし、

落ち込んだようなヘリの表情に、
イヌは、わけがわからない、という風にキョトンとした顔になっていた。

「そういえば、アメリカに住んでいた時に、ジェニーに作ったことがあったな。
その頃は、確かに僕もパスタ作りに凝っていた時期があったけど、
今はとくに得意料理ってわけでもないぞ。レパートリーも増えたしな」

そう続けるイヌに、ヘリが「ふーん…」と気のない相槌を打った。

「なんだ?そんなにパスタが食べたかったのか?じゃあ、今度作ってやるから、
そんないじけた子供みたいな顔するな」

「いじけた子供みたいな顔なんてしてないわっ」

ムキになって否定するヘリに、イヌが黙ったまま微笑んで、肩で軽く息をついてみせた。


…別にいじけているわけでも、イヌを責めているわけでもないけど。

自分のこんな態度は、休日返上で仕事してきたイヌを余計疲れさせてしまう。

ヘリは、気まずそうに、頬を手でかいた後、
立ちあがって、飲み終えた自分のワイングラスとイヌの使用していたフォークを流しにおいた。

「洗い物するわね」

「いいよ。そんなことは僕がする」

「いいの。イヌは仕事で疲れているんだから。休んでいて」

そう言って、イヌの空いたワイングラスも運ぼうとしたヘリは、
思わず手を滑らせた。
床上でカシャンっと薄い音を響かせて、グラスが真っ二つに割れた。

「ごめんなさいっ」

「いいから。君は触らないで――…」

あわてて、制止するイヌの言葉も聞かないで
ヘリは勢いよくしゃがみこんで、グラスの欠片に手を伸ばしていた。

「…っつ…!」

「ヘリ!」

ヘリの掌から一筋の血が流れた。

「切ったのか?手を見せてみろっ」

あせったようなイヌの声にもヘリは、「大したことない」と力なく答えて、
血の流れる手をもう1方の手でおさえつけた。

「見せるんだ」

そんなヘリの腕を掴んで乱暴に立たせたイヌは、
いらだったような荒い口調で、強引にヘリの手を自分に向けさせた。

傷口を確認した後、イヌは、綺麗な布巾でヘリの掌を包んだ。

「手当するから、椅子に座ってじっとしていろ。もうグラスには触れるな。いいな」と有無を言わさないような声色でヘリに念をおしたあと、部屋の奥から救急箱を取りに行って戻ってきた。

「・・・・・・」


すっかりしゃげかえったヘリの手に薬をつけて、
絆創膏を貼るイヌは、怒ってはいないようだったが、呆れたような目をしていた。


「君のそそっかしい性格にもつける薬があったらいいのにな」

いつものような、皮肉ったイヌの言葉にも、ヘリは反論出来ずに、
肩を落としたまま苦笑していた。

…その通りね。
余計、イヌに手間をかけさせちゃったわ。

手当が終わると、イヌは、救急箱を片付けて、今度は掃除機を出してきた。

「君は動かないで。ガラスが飛び散っているかもしれないから」

「ええ…」ヘリは、今度は素直に頷いて、
結局、洗い物もイヌが全部片付ける姿をぼんやり見つめながら、椅子から動かなかった。

キッチンの後片づけも終わろうとした頃、
ヘリは、そわそわと時計に目をやった。

時計の針は11時をまわっていた。
明日も平日の仕事。そろそろ帰らなくてはいけない時間だったが…。

「イヌ…今夜、泊まっていっていい?」

そう聞くヘリに、イヌは、片付け物をする手を止めないで、

「いいけど。明日、僕は早いぞ」と応えていた。

『いい』と言われながらも、心なしか、積極的に宿泊をすすめてないようなイヌの言葉にヘリが物足りない気分になった。

それでも、「うん」と明るく嬉しそうに返事をしてみせたヘリの顔をチラリと見たイヌが微笑んだ。


消灯して、イヌのベッドに入ったヘリは、「寒くなってきたわね」と言いながら、
布団の中で、イヌの体にすり寄った。

片方の足をイヌの足にからませて、胸を押し付けるように、イヌの上半身に密着させて、イヌの肩口に、甘えるように、頭をもたれさせた。

そんなヘリのしぐさに応えるように、イヌもヘリの体を腕で引き寄せた。
その手に熱がこもっていくのを確信したヘリは、この後の展開に高まる期待とトキメキに胸をおどらせて、イヌの体に腕をからませた。

イヌの唇が自分のそれに降りてくるのを、うっとりと感じながら、ヘリは目を閉じた。

こうして、イヌに体を抱かれている時間は、ヘリにとって至福の時になっていた。

仕事で、凶悪な事件にあたって、落ち込んだり、気分が沈んだりすることがあっても、
自分の側で、イヌがこうして、自分を大切にしてくれている、と実感する行為で、
ヘリは、全てがリセットされるような気がしていた。

自分の体を服ごしに優しくまさぐるイヌの手のぬくもりを感じながら、
ヘリは、今週あったことにボンヤリと思考をめぐらせた。

今ヘリが受け持っている案件の1つは「傷害事件」だった。

被疑者は罪を認めていなかったが、証拠はそろっていた。
起訴し、公判請求になるかもしれない。

明日からますますハードな日々になるだろう。

そして…。

なぜか、ヘリは、週末にあった出来事も一気に思いだしていた。

ユナの結婚話。…実家で会った自分のお見合い相手の予定だったペク・ユンス。
父が自分にした質問。

『このままずっと検事を続けるつもりなのか?』

そして、

『だが、ヘリ。結婚は…』

エジャの出現で遮られた会話だったが、ヘリにはサンテの言葉がしっかり耳に届いていた。

…パパ、結婚は…の後、何を言おうとしていたの?


「…ヘリ?」

いつのまにか自分の考えに没頭していたのだろう。

心、ここにあらず、というヘリの態度に気づいたイヌが動きを止めて、
訝しげな顔で、見降ろしていた。

「気がのらないのか?」

イヌの言葉に、ヘリが目を見開いて、勢いよくかぶりを振った。

「いいえ。そんなことない」

そう言って、あわてて、イヌの体にしがみついたヘリだったが、
そんなヘリの背中をイヌが優しく手でさすった後、そっと体を離した。

「イヌ…?」

不思議そうに、ベッドに横たわるイヌを見るヘリの頭を、イヌが再び肩口にのせた。
そして、戸惑ったように身を固くしたヘリの体を腕に包んだ。

「今夜は、ただ、こうして寝よう。ヘリ」

…え?

布団の中で抱きしめられながら、ヘリは頭上のイヌの声を茫然として聞いた。

何もせずに一緒に寝る…。
今までも、そういう事はあったけど…。

イヌの暖かい腕に包まれたまま、ヘリは、無言で、じっと体をこわばらせていた。

…私が乗り気じゃないと思って、やる気を無くしたのかしら?
それとも、やっぱり、疲れすぎていて『したくない』のかしら?

普段のイヌだったが、こちらの意向をおかまいなしに、
強引に事を進めることだってあった。

そう考えて、
ヘリは、後者の理由で自分を納得させようとした。


自分より日々、ハードに仕事をこなしているようなイヌの体の事をいたわり、優先しなくては。

そして、強く抱いてはもらえなくとも、こうして抱きしめて、髪の毛を優しく撫でてくれるイヌの手に、ヘリは十分だと思うことにした。

…物足りない気分は宙ぶらりんになってしまったけど…。


ヘリが、そっと、見上げた先で、イヌと視線があった。

その目に、ヘリは何か言わなくては、という気になった。

「今度、うちのパ…」

『今度、うちのパパとママと一緒に食事をしない?』

そう言いかけて、ヘリは、口をつぐんだ。

ユナから聞いた、彼氏の両親と一緒に食事をしているという話。
サンテの友人家族と一緒に食事をしたという記憶。
ジェニーがアメリカにいた時、家族ぐるみでイヌと会っていたということ。

そのことを思いだして、
とっさに、ヘリが思いついたことだったが、
口に出す前に、それを実行に移すことは難しいものだと気づいた。
…すくなくとも、ユナやペク・ユンス、ジェニーのようにはいかない。

マ・サンテの娘とソ・ドングンの息子だから…。


「なに?」

言いかけたヘリの言葉に不思議そうにイヌが先を促した。

「えっと…、今度、うちのパン屋に一緒にパンを買いに行かない?」

誤魔化して言ったつもりだったが、そのヘリの言葉も、
言いかけてやめた事とあまり大差ないようだった。

「あいかわらず、とっても評判がいいのよ。一緒に行って、イヌにお勧めのパンを紹介してあげたいの」

「ああ…」

イヌが返事をしながらも、1つ欠伸をしていた。

目がすでに閉じられている。

「いいよ。いつかな…」

そう言って、イヌは無言になった。

しばらくして、イヌの深く上下する胸の動きと、閉じられたままの瞼に、
イヌが眠ってしまった事が分かったヘリだった。

…やっぱり、すごく疲れていたのね。

そう思いながら、イヌの寝顔を見つめるヘリには、まだ眠気は降りてこないようだった。


…いつか、イヌと一緒にサンテとエジャの働く店に行く。

いつか…。

自分の将来の事をもっと考えなくてはいけない。

仕事…結婚…それから…。


「…いつかって、いつ?」

ポツリと問いかけるように呟いたヘリの言葉は、
眠っているイヌに届くことなく暗闇の静寂の中に溶け込むように消えていった。


(「試される絆」5終わり 6に続く)



登場人物紹介


マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌと同じ事務所の弁護士で長年の親友

ユナ…ヘリの親友

ペク・ユンス…ヘリの父親の友人の息子


私の体調の方は安定してます。
お気遣い、ご心配ありがとうございます♪
目立つくらいお腹は大きくなってきました。
どっちなのかまだ分かりません。
イヌ君(男)かヘリちゃん(女)か?どっちかな~?

子供の運動会は無事終わりました。
今年は昨年出張でいなかった相方が競技にいろいろ参戦。
みつばはのんびり観覧してました♪

…という、近況報告コメントはともかく、
暗雲たちこめ気味の「試される絆」
明日も小説の続きを更新予定です。



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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」4話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(4話)




「こんにちは」

ヘリもあわてて、笑みをつくった。

イヌと同じ法律事務所で働いている有能な弁護士であり、
アメリカからの長年の親友である美しい女性、ジェニー・アン。

あいかわらず、ブランド物のスタイリッシュな服を素敵に着こなして、
羽織ったコートの下にも、その抜群のプロポーションは隠せそうもなかった。


「ジェニーさんもワインを買いにきたの?」

ヘリがチラリと、ジェニーの持っていた籠に目をやった。

ジェニーが手にもった籠の中には何本もワインが入っていた。

…かなり重そうなのに、軽々と持っているように見えるけど、
あれ全部一人で飲むのかしら?
それとも、ジェームスと一緒に?


ヘリの、籠の中を凝視するぶしつけな視線にジェニーが苦笑した。

…分かりやすい人ね。

「この店のワインは美味しいから、よく買いに来るのよ。
ヘリさんは…もしかしてそれ、イヌと飲むの?」

ジェニーがチラリとヘリの持っていたワインに目を落とした。

「ええ」

ジェニーは、うなずくと、「それなら…」と言って
棚にならべられたワインボトルを吟味しだして、その中の1本を取り出した。

「このワインの方がイヌの好みよ」

「そうなの?」

ヘリは、ジェニーに差し出されたワインボトルをうやうやしく受け取ると、
ラベルに目をやった。

「イヌってあまりお酒に強くないわりには、味にはうるさいでしょう?
ヘリさんがそのワインが好きならいいけど、二人で飲むならこっちを買ったらどうかしら?」

「そうね。教えてくれてありがと」

ヘリは、ジェニーにお礼を言うと、
あたふたと、自分が持っていたワインボトルを棚に戻した。

イヌと一緒にワインを買いに来たこともあったヘリだったが、
いつもヘリの飲みたいワインを優先して買っていたような気がした。

「イヌは、お酒の中ではワインが一番好きなのよね?」

家にはいつも常備してあるようだけど。

ヘリがジェニーに聞いた。

そんなヘリにジェニーが首をかしげた。

「どうかしら。韓国に来てからは焼酎もよく飲んでいるみたいだけど。
それに、ワインといえば、イヌのお養父様のご友人のワイナリーのワインの味に勝てるものは無いから」

以前、イヌがヘリにご馳走してくれたことがあった、
アメリカから養父が送ってきてくれた入手困難な貴重なワイン。

確かにその味は、今までヘリが飲んだどんなに高いワインより美味しかった。


「ジェニーさんもあのワインを飲んだことがあるの?」

「ええ、アメリカにいた時にね。
私の両親とイヌのお養父様は古くからの友人なのよ。
だから、時々一緒にホームパーティーをしていてね。その時にあのワインを持ってきて下さった事があったのよ」

…長年の親友とは聞いていたけど、家族ぐるみでお付き合いするほどの仲だったのね。

「イヌの作るパスタとワインはとてもよく合うわよね」

「え?」

…イヌの作るパスタ?

ヘリの反応にジェニーが気づいて、あら?という顔をした。

「イヌってパスタ料理が得意でしょ?」

「そうなの?私は、まだ食べた事がなくて…」

初耳だった。

イヌは料理全般なんでも上手くこなせている事は知っていたが、
パスタが得意料理だったなんて。
それに、まだ1度も口にした事のないヘリだった。

ヘリの沈んだような声に、ジェニーが、まずい事を言ったかしら?という困惑した表情でヘリを見つめた後、腕時計をチラリと見降ろした。


「じゃあ、私は行くわね。またね、ヘリさん」

そう手を振って、去ろうとするジェニーに、
ヘリは、とっさに「待って」と声をかけていた。

…何?と振り返ったジェニーに、ヘリは、一瞬自分が一体ジェニーに何を言いたいのか分からなくなった。

この間のこと。
あのホテルでジェームスとあの後どうしたのか?という事も気になっていたが、
ジェニーと同じ事務所で働いているイヌの事の方が気がかりだった。

「イヌは、今日も休日出勤しているみたいだけど、事務所はそんなに忙しいの?」

目の前にオフらしいジェニーがいながら、そう聞くヘリだったが、
ジェニーの方もヘリの聞きたい事が分かったという風に頷いた。

「以前と違って、私もイヌも法律事務所に雇われているという立場だから、自分達の都合で仕事を増やしたり減らしたりという事は出来ないのよ。同じ事務所に働いていても、イヌと私では受け持っている仕事もクライアントも全然違う。だから比較することは出来ないけど、確かにイヌは今とても忙しそうね」


イヌとジェニーの働いている法律事務所は、確かに名の知れたところだった。
雇われているのは、みんな腕のいい弁護士達ばかりと聞いたこともあった。
その中でも、イヌとジェニーは、事務局長に特にその腕をかわれて、スカウトされていた。

イヌが代表を務めていた法務法人「ハヌル」の評判は法曹界でも有名だったということも、
ヘリはあとになって知った。

同じ事務所で働いているジェニーは、今はイヌのパートナーというわけではなく、おそらく現在はこの前会ったホテルのオーナー、ジェームス・バレンタインの顧問弁護士の仕事をしているのだろう。だからイヌの詳しいスケジュールは、知らないのかもしれない。


「そう」

ヘリは、少し考えれば、ジェニーに聞かなくても分かることを質問してしまった事を恥じるように、目を伏せた。

そんなヘリをまるで慰めるように、ジェニーがポンとヘリの肩を優しく叩いた。

「ワイン、イヌと一緒に楽しんで」

そう言って、片目をウインクして去って行くジェニーの颯爽とした後ろ姿に、
ヘリはあわてて、「さよなら」と声をかけていた。

そして、

手にもった、ジェニーのすすめてくれたワインを見つめて、
ヘリはしばらくその場を動かなかった。


結局、イヌからメールがきたのは、夜の9時近くになってからだった。

軽く食事をすませて、シャワーも浴び終えた状態で待機していたヘリは、上着をはおると、ワインと手土産を持って、イヌの部屋に向かった。


チャイムを1回鳴らしたあと、ロックが解除されていたドアを開けて、
ヘリはイヌの部屋の中に入った。

「こんばんは~、おじゃまします」

「遅くなって悪かったな」

イヌの髪の毛がまだしっとりと濡れていた。
仕事から戻ってすぐに、シャワーを浴びて呼んでくれたのだろう。

さっぱりとした顔はしていたが、
やや疲労の色が見えるイヌに、ヘリはかえって申し訳ない気持ちになった。

…残り少ない休日の時間さえ自分に割いてくれたのかもしれない。

「寝酒にはちょうどいいわよ」

ヘリは明るく何でもないように答えると、
キッチンカウンターに、ワインと手土産を置いた。

「イヌ、ご飯は食べた?」

「夕方に少し軽食を取った」

「じゃ、お腹すいているわよね?これ、良かったら」

ヘリが手土産の箱をイヌの方に差し出した。

「ん?」

「買ったものだけど、美味しいって評判の惣菜屋の物なの」

「へえ…。ラザニアか。ありがたく頂くよ」

微笑むイヌの顔に「うん」とヘリは嬉しくなった。

同じマンションに住んでいても、ここ最近は朝も会えず、
電話で声を聞くことも出来なかった。
だから、こうして、ふれあえる距離で声を聞いて会えることが、新鮮に感じられた。


「ワインはこれを買ってきたわ」

「ありがと」

イヌがお礼以外、特にワインのことに何の反応も示さずに、コルクを開けはじめたのを見たヘリが、戸惑った後口を開いた。

「それ、ジェニーさんが選んでくれたの」

「ジェニー?」

「ワイン売り場でばったり会っちゃって。それで、そのワインはイヌの好みかもって教えてくれたのよ」

「ああ…」

イヌはヘリに言われて初めてラベルをまじまじと見つめた。

「イヌはそういうワインが好きなの?」

「まあ、好みの味かもしれないな。ただ、ワインに関しては僕より、ジェニーの方が通だから、彼女が美味しいと言うなら間違いないかもしれない」

「そうね…」

ヘリは、店で籠の中にワインボトルを何本もいれていたジェニーの事を思い出した。

イヌが、グラスにワインを注ぎ終えると、ワインボトルをワインクーラーの中に置いた。

「じゃ、乾杯しようか」

「ええ、今日もお仕事お疲れ様。イヌ」

「君も明日からの仕事、また頑張れ」

グラスを重ねて、イヌとヘリはワインを口に含んだ。


「ヘリは、この休日は何をしていたんだ?」

ヘリの買ってきたラザニアを食べながら、イヌが聞いてきた。

「私は、昨日はユナと会って、それから実家に帰っていたわ。そして…」

…そして。


ヘリの記憶の中で、昨夜、実家にいたユンスの顔が浮かんだ。
父親が勝手に見合い相手として決めていた男性…。

「そして?」

先を促すように聞くイヌに、ヘリはドキリっとして、あわてて首を振った。

「とくに何も。のんびりしていたわ」

…イヌにはわざわざ話さなくてもいいことよね。
もともと無かったような見合いの話だし、ペク・ユンスさんだって、
過去に会ったことがあるって言っても特にずっと交流のあった人でもないから。

「ふーん…」

イヌは、ヘリの話に何の疑問も感慨もわかなかったようだった。

相槌をうって、もくもくとラザニアを食べるイヌに
ヘリは焦燥感を感じた。

…仕事で疲れているイヌをもっと楽しくさせる話題ってなかったかしら?

話したいことは沢山あったはずなのに。

「ユナがね。もうすぐ結婚するんだって」

唐突にそう切り出したヘリに、イヌが持っていたフォークの手を止めた。

「いつ?」

「あっ…じゃなくて、今の彼氏とそろそろ結婚を考えてるって」

言ってしまった後で、
ヘリは、この話もどこまで膨らませていいのか、
そしてどこで止めるのか分からないまま口に出したことを後悔した。

「つきあって1年半以上たつからって。もし、結婚したら、お祝いに何をあげようかしら?
親友だもの。今から考えておかなくちゃ。イヌは何がいいと思う?」

べらべらとはしゃぎながら一人ごとのように話して、ヘリは、考えこむふりをした。
そんなヘリにイヌがあっさりと答えた。

「本人たちに欲しいものを聞いてから考えたらどうだ?」

「…そうね」

イヌの方は全く気にしてないようだったが、
ヘリは、何となくいつもと違う自分のぎこちなさに、その理由も分からずに当惑していた。

「イヌは、昨日も今日も仕事でずっと事務所にいたの?」

電話で聞いていたはずなのに、あえて聞くのもおかしいけど。
そう思いながら話題をふったヘリに、イヌが意外にも「いや」と応えて、ヘリの目を見開かせた。

「今日は、事務所に行く前に、父さんの所に寄って来た」

「お父様のところ?」

イヌの養父はアメリカに住んでいた。
1日で寄って帰れる距離にはいない。

だとすれば、イヌの言っている父さんというのは、
16年前に無実の罪をかぶったまま亡くなった、イヌの父親、ソ・ドングンのこと。

イヌからソ・ドングンが亡くなったあと、遺灰を、ドングンが生前好きだったという湖に母親とまいたという話は聞いていた。

ただ、その湖がどこにあるのか、までは今まで聞いたことが無かった。
そして、ヘリ自身そこに行ったことも…。

「月命日では無かったけど、久しぶりにね」

イヌが淡々と答えた。

…私も連れていって欲しかった。と、とっさに言いそうになったのをヘリはグッとこらえた。

仕事が忙しくて、なかなか時間がとれない中、わずかに空いた時間に行ったのだろう。
昨夜も仕事で帰りが遅かったと言っていたのに。

父親と二人きりで、ゆっくりと心の中で話したいこともあったかもしれない。

それに…。
イヌがマ・サンテの娘を連れて行ったら、イヌのお父様はどう思うかしら。

そう考えたヘリの心は一気に沈んだような気持ちになった。

自分に罪をきせた男の娘が、息子とつきあっているなんて。
生きていらしたら、きっと許してはくれなかったわよね。

…そんな私をイヌもお父様のところに連れて行くことは出来ないのかもしれない。

今まで、イヌから一緒に行こう、と言われた事がないのを、
ヘリはそう解釈していた。

「そう…。お父様お元気だった?」

とんちんかんな事を言っていることすら気付かずにヘリが聞いた。
しかし、イヌはそんなヘリに薄く笑うと、「あいかわらずだったよ」と応えていた。

そして、「ごちそうさま」とラザニアを食べ終わったイヌがフォークを置いた。

「美味しかったよ。今度ジェニーにもこの店を教えるよ」

「え?」


いきなりジェニーの名前が出てきたことに驚いて、
ヘリが、ワイングラスを持つ手を止めた。


(「試される絆」4終わり 5に続く)


登場人物紹介


マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

ジェニー・アン…イヌと同じ事務所の弁護士で長年の親友

ユナ…ヘリの親友

ペク・ユンス…ヘリの父親の友人の息子




ブログへの拍手、拍手コメントありがとうございます。

コメントレス的な話。

ユンスを反対に読むと…スンユ。
本当だ!ご指摘されて、私も初めて気づきました。
ユンスは最初プロット段階では違う名前でした。
でも、実際に小説で書いてみたら、名前のイメージが違う気がしたので、
ユンスに変えたんです。でも、まさか逆さまにするとスンユとは(笑)

「試される絆」は冒頭部分からあれで、しかもシリアスですよ~って
前から言っていたので、もう読んでいる方も覚悟されているようなんですけど、
これから、一悶着、二悶着、三悶着くらい(汗)あるかな。という感じが
話が進むごとに匂ってくるかもしれませんけど、辛抱強くおつきあいください。
全部完結してからあとがきで書くつもりですが、昨年作った当初のプロットと比較したら、
かなりシリアス部分を緩和したつもりですので。。。

最近、新しくブログに来ていただいた方々もようこそ。
去年からソビョン病に侵されている管理人ですが、まだ治りません。
たぶん、一生治らないかも♪
このブログのソビョン(ソ・イヌ)はあくまで二次創作ですけど、
気にいって頂けたら、また会いに来てください。

明日も小説の続きを更新予定です。




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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」3話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
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この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(3話)




サンテの問いにヘリが首をかしげた。


『この先も検事を続けるつもりなのか?』

サンテの質問の意図はわからなかったが、
その答えなら、とくに考えなくても出て来ていた。

「続けていくつもりだけど?」

そう答えたヘリの顔をサンテは、真意を探るかのような目でジッと見つめていた。

「私が聞きたいのは…ヘリが、本心から検事としてやっていきたいのか?ということだ」

「どういうこと?」

首をかしげたヘリに、サンテが、1つ深い溜息をついて、目線をそらした。

「お前は、自分の夢は、自らデザインしたウエディングドレスを着て、
好きな男のお嫁さんになることだと言っていたから」

ヘリが噴き出した。

「パパ、それ、私が子供の時に言っていたことでしょう?」

「いや、学生時代にも言っていたぞ。お前が私に黙って、法学部をやめて服飾学科に入っていた時のことだ。怒った私に、ヘリは、自分の夢をかなえたいから、と言っていた。
だから、私も一度は折れたんだ。検事にならなくても、お前が、本当にその夢をかなえたいのなら、そうさせてやろうと思った。だから、制作発表会を見に行ったんだが…」

ヘリは、自分のデザインした衣装ではなく、模倣したものばかり作っていた。
だから…


「法学部をやめたのは、夢をかなえるためじゃなく、遊びたいだけだったのかと知って、それで怒ったんだ」

「うん…」

パパの気持ちは分かっていた。

検事になれ、とずっと言っていたけど、本当は、いつだって、私の事を考えていてくれた。
だから、自分が真剣にデザインや服の勉強をしていたなら、認めていてくれただろう事も。
サンテが、娘としての自分を心底愛してくれていたことも。

それが本当に分かったのは、この1年の間にだったけど。


「この1年ほど、お前は検事としてりっぱに成長した所を見せてくれた。
私には嬉しかった。だが、お前の夢は今でも本当はそうなんじゃないか?
1年前、私の会社や家があんな事になったから、お前は仕事を辞めることが出来ずにいたんじゃないかと。本当にやりたい事は別にあるんじゃないかと思っていたんだ」

「そんなこと…」


サンテがそんな風に考えていた事は初耳だった。

無理やり、検事という仕事につかせて、さらに、自分のせいでやめられなくなっているのでは、と気に病んでいたなんて。

今でも、素敵な服を着たり、デザインを見るのは好きだった。
それに、手作業で、何かを作るのも好きだった。

でも服飾デザインの仕事関係につきたいと考えた事はなかった。

それに、この1年、検事という仕事にもやりがいを感じてきていたヘリだった。

「私、検事という仕事が今は好きになったわ」

ヘリが言った。


「扱う事件によっては、落ち込んだり、嫌だなって思う事もあるけど、
でも、自分が打ちこめる仕事だと思ってる」

…だから、そんなこと気にしないで。パパ。


「…そうか」

ヘリの言葉にサンテはうなずいた。

…娘が本心からそれでいいと言うなら、それでいい

どこか安心したように、ホッとした表情をしているサンテに、ヘリは微笑んで見せた。

「だが、ヘリ」

思いだしたようにサンテが切り出した。

「結婚は・・・」


そう言いかけて、背後で、ガチャリとバスルームのドアが開く音に、
サンテはびくりっと驚いたように背筋をまっすぐに伸ばしていた。

「あ~…さっぱりしたわ」

そう言って、リビングに戻ってきたエジャは、自分をそろって見つめるサンテとヘリの顔に、きょとんとした。

「何か私の顔についているかしら?」

「レモンパックがついているわ」

ヘリがそう言って笑うのにつられて、サンテも口元をほころばせ、エジャも朗らかに笑った。


その夜。

実家に帰ると、必ず、2階の自室にしていた部屋で寝るヘリの所に、布団を運んできたエジャも一緒に寝ることになった。


「明日、私は仕事だから早いけど、ヘリは寝ていていいからね。
イヌ君とデートの約束がないなら、家でゆっくりしていきなさい」

そう言って、布団をヘリのベッドの下に敷くエジャ。

エジャの言葉にヘリが苦笑した。
そして、聞いてみたかったことを口にした。

「ママ…ママは、見合いの話のこと知らなかったのよね?」

…きっと、知っていたら、あんな反応は無かっただろうけど。

そう聞くヘリにエジャが肩をすくめてみせた。

「まさか、あの人が自分の友人の息子さんにも見合いの話を持っていっていたということは知らなかったわ。とてもいい青年だとは思うけど」

エジャの最後に言葉にヘリは驚いた。

「ママは、ユンスさんのことが気にいったの?」

布団にシーツをひく作業に没頭していたエジャは、そんなヘリの顔にきづいていないようだった。

「昔会った時も上品な男の子に見えたけど、大人になった今も立派な人に見えるわね。
最近の若い男のようにチャラチャラしてないし、真面目そうだけど、話していてユーモアもあるし、目上の人に対する態度もしっかりしてる。仕事の肩書も大学教授で、その上、パパの友人の息子さんでしょ?素性もはっきりしてるじゃない。
娘の見合い相手としては申し分ないわね」

「ママ!」

ヘリはあわてて、ベッドから身を乗り出した。

「ちょっと、本気で言ってるの?まさか、ママまで、私に見合いをした方がいいって思っていたの?」

…今、イヌとつきあっているのに!

「思ってないわよ」

ヘリのうろたえた声に、ようやくエジャがのんびりとヘリの方を見やってケロリとした口調で言った。

「ヘリが、誰を好きかって事を知ってるもの。それに、もうすんだ話でしょ?
まだ、ヘリがイヌ君と再会する前にしていた話だから。
ヘリに黙って、勝手にしていたことではあるけど、パパだって、ずっとヘリの事を心配して、ヘリのために考えてしてくれたことなのよ。怒るのは当然だけど、パパを許してあげてね」


…私は別に怒ってはいなくて、むしろ、怒っていたのはママの方に見えたけど。

そう思ったヘリだったが、「ええ」とエジャに頷いてみせた。

サンテもエジャも自分のことを考えてくれていることは分かってる。
きっと、娘の幸せを願ってしていることも。

ヘリの脳裏に、先ほどリビングで話していたサンテの言葉がよぎった。


「ただ、私考えたことがなくて」

「イヌ君がいるからかい?」

ヘリが、見合いの事を考えられないと言っていると思ったエジャの言葉だったが、
ヘリは、曖昧に首をふった。

「そうじゃなくて…結婚ということ」

ヘリの気持ちを母親として、全部わかっているのか、
それとも、わからないふりをしているのか。

エジャは、ヘリの言葉にフッと笑うと、

「ゆっくり考えなさい」とだけ言った。


「・・・・・・」


ヘリが昼間ユナから聞いた話。
そして、見合いのことや、ユンス。
サンテとの会話。

『お前の夢は、自分のデザインしたウエディングドレスを着て、好きな男のお嫁さんになることだと言っていたから』


忘れてなんていない。

ずっとそう思い描いていた夢。

だけど、それが現実のこととして向き合った時。
ヘリは、そこにたどり着くまでに何かが足りないような気がした。
今の自分の状況と環境に足りないもの。

今日あった出来ごとがすべて、そんなヘリに何かを訴えようとしていたように感じた。
それが一体何か分からないという漠然とした思いが、ヘリの心を不安にさせていた。

自分自身でも分からない感情。

親友のユナにも、心を許した母親にも、
そんな気持ちを素直に伝えることが出来なかった。

『検事を続けていくつもりなのか?』

自分をきづかう父親の問い。

そのつもりだと答えたヘリだった。

…検事になってから、この1年半、仕事にせいいっぱいとりくんできたつもりだった。
仕事をするということ。検事という仕事のことも、正面から向き合ってきたはずだった。

でも、その先の未来をこれまで真剣に考えたことがあっただろうか?


仕事…検事…結婚…。


考えのいきつく先に、最近会っていなかった恋人の顔が浮かんでは消えた。

「イヌ…」


エジャのいびきが大きく響く真っ暗な部屋の中で、
ヘリはポツリと声に出して、イヌの名をよんだ。

そして、ベッドの枕元に置いていた携帯電話を手にとって、
画面にイヌの名前を表示した。

“ソ・イヌ”

今日はイヌからのメールも留守番電話も入っていないようだった。

暗闇に青白く光る名前をじっと見つめたあと、
ヘリは携帯電話を静かにベッド脇に置いた。

そして、布団をかぶるとそっと目を閉じた。


翌日。

エジャとサンテはパン屋の仕事に行った後、
ヘリは実家で一人のんびりと過ごしていた。

好きなはやりの歌のCDをかけて、歌を歌いながら、
編み物に没頭していた。

イヌへのクリスマスプレゼントにする予定の編み物。

ヘリは、恋人が出来たら、自分の手編みの物を着せてあげるのを
ずっとひそかに夢見ていた。

まだクリスマスまで間はあったが、日々仕事で忙しいことと、
休日はイヌと一緒に過ごす時間が多かったから、出来るかぎり一人の時間の時に進めておこうと、少しずつ作業を続けていたヘリだった。

はたして、イヌが喜んでくれるかどうかは分からなかったが、
イヌのことだ。
なんだかんだ言っても、結局、自分のプレゼントした物を受け取ってくれるのに違いない。

そんな事を想像して一人笑いをうかべながら、ヘリが編み物をしていた時、
ヘリの携帯電話に着信があった。

…イヌ!!

画面で名前を確認したヘリは、嬉しくなって、いそいそと電話を耳にあてた。

「マ・ヘリよ」

『ヘリ、今は実家か?』

電話の向こうから聞こえる、久しぶりのイヌの声に、ヘリの鼻の奥がツンっとなった。

「ええ、そうなの。あなたの方はマンション?仕事終わった?」

『ああ、昨夜遅くに帰ってきて、今マンションなんだが、これから又事務所に行かなくてはいけない』

「そうなの…」

なにげなさをよそおっても、明らかに落胆した自分の声色が、如実に出てしまったようだった。

「今日も遅いの?」

『いや』

ヘリの思いは完全にイヌに伝わっているようだった。

『遅くとも8時までには帰るつもりだ。食事は出来なくても、部屋で一緒にワインでも飲まないか?』

「ええ!!飲むわっ」

イヌの言葉が言い終わるか、終わらないかのタイミングで、ヘ
リが勢いよく返事するのを、電話の向こうでイヌがクスリと笑う気配がした。

しかし、ヘリは、そんな事は全く気にしてなどいなかった。
頭の中は、すでに、夜イヌと会える。それだけでいっぱいになって、有頂天になっていた。

「今日は私がワインを買って持って行くわ」

『そうか。じゃあ、頼むよ』

「何がいい?」そう聞くヘリにイヌが『君に任せるよ』と答えた。

「わかったわ。じゃあ、部屋に帰って落ちついたら連絡ちょうだいね」

『ああ、じゃあ、あとで』


そう言って、イヌの通話が切れると、ヘリは、嬉しさのあまり両足をばたつかせて体をゆすった。

最近は、平日、電話でもあまり話せなかった。
食事やデートどころか、会うことも出来なかったけど、今夜はイヌの部屋で会える。


話したいことはいっぱいあった。

普段の生活の中での発見や、感じたこと、知ったこと。
たわいもないことばかりだったが、イヌに聞いてほしかった。

そして…、

そっと体を抱きしめてほしかった。

細いように見えて、鍛えられた隙のないイヌの体と腕の中で、
見ため以上にたくましい胸に顔をすりよせて、甘えたかった。

そして、あのうっとりするような低めの心地よい声で、
名前を呼ばれて、髪の毛を優しく撫でて欲しかった。

『ヘリ』

…でも、優しいだけでもヤダ。強く抱いてくれなきゃ…。

そこまで妄想して、ヘリは、ハッとなって、
誰もいない部屋の中で、恥ずかしげにキョロキョロと首を動かした。


「もう。私ったら!」

気恥かしさをごまかすように、ヘリは、編み物に没頭しようと手を早く動かした。

…かなり後になって、編み目を裏返していたことに気づいて、
がっくりうなだれながら、修正をすることになるのだったが。


それから。


夕方になって、実家を出たヘリは、
マンションに帰る前にワインを買う為店に寄った。

…どれがいいかしら?

ヘリが、棚に並べられたワインのラベルに目を泳がせて、その中の1本を手にとった時・・・。


「ヘリさん?」

知った声にヘリが振り返った。
そこにジェニーが立っていた。

「ジェニーさん」

同じ市内に住んでいても、こんな風に顔を合わせるのは珍しい上に、
ジェニーと会うのは久しぶりのヘリだった。

あのホテルのプールで出会った日。
イヌと、ホテルのオーナー、ジェームス・バレンタインと一緒に食事をして以来…。

心の声が素直に顔に出てしまったようなヘリに気づかないふりで、
ジェニーがニッコリとして言った。

「こんにちは」



(「試される絆」3終わり 4に続く)



登場人物紹介


マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)

マ・サンテ…ヘリの父親
パク・エジャ…ヘリの母親

ジェニー・アン…イヌと同じ事務所の弁護士で長年の親友


今日は予約投稿記事です。
明日も小説の続きを更新予定してます。

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「試される絆」2話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、シリーズでは「願い花」後の最新作になります。



試される絆(2話)




…この男性と私の見合いの件って!?

ヘリは、すっかり動揺して、サンテの方に身を乗り出していた。

「見合いって…!どういうことパパ!!」

「あなた!一体何を考えているの!?」


再び、ヘリと同時に、サンテの方につめよったエジャの迫力に、
サンテがうろたえたように、体を引いていた。

そして、すっかり、ユンスの言っていることを思い出したような
サンテが言い訳をはじめた。


「いや、以前の話だ。その…、今年の春ごろのな。私と、ユンス君の父親の間で、そういう話をしたことがあっただけなんだ。年の頃あいも良いし、二人とも決まった相手もいなそうだったから、見合いだけでもさせてみないかと…」

ヘリが、イヌと再会する少し前のことだった。

それ以前にも何度か、サンテはヘリにお見合いの話を持ってきてはいたのだが、
すべて相手の事を知る前に断っていたヘリだった。

ヘリがイヌの事をずっと想っていることを知っていたエジャは、
そんなサンテの行動を呆れながらも、積極的に止めることもせずにいた。


エジャ自身、もう会えないかもしれない男性の事をずっと想っている娘が不憫で仕方なく、もし、出来るなら、他にも道があるのなら、幸せになって欲しいという気持ちもあったからだった。

しかし、ヘリの気持ちを母親として女として痛いほど分かっていたエジャは、
ヘリの判断に任せよう、と常に傍観者の立場を決め込んでいたのだったが。


…そういえば、春頃に、そういう見合いの話を電話でしていたわね。

エジャはその頃を思い出して、ジットリとした目をサンテに向けていた。

「その話は、あとで、私から無しにしてくれ、と言っておいてはいたんだが…」

サンテは見合いの話を断る時に、友人に具体的な理由をとくに説明しなかったらしい。

そのため、ユンスの父親の中では、『今はまだ待ってくれ』という解釈になっていて、
息子のユンスの方にも話を進めていたようだった。


「いや、ユンス君にも父上にも誤解させてしまっていたようで申し訳ないが、改めてあの話は無かったことにしてほしい」

サンテはエジャの突き刺すような視線に、額の汗をハンカチでぬぐいながら、ユンスにそう言った。

「そうですか」

ユンスが頷いた。

そして、再びヘリの方に目線を送った。

『見合い』という話に、まだ衝撃をうけたままだったヘリは、
そんなユンスの目にドキリっとした。

「ヘリさんには初耳の話だったようですね。驚かせてしまったようで、こちらこそ申し訳ありませんでした」

ニッコリと微笑んで、丁寧に謝るユンスの紳士的な物腰に、
ヘリは、ユンスがやはり昔の印象と変わらず、
細かな心配りの出来る、いい人なのだということを察した。

「父には僕から話しておきます。父は、ああいう性格なので、気にしないと思います。それに、食事の話は喜ぶと思いますので、それも伝えておきます」


「…よろしく頼むよ」

まだ、睨みつけるようなエジャの視線に、サンテが、コホンと1つ咳払いして気まずそうに頷いた。


すっかり、微妙な雰囲気に満ちた部屋で、ユンスが、何事も無かったように立ちあがった。

「僕は帰ります。ご馳走様でした」

サンテとエジャが立ちあがり、遅れてヘリもそれに続いた。

「帰るって、御実家に?」

そう聞くエジャに、玄関に向かいながらユンスが答えた。

「いえ、ソウルに滞在する間は、大学の宿舎を借りています。帰る前に学会があるので、その頃は学会があるホテルに泊まる予定です」

「そうなの。体に気をつけて頑張ってね。良かったら、また家に遊びにいらっしゃい」

社交辞令の言葉かもしれないが、ユンスにそう声をかけるエジャを背後でヘリは信じられない思いで見つめていた。

サンテとエジャとヘリは門のところまでユンスを見送った。

「私からもまた電話するが、父上にくれぐれもよろしく伝えて欲しい」

サンテの言葉に、外に出て、門から出たユンスが、3人に向かい合った。

「はい。お邪魔しました。ありがとうございます。おやすみなさい」

丁寧に頭をさげて、坂下に車を駐車しているというユンスが夜道の坂を下りていくのを見送ったあと、サンテ、エジャ、ヘリの3人は家の中に戻った。

玄関に入ったとたん、

「…今日の新聞を読んでなかったな」

そう言って、そそくさとサンテがリビングの席に戻って新聞を広げた背中を
エジャが、まだ横目で睨んでいた。

「…逃げたわね」

エジャの言葉に、ヘリは思わず噴き出すと、エジャと顔を見合わせて、笑った。

「お客様なんて、珍しかったわよね」

そう言うヘリに、

「ヘリも珍しいこと」
…週末の休日に実家に帰ってくるなんて。

いつもなら、大好きな恋人と一緒に過ごすために、
帰ってこない子が。

と、わざと、からかうように、ボソリとヘリの耳元で囁くエジャを「ママったら」とヘリは恥ずかしそうに睨んだ。

「今日は実家に泊まるって前から言っていたでしょ?」

「そうだったかしら?最近記憶力が落ちちゃったみたいで」

エジャが惚けたように言った。

「お前の記憶力低下は昔からだろ」

そうリビングからそっけなく言いはなつサンテに、エジャが、「あなたの記憶力ほどじゃありませんけどね。店で本日のおすすめパンを間違えのはどなたでした?」と、サラリとカウンターを返して、サンテの顔を新聞に埋もれさせた。


…パパったら、すっかりママに頭が上がらなくなってる。

一昔前の両親とはまるで違う光景にヘリは、サンテに遠慮しつつも、そっと笑った。

「ママ、手伝うわ」

そう言ってカップや皿の洗い物に手を伸ばしたヘリに、エジャが首をふった。

「すぐ終わるからいいわよ。パパの相手をしてあげて」
…ああ見えて、久しぶりの娘の帰宅に大喜びしてるんだから。

そう言ってエジャはヘリに片目をつぶってみせた。

ヘリは、リビングテーブルのサンテの前に座った。


「パパ、最近はパン作りをしているってママから聞いたけど?」

ヘリがサンテに話題をふった。

先ほどのユンスの話には、今は極力触れない方がいいと思って、
わざと全く違う方向に話をもっていこうとしていたヘリだった。

エジャの機嫌を損ねて、これ以上両親がぎくしゃくするところを見たくもない思いもあったが、
ユンスが自分の『見合い』相手だったという事からも思考をそらせたかった。

「簡単なパンだけ何とか作れるようになったわよ」

ヘリの質問にサンテが答える前に、キッチンからエジャが答えた。

「まあ、少しは出世したかな」

サンテが気まずそうに、新聞で顔を半分隠したまま、ぼそぼそとそう答えた。

キッチンで片付け物が終わったらしいエジャがダイニングキッチンの電気を消すと、
リビングのヘリとサンテの前にお茶と菓子を盛った盆を置いた。

「私は、お風呂に入ってきますから。父子水入らずでごゆっくり」

そう言って、エジャは、バスルームの方に入って行った。

そんなエジャの後ろ姿にチラリと目をやった後、
サンテは持っていた新聞をたたむと、エジャのいれた新しいお茶のカップを口に運んだ。

ヘリもカップを手にとっていた。


騒がしいエジャの姿が無くなると、リビングは急にシンっと静かになっていた。

昔は、エジャがいない時、父親のサンテと二人きりになると、
少し緊張して、ぎこちなくなったヘリだったが、今はこの沈黙に何の気負いも感じなかった。

むかいあって、ゆっくりと暖かいお茶を一緒に飲んでいる時間が、とても居心地が良かった。

きっと、サンテもそう感じているだろうと、ヘリは思っていた。

ただ、ヘリは気づいてはいなかったが、
父親のサンテからすれば、年頃の娘というものはやはり、どこか遠慮する存在ではあったようだった。

とくに、つきあっている男がいる年頃の娘というものは…。

サンテは、お茶を呑み込みながら、時折、エジャのいるバスルームの方を気にかけるように、チラチラと目線をやって、落ちつかない素振りを見せていた。

しかし、意を決したように、口を開いた。

「さっきは驚かせてしまったな」

「え?」

「ペク・ユンス君のことだ」

「ああ…、もういいの。気にしてないわ」

そう答えたヘリだったが、事実、もう済んだことだと受け止めていた。
ただ、『見合い』という言葉だけがヘリの中で何故かシコリのように残ってはいたのだが…。

「パパはユンスさんのお父様とはお付き合いが長いの?」

「仕事関係で出会った人だ」

サンテが、目をふせて話はじめた。

「昨年、私の会社があんなことになった後、私から人もかなり離れていったが、彼は、ずっと親身に接してくれた。パン屋を始めると言ったら、援助金の申し出までしてくれた。…いい友人だよ」

「そう…」

サンテの昔を思い出したような、少し辛そうな顔にヘリは心を痛めた。

そんなヘリの心情を察したらしいサンテが、顔をあげて、微笑んでみせた。
そして「気にするな」と言った。

「会社がああなった事を悔やんでいるわけじゃない。それ以前の自分のしてきた行いの事を反省しているんだ。…私は本当に何も見えてなかった、と」

ユ・ミョンウの事件のことだけでなく、
人と付き合うということも、仕事のやり方も、家族のことも。

自分の欲を優先してきた結果、自分が招いたこと。

でも、最後に本当に大切なものはちゃんと残っている。
そして、それに気づけた。

…ああなって、むしろ良かったと思えるようになった。

「パパ…」

すがすがしい顔になったサンテにヘリも微笑んで見せた。

「あ~…ところで、ヘリ」

サンテが、コホンと1つ咳払いすると、

「あれとは、どうなった?」と聞いた。

「あれって?」

不思議そうに首をかしげるヘリにサンテが、気まずそうに、指でテーブルをトントンと叩いた。

「“彼”は、元気なのか?」

サンテの言う『彼』が誰を指しているのかすぐに分かったヘリは、
微笑んで、頷いた。

「ええ、元気よ」

「そうか…」

そこで、会話がとぎれ、サンテは、気まずそうに、
又お茶のカップを手にとって口に運んでいた。
…が、カップの中のお茶は残されていないようだった。

憮然とした顔で、カップを置くサンテをヘリが面白そうに見た。

「パパ?」

「・・・なんだ?」

「さっきから私に言いたいことがあるんじゃない?」


先ほどから、何か言おうとして、そわそわしているサンテの態度にヘリは気づいていた。

「ママがいると出来ないような話?」

…さっきのユンスさんのこと?

そう聞くヘリにサンテが、「別にそういうことじゃない」とあわてて答えた。

「ただ、あいつがいるとうるさいから」
そうブツブツと言い訳のようにつぶやく言うサンテにヘリが笑った。

「話して。パパ」

やわらかな表情で、自分を見つめる娘の美しい顔を、
サンテはジッと見つめたあと、1つ息をついた。

そして、ヘリの方に向き直ると、テーブルの上で手を組んだ。

「ヘリ、お前にずっと聞きたいことがあったんだ」

「なに?パパ」

…改まって?

これから何を言われるのか分からないが、
妙に真面目な顔になっているサンテの顔と声色に、ヘリも笑みをひっこめた。

サンテがヘリをジッと見つめたまま続けた。


「お前は、このまま、この先も検事を続けるつもりなのか?」



(「試される絆2終わり 3に続く)


人物紹介


マ・ヘリ(マ検事)

マ・サンテ…ヘリの父親
パク・エジャ…ヘリの母親

ペク・ユンス…ドラマ16話で見合い相手とサンテが言っていた男性

ソ・イヌ(ソ弁護士)


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週末は立て込んでいるので、今日、明日は予約投稿です。
といっても、いつもと同じ時間に小説の続きをアップしておきます。


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試される絆(1話)




手を伸ばしても届かない距離で向かい合って、
ヘリとイヌは見つめあっていた。

「…それは本気で言っているのか?」

イヌが聞いた。

「…本気よ」

そう答えて、ヘリは唇をかみしめて、言葉をためた。


そして、口を開いた。


「もう会わない」

ヘリの言葉の後、
恐ろしいまでの静寂が二人を包んでいた。

マンションの部屋の中。

週末の二人きり。

いつもだったら、
この時間は、楽しくて、甘い時を共有していたはずだった。

こんな風に、冷えきった部屋の中で、
お互い見つめあったまま直立不動でいるなんて。

いつもの軽口の応酬や口喧嘩の雰囲気と全く違っていた。

向かい合っているのに、見つめ会っているのに、
お互いの心が全く分からない。

…今、お互いが本心で何を考えているのかも。

――‐ こんなことになるなんて。

気を緩めれば、泣きだしてしまいそうな心を
奮い立たせるように、ヘリは、グッとイヌを睨みつけていた…。



―― 時をさかのぼる事、数週間前。


その日、ヘリの部屋に親友のユナが遊びに来ていた。
休日の午後にユナがヘリの部屋にいる事は珍しかった。

「そう。ソ弁護士さんは仕事なんだ。休日なのに、忙しいのね」

ユナが言った。

「うん。最近仕事がたてこんでいるらしくて、平日も遅いし、休日出勤もあるみたい」

「アメリカからわざわざスカウトされるくらいだもの。
よっぽど腕のいい弁護士さんなのね。ソ弁護士って」

ユナの手放しでイヌを褒めた言葉に、ヘリがぎこちなく笑った。

そんなヘリの顔に、ユナがニヤリとして、かわかうような目になった。

「な~に~?ヘリ。その顔」

「その顔って?」

「自分の彼氏が、出来る男で困っちゃうって顔よ」

「やめてよ。ユナ。そんな顔してないわよ」

「じゃなかったら、会えなくて寂しいって顔?」

「もうっ。やめてって」

ユナのひやかしを、笑って誤魔化したヘリだったが、
内心、ズバリとあてられたことに、ドキリとしていた。

いつも、週末の休日は、イヌと一緒に過ごしていた。

それが出来るのが当たり前のようになっていた。

だけど、イヌは、法律事務所に勤める弁護士で、
しかも、アメリカにいた所をわざわざ韓国によばれた身分だった。

公務員の検事であるヘリと違って、休日は必ず休むという事も出来ないのだろう。

それに、高い勝訴率を持つイヌの弁護の手腕は、韓国に戻ってきて、弁護士に復帰してからも、業界に伝わっていて、クライアントの指名も多いのかもしれない。

そういう事は、初めから分かっていたことだったのだが…。


「ねえ、ユナは今週末の金曜日の夜は、非番でしょ?ひさしぶりに一緒に食事しに行かない?」


暗くなる気分をふっきるように、わざと明るい声で誘うヘリに、ユナが申し訳なさそうにかぶりを振った。

「ごめんね。金曜日の夜は予定が入っているの。じつは、私の親と彼のご両親と一緒に食事をする約束をしてるのよ」

「え?彼のご両親と一緒に?」

驚くヘリに、ユナが「別に珍しいことじゃないわ」と言った。

「私達って、つきあってから1年以上たつでしょ?もちろん、その間に親に彼の事を紹介したりしているし、私も彼からご両親に会わせてもらったりしたけど、最近はたまに一緒に食事してるのよ」

自分の親と、彼氏の親と一緒に食事をするって…。

「それって…」

口に出すのをためらっているようなヘリの言いたい事を悟ったユナが笑った。


「ヘリの考えている事は分かったけど、違うわよ。具体的にいつ結婚とかそういう話じゃないから」

「結婚!?そういう話も出てるの?」

ますます驚いて、目を丸くしているヘリに、ユナが少し照れたように、肩をすくめてみせた。

「まあ…私と彼の間ではね。もうそろそろかなって」


ポカンと口を開けたまま、ヘリは、目の前の親友の顔を見つめていた。

急にユナが自分よりずっと大人に見えたヘリだった。

…確かに、ユナと今の彼氏ってもう1年以上つきあっているみたいだけど、
結婚なんて…。でも、そういえば、ユナも結婚適齢期なのかもしれない。


そこまで考えたヘリは、ハッとなって、自分の年齢を思い出して我にかえった。


昔、父親サンテに結婚の時期の事をうるさく言われていた時は何も思わなかったが、
自分が次に誕生日がきた時の年齢は…。結婚適齢期というものがあるのなら、
ユナは自分より2歳年下で…自分の今の年齢は…。

そこまで考えて、固まったまま、茫然としているヘリの顔の前で、
ユナが不思議そうに手をちらつかせた。

「どうかした?ヘリ」

「なっ何でもない」

ヘリは、あわてて答えると、ユナにうなずいてみせた。

…そうよ。そういうものは人それぞれじゃない。
適齢期なんてものも所詮、一般論にすぎないんだから。

自分の考えを納得させるように、心の中で何度もうなずいて、
ヘリは、目の前にあったカップのお茶をゴクゴクと飲みほしていた。


その後、

ヘリは、ユナを家まで車で送った後、自分の実家に向かった。

いつも、この時間は、キッチンで夕食の後片付けをしている母親のエジャと、風呂に入った後の父親のサンテが、ヘリの顔を見て、嬉しそうに迎えてくれるはずだった。

「ただいま~」

そう家のドアを開けて、中に入ろうとしたヘリは、
玄関に置かれた、見知らぬ男性物の靴に、あら?と目を止めた。

そして、部屋の中から、聞こえてくる談笑の声に、
家族以外の第三者の声も混ざっていることに気づいた。

ヘリが、そっとリビングに続く扉を開けると、
テーブルの席に父サンテと母エジャの前に、一人の客人が座っていた。

「ヘリ」

今気付いたというように、エジャとサンテが振り返ってヘリを見た。

「ただいま。…あの、お客様?」

おずおずと頭を下げて挨拶をするヘリに、座っていた客人はヘリを見上げて
ニッコリと笑って、頭を下げた。

「こんばんは。お邪魔しています」

年の頃は、ヘリより少し上という所だろうか。
ヘリの実家に来る客人では珍しい若い男性だった。

「ああ、娘のヘリだ。ヘリ、お前もこっちに座りなさい」

そう言って、サンテが手招きして、ヘリを客人のはす向かいに座らせた。

…どなた?

男性に愛想笑いを浮かべつつも、ヘリは、不思議そうに、エジャの顔をみやった。

「パパのご友人の息子さんよ」

エジャがヘリにそう言うと、「お茶のおかわりを持ってきますね」と言って立ちあがった。

「いえ、僕はもう帰りますから。おかまいなく」

そう答える男性にエジャは、「娘の分も入れますから。お気になさらないで」

そう言って、キッチンの方に軽い足取りで向かっていた。

…珍しい。
ママが、イヌ以外の若い男の人に、あんな柔軟な態度を見せるなんて…。

エジャの後ろ姿を見つめるヘリに、サンテが声をかけた。

「ヘリ。私の昔からの友人の息子さんで、ペク・ユンス君だ」

…ペク・ユンス。

「はじめまして。マ・ヘリです」

そう言ったヘリに、ペク・ユンスが微笑んだ。

「じつは、会うのは初めてじゃないんですよ。ヘリさん」

「え?」

驚いて、とっさにサンテの顔を見たヘリにサンテが頷いてみせた。

「もう、随分昔のことだが、そうだな。お前が中学生の頃だったか、一緒に食事したことがあったぞ。ユンス君のご両親と私達で。覚えてないか?ホテルのレストランで」

サンテの言葉に、ヘリは自分の記憶を探ってみた。

そして、たしかに、中学3年の頃、ホテルのレストランで、父サンテの友人家族という人達と一緒に食事をしたことを思いだした。


その頃のヘリは、高校受験前のストレスで、過食気味になっており、
ふっくらとした体型だった。

美味しそうなご馳走があるのに、初めて会う人達を目の前にしたヘリは緊張のあまり、その時は食べ物がほとんど喉を通らなかったのを覚えていた。

とくに、サンテの友人という人とその妻の横にいた、自分より少し年上の青年の目線が気になっていた。

その頃から勉強ばかりしていたヘリは、自分と同じくらいの年の男性とまじかで一緒に食事をする機会など無かったせいだった。

その時ガチガチに固っていたせいか、さすがに記憶力の良いヘリでも、
詳しくは思いだすことはできなかったが、青年がとても優しく接してくれた事は、なんとなく覚えていた。

『ヘリさんは、来年受験なのか。頑張ってね。』

無口に、親同士の話をうつむき加減で聞きながら、モソモソと食べ物を口に運ぶヘリに、
ユンスが気をきかせて、いろいろ話かけてきてくれた事も思い出してきた。
…ほとんどまともに受け答えは出来ていなかったが。


「ああ…あの、私より2つほど年上だった?」

そう言ったヘリに、ユンスが嬉しそうに頷いた。

「そうです。僕も覚えてますよ。ヘリさんはあの時、ピンク色の可愛いドレスを着てましたね」

…そんな容姿のことまではっきり覚えているなんて。
あの頃と今とでは、随分外見の印象が違っていることだろう。


ヘリは、何となく恥ずかしくなって、身をすくめた。

「あの頃に比べたら、ヘリも立派に成長しただろう?ヘリは今中部地検の検事をしているんだよ」

そう、自分のことのように誇らしげに娘の事を話すサンテに、ヘリは居心地の悪そうな顔になった。

…パパったら…。

しかし、そんなサンテの話にユンスは、感心したような目をヘリに向けた。

「検事さんは、なることも大変でしょうが、仕事としても、誰でもが出来ることじゃない。すごいですね」

嫌みのないユンスのまっすぐな賞賛の言葉に、ヘリは、もじもじと「そんな…」と呟いた。

「そういう君もすごいじゃないか。ユンス君。その若さで大学の教授をしているんだからな」

サンテが言った。

…大学の教授?

ヘリの視線に、ユンスが照れたように、頭をかいた。

「いえ…、発表した論文が認められたことで、教授という肩書きは頂けましたが、大学ではまだまだ若輩ものです」

「でも、今回も学会の発表で、こちらの大学にいらしたんでしょう?どれくらいソウルにいらっしゃるの?」

お盆にヘリの分とユンスのおかわり用のお茶のカップをのせたエジャが戻ってきた。

「大学の講義も頼まれているので、1カ月ほど滞在するつもりです」

「ヘリ、ユンスさんは、地方の大学で教授をされていて、
学会でソウルに来たついでに、ここに挨拶に見えられたのよ」

エジャの説明で、ようやく、ユンスがここにいるわけが分かったヘリだった。

「父と母もマ・サンテさんにお会いしたがっていて、
僕がソウルに行くと言ったら、是非顔を見せて来いと言われました」

ユンスがヘリに説明するように言った。

「ああ、電話で話をしたけど、ここしばらく会っていなかったから、私も会いたい。
是非今度は、君のご両親とヘリも含めて、私達家族みんなで一緒に食事でもしよう」

そう、嬉しそうに言うサンテに、ユンスが、戸惑ったような顔になった。

「…それは、つまり、以前父を通じて、話されていた件ということですか?」

『話されていた件』

ユンスの意味ありげな話に、ヘリとエジャが不思議そうにサンテを見やった。

…何の話?

そんな二人の視線にも、サンテが、キョトンとした顔をしていた。
演技ではなく、ユンスの言わんとしている事が本当に皆目見当がつかない、という表情だった。

「どの話かな?」

そう聞くサンテに、ユンスが、チラリと、ヘリの顔を見たあと、
口を開いた。

「僕とヘリさんの見合いの件です」

「見合い!?」


異口同音に叫んだヘリとエジャの声が、部屋の中に響き渡った。




(「試される絆」1終わり2に続く)



大変!お待たせしました。
「検事プリンセス」みつばの二次小説シリーズ最新作長編
「試される絆」更新スタートです。

冒頭部分は、以前「序章」という形で更新してますが、
そんな感じの話です。

「試される絆」イメージイラストはこちら

時間軸では2010年11月頃の話。
1年更新が遅れて、季節的にタイムリーでしたね♪←遅いって怒っていいですよ。

昨日のお知らせで書きましたが、
まだ、構成が完全ではないので更新頻度や時間が不安定になるかもしれませんが、
少しずつでもアップしていきます。

また、よろしくお願いします。


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こんにちは。

おひさしぶりです。みつばです。
皆様、お元気にされていました?
みつばも元気です。

引きこもると、たまに人と会って話す時緊張するように、
久しぶりのネット記事はドキドキしますね(笑)

仕事の方は、もう新規がこれからもどんどん来る予定なので、
落ち着いてから~と悠長に言ってられなくなったので、
もう何とかなると割り切ってしまって・・・

「検事プリンセス」二次小説シリーズ再開します。

大変お待たせしました!

シリーズ新作「試される絆」

明日より更新スタートします。


…って、まだ完全には修正と構成終わってないので、
もしかしたら、途中、休憩をはさみながらの更新になってしまうかもしれません。

でも、昨年更新できなかった話が詰まっているので、
(クリスマス話とか、ジェニーの話とか、恋人としたい33のリスト2とか、
他、短編がいくつか)

「埋もれた約束」の時のように、進めていきます。

そんな感じで、よろしくお願いします。

とり急ぎ、更新のお知らせでした♪
ほんとに、ほんとに、お待たせしました。
お休みの間もブログに足を運んでくださった方、
気長に創作を待っていただいている方、ありがとうございました♪


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こんにちは。「みつばのたまて箱」のみつばです。

ここ数日もうすでにお休みしてますが、
ちょっとお休みします。…というお知らせです。

体調の方は落ち着いているので、大丈夫です。
ただ、やっぱり多忙な時期なので、
創作はペースダウンさせていただいてます。

…夜中に起きた時に、携帯電話で「検事プリンセス」の未来の話は
書いちゃったりしてますけど(汗)

再開時期がいつごろと言えないのですが、
仕事がひと段落ついたら、または、
「試される絆」の修正&構成ができたら…という感じで。

その間に新しいPCも購入予定。
すでに前回より数段グレードアップしたペンタブ(イラスト・マンガをデジタルで描くための道具)
は買ったのですが、肝心のPCがまだ未購入なため漫画は描けません←おいおい。

PCや道具をグレードアップしても、
創作の腕がグレードアップするかわからない。
そして、おそらく小説創作にはまったく関係なしですね。


せっかくいらしてくれた方、すみません
もう、すでにあきちゃってるかもしれませんが、
過去の作品を見ていってください。


でも、お休みの間にいろいろレベルアップさせておくので(←ほんと?)
またブログに来てくださいね。



それでは、また~。

いつも、待っていただいたり、拍手をくださったり
ブログに来ていただいて、ありがとうございます♪


みつばのたまて箱 みつば。


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おはようございます。

取り急ぎ、「検事プリンセス」のみつばの二次創作物、ここ1か月のものを
INDEX整理&更新しました。

検事プリンセス二次小説INDEX


「プレゼント」「そばにいて」はシリーズ話「イヌの誕生日」の後。

「月と泥棒」は、短編、未来の話のところに。
シリーズの時間に追いついたら、入れ替え挿入予定。

検事プリンセスパラレル二次小説INDEX2

「ありがとう」を「I love you」の後に。 

検事プリンセス夢小説INDEX

「ドライブデート編」1、2
「背中合わせの夜」

検事プリンセス漫画INDEX

「恵理ちゃんと仁優くん」51、52、53

検事プリンセスイラストINDEX

二次小説「シャンプー」のイメージイラスト。イヌ×ヘリ

二次小説「仮想遊戯」のイメージイラスト。ヘリ

夢小説「デート編」のイメージイラスト。イヌ×ヘリ

チャイナ服ヘリイラスト

たぶん以上です。

そろそろ、INDEXのINDEXを作ったほうがよさそうです(汗)


今日はおそらく新しい創作物を更新できないので、すみませんが、
良かったら、上のINDEXから、過去の作品を何か読んでいってください。

その他の記事(過去に書いた雑記、感想等)は左帯の『カテゴリ』にあります。

リンク等、もし間違っている箇所に気づいたら、拍手コメントかコメントページ(二次小説INDEX)よりお知らせ下さい。よろしくお願いしますー。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「月と泥棒」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は、2011年2月頃の、シリーズでは「願い花」より後、「夢桜」より前の時期になります。



月と泥棒



その日は満月の美しい夜だった。


韓国で「テボルム」と言われる、1年で
最初に1番大きく見える月の祝いの日だった。

ヘリとイヌは、イヌの部屋のテラスで
一緒にその月を眺めていた。

空気は冷え込み、防寒着を着てひざ掛けをしても
寒い季節。

テーブル席に座って、酒を飲み、
イヌが用意してくれたつまみを食べながら、
ヘリは、寒さも忘れ、すっかりほろ酔い気分だった。

「んー…美しい月を愛でながら、
こうして飲むお酒は最高ね」

「ヘリ。酒も飲めばいいが、ナッツも食べろよ。
これからの1年の無病息災を願ってな」

イヌがそう言って、木の実が入った器をヘリの方に押しやった。

音のなる木の実を食べて、鬼を追い払い、
その1年の健康を祈願する…というのが習わしだった。

「ええ、えーっと、年の数だけ食べるんだったかしら?
私は、今……うん。20個ね」

年をごまかしながら、ナッツを口にいれるヘリにイヌが笑った。

「気持ちだけは若そうだよな。
いや、君の精神年齢はもっと低いかな」

「もう。そんなこと言うあなたの精神年齢は高そうよね。
ああいえば、こういうし、すぐ嫌味を言うし、
口うるさいご年配の人にも負けないもの。
それに、たぶんお腹に鬼も沢山飼っていると思うから、100個くらい
木の実を食べたらいいと思うわ」

負けじと、一気にまくしたてて言い返すヘリに、
イヌがしれっと肩をすくめてみせた。

「100個も食べたら、君より若返るかもな。
ナッツは美容にいい」

「食べ過ぎはかえって肌によくないわよ。脂質が多いから。
子供の頃は、よくママから年の数だけ食べなさいって言われていたの。
でも、すごく美味しいから、つい食べ過ぎてしまって鼻血を出した事もあるのよ」

「年の数だけ食べるっていうのは、君の住んでいた所の習わしか?」

「んんー…どうかしら。ただ、子供には刺激が多いから食べ過ぎは良くないって意味で
言われていただけかもしれないわね。イヌの所ではそういう話は無かった?」

「木の実の数の事は聞いたことは無いけど、
僕の住んでいた地域では、この時期、面白い習わしがあったよ」

「どんな?」

興味津々で身を乗り出したヘリに、イヌがニヤリと企むような笑みを見せた。

「『月見泥棒』」

「つきみどろぼう?」

ヘリが首をかしげて、不思議そうに復唱した。

「それってどういう習わしなの?」

「子供の行事なんだけど、毎年、満月のこの日、
『お月見のお祝いをくれないと泥棒するぞ』と言いながら、近所の家々をまわって、
菓子や餅や木の実をもらうっていうものだった」

「それって…ハロウィーンみたいなもの?」

『トリック OR トリート』

お菓子か、悪戯か?

「ああ、似てるな。仮装はしないけど」

「ふーん。楽しそうねっ」

ヘリが目を輝かせた。

「私の住んでいた所はそういう習わしは無かったけど、
きっと子供にとってはわくわくする日だったでしょうね」

「ああ、小学生くらいまでの行事だったが、学校が終わると
子供たちがグループになって、家々をまわるんだ。
もちろん子供のいない家もあるし、いちいち対応するのも大変だから、
玄関の前にお菓子や木の実を盆に山盛りにして出す家が多かったな。
子供たちは袋を持って、『月見泥棒です』と大声で言いながら、それをもらっていく」

「そうなの。このあたりでも聞かない話ね」

「最近は、そのイベントもいろいろ問題があったり治安が悪いという理由で
やめている地域も多いらしい。まだ習慣がある所もあるようだけど」

「そっか…。確かに大人目線で見るといろいろあるわよね」

ヘリは、イヌの話す『月見泥棒』がもし地元でもあったら?と考えてみた。

何となくだったが、もしあったとしても当時の父サンテは、
ヘリにその行事に参加することを許してくれなかった気がした。

『良家の娘が、他人の家の物を勝手にひろい食いするなんて止めなさい』

…パパなら言いそうね。

ヘリはフフッと想像笑いすると、酒を煽った。


「でも、素敵ね。そういう特別なイベントって好きよ。
子供でも嬉しいけど、大人にだって十分楽しめると思うのよ」

「たしかにな」

イヌが頷いて、手にとったナッツをかじっていた。

『月見泥棒』の事を話していたイヌはとても懐かしそうな顔をしていた。
小学校まで韓国で暮らしていたイヌの大切な思い出の1つだったのだろう。

…大人にもできれば…。

そう思ったヘリは、ある事に思い当たって、
クスクスと笑いだした。

急に一人で笑い始めたヘリに、イヌが訝しげな顔になっていた。

「笑い上戸に入ったのか?」

そう聞くイヌにヘリがかぶりをふって笑みをおさえた。

「ううん。その『月見泥棒』のこと。大人でも別にやってみればいいんだって
思いついたの」

「どうするんだ?」

「別に大したことは無いのよ。やることは一緒。
部屋を訪れて、『月見泥棒です』って言って、お菓子をねだればいいのよ」

「このマンションの部屋をまわるのか?」

マンションの部屋のチャイムを押して、
『月見泥棒です。お菓子をくれないと泥棒しますよ』と言いながら、
実際に、歩いてまわるヘリの姿を想像したイヌ。

…ヘリならやれそうだ。

そう思いながらも、仮にも検事が、『泥棒しますよ』と言いながら、
家をまわるのは、多少の問題どころじゃない騒ぎになるな、と失笑した。


「もう、赤の他人の家に押しかけるわけがないでしょ?
これは、私とイヌだけのイベントにするのよ。今年はもう終わっちゃうから、
来年にやってみましょうよ」

どちらかが、どちらかの部屋に訪ねて、
『月見泥棒です』と、言って物をねだる。

すっごくいいこと思いついた。というように、
提案するヘリのワクワクしている顔にイヌが微笑んだ。

…まったく可愛いよ。君は。

「君は、満月じゃなくても、“酒泥棒です”と言わなくても、
いつも僕の部屋に来たらワインを飲みほしていくじゃないか」

「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。
泥棒じゃなくて、ちゃんと接待されているじゃない。それに、イヌだって、
私の部屋に来ていつも…」

「来ていつも?」

「来ていつも…」

そこで、ヘリは、うーん…と真面目に考えこんでしまった。

…イヌって、私の部屋に来て、何か“とって”いくことってあったかしら?

思い起こせば、イヌは、ヘリの部屋に来ても酒は持参するか、
一緒に買いに行ったものを飲んでいた。
食事も、イヌが材料を買って、料理してくれていた。

持って行かれることは、何もないようだった。

「何かあった?」

面白そうな顔で、たたみかけるように聞くイヌに、
ヘリが悔しそうに唇を尖らせた。


「品行方正な弁護士さんは、泥棒をしないのね」

「その話、人が聞いたら、何事かと思われるな」

イヌが楽しそうに笑った。

「じゃあ、今夜くらいは『月見泥棒』になってみるか」

「そう?何をとっていく?このお酒もつまみもイヌが買って来てくれた物だし、
今はイヌの部屋だから…後で私の部屋に来て何か持っていく?冷蔵庫に新鮮な甘いトマトならあるわよ」

「甘いトマトはいらないよ。かわりに…」

「かわりに?」

きょとん、と首をかしげてイヌを見たヘリだったが、
その瞳が月光より妖しく輝いている事に気づいて、苦笑した。
「…聞かなくてもわかった気がする」

イヌが嬉しそうに目を細めた。

「言わなくても伝えられそうな気がする」

そう言って、
イヌがヘリの頬に手をおくと、顔を寄せて唇を重ねた。


満月の明るい光の下で、テラスの上の二人のシルエットが
重なっていた。

ヘリにゆっくりと優しいキスをした後、イヌが顔を少し離した。

「…甘いキスか、泥棒かって問いは、大人向きのものよね。
それも、相手に選ばせる前に行使しちゃうなんて変なルールだわ」

予測通りだったとはいえ、
イヌのキスで、一気に甘い気分になったヘリは、
照れくさそうに微笑んだ。

「もちろん選択権は与えてあげるよ」

熱っぽい瞳で微笑むイヌの顔は
魔力が宿ると言われる大きな月より魅惑的なものだった。

「今夜、僕に君の甘いキスを与えるか、それとも君自身を差し出すか、
どちらか選ぶといい」

イヌの言葉にヘリが噴出して声を出して笑った。

「それ、選択肢になってないわ。どちらにしても同じことじゃない。
なんて悪質な泥棒さんなのかしら。やっぱりあなたの中には鬼がいるんじゃない?」

泥棒と言っている時点で、いいも悪いもないのだったが。

「ソ・イヌは、そうやって大人になっても、
この日を過ごしていたんじゃないでしょうね?」

分かっていながらも意地悪く、拗ねた口調で聞くヘリに
イヌが口元をゆがませた。

「今年から始める習わしだ。マ・ヘリ限定で。」

「そう?気のせいかしら?もう今までも実行されていたような気がするわ」

満月の夜じゃなくても。

細い月の夜も、月のない夜も。

甘いキスを。甘い時間を。

こうして奪われ続けていた気がする。
ううん。やっぱり与えてもらっていたのかしら?


そんな事を考えていたヘリの唇を、
もう一度、不遜な“泥棒”が黙って奪っていった。

「返事が無いから、もらっていくよ」

そう言って椅子から立ち上がったイヌは、
ヘリの方に腰を屈めて、両腕を伸ばした。


「ちょっと待っ…」

いきなりイヌにお姫様抱っこで抱えられたヘリは、
あわてて手足をばたつかせた。

「どちらにしても両方奪う気だったんでしょ?」

「当然だろ」

ニヤリと笑いながら平然と答えたイヌは、
ふざけてはいたが、真剣に思惑を行動に移すつもりのようだった。


「イヌが珍しく、心温まる習わし事を話してくれたと思ったら、
これは、この為の伏線だったとか?」

「まさか。あれは、ソ・イヌにも純粋な子供時代はあったという話だ」

満月の日。

いたずらっぽく目を輝かせていた少年のイヌが、
今、同じような顔でヘリを見つめている。

手にいれた、祝い物が嬉しくてしょうがないという風に。


「私は月の…というより、あなたの供物ね。ソ・イヌ」

ヘリがわざとらしく溜息をついて、イヌの腕の中で脱力した。

ヘリを抱いたまま、部屋の中に入ったイヌは、
ヘリの体をベッドまで運んだ。

「今日は願い事をする日だ」

イヌが言った。

1年の最初。満月に願い事をする日。

「何を願う?ヘリ」

「そうね…」

答える間もなく、ヘリは再び『泥棒』に唇を奪われていた。


…私の願いは…。

たぶん、これまでもこれからも毎年同じものになるだろう。

――― 大切な人たちが元気で側にいてくれること。

去年から、イヌ、あなたもその中に入っているのよ。


イヌに塞がれた口の中に言葉を閉じ込めたまま、心の中で願いを紡いだヘリ。

…今年もこうして一緒にいたい。
あなたもそう願ってくれる?イヌ。

「君の願いはかなうよ。ヘリ」

何も言わなくても、ヘリの思いはイヌに伝わっていたようだった。

「うん…」

ヘリがイヌの体に両腕を回して、
その胸に頭をすりよせて甘えた。

それが『泥棒』への答えだった。

…全部奪ってやる。
かわりに、僕も全部君にやるから。

イヌが心の中でそう宣言して、
ヘリの体に身をふせた。

「ずっと一緒にいよう」

イヌがヘリを抱きながら低く囁いた言葉は、空耳ではなく、
今夜だけのことでもない。

それが分かったヘリは嬉しくなって、

「いいわよ。私だけの泥棒さん」

そう言って、イヌの体をギュッと強く抱きしめ返した。

カーテンからもれる月明かりが、ベッドの上を仄かに照らして、
重なるヘリとイヌの姿を浮き上がらせていた。


こうして、恋人たちの特別な夜もいつものように
ふけていくようだった。


この日、結局、奪われたのはどちらの方だったのか?

美しい月?…それとも、策略家の泥棒?




(終わり)



9月30日は日本で十五夜のお月見でしたよね。
台風でそれどころじゃなかったけど、
みつば家では月見団子を食べました。

最近、遠方の知人から『月見泥棒』という習わし事を教えてもらって、
初めて知って、感動して、韓国では月見はどうなのだろう?と調べてみたら、
「テボルム」という日がそうだということらしいです。
旧暦の1月だから…たぶん2月頃。

「月と泥棒」はそんな2つの文化をかけあわせて創作しました。

関心のある方は
「テボルム」や「月見泥棒」で調べてみてくださいね♪

お祝いことだし、どちらも楽しくて、ロマンチックでもある行事なのに、
みつばがイヌ×ヘリで妄想すると、結局こんなことに。
ヘリじゃなくても、みつばイヌの思考・行動パターンが読めてきました(笑)


少し季節外れの冬話でしたが、おそらく来年その時期のみつばは
創作することが不可能になりそうなので、日本の月見にあわせて書きました。

これからブログもいつもの時間でなく不定期更新になるかもしれませんが、
「試される絆」も含め、出来る時にアップしていきます。
よろしくお願いします。

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「ありがとう」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。


この話は「検事プリンセスパラレルINDEX2」にある「Iloveyou」の続編のような短編話です。




ありがとう




「なあ、今僕を見て笑ったぞ」

「そう?」

「ほら、また。僕がパパだって分かってるんだな」

子供を抱いて、ずっと浮かれているようなイヌ。

その様子を、側でヘリが微笑ましく見ていた。

助産師にも聞いた話だったが、
この時期の赤ん坊が笑っているように見えるのは、
顔の筋肉の反射的なものだということだった。

しかし、イヌは自分に向けられた天使の微笑みに、
すっかり舞い上がっているようだったので、
ヘリは、あえて、その話をしなかった。

それに、イヌが腕に抱いている子供が、時折見せる愛らしい表情は、
見ているこちらまで幸せな気分にさせてくれるもの。

一説はどうあれ、
産まれたばかりの赤ん坊が本当に微笑んでいるような気がした。


「パパ、大好きって言っているみたいに見えないか?へり」

すっかり、親バカになっているイヌに、
さすがにヘリが噴出していた。

イヌは、子供が産まれてから、
すっかり、この赤ん坊に魂を奪われてしまったようだった。

イヌの子供を見る目は、『目に入れても痛くない』という言葉を
そのまま表しているかのように、今にも蕩けそうになっている。

実際に産んだ母親である自分は、もちろんだったが、
イヌの赤ん坊への溺愛ぶりは、思わず嫉妬してしまいそうになるほどだった。

このまま片時も離したくない。

そんな様子のイヌにずっと静かに抱かれていた赤ん坊だったが、
少し顔をゆがませると、微かな泣き声をあげはじめた。

「ん?どうした?何か気に障ることでもあったのか?」

普段何事にもほとんど動じない、冷静沈着な男が、
子供の些細な変化にうろたえて動揺している姿にヘリは苦笑した。


「きっとお腹がすいたんだわ」

「そうなのか?」

「ええ、そろそろ時間だもの。ほら、おむつは濡れてないから」

そう言って、ヘリは、手を伸ばして、イヌの腕の中から
赤ん坊を自分の方に抱き寄せた。

まるで、宝物を横取りされたように
イヌが、不満げな表情になったのを見て見ぬふりしながら、
ヘリは赤ん坊を抱えて、ソファに腰かけた。

「さあ、ご飯の時間ですよ」

そう言ってヘリは、赤ん坊に胸を出した。

ぐずっていた赤ん坊は、ヘリの胸に吸い付くと、
すぐに泣き止んで、一心不乱に食事タイムに入ったようだった。

「ほらね。お腹がすいていただけよ。どう?美味しい?」

ヘリは、うっとりとした表情で、子供を見下ろしていた。

イヌがまだ不服そうな顔で、ヘリの横に腰かけた。

「…僕の方が美味しいご飯を作ってやれるのに」

ぼそり、とそうつぶやくイヌにヘリが笑った。

「あなたが私に作ってくれているご飯が、
こうして、子供の美味しい食事になっているんだから一緒よ。
それにあと1年もしたら、この子も普通に食べられるようになると思うから、
その時は、特製のご飯を作ってあげてね」


「そうだな…」

イヌがヘリの言葉にようやく満足げに頷いた。

「いっぱい飲んで、大きくなるんだぞ」

そう言って、
ウグウグと小さな口を一生懸命動かしている赤ん坊の背中を
イヌは、そっと手で優しく撫でた。


やがて、
お腹がいっぱいになったらしい赤ん坊をゲップさせた後、
ヘリは再びイヌにその小さな体を手渡した。

至福の表情で、目を閉じた子供を腕に抱いて、
じっと見ているイヌの方も、満たされた顔をしていた。

「…嬉しい?」

ヘリが聞いた。

「ああ」

…もちろん。

イヌは眠ってしまった赤ん坊から目を離さずに応えた。

幸福というものが形になるというなら、
この腕の中の子がそうだと断言してもいい。

お前がここにいることが…

そして、こうして僕の腕の中にいてくれる
この時間を与えてくれたことが、どんなに嬉しいか。


…産まれてきてくれてありがとう。


イヌは、愛しげに、眠り子の頬にキスを落とした。

そして、熟睡してしまった赤ん坊を、抱いて、
そっと立ち上がると、ベビーベッドの中の布団の上に優しく横たえた。


いつまでも見ていて飽きない子供の寝顔に目を落としていたイヌだったが、
ソファに座っていたヘリが欠伸をした気配に振り返った。

「君もしばらく休むといい。その間に食事を作っておくよ」

昼夜問わず、赤ん坊は、ヘリにほとんど休みなく世話を要求していた。
可愛い子供とはいえ、さすがにヘリの疲労も大きくなっているようだった。

少しでも手伝えることがあるなら、何でもする。
そう言うイヌにヘリが嬉しそうに微笑んだ。

「うん…お言葉に甘えてそうさせてもらう…ありがと。イヌ」

ソファの上に体を横たえて、
ヘリはすでに、眠そうなトロリとした瞼を閉じていた。

イヌはベッドから毛布を持ってくると、ヘリの体の上にかけた。

男のイヌには分からない事だったが、
子供を産むこと自体、大きな仕事をしているように思えた。

自分の子供をそのお腹の中で育て、
産んで、こうして育てていてくれること。
大切な家族をつくってくれて。
そして、自分にこの幸せな時間を与えてくれたこと。

…礼を言うのは僕のほうだ。

スウスウと安らかな寝息をたてているヘリの近くに
腰を落とし、眠っているヘリの額にキスを落とすと、
イヌが囁いた。

「ありがとう」


…僕を父親にしてくれて。

君を、君たちを、心から愛してる。


イヌの言葉に
ベビーベッドの上の子供もソファの上のヘリも
柔らかく微笑んだように見えた。

イヌもそんな二人に微笑みかけると、
部屋の電気を消し、食事の準備をするために
キッチンに向かって歩いていった。




(終わり)



ブログの読者さんが、無事ご出産されたというコメントを頂いたので、
何かお祝いでも…と思ったのですが、「試される絆」は間にあわないし、
イラストや漫画は今描けなかったので、
せめて、ショートショートでも…と。取り急ぎ短編をアップ。

パラレルの「ILOVEYOU」の続編なのですが、
本編二次小説の掟破りの未来図でもとれるようなお話。

イヌ×ヘリと赤ちゃん話です。

この小説のイメージイラストはこちら↓

「イヌとヘリと赤ちゃんのイラスト」



イヌ、デレデレパパです。
赤ちゃんが男の子か女の子か分かりませんが、
どっちにしても、こうなるでしょうね♪

それで、改めまして、ご出産、おめでとうございます!!

私は諸事情で、手術になることはもう決定しているのですが、
時期がくるまで頑張ります。


4コマ漫画への拍手、拍手コメントもありがとうございます!
みつばは元々4コマ漫画描きだったので、
4コマ漫画を楽しんでもらえているとやっぱり嬉しかったりします。
もちろん、小説もイラストも雑記も楽しんで頂ければ嬉しいですよ!!♪


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次創作。

みつばの4コマ漫画
恵理(ヘリ)ちゃんと仁優(イヌ)くんシリーズ53です。

他の4コマ漫画作品は、検事プリンセス漫画INDEXからどうぞ♪

4コマ漫画は、完全にコメディタッチなので、
「検事プリンセス」のドラマや、キャラクター、
このブログの二次小説のイメージが崩れると思われる方は
スルーでお願いします。
どんなヘリもイヌもOKという方はご覧ください。


「記念日」の夜は、ヘリちゃんがとっても嬉しいサービスを
してくれることが多いことに気付いたイヌは…という、
大人向けの(笑)4コマ漫画です。



記念日



   記念日



イヌの誕生日、「プレゼント」や、「100日記念日」という
記念日にかこつけて、イヌに色っぽいサービス心旺盛なヘリちゃん。
(みつばの二次小説参考♪)

そんなことを言っていたら、イヌはすっかり味をしめてしまうでしょう。

…ということで、思いついた毎度おバカなネタです(笑)

365日、何かしらの記念日とかありますよね。
10月1日は「めがねの日」って朝の番組で言ってましたけど…。
10月10日は「目の日」でした?

みつばは、イヌのグラサン姿はめちゃくちゃ好きなんですけど、
メガネ姿は・・・(てんてんてん)

最近、4コマ漫画って下ネタ系が多い気が…気のせいかな。

そして、今日更新が遅れたのは、
メインパソコンがとうとう、これを最後に壊れてしまったから(涙)
10年近くお疲れ様でした。

新しいPC買うまで当分イラストや漫画は更新できません。
小説は小説専用セカンドPCがあって、今までのデータも全部移行したはずだから(…したよね?(汗))大丈夫です。

でも、行事予定と仕事が多忙になっているので、小説更新の確約もしばらく出来ません。
ごめんなさい。。。いつも待っていただいてありがとうございます。


ブログの記事が気にいって頂けたら、
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