韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「トマト日和」です。
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この小説は、書き下ろし短編です。
トマト日和イヌがヘリの部屋に泊まった日の朝のこと。
「あ、忘れてたわ」
ヘリのキッチンで朝食の準備をしていたイヌの側で、コーヒーのセットをしていたヘリが突然そう声をあげて、あわてて、テラスの方に走って行った。
「どうした?」
そのヘリのあまりのあわてぶりに、イヌが不思議そうにヘリの背中に声をかけた。
そして、盛り付けの終わったサラダを冷蔵庫に入れると、
すでに窓の向こうのテラスに行ってしまったヘリの後を追いかけていった。
テラスを見まわすと、ヘリが、じょうろで植物に水をあげているところだった。
普段から、テラスに置かれた植物や花に水をあげているヘリを見ていたから、何の不思議も無かったのだったが、『忘れてた』というほど、あわてて水をあげなくてはいけなかったのだろうか。
「昨日、水をやり忘れてたのか?」
「いいえ、あげているけど。遅くなったからコレには早くあげた方がいいと思って」
今も朝と言っても、もう遅い時間ではあった。
休日ということもあって、イヌもヘリもいつもよりゆっくりと起きて、シャワーも浴びていたから、朝食というより、ブランチに近い時間にはなっていたのだけど。
…これ?
イヌが、ヘリの側まで歩み寄って、横に並んだ。
そして、ヘリの指差す方向を見降ろすと、そこに何かの苗が植えられた鉢が2つあった。
「それ、トマトか?」
「正解」
まだ、背丈は低めだったが、黄色い花がいくつも咲いていた。
あと、数週間くらいすれば、丸い実がつくことだろう。
「ママが種から育てた苗なんだけど、大きくなったから鉢に植え替えたんだって。
それで、私がこの前実家に帰った時にね、このトマトの苗を分けてくれたの。赤色と黄色のプチトマトよ」
花だけでは、どちらが黄色か赤色なのか区別がつかなかったが、鉢の土に『トマトちゃん』『トマトくん』というタグが刺されていた。
「赤色がトマトちゃんで、黄色がトマトくんなの」
「それ、お母さんが命名したのか?」
「違うわ、私がつけたの」
かわいいでしょ?と得意げに言うヘリの言葉にイヌが黙って頷いた。
…そうだと思った。
「植物にね、名前をつけると愛着がわくからってママは言うのよ。
その通りね。名前をつけたら、何だかとっても可愛く思っちゃって。
自分がちゃんと世話してあげなくちゃって気がするの」
だから、いつもより遅い時間に水やりになったから、
トマト達がお腹をすかせていたような気になって。
名前というより、「ちゃん」と「くん」をつけただけなのだったが、
ヘリにすれば、特別なトマトになったのだろう。
「これ、実がなったら食べられるのか?」
「もちろんよ。だって食べられるトマトだもの」
…食べられないトマトってあるの?
とぼけたように聞くヘリにイヌが苦笑した。
「そうじゃなくて…、君がトマトを育てる気になったなんて。
トマトは、あれ以来、あまり見たくないのかと思っていたから」
『あれ以来』という言葉で、
ヘリは、イヌの言わんとしている事を悟って、「そうね」と恥ずかしそうに微笑した。
1年以上前の話だったが、ヘリが検事になりたての頃に、
被疑者として疑いのかけられた女性の恨みをかって、検察庁正面玄関先で、
ゆでたトマトが沢山はいったバケツを頭からぶちまけられた事があった。
沢山の公衆の面前で、そういう仕打ちをうけたばかりか、写メールや動画をやじうま達から撮られたヘリは、それをネットで流されるという恥ずかしめも受けた。
その時、ちょうど、ヘリと待ち合わせをしていた車で通りかかったイヌが、
ヘリをその場から連れ出して、マンションの自室に連れて行って、シャワーや着替えを貸すという事があったのだが…。
「…記憶は鮮明なのに、ずいぶん昔のような気がするわ」
自分の事なのに、しみじみとした口調でそう言うヘリにイヌも頷いた。
「君があの頃より成長したせいだろう」
えらそうなイヌの台詞だったが、ヘリにはすんなりと心の中に落ちる言葉だった。
「その通りかもね」
…あの時はすごくショックだったけど、あの一件で目が覚めたような気がする。
もちろん、あの後、イヌが側にいて、優しくしてくれたり、励ましてくれたり、怒ってくれたからもあるのだけど…。
「さすがに、しばらくはトマトを見るのも食べるのも嫌だったけど、元々大好きだったし、それにトマト自体に罪は無いもの。今だって良く食べているわ。…確かに私が育てるっていうのは珍しいかもしれないけど」
ヘリの母親、パク・エジャは、植物や花の世話をするのが好きで得意だった。野菜や果物も栽培したりしていた。ヘリもその影響をうけて、植物は好きだったが、エジャのように知識があるわけでも、マメに世話をしたりするほどではなかった。
テラスのおかれた植物や花の世話も時々エジャがヘリの部屋を訪れた時にしていたのだったが。
「なんだか、自分の子供のような気がするの」
“自分の子供”と言ってしまった事に、ヘリはなんだか急に恥ずかしくなって、
トマトの鉢の前でしゃがむと、照れ隠しに俯いてその葉についたホコリを手で払い始めた。
「このトマトちゃんとトマトくんの実がなったら、一緒に食べましょうね。イヌ」
「ああ、楽しみにしてるよ。しっかり育てるんだぞ」
手で葉の汚れを取りながら、トマト達が可愛くてしょうがないという風のヘリの姿を、
イヌが優しく目を細めて見降ろしていた。
それから、何週間かがすぎて…。
その後、ヘリがテラスで育てていた、トマトちゃんとトマトくんはすくすくと大きくなっていた。
そんな、ある日の事。
仕事帰りで、部屋に戻ってきたヘリの元に母親のエジャから電話がかかってきた。
『ヘリ、今夜は大丈夫なのかい?』
「え?」…なんのこと?
第一声心配そうなエジャの声にヘリがきょとんとした。
『今夜の天気のことよ。天気予報見たでしょう?今夜は暴風雨らしいわよ』
「ああ、そのこと。平気よ。もう部屋に帰ってきているから」
夜の暴風雨になるという事はニュースを見て知っていた。
それに、検察庁でも、今夜の天気は荒れるから、なるべく定時で帰るように、というお達しも出ていた。
『マンションの部屋にいるのね?実家に帰って来なくて良かったのかい?怖くて眠れなくなるんじゃないのかい?』
怖がりのヘリは昔から、暴風雨や、雷のなるような天気の夜には、震えながら、エジャのベッドに潜り込んでいた。
そんなヘリの事を心配してエジャは電話をかけていたのだった。
「大丈夫よ。ママ。心配しないで。もう子供じゃないんだから」
いまだに過保護なエジャにヘリが笑った。
大人になってからも、十分に怖がりのヘリだったが、
この1年でかなり度胸がついて、幽霊の類は今だに怖がっていたが、天気くらいでは眠れないという事は無くなっているようだった。
…もう子供じゃない。
エジャを安心させるために言った言葉だったが、
エジャは、そんなヘリの言葉を違う意味に解釈したようだった。
電話の向こうで、ハッとしたように息をのむエジャの気配がしたかと思うと、
あたふたと、あわてた様子で「そうね、そうね」と言い始めた。
『ヘリには、イヌ君がついているものね。ママが心配することじゃなかったわね』
…今夜だって、イヌ君がヘリの側にいてくれるだろうし。
「ママ…」
ヘリはエジャの早とちりと勘違いをあえて訂正もしなかったが、
何だか気恥かしい思いになって、曖昧に笑ったまま黙った。
それでも、それを肯定ととったエジャは、安心したように息をついた。
『じゃあ、戸締りだけはしっかりしておくのよ。イヌ君によろしくね。おやすみヘリ』
「ママもね。パパによろしくね。おやすみなさい。ママ」
そう言って、エジャとの電話を切ったヘリは、チラリとテラスの窓の方を見た。
朝からずっと降っていた雨は、ヘリが家に帰る前より激しさを増している気がした。
…イヌは、まだ仕事なのかしら?
ヘリは、携帯電話を取ると、イヌにメールを送った。
“知っていると思うけど、今夜は暴風雨になるそうよ。交通網がマヒする前に気をつけて帰ってきてね”
それから、しばらく時間がたって。
防音設備が万全なヘリのマンションの部屋で、締め切った窓に叩きつける激しい雨音と風の音が微かに聞こえ始めてきた。
頑丈なつくりのマンションの部屋で、何の不安も無いはずだったが、
カーテンをあけて、外の様子をチラリと見たヘリは、心細い気持ちになってきた。
…明け方には暴風雨はやむって言ってたけど…。
ピンポーン。
その時、ヘリの部屋のチャイムがなった。
とっさの事でビクリっとしたヘリだったが、訪問者を確認に行くと、イヌだった。
「イヌ!」
あわてて、ドアロックを解除して扉を開くと、
部屋着のイヌが、手にワインを1本持って立っていた。
「こんばんは。良かったら寝酒を一緒に飲まないか?」
ニッコリ笑って、ワインを掲げてみせるイヌにヘリも微笑んだ。
休前日でない夜にイヌが部屋を訪ねてくる事は珍しかったが、
ヘリは、瞬時にイヌの気遣いを察した。
…怖がりの私を案じて来てくれたのね。
「ありがと。ちょうど、飲みたいって思っていたところなの。あがって」
「おじゃまします」
そう言って、自分用のルームシューズを履いたイヌが、ヘリの部屋のキッチンカウンター前の椅子に座った。
「こんな天気の夜ってなぜかワクワクして眠れなくならないか?」
おどけたように、ふざけた言葉で、でも、本気で言っているらしい男の言葉にヘリが笑った。
「そうね」
現に、こうして、イヌが側にいてくれる事が心強くて、
外で、吹き荒れる風も雨も、もうヘリには何の問題も無くなっていた。
仕事終わりで、部屋に戻った後、シャワーを浴びてすぐにヘリの元に来てくれたのだろう。
まだ、乾ききっていないようなイヌの髪の毛から、イヌの使用しているシャンプーの微かな香りがふんわりと漂っていた。
「今夜はうちに泊まっていくでしょ?」
何気なくそう聞いたヘリに、イヌが意地悪く口の端を上げた。
「泊まっていって欲しいのか?」
…もう。そのつもりだったくせに。
ヘリは、プウっとわざと頬をふくらませて、睨むふりをした。
ヘリの顔にイヌがニヤニヤしながら、ワインのコルク栓を開けた。
「スリル満点な夜を一緒に過ごせそうだな」
イヌの言っている“スリル”がどんな物か予測する事は出来なかったが、
少なくとも一人で嵐の夜を過ごすより、違う意味でドキドキするものになるだろう。
ワインを注いだグラスをそれぞれ手にとって、
軽く合わせ、口に含んだ後、イヌとヘリは微笑みあった。
お互いの想いがつながっているということは、伝えなくても分かっている。
その事が嬉しくて、
ヘリは、イヌと見つめあって
いつもより余計に美味しく感じるワインを、ゆっくりと堪能していった。
それからしばらくして…。
ワインを飲み終えたヘリとイヌは、ほろ酔い気分で熱を帯びてきた体と心をさらに盛り上げる為に、一緒にヘリのベッドに入っていた。
うっとりとイヌの愛撫に身を任せていたヘリだったが、
ふと、何かが心にひっかかって、動きをとめた。
…何か忘れているような気がする。
そんな思いに囚われて、でも、それが何か分からないまま、窓の方に目を向けたヘリは…。
「あっ!!」
突然、叫んで、ガバっと身を起こした。
「ヘリ?」
そのまま、ベッドから這い出して、バタバタとテラスの方に駈けて行くヘリの背中をイヌがベッドの上で驚きの目で見送った。
ヘリがテラスの窓を開けると、雨風が勢いよく部屋の中に吹き込んできた。
その中を構わずに、外に飛び出していくヘリの姿にさすがにイヌもあわててヘリの後を追った。
「ヘリ!ヘリ!!」
ヘリの行動にわけも分からずに、でも、ほおっておく事も出来ず、
暗闇の暴風雨で、視界がはっきりしない中を、イヌはヘリの名を叫んでテラスに出た。
ヘリが何かを探して、夜の雨風の荒れ狂うテラスの上をうろうろとさまよい歩いていた。
「ヘリ!!何をやってるんだ!すぐに部屋に戻れ」
思わず叱咤して、駆け寄ったイヌに、ヘリがかぶりを振って、泣きそうな顔をイヌに向けた。
「だって、トマトちゃんと、トマトくんが…!このへんに置いていたのに」
…トマト。
イヌは、テラスでヘリがずっと大事に育てていたトマトの事を思い出した。
ヘリの突発的な行動の意味を悟ったイヌが頷いた。
「分かったから、君は部屋に戻って待っていろ」
そう言うと、イヌは、ヘリの腕を掴んで、肩を抱いて、
強引に引きずるように部屋の中に戻した。
それから、テラス窓の近くに常設してあった懐中電灯を手に取ると、
再びテラスの外に出て行った。
ヘリが固唾を飲んで見守る中、
ややあって、イヌが手に鉢を2つ抱えてヘリの元に戻って来た。
「あったぞ。風に飛ばされて、転がっていた」
イヌから手渡された鉢をヘリは、泣きながら、抱きしめた。
「…うっ…」
トマトは二つとも先端の枝が少し折れていた。
せっかくついていた実もいくつか取れているようだった。
それでも、まだしっかりと鉢に根づいていて、実も葉も大部分は無事のようだった。
…良かった。という思いと、こうなる事を想定しなかった自分の浅はかさを悔やむ気持ちで、ヘリは、ぽろぽろと涙を流した。
そんなヘリを見つめた後、イヌが再びテラスの方に足を向けた。
「イヌ!?」
あわてて呼びかけるヘリに、「小さな花鉢も軒下に移動してくる」そう言って、
イヌは、ヘリのテラスの花を移動しに行った。
ヘリは、トマトの鉢を窓の近くに置くと、
バスタオルと、イヌの着替えを取りに部屋の中に走っていった。
しばらくして、暴風雨の中、花の鉢を移動し終えて、全身びしょぬれで戻ってきたイヌにヘリはバスタオルを差し出した。
「ごめんね。イヌ。せっかくシャワーを浴びた後だったのに…。着替えを用意したから、また浴びてきて」
「それは構わないさ。どうせ、もう1回くらい浴びることになるだろうから」
しれっと、答えながら、イヌは、全身の水気を軽く拭いたあと、ヘリの肩を抱いた。
「君も濡れているから早く熱いシャワーを浴びたほうがいい」
「え?…」
イヌは、戸惑うヘリの服をその場で脱がし始めた。
「やだっ…イヌ!!こんなところで」
「いつまでも濡れた服を着てると風邪ひくぞ」
「そうじゃなくて…!…トマトちゃん達が見てる」
自分の子供みたい、と世話をしていたトマト達が、
イヌとヘリの方に、興味深げな目を向けているような気がしたヘリだった。
「見せつけてやれ。早く熟するかもしれない」
ヘリの可愛い言葉に、思わず微笑むながらも、
イヌがからかうように、そう言った。
「イヌ!」
イヌが、熟れたトマトのような顔になってジタバタするヘリの体を抱きかかえた。
そして、雨で冷えたヘリの体を温めるように、濡れた服ごしに自分の胸に強く密着させた。
「まったく、スリル満点な夜だな」
自分の不注意で、巻き込んだ事なのに、
そして、暴風雨で、全身濡れさせてしまったのに、
それを何とも思っていないような、
むしろ、楽しんでいるような素振りを見せてくれるイヌの優しさに、ヘリはまた泣きたいような気持ちになって、イヌの腕の中に抱かれていた。
「…ありがと」
囁くように言ったヘリの呟きと、首にまわされたヘリの腕に、
イヌはフッと微笑むと、ヘリを抱きかかえたまま、バスルームの方に歩いていった。
それから…。
その嵐の夜から、しばらくたって。
ヘリの部屋のトマトちゃんとトマトくんは、テラスの暖かい陽気をうけて、
すくすく育ち、その実を熟させていた。
ある日、ヘリはその実を収穫すると、イヌと一緒の朝食の時にサラダにのせた。
「じゃーん。マ・ヘリが育てたトマトちゃんとトマトくんよ。よく味わって食べてね」
「こんな貴重な物を僕が食べていいのか?」
イヌが、言った。
「もちろんよ。だって、イヌは、トマトちゃんとトマト君の命の恩人なんだから」
「そうか。有り難く頂くよ」
そう言って、イヌはトマトを口に運んだ。
その様子をヘリはジッと見つめた。
「どう?」
おそらく、スーパーや八百屋で売っているトマトと変わらない味だったに違いないのだが、
イヌは、満足そうにうなずいていた。
「ん…。格別な味がするな。きっと、君の愛情がたっぷり込められているからだろう」
…ヘリも食べてみろ。
イヌの言葉にヘリが心底嬉しそうな顔をした。
「うん」
ヘリが自分の分のトマトを食べると、
口の中に、甘いトマトの味が広がった。
確かに、それはイヌの言うとおり格別な味だった。
…来年も育ててみようかしら。
ヘリは思った。
―― そして、来年も、自分の育てたトマトを、イヌとこうして一緒に食べよう。
想像しただけで、それはとても楽しくなるような未来予想図だった。
輝くような笑顔で、自分を見つめてトマトを食しているヘリの顔に、
言われなくても、ヘリの気持ちがわかったイヌは、ただ、ニッコリと微笑み返して、
次のトマトをほおばっていた。
(終わり)
…さっき、ようやく仕事を終わらせて、宅配の手配をした直後に
一気にかきあげた小説です。
見直し、構成をほとんどしていないので、誤字脱字あるかもしれませんが、
取り急ぎアップしました。
小説のイメージ画像は、
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