韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「印-しるし-(SIDEイヌ)」です。
二次小説は、ドラマ最終回16話以降の続きをみつばが、勝手に妄想したお話ですが、
ドラマのネタバレ等も含んでいますので、現在ドラマを見ている方、
これからドラマを見る方はご注意ください。
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この小説は、「
印-しるしー」の続編になります。
事の発端となった話は「
印-ホクロ-」より。
印-しるし-(SIDE イヌ)…やってくれたな。
鏡に映った自分の姿を見ながら、イヌは苦笑いを浮かべていた。
月曜の朝。
目が覚めたイヌは、すぐに、横に眠っているはずのヘリの姿が無いことに気づいた。
ヘリが自分より先に目覚めることは珍しかったから、
…トイレか、バスルームにいるのか?
一瞬そう思ったが、いる気配はなかった。
…自室に戻ったか…。
それにしても、書き置きもせずに黙って出て行くなんて。
イヌはベッドサイドに置いていた携帯電話を操作して、メール確認をした。
ヘリからのメールは入ってはいなかった。
何か急ぎの用事でも出来たか、仕事の用件でも思い出したのかもしれない。
イヌは溜息をつきながら、そう考えた。
昨日の日曜日。
日中、一緒に外でデートをして過ごした後、夜、ほとんど強引に
自分の部屋にヘリを連れ込んでいたイヌだった。
『明日は仕事だから帰らないと…』
そう言って、
弱弱しく抵抗する恋人のそぶりにも、
それが「承諾」の意味だと勝手に解釈させてもらっていたイヌだった。
『僕がいる方が確実に起きられるだろ?朝食もつくぞ』
そう言って、ベッドの中に引きずり込んで、甘い時間を共に過ごし、
寄り添って就寝したと思っていたのだったが…。
ヘリに電話をしようか、と考えたイヌだったが、
…もしかすると、本当に仕事が多忙で早くに出勤しなくてはいけなかったのかもしれない。
僕の誘いを断りきれずに泊まったのだったら悪いことをしたな。
そう思って、携帯電話をサイドボードの上にそのまま置いた。
そして、ベッドから起き上がると、洗面所に歩いて行った。
洗面台で顔を洗った後、ひげを剃ろうと、鏡を覗き込んだイヌは、
ふと、自分の首の肌のところの異変に気づいて、眉をひそめた。
…なんだ、これは。
首筋のところにうっすらと赤い斑点のようなものが出来ていた。
それも2か所。
よく見ると、耳元の後ろにも1か所ある。
虫さされ?じんましんか?
そう考えたイヌだったが、その考えも一瞬で取り消した。
そして、
鏡でその箇所をしばらくまじまじと確認したイヌは、フッと息をついた。
「…やってくれたな。…ヘリ」
おもわず、そう呟いて苦笑するイヌ。
『昨夜の行為』でついた跡では無いことは分かっていた。
こんな跡がつくような事をされた覚えは無かった。…少なくとも自分が起きている間は。
これは、自分が眠っている時につけられたもの。
それも意図的に。
イヌは、夜中にこの跡を、こっそりと自分につけて、
そして、嬉しそうにほくそ笑む、ヘリの姿を容易に想像出来た。
…随分と楽しんでくれたようだな。
1つならずとも、3つもつけるとは。
しかも、こんな目立つ場所に連続して。
これが、以前自分がヘリにした、
いつかの行為の仕返しだということを思い出したイヌだった。
あの時、ヘリは、随分本気で腹を立てていたようだった。
そして、しばらくはベッドの上で隙さえあれば仕返ししようとしていた。
『あなたにも同じように印をつけてあげるんだから』
それから時々、行為の最中に、自分の首に唇を寄せようとしている事に気づいて阻止すると悔しそうな顔をしていたヘリ。
やがて、そういう事もしなくなっていたから、諦めたか、忘れたものと思っていたが…。
「さて…どうするかな」
首にはっきりと浮き上がっている、妖しい印。
スカーフを巻くにしても室内では、不自然だ。
ベージュ色の絆創膏を貼るにしても、やはり不自然すぎる。
かえって目立ってしまうことだろう。
それなら、いっそこのままでいい。
これに気づく者は勝手に頭の中で想像力を働かせるだろうが、
事実は、そんなロマンチックな産物ではない。
…いっそ、行為の最中につけられた方が良かったな。
こんな風に知らないうちに、不意打ちをするとは。
こういう事は、僕ならいざ知らず、君には似つかわしくないな。ヘリ。
いつから、こんな悪い事をするようになったんだ?
そう心の中でつぶやくイヌだったが、
世間一般では、そういう恋人の悪影響を受けてしまったヘリが
ある意味被害者と認定されるのかもしれない。
それに、先にイヌに同じ事をされたヘリが報復としてとった行動。
イヌが文句を言える立場では無かったはず。
しかし、そんな道理はイヌには通用しないようだった。
しかも全部理解した上で、イヌは、それでも、恋人のした事を
ただ笑って見過ごす事は出来なかった。
…僕がどういう人間か。まだ分かっていないようだね。マ・ヘリ。
つけられた印をジッと見つめるイヌ。
鏡の向こうに、美しく、それでいて、この上無く愛しい『おバカ』な恋人の顔を想像して、
自分でもゾッとするような微笑みを浮かべていた。
その後、
法律事務所に出勤したイヌは、
自分のオフィスにバッグを置くと、
呼ばれていた事務局長のオフィスに入室していた。
ソファで対峙してイヌと仕事の話をする事務局長だったが、
時々目線がチラチラとイヌの首元に向けられていた。
そんな事務局長の視線に気づきながらも、
イヌは意に介さない様子で会話を続けていた。
話が終わり、「それでは」とイヌが立ち上がると、
「ソ弁護士…」事務局長が何か言いかけた。
「何か?」
「いや、その、あなたの首の所の…」
普段、冷静に淡々と話をする事務局長が珍しく動揺しているような声色だった。
「首のところが何か?」
イヌの平然とした応対に、事務局長が唖然としたような表情をした。
…気づいていて、この態度なのか。
「…いえ、なんでも。もう行って結構です」
事務局長は務めて平静を装ったように首を振ると、イヌから目を逸らした。
見ている方が恥ずかしくなる…まるでそう言っているような事務局長に、
イヌは微笑を浮かべると、「失礼します」と部屋を後にした。
事務局長の部屋を出て、自室に戻ったイヌはしばらくデスクで仕事をしていた。
やがて、パソコンで事務所内のネットワークメールが入った。
ジェニーからだった。
『今日は、事務所で仕事をしているのだけど、お昼に時間があるなら一緒に食事しない?』
イヌはすぐにジェニーに返信した。
『いいよ。昼食を食べたら出かける予定だ。どこか外で食べよう』
昼時になって、イヌは、ジェニーと事務所のビルのロビーで待ち合わせした。
イヌと顔を合わせたジェニーは、一瞬驚いたような顔をしたが、
次に、呆れたような目をイヌに向けていた。
それでもランチをする店につくまで黙っていたジェニーだったが、
店の席についた時、我慢の限界のように口を開いていた。
「イヌ…あなた、気づいているとは思うけど、今日はずいぶんとハクがついてるわよ。
その首のところ、誰の仕業か、聞くのも愚問だと思うけど」
…ずいぶんと、まあ、派手にやってるわね。
ジェニーは脳裏に、ハハハとあっけらかんと笑う、親友の大事にしている女性の顔を思い浮かべていた。
いでだちは派手で天真爛漫だけど、純粋で、こういう事には奥手そうな印象もあった。
あのマ・ヘリがこんな大胆な事をするようには思えないのだけど…。
案の定、イヌがメニュー表に目を通しながら、そっけなく答えてきた。
「愚問だな。分かっているなら聞かないでくれ」
ジェニーは開いた口もふさがらないという風にイヌを見つめていたが、
店員がオーダーをとりに来た時に、自分に向けられた視線に、さらに困惑した。
店員はまず、イヌの首に目を走らせると、呆気にとられたような顔をした。
次に、ジェニーの方に顔を向けて、笑いを噛みしめるような表情になった。
ジェニーには店員が何を考えたのが一目瞭然で分かった。
どうやら、イヌの彼女だと勘違いされたらしい。
それも、イヌの首のマークをつけた張本人だと思われたようだった。
それでも、
店員の好奇心まるだしの視線を物ともせずに、平然とメニューをオーダーするイヌに、ジェニーは憮然とした顔になった。
「…その首のところ何とかしないの?」
「何とかって?」…何をするんだ?
「隠すとか、誤魔化すとか」
一緒にいる私が恥をかいたじゃない。そう、恨めしそうに言うジェニーに、
イヌが肩をすくめてみせた。
「何も悪いことはしていない。誤魔化す必要があるか?」
「…面の皮が厚いってこういう事を言うのね。
…それとも首の皮が厚いとでも言えばいいのかしら?まあ、似合っているわよ、イヌ」
親友の女性の嫌みを含んだ言葉に、イヌがフッと笑った。
「うらやましいなら、君も誰かさんにつけてもらえばいい」
「・・・・・・」
ジェニーは、イヌを軽く睨んだあと、これ以上この会話を続けるのは不毛だと察したらしく、話題をかえることにしたようだった。
「…午後からはどこに出かけるの?」
「検察庁だ」
そう答えたイヌに、またもジェニーが呆気にとられたような顔をした。
「検察庁?何しに?」
「仕事だ。当然だろ?他に何しに検察庁に行くんだ?」
「…仕事?ほんとに?…誰かさんに会いに行くんじゃないの?」
検察庁で仕事をしている、イヌの首に強烈なマークをつけた『誰かさん』。
「ああ…もしかすると“偶然”会うかもな」
飄々と答えて肩をすくめて見せるイヌに、ジェニーは失笑した。
そして、検察庁にいるヘリに心の中で密かに同情した。
…お気の毒さま。何があったのか知らないけど、
こういう冷静すぎる時のイヌにはかえって気をつけてね。
だが、当然ジェニーのそんな心の忠告は、当のヘリには届いてはいなかった。
その頃何も知らず、検察庁の仲間たちと一緒に昼食を食べていたヘリは、
午前中の仕事の忙しさで、すっかりイヌにつけた印の事を忘れていた。
何か1つの事に夢中になると、他の事は考えられなくなるのがヘリだった。
その後、無理やりにでも思い出させられることになるとは、想像もしていなかったようだったが。
その後、
食事を終え、ジェニーと別れたイヌは検察庁に向かった。
担当検事はヘリのいる刑事5部の人間では無かったが、フロアは同じ階の検事だった。
イヌと対峙して話をしていた検事は、やはりイヌの首元が気になって仕方がないようだった。同室にいる事務官も捜査官も、イヌの方に何度も目をやっては、顔を見合わせていた。
中部地検の検事達のほとんどは、イヌがマ検事、つまり、ヘリの恋人だという事を知っていたから、イヌの首につけられた『印』が誰がつけた物か勝手に決め付けていた。
しかも休日明け。ある意味説得力のある当然の推察だった。
…マ検事って見た目通り情熱的ね。
…同じ男として、あそこまでされると恥ずかしいけど、うやらましい気もするな。
もちろん、そんな囁きはイヌの耳に入っていた。
全部、馬耳東風のように聞き流しながら、イヌは仕事を終え、担当検事のオフィスを出ると廊下を歩いて行った。
廊下でイヌと行きかう人々もオフィス内と変わらない噂話をコソコソとしていた。
イヌの歩みより早く、その噂話は先に検察庁中を駆け巡っていたらしかった。
ヘリの先輩検事が、早足でヘリのオフィスに入るのが見えた。
その時
「ソ弁護士」
イヌの後ろからユン検事の声がかかった。
「ちょうど良かった。この前の担当事件で聞きたい事があったのだが、今少しいいか?」
「ええ、構いません」
そう言って振り向くイヌを見たユン検事が、一瞬ひるんだような顔をした。
目はしっかりイヌの首元に釘付けされているようだった。
唖然としたように口元を半開きにしていたユン検事だったが、
さすがに、すぐに普段の冷静さを取り戻したように、淡々と仕事の話を始めた。
立ち話でユン検事と話すイヌの近くでも、ヒソヒソとした声が微かに耳に届いていた。
「…ほら、噂をすればマ検事よ」
「もう彼は自分の物よって言いたいのかしらね」
「でも、あんなカッコいい彼氏だったら、印をつけたくなる気持ちも分かるわ~」
…ここの連中は本当にこういうゴシップが好きだな。
イヌはそう思いながら、心の中で冷笑を浮かべていた。
そして、近くでこちらを息をひそめて見ているだろう、ヘリにも。
ユン検事と話し終えたイヌは、ヘリの方を振り返った。
ちょうど、ヘリがコソコソと自室の中に戻ろうとする姿が目に入った。
…逃がすか。
「マ検事さん」
ビクっとヘリの肩が揺れて、こわごわとイヌの方に顔を向けた。
怯えた表情。
底抜けに鈍いヘリもさすがに何かを察したようだった。
「こんなところで会えるなんて奇偶ですね」
「そ、そうね。そういうこともあるわね」
社交辞令のような会話を続けたあと、
「失礼するわね」とさらにオフィスに逃げ込もうとするヘリの腕をイヌが掴んだ。
「僕に素敵なアクセントをつけてくれたね」
…おかげさまで今日1日、いや、これからの数日、“楽しい気分”を味わえそうだよ。
ひきつった笑みを浮かべながら、「良かったら又つけてあげるけど?」
そう言うヘリに、イヌが微笑んで見せた。
…やれるものならやってみろ。
せいいっぱい虚勢をはっているらしい恋人の心情は全部見透かしている。
まだ、分かっていないようだから、君にも分かるように、僕の心情を伝えてあげよう。
なあ、ヘリ?
イヌは、ヘリの耳元に声のトーンを落としてゆっくりと囁いた。
「今度お礼をさせてもらうよ。…たっぷりとね。覚えてろ」
ヘリの、カチンコチンに硬直した表情を見て、満足そうにイヌが微笑んだ。
そして、周囲の人間にも愛想笑いを浮かべながら、エレベーターに乗り込んだイヌは、去り際、ヘリに軽く手を振った。
目を見開いて、ある種の恐怖にかられたようなヘリの顔。
…これからヘリの考える事も予測ずみだった。
イヌは、スーツのポケットから携帯電話を取り出して操作した。
かけた相手は…
『ソ君?どうしたの?』
携帯電話からヘリの母親、エジャの第一声嬉しそうに弾んだ声が聞こえた。
「こんにちは。お母さん。お仕事中にすみません。じつは、今週末に、ヘリさんと旅行に行く予定をたててまして、娘さんをしばらくお借りしてもいいかとお伺いをたてたくてお電話しました」
『まあ、そんな事わざわざ断らなくてもいいのよ。ソ君なら全然心配してないんだから』
エジャは、イヌに全幅の信頼を置いているようだった。
「ええ。ありがとうございます。でもヘリさんには内緒にしているので、もし彼女が実家に帰るような事を言ったら…協力して頂けますか?」
『もちろん。分かったわ。ヘリには実家に帰らせないようにするから。どうぞ、楽しんで行って来てね』
エジャの胸をはったような言い方に、イヌが爽やかにお礼を言った。
「ありがとうございます」
電話を切ると、イヌはフッと微笑んだ。
…これで、逃げ場はふさいだ。
イヌは、あたふたと、今後の展開の打開策を必死に練っているであろう哀れな恋人を思い浮かべた。
まるで、すでに、罠をはった森の中で逃げ惑う、可愛い兎を見守る猟師のような目をして。
「週末が楽しみだな」
そう呟いて、
どこまでも、残酷で魅惑的な笑みを浮かべるイヌの姿を
検察庁のエレベーターの防犯カメラも、背後だけしか捕らえられなかったという。
そして、
その後の、哀れな兎…ではなく、ヘリがどうなったかというと…。
それは、又いつかのお話。
(印-しるし-(SIDE イヌ)終わり)
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