韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説
「100日記念日」第3話です。
二次小説は、ドラマ最終回16話以降をみつばが、勝手に妄想したお話ですが、
ドラマのネタバレ等も含んでいますので、現在ドラマを見ている方、
これからドラマを見る方はご注意ください。
みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
「
検事プリンセス二次小説INDEX」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「
お願い」を一読してください。
小説の最後に人物紹介があります。
100日記念日(3話)「見てもいいか?」
「…ええ、どうぞ」
信号待ちで車がとまると、イヌが助手席から身を乗り出して
後部座席においてあった籠をとって、膝の上においた。
そして、籠の中を見ると、まず荷物の一番上にあったコンビニ袋を取り出した。
「それもあげる」
ヘリが言った。
イヌがコンビニ袋の中を覗き込むと中にばなな牛乳が入っていた。
それを見たイヌは、黙ってフッと笑った。
そんなイヌの反応に、ヘリはいたずらが成功した子供のようにニンマリと微笑んだ。
イヌはそんなヘリの顔をちらりと横目で見たあと、籠の中にはいったカップケーキに目を落とした。
「美味しそうだ」
思わずそう言ったイヌの言葉にヘリは心底嬉しくなった。
「今食べてもいいわよ」
「…そうだな」イヌは少し考え込んでいるようだったが、籠のふたをしめた。
「ヘリ、少し寄って欲しいところがある。そこでこれを頂くことにするよ」
「え?寄るところ?こんな時間に、どこ?」
ヘリが驚いて、言った。
「まだ、しばらく先だ。ソウル市内に入ったら教えるから」
…そのまま走って。イヌが指で前を示した。
「…わかったわ」
本当はイヌの思惑が全くわかっていなかったヘリだったが、イヌに言われた通りに車の運転を続けた。
そういえば、
「今日は私があなたの運転手ね」
ヘリが思いだしたように言った。
1年ほど前、車を父サンテから取り上げられていたヘリの為に、
イヌが運転手をかって出てつきあってくれた事があった。
あの日は、朝、空港から、何もかも嫌になって逃げ出して高跳びしようとしていたヘリをイヌが止めに来た日でもあった。
あの日には予想もしていなかった。
こんな風にイヌと一緒にいることも。イヌとこういう関係になることも。
自分がこんな車で、誰かを乗せて運転手をしているなんて。
昔の自分が今の自分を知ったら、どんな顔するかしらね。
たった1年前のことのようで、まるで数十年前のように遠い過去のようにも思えるヘリだった。
それは、自分とイヌとの関係の変化のことでもあり、自分自身の変化の大きさでもあった。
まるでヘリの心を読もうとしているかのように助手席のイヌが、ジッとヘリを見つめていた。
「マ・ヘリに運転手をしてもらえるなんて、あの頃の僕は想像もしていなかったよ」
ヘリと同じことを考えていたらしいイヌも、そう言った。
そして、チラリと助手席のイヌを見たヘリと顔を見合わせて笑い合った。
その後、ヘリの車がソウル市内に近づいたころ、イヌが言った。
「森林公園に寄ってほしい」
…森林公園?
それは、1年前にイヌの正体がばれた時にいた場所でもあり、
ヘリがイヌを「ワンダーウーマン利用券」で夜中に呼びだした場所でもある
よく、ヘリとイヌが待ち合わせをした検察庁近くの公園。
でも、どうしてこんな時間に森林公園?
一体何をするの?
そう疑問を口にしようとしたヘリだったが、今は何も聞かないでイヌの言う通りにしようと、車を走らせた。
ヘリの車が公園の駐車場についた。
公園内は外灯がついているとはいえ、やはり暗く、
怖がりのヘリは不気味そうに車の中からきょろきょろと外の公園を見渡した。
「あの…イヌ、ここで何するの?」
それには答えず、イヌはシートベルトをはずして車のドアをあけると外に出た。
「さ、君も降りて」
「ええっ?」
ヘリは、運転席で固まった。
「…嫌よ。何をするか教えてくれないと降りないわよ」
こんな夜中の暗い公園で。
「安心しろ。君をここでとって食おうというわけじゃないから」
イヌが運転席側にまわり込むと、ドアを開けてヘリのシートベルトをはずし、
腕を掴んでひっぱり出すようにヘリを外に出した。
ヘリはあわてて自分のショルダーバッグをつかんでいた。
イヌの言葉にヘリはますます身を固くしていた。
…よく夜中の公園でいちゃつくカップルがいるって聞くけど、
まさか、そういうことするんじゃないわよね。
ヘリの心を見透かしたようにイヌが、フッと笑った。
「少なくとも今夜は、そんなことはしないよ」
…今夜はしないって。いつかするつもりなの?
目を丸くして硬直しているヘリを促して、
イヌはトランクを開けさせて中から自分のカバンを取り出した。
そして、籠の中にあったカップケーキをくるんだ包みを数個コンビニ袋に移すと、
手に持って、もう片方の手でヘリの肩を抱いた。
「例の場所に行こう。ヘリ」
「…例の場所って?」
それには答えずイヌは歩き出した。
公園の薄暗がりに目をきょときょとさせながらも、
ヘリは肩におかれたイヌの手とよりそっている温もりに安心して、公園内を歩いて行った。
しばらくして、二人は、「例の場所」。
ヘリがイヌを数カ月前呼びだしたベンチのある場所についた。
「ここ?」
いぶかしげに言ったヘリに、イヌがうなずいた。
「なぜ、今ここに?何かあるの?こんな時間に」
ヘリは自分の腕時計を見た。
時計は0時をまわっていた。
「…亡霊がでちゃう」
ヘリはかすかにブルっと身を震わせて言った。
イヌはベンチに荷物を置くと、とまどったように自分を見つめるヘリの頬に手をあてた。
「マ・ヘリさん」
「はい?」
急にあらたまったイヌの言葉にヘリはキョトンとした。
「今日が何の日だかわかってる?」
「…今日?…今日?」
ヘリは、うろたえて、口元に指をあてた。
「今日は…8月30日だわ。えーっと。…何の日かしら?イヌ、あなたの誕生日…でもないわね」
…まして自分の誕生日でもない。
「何の日?」
降参したようにヘリがイヌ聞いた。
イヌが、フッと笑った。
「僕らの100日記念日だよ」
「!」
イヌの言葉にヘリは目を大きく見開いた。
そして、我にかえって
「ちょっと待ってよ」とあわてて言った。
「イヌ。違うわよ。私たちの100日記念日は昨日、8月29日のはずだわ」
「違うね」イヌがきっぱりと言った。「今日だよ」
「うそ、うそ」
ヘリは、動揺もあらわに、手持ちのショルダーバッグから携帯電話を取り出すと、イヌに見せるように、100日記念日の計算サイトにアクセスした。
「ほら、見てちょうだい。これが私たちの交際がはじまった日で…」
そんなヘリの手をとめて、イヌが首をふった。
「もう、そこが違うな。ヘリ。僕らの交際がはじまったのは5月22日だ」
「ええ?」
ヘリは、イヌの言葉に信じられないというような目で見た。
「だって、…だって、私があなたを呼びだした日が、そうでしょう?」
動揺しているヘリにイヌがコクリとうなずいた。
「そうだが、その日はいつだった?」
「だって、…金曜の夜だったから」
ん?
ヘリはあの日のことを思い出していた。
確かに呼びだしたのは金曜の夜だったけど、自分がこのベンチでイヌを待っていたのは
5月21日の金曜の0時前だったけど、
結局イヌが来たのは0時をずいぶん過ぎてからだった。
つまり日付がかわって、5月22日土曜日になっていた。
ヘリの勘違いで、計算も1日ずれていたわけだ。
ようやく自分の間違いに気づいて、ヘリは気まずそうにイヌを上目づかいで見つめた。
「…ほんとだわ」
しかし、
恥じるようなヘリを、イヌは優しい目で見つめていた。
「……」
イヌはヘリの頬に置いた手をゆっくりと撫でるように滑らせて、ヘリの顎をとらえた。
「本音を言えば日付なんて意味がないと思っていた」
イヌが言った。
ヘリは、まだ茫然とした頭で、顎にそえられたイヌの指を感じていた。
「君とこうしていられることが、僕にとって一番意味のあることだからね」
「イヌ…」
ヘリは、イヌから目を離すことが出来なかった。
「だけど」
イヌがヘリの顔に自分の顔を近づけた。
「100日目の今日、改めて、ここでもう一度君に言うよ」
…何を?
無言で、答えを促すヘリの瞳にイヌがフッと笑って言った。
「君にはかなわない」
…僕の中にいる君をどんなことをしても消すことは出来なかった。
どんなに逃げようとしても、時間と距離をおいても。
心は君から離れることはできないんだ。
それは、つきあって100日たった今も全く変わっていない。
――― 僕は君にはこうするしかないんだ。
そして、
イヌは、ヘリの唇に口づけた。
…イヌ。
ヘリは、そっと目をとじて、イヌの優しいキスを受け入れていた。
『君にはかなわない』
100日前、ここで、お互いの想いを確認した日。
イヌがヘリに言った言葉だった。
…私もよ。イヌ。
どんなに酷いことをされても、あなたを憎むことなんて出来なった。
離れてしまっても、もう会えないと分かっても、忘れることは出来なかった。
この100日だって、いろいろあったけど、
まるで夢のように過ぎていったように感じる。
まだ、あれから1日くらいしかたってなかったみたいに。
そして、まだまだお互い知らないことや
知りたいことがいっぱいあって、一緒にやりたいことも沢山ある。
唇を離して、ヘリとイヌは見つめあった。
「ソ・イヌさん」
ヘリが言った。
「これからもよろしくね」
イヌがえらそうに答えた。
「のぞむところだ」
100日前のヘリの言葉を模倣したようなイヌにヘリが笑った。
100日記念日。
まったく本当に私たちらしい記念日ね。
ヘリは思った。
出会いから何から何まで、型にはまらない二人の恋人記念日。
私が「恋人としたい33のリスト」に思い描いていたような100日記念日じゃないけど、
想像していたよりも、ずっと素敵なシチュエーションだわ。
その後、ヘリとイヌはベンチに座ると、
まず袋からヘリの作ったカップケーキとばなな牛乳をとりだして、一緒に食べ始めた。
「うん…いい味だ。ヘリ」
そう言って、美味しそうに自分のカップケーキをほおばるイヌに
ヘリは顔をほころばせた。
…嬉しい。
ヘリは、イヌの分のばなな牛乳のキャップをはずしてイヌに差し出した。
「これも飲んでちょうだい」
16年前、少女のヘリがイヌに差し出した時の再現をしていた。
「…たたき落としちゃ嫌だからね」
そう、いたずらっぽく睨みつけながら言うヘリにイヌが苦笑した。
そして、ヘリからばなな牛乳の容器をしっかり受け取ると、
「ありがとう」と言って、口に運んだ。
…ようやく飲んでくれたわね。16年かかって。
自分の食べている姿をニコニコしながら見つめているヘリに、イヌも微笑んでいた。
イヌがカップケーキを食べ終えた頃、ヘリは、自分のバッグに入れていたイヌへのプレゼントを取り出した。
「はい、これ」
イヌが「ん?」という顔でヘリの差し出したプレゼントの箱を見た。
「いつもお世話になっているお礼よ。…たいしたものじゃないけど」
…使ってくれると嬉しい。
そう言ってヘリは少し緊張した面持ちでイヌの手にプレゼントを渡した。
…面と向かってプレゼントを渡すのって気恥かしいわ。
「あ、あの、やっぱり、部屋についてから開けてほしいんだけど…」と
ヘリが言った時にはもうすでにイヌがプレゼントのリボンと包装紙をはずしていた。
そして、箱のふたをとって、中からヘリの選んだネクタイを取り出した。
「あのね。これしか買えなくてごめんね。でも、選ぶのは一生懸命したから、
もし、少しでも気にいってもらえたら、普段の仕事の時とかにつけてくれる?」
ヘリの買ったネクタイを手にとって、黙ったまま感慨深そうに眺めているイヌに耐えられなくなったヘリは戸惑うように目を泳がせて言った。
イヌは、ネクタイをのばして、ヘリに手渡した。
「つけて」
「え?」
「君から僕にこのネクタイをつけて」
…ネクタイの仕方知らない?そう聞くイヌにヘリがあわてて首をふった。
「パパにつけてあげたことがあるから、分かるわ」
…それに服飾学科にいたこともあるし。
そう言って、ネクタイをイヌの首にかけると、少し緊張したぎこちない手つきで、
ネクタイをしめた。
「あの…出来たけど、これじゃ貴方はどんな風か見えないでしょ?」
ここには姿見もないし、コンパクトミラーじゃ、この暗がりじゃ良く見えないだろうし…。
そう聞くヘリにイヌが嬉しそうにほほ笑んで首をふった。
「これから、僕は何度でもこのネクタイ姿の自分を見られるからかまわないよ。
選んでくれた君に一番にこの姿を見せたかっただけだ。どう?」
…イヌ。
ヘリは、自分の選んだネクタイをしめているイヌの姿をじっと見つめた。
「うん…似合ってる」
見立てた通りだわ。とても素敵。
うなずくヘリに満足そうにイヌがうつむいて、首にかかったネクタイに目を落としていた。
「ありがとう。ヘリ。これから使わせてもらうよ」
「ええ」ヘリが嬉しそうに微笑んだ。
「それから、これも」イヌが言った。
「え?」
イヌが、自分のスーツの右腕の袖をめくった。
あらわになったイヌの手首に、1年前ヘリがプレゼントしたブレスレットがつけられていた。
「あ、それ!」
ヘリが驚いて、とっさにイヌの手首をつかんだ。
「持っていてくれたの?」
『当然だ』という言葉を飲み込んで、イヌはうなずいた。
そして、ヘリと同じように自分の手首に目をおとした。
「…礼を言うのがずいぶん遅れてしまったが、気にいっている」…とても。
そう言うイヌの顔を見上げてヘリはまだ驚いた表情のまま固まっていた。
「ありがとう」
そう言って、イヌは手首をふってみせた。
イヌの手首につけられたプラチナのブレスレットが外灯のやわらかな光をも反射してキラキラと光っていた。
「あれから、時々つけていた…アメリカでも」
ただ、アメリカにいた時は、このブレスレットを見るたびに、胸が苦しくつらかったから、ほとんど箱にしまっていたけれど。
「これからは、君とのデートの時や休日にもつけさせてもらうよ」
「ほんと?」
ヘリは、
イヌがヘリの表情で一番好きな、純粋で美しいうっとりするような笑顔を見せた。
自分がヘリの笑顔に見惚れていることを誤魔化すようにイヌが少し目線をはずした。
そして、
「まあ、しかし、これで」イヌがわざとすました調子で言った。
「僕は、マ・ヘリに『手錠』だけじゃなく、『首輪』もつけられたわけだ」
イヌの言葉にヘリがたまらずに噴き出した。
「なによ。それ」
ブレスレットとネクタイをそういう風にとられるなんて。
イヌがニヤリと笑った。
「僕をつかまえておきたかったんだろう?」
「そうね。今度こそ、逃げられないようにね」ヘリが苦笑しながら、
イヌの手首のブレスレットをひっぱった。
手錠も首輪もきっとこの男には意味がないだろう。雲のようにつかみどころのない人だから。
せめて『私の印』だけでもつけておきたいけど…。
「今度はアンクレット(足かせ)をプレゼントしようかしら」
そんなヘリの言葉にイヌが笑った。
…ヘリ。そんなことをしなくても、僕はすでに君に捕まっているよ。
イヌの心のささやきはもちろんヘリには届いていなかった。
「ヘリ」イヌが呼んだ。
「僕から君への100日記念のプレゼントはこれだ」
「え?」
(100日記念日3終わり 4に続く)
登場人物
マ・ヘリ(マ検事)
ソ・イヌ(ソ弁護士)
「君にはかなわない」
16話の深夜公園でヘリに言ったイヌの台詞。
「しょうがないな」を英語字幕のものや、原作者さんのインタビュー記事を見て、
自分なりに解釈して書きました。
ヘリの純粋性や一生懸命さに、イヌが「僕は君にはこうするしかないんだ」という意のようなので、
「僕は君にはかなわない」と。
あと、二人がよく行っている大きな公園って正式名称なんていうんでしょう?(汗)
分からないので、森林公園って勝手に書いちゃいましたけど。
知っている方がいたら教えてください。
拍手、拍手コメント、ありがとうございます!
初めての方も最近いらして下さってる方もようこそ。
ようやく、前書いていた小説がシリーズの時間軸にあってきたので、
パズルのようにはめて、INDEXの方に更新しておきました。
あ、ここにこの話がくるのね。な感じで見てみてください。
…それにしても、今も小説を手探り状態で書いてますが、
初期の作品のぎこちないこと(笑)順番通りに読んだら、あれ?な感じになってました。
ちょっとは文章書くの慣れてきたのかしら?
(2012年5月追記)
公園の記述を訂正。
二人が待ち合わせをした公園は検察庁近くの公園。
16話のラストシーンのデート公園は「イルサン湖水公園」
ブログの小説を気にいって頂けたら、
【拍手ボタン】を押してお知らせくださいね♪
↓こちらも参加中♪
にほんブログ村 