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本日、9月24日は、みつばの推しメンの一人。ドラマ「検事プリンセス」のキャラクター、ソ・イヌ(ソビョン:ソ弁護士)の誕生日です。

みつばの二次小説シリーズ。
「検事プリンセス」二次小説シリーズINDEX1
「検事プリンセス」二次小説シリーズINDEX2
(二次小説は未公開のネタも多いですが、2022年6月に最終回を更新しています)

おめでとう!ソ・イヌ!

今年も、ひっそりお祝いするよ~♪

2022年のイヌは41歳・・・(だと思う)

41歳のイヌは・・・。

inu01.jpg


みつばの二次妄想小説の中では、ドラマの主人公、マ・ヘリと夫婦に。
二人の子の父親になっているという設定。

仕事では、立ち上げた個人事務所を経営し、
困った人を誰でも助ける「人情弁護士」という評判。

家では、妻と子供たちを愛する良きパパ。


みつばの中の妄想未来でしたが。

ソ・イヌは、年をとるごとに、優しく、思いやり深かった実父、ソ・ドングンに似てくるだろうと思っていました。

20代の頃より、角の取れた柔和な顔立ちと雰囲気に。
だけど、やっぱり、スタイルの良いイケメン。

ソ・イヌは、私欲や保身のために嘘をついた人達のせいで、理不尽にも、子供の頃にそれまでの幸せと愛する家族をなくしています。

こういうドラマでは、よく復讐劇に発展する流れになりがち。
このドラマは違っていました。

ソ・イヌは、その人たちの人生を助け、そして、一番憎むべき人すら助けた。

父親との約束を忘れず闇堕ちせず、マ・ヘリへのまっすぐな想いを貫いた人。

そんなイメージ。

何があっても、「検事プリンセス」のイヌが好きだとブログに書いてますが、今もその気持ちは変わらないです。

たとえ、創作された人物でも、ソ・イヌは、みつばの人生の指針とする人の一人。

そんなソビョンの、みつばの好きなところを挙げていたら、誕生日が過ぎそうなので、今年はこのへんで(笑)

テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

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「検事プリンセス」みつばの二次小説シリーズ、最終回、「永遠のプリンセス」のあとがきです。

とうとう、最終回を蔵出ししました。

ブログで、みつばの二次小説初デビュー作品。
カップケーキ」をアップしたのが、2011年6月25日。

そして、2022年6月9日。

途中、ブログは数年間、ほぼ休止状態。

予告していてアップしていない番外編話、イヌの親友、ジェニー主役の「弁護士プリンセス」。
他、長編3部作。完結していない「MISS YOU」「ゲレンデへいこう」など。

肝心のイヌとヘリの結婚式話も。

読み切り短編も含めると、未消化のプロットが多く残されていますが、「永遠のプリンセス」は、「検事プリンセス」、みつばの二次妄想世界で決めていた、最後の話。

主人公、マ・ヘリが、検事を辞め、子供の頃から憧れていたデザイナーの道に進む、というラストシーンです。


以下、ドラマの最終回から10年後という、みつばの二次妄想世界、補足。

「永遠のプリンセス」の冒頭あらすじの通り。

(2022年の世界)

(ヘリとイヌ)

ヘリは、春川地検に。イヌは個人事務所を立ち上げ、遠距離恋愛。
その後、ヘリとイヌは結婚。
テグン(男子)、テヒ(女子)という、二人の子供。
ヘリとイヌは、結婚後、イヌが住んでいたマンションの別室(最上階の広い部屋)に引っ越しして暮らす。
第2子が生まれて、しばらくした後、新築1軒家に引っ越し。
ヘリとイヌが『出会った』時から11年後。
ヘリは、検事を辞め、デザインの勉強を始める。
数年後、オリジナルブランドを立ち上げる。

ヘリの父母、サンテとエジャ

パン屋が人気店となり、5号店が出来るまでに。
サンテに病が発覚するも、手術が成功。
ヘリ夫妻とは別居で暮らすも、孫たちを世話し可愛がる日々。

ジェニー・アン(イヌの親友)

イヌが事務所を辞めた後も、その場にとどまる。
顧問弁護士となっていた会社の副社長、ジェームス・バレンタイン(「プールへいこう」)と結婚後、渡米。
ニューヨークと韓国を行き来し、弁護士の仕事を続け、第一子を出産。
その後、4児の母(うち、1組は双子)となり、養父母と同居し、夫と家庭を支える主婦となる。

ユナ(ヘリの親友

以前から付き合っていた調理師の恋人と結婚。
ユナの夫が独立したレストランで、ヘリはイヌの誕生日パーティー(「人生最高の日」未公開話)を催した。子供は1人。
長年勤めていたブティックの支店から、のれん分けの形で独立。
新たな事業をたちあげ、オーナーとなる。


チン・ジョンソン(ヘリの先輩検事)

春川地検に異動後、ユン検事と結婚(「チン検事の結婚式」)
(「暗闇の灯」未公開話)で、ユン検事に恨みを持つ男から刺されるも、イヌとカンさん(16年前の事件の解決でイヌに協力していた人)に助けられ、一命をとりとめる。
その後、検察庁を辞め、母親とユン検事の娘と暮らす。ユン検事との間で一子(男の子)を儲ける。
2022年は、事件の被害者家族を支援する法人で働いている。



小説と補足あらすじを読んだドラマファンの方から「え~!?」という声が聞こえそうな、内容やラストシーンの二次小説かもしれません。

ただ、これが10年前のみつばが作成していた二次妄想世界です。

あの頃は、長くても3年で完結するって思っていました。
最初の勢いで更新していたら、そうだったかも。
ただ、タラレバは分かっています。

そして、どんなに足掻こうとも。途中で辞めていようとも。

自分が、10年後にこの世界を終わらせることを分かっていたのかもしれません。

まさか・・・と。過去の二次小説、そして、未公開のプロットも見直してみたのですが。

まるで10年後の自分にあてたメッセージのようなものが、沢山、二次小説の中にあることに気づきました。

未公開の長編3部作なんて。
みつばの未来で起こる出来事が題材になっていました。
倒れた母…。親しくつきあっていた人との関係の終わり。
プロット作った時には、全く予想していなかった現実。

あんなに辛い出来事も。どうやって対処したのかも。
全部、ここに答えがあった。

そして、最終回の「永遠のプリンセス」は、未来の自分にむけた最後のメッセージだった。

まるで、10年後、自分が、どういう状態になっていて、どんな決断をするか分かっていたみたいに。

笑っていいのか、泣いていいのか。

ずっと、自分の二次小説をパズルに例えていましたが。

2000ピースほどのパズルの図は、穴だらけで、埋まっていないピースがあります。
それを1000ピースでまとめ、最後のピースを埋めた二次小説シリーズ。

「完結」と言える作品では無いかもしれません。

ただ、今は、とても穏やかな気分です。

二次創作の妄想だけど、1つの世界の最後の話を更新出来て良かった。

そして、長い間、休止状態だった、このブログの二次小説に最後までつきあってくださった方がいらっしゃることを、とても嬉しく思います。

「待っていてね」と書いておきながら、他の二次小説シリーズを始めてしまったみつばを、責めなかった検プリファンの読者さま。

コメントやメッセージで、ドラマや中の人たちや、他国の言語や文化のこと。
沢山、教えていただきました。

みつばが、初めてブログで二次創作した「検事プリンセス」のファンのブログ読者様は、いい人ばかりだったと今でも思っています。

だから、ここまで、続けられたのだと思います。
感謝してもしきれません。

もういらしていない方に届かないかもしれませんが、ここに記しておきます。

ありがとうございました!!


(お知らせ)

「永遠のプリンセス」で検事プリンセスの二次妄想は終わります。

しかし、もう1つ、「最終話」というのが残されています。
これも、ブログの雑記でいつか語っていた通り。

イヌとヘリの、本当の最後の話となります。

それは、みつばが「みつばのたまて箱」を閉じるとき。
もう、検事プリンセスの二次小説を書かないと決めた時にアップすると公言していました。

これは【みつばの鍵箱】で更新する予定です。

【鍵箱】とは、見たまま。暗証番号を入れないと読めない限定記事になります。

ただ、読者さんに【鍵】は配付しません。
このブログの中で鍵つきで入れていて、いつか、みつばのタイミングで開けにきます。

この話をアップしたら、みつばの中で、検プリ世界が本当に終わりになりそうなので。
まだ、もう少し、存在させてください。

「検プリ」ファンの読者様に、最後の最後まで甘えてしまっていますが。

「いいよ。ここまで来たら、最後まで我儘に付き合うよ~っ」て言ってくださる方は、
本当の最終話公開まで、見守ってください。よろしくお願いします。

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説シリーズ、最終回、「永遠のプリンセス」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。

※この二次小説は、「検事プリンセス」みつばの二次小説シリーズ、最後の物語です。

大変、お待たせしました!!泣いても笑っても、これが最終回。

「検事プリンセス」ファンの方。そうでなくても、ご興味持った方。
10年前に、すでに決まっていた、みつばの二次妄想世界のラストを見届けてください。

その前に、未公開の小説が多い為、空白の時間を補足説明。

【補足】

この直前の話、「さよなら、マ検事」(未公開小説)を含む。

みつばの二次的妄想世界。
未公開の二次小説シリーズの作品から、これまでの経緯のあらすじ。

―――二次小説、「高く飛ぶ君へ」の後の物語。


春川とソウルで離れ、遠距離恋愛をしていた、マ・ヘリとソ・イヌ。
イヌの誕生日(9月24日)に、イヌがヘリにプロポーズし、婚約。

翌年の5月、周囲の人々に祝福され、結婚するヘリとイヌ。

さらに、その翌年、ヘリは、第一子の長男(ソ・テグン)を出産。1年半後、第二子、長女(ソ・テヒ)を出産。(4コマ二次創作漫画「ほかほか家族」など参照)

ヘリは、子ども達や周囲の人々に、趣味でデザインした洋服を作っているうちに、かつて純粋に服飾デザインが好きだったことを思い出す。

やがて、趣味ではなく、仕事としてデザインに関わりたい気持ちが強くなるヘリ。

ブティックのオーナーとなった親友のユナや、出会った後、交流を続けていたデザイナーからのアドバイスを参考に、今の仕事を続けるか、一から新たな仕事を始める為の修練に向き合うか、という人生の岐路に悩む。

そんなヘリに、夫のイヌは「家計のことは心配しなくていい」と言う。

そして、「どんな時も、一番したいことに最善の力を尽くし、やるべきことに全力を注いで生きる。それが、僕の知っているマ・ヘリだ」と告げる。

イヌの言葉で心を決めたヘリは、検事を辞め、デザイナーという新しい道に進むことを決断する。

検事、最後の日。

ヘリは、同僚たちに見送られ、検察庁を後にする。

それは、ヘリが検事になり、ソウル地検に初めて登庁した時から、10年過ぎた日のことだった。





永遠のプリンセス



ソウル地検のビルの玄関を出たヘリは、
階段下に車を停め、その前に立っているイヌに気づいた。

左手に大きな花束を持ったイヌは、ヘリに向かって右手を上げた。

「マ検事」

イヌの、おどけた呼び方は、ヘリに、懐かしい印象を与えた。

まるで、会ったばかりの頃のように。

ヘリが検事になった直後に現れた『不思議な男』。
ソ弁護士(ソビョン)がそこにいた。

ヘリは微笑を浮かべると、階段を降り、イヌの前に立った。

向かい合った後、イヌがヘリに花束を差し出した。

「お疲れ様」

「ええ、ありがと」

ヘリは、イヌから受け取った豪華な花束の香りを吸い込んだ。

色とりどりの花の中に、イヌが好きなフリージアもあった。

すでに、同僚の検事達からもらっていた大きな花束と
イヌから受け取った花束で、ヘリの両手はいっぱいになっていた。

イヌは、そんなヘリから、肩にかけていたバッグをあずかった。

「君は職場から退職祝いに、花をもらうだろうと予想していたが、
僕からも、ここで花をあげたかったんだよ」

「嬉しいわ。なんだか、一瞬、昔に戻った気分」

「それは、君が専用オフィスを持った後、僕が花を渡しに訪ねた時のことか?」

「それよりも。トマトをぶちまけられた時のことを思い出しちゃった」

ヘリの言葉に、イヌが苦笑した。

「あれは、君にとって、いい思い出じゃないだろう」

「そうなんだけど。今は、ただ、懐かしいの。
ちょうど、このあたりの場所で・・・」

そう言って、ヘリは、周囲を見渡した。

「仕事中の私の態度に怒っていた人に、つぶれたトマトがいっぱい入ったバケツを頭からかけられたわ。
周囲には、沢山の見物人がいて。
足がすくんで、動くことが出来なかった私に、あなたが駆け寄って、頭に上着をかけ、車で連れ去ってくれた。ずいぶん時間がたつのに、昨日のことのように鮮明に思い出しちゃった」

「今日で最後になる場所なのに。他に、もっといい記憶もあるんじゃないのか?」

「そうね。いい記憶も、そうじゃないのも、いっぱいある場所よ。
ただ、最後だって思ったら、あの時のトマト事件を思い出した。
きっと、私にとって、あれは、戒めの記憶だと思うの。
『うまくいっていても調子に乗るな。他人も、周囲の状況も、ちゃんと見ろ』って」

ヘリが懐かしげに目を細めた。

「あの後、何もかも嫌になって、海外に逃げようとした私を、あなたが空港に来て止めた。
そして、説教したわよね。いつもふざけていたのに、あの時は真剣に。あれは、私のターニングポイントだったと、後になって気づいたわ。あの事件が無かったら、私は、検事として、人として、大切なことに気づけずにいたって。だから、おそらく、一生なくなさない記憶よ」

「そうか。だが、あの事件が無くても。
君は、いずれ、気づいたと思う。
そうでなければ、僕が見込んだマ・ヘリじゃないからな」

「言ってくれるわね。あれは、あなたの計画に無いアクシデントだったから、あなたも存外、相当焦っていたんじゃないの?」

「どうかな」

とぼけたイヌに、ヘリが笑い、イヌも笑顔を見せた。

「花をもらったり。トマトをもらったり。
いいことがあって。良くないこともあった。
嬉しいことも、悲しいことも、辛いことも経験した。

誰かの力になれたと、自分を誇りに思う時も。
助けることが出来なかった、と落ち込んだこともあった。

そんな場所とも、今日でお別れなのね」

ヘリは、そっと振り返ると、白くそびえ立つ検察庁のビルを見上げた。

「私、今、改めて振り返っても。
ここに来たばかりの頃は、本当に世間知らずのお嬢様だった。

知識と金があるなら、何でも大丈夫って自信があったの。

だから、社会人1年目という言葉じゃ、言い逃れできないくらいに、我儘に振舞ってた。
当時、そんな私を、周囲の人たちは『検事プリンセス』って呼んでいたけど」

過去を思い出しながら、ヘリは、自分のオフィスだった付近の窓を見つめた。

そして、後ろから、黙って見つめているイヌの眼差しに気づいたヘリは、イヌの方に顔を戻した。

「仕事に未練は無いわ。私は、ここでやるべきことを、最後まで、精一杯やってきたと感じてる。だから、検事を辞めることに後悔は無いの。ただ、今は、ちょっと寂しいだけ」

そっと吐息をついてヘリが言った。

「私は、もう、検事プリンセスじゃなくなるのね」

寂しげなヘリの横顔に、イヌが手を伸ばした。
そして、その頬を親指で撫でた。

「君が検事じゃなくなっても」

イヌの言葉にヘリが顔を上げた。

「別の職業についても。
この先の未来で、また別の何かを選んでも」

イヌが、優しく微笑んで言った。

「マ・ヘリ。君は、僕のプリンセスだ」

…この先もずっと。愛し、守っていく。

「イヌ」

色とりどりの花の向こうで、ヘリの笑顔が咲き零れた。


「ねぇ、あの子たちは、今どうしてる?」

「二人とも、君の実家にいる。
テソンは、学校から帰ってきた後、僕が車で連れていって、テヒはお母さんが、幼稚園まで直接迎えに行ってくれた。二人は、僕がここに来る前は、お母さんと一緒に料理をしていた。
みんな、今夜は、君の門出を祝ったパーティーだと、はりきっているよ」

「そう。楽しみだわ」


イヌは、助手席のドアを開けると振り返った。

そして、まだ、階段の1段上にいた、ヘリの方に手を差し伸べた。

それは、まるで。
どこかの国の王子が、大切な姫に対してするエスコートに見えた。

ヘリが、幼い頃に読んで憧れた絵本の中のシーンのように。

ずっと、夢見ていた光景だった。


「行こう」

イヌが言った。

君が愛する人々が。
君を愛する人々が。

この先の未来で、君が幸せにする人が。

「みんな、君を待っている」


「うん!」

ヘリは、力強く頷くとイヌの手を取った。
そして、階段を降りると車の中に入った。

外からドアを閉めたイヌが、運転席にまわりこんだ。

ヘリは、イヌが開けてくれた車窓から、
検察庁の建物の方に、視線を向けた。

今まで、ヘリが、ここで経験したこと。
そして、様々な思い出と共に、出会った人々の顔が走馬灯のように浮かんだ。

…今まで、ありがとう。

そして。
さようなら。

―――検事の私。


ヘリは、心の中で、今まで勤めた職場と
過去の自分に別れを告げた。

ただ、別れても消えるわけでは無い。

それは、ヘリの中で、積み上げられていった人生と記憶。
そして、見えなくとも、確かに存在する大切な財産だった。

これからは、また新しい人生を歩いていく。
それは、誰にも指示されていない、ヘリ自身が決めた道だった。

道の先の未来に何が待っているのか、今は見えなくとも。
ヘリは、一人では無いことを知っていた。

両親。子どもたち。
友人、恩師、職場の仲間だった人たち。

助けてくれる人。
協力してくれる人。
見守ってくれる人。

そして、最愛の夫。

ヘリのことを心から応援してくれる人たちが、そばにいる。


ヘリは、自分の胸に手をあてた。

…それまで、私が築いてきた人達との絆が、確かに、ここにある。

だから、今まで歩いてきた道は、間違っていない。

これからも、自信をもって、私の道を歩いていくのよ。

マ・ヘリ。

―――気高いプリンセスのように、胸をはって。


ヘリは、車の発進を待ってくれているイヌの方を見やった。

『君の準備が出来たら声をかけてくれ』

そんな顔で見守っているイヌに、ヘリは笑顔を見せて言った。


「行きましょう」


イヌはヘリに微笑み返した後、
前を向き、アクセルを踏んだ。

そして。

ヘリとイヌを乗せた車は、検察庁を後にし、
二人の帰りを待つ人達の元へと走っていった。



―――――― それから、数年後。



ソウル市内に、オリジナルブランドの子供服の店がオープンした。

店の看板には、『王冠』と『靴』がデザインされたロゴマークがついている。

王冠と靴が何を意味するのか?

ショップのオーナー兼デザイナーの女性を知る者は、迷わず「幸運と愛」と答えることだろう。

店の名は、『プリティ・プリンセス』。

デザイナー、マ・ヘリが、立ち上げた第一号店だった。



(完)






【あとがき】

「検事プリンセス」みつばの二次小説シリーズ。
最終回、完結です。

すでにブログを始めた2011年には決まっていたラストストーリー。
そして、10年間、「蔵」で眠っていた、イヌ×ヘリの物語をブログで更新しました。

最終回は、意外な展開になります。と、いつか予告していた通り。

ヘリが検事を辞め、服飾デザイナーになるという二次的妄想話です。

すでにラストが決まっていたので、二次小説シリーズの中でも、その伏線をいくつか入れていました。

二次小説の世界でも、ちょうど10年後。

検事を辞める、37歳(36歳?)のヘリに。

『君が、どんな道を選んでも。何者になろうとも。君は僕のプリンセスだ』

そう、イヌが、ヘリに、変わらない気持ちを伝えるシーンを、「検事プリンセス」ドラマファンの読者さまに見届けて欲しかったみつばです。

詳しいあとがきと補助説明。最終回とは、別にある、イヌ×ヘリの物語「最終話」のことは、また別の記事で書かせていただきます。

まだ多くのプロットが未完、未公開で、残されてはいますが。
「検事プリンセス」みつばの二次小説シリーズ。最後の話を更新しました。

みつばの二次小説シリーズの行方を見守ってくださっていた読者さま。
ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!!!


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「告白」です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。

このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。

※この二次小説は、時系列では、「高く飛ぶ君へ」の後。二次小説第2シーズン「最高の日(未公開二次小説」の後、「Halloween Night」 「聖夜の誓い」の前の話になります。


(これまでのあらすじ)

春川地検に異動になったヘリは、恋人、イヌと同じマンションを出て、春川で一人暮らしをしていた。
一方、勤めていた弁護士事務所を辞め、独立し、新たな事務所を立ち上げたイヌ。
二人が、遠距離恋愛になって数か月後。
ヘリの父親、マ・サンテの病が発覚するも、手術は成功し順調に回復する。




告白



―――マ・サンテ。

ヘリは、入口のプレートにそう書かれた部屋の扉をノックした。

「はい」

中からしっかりとした声が返ってきた。

「パパ」

サンテは、入ってきたヘリを見ると、
寝台の上で半身を起こし、読んでいた新聞をたたんだ。

「ヘリ。どうした?
明後日には予定通り退院だ。仕事が忙しいだろうに、わざわざ見舞いに来なくても良かったんだぞ」

そう言いながらも、サンテは嬉しそうに口を綻ばせていた。

「昨夜からソウルに来ていたの。
それで、これから春川に戻るから、その前にパパの顔を見ておきたくて」

「そうか」

頷いたサンテには分かっていた。

ヘリは、恋人の誕生日を祝う為に、昨日、春川からソウルに来ていた。
そして、昨夜は、そのまま、その恋人の部屋に泊まったのだろう・・・。

そこまで想像したサンテは、おもむろに咳払いし、
ヘリに、ベッド脇に置かれていた椅子をすすめた。

「パパは退院したら、しばらく家で療養するでしょ?
私も次の週末には実家に帰るから、パパの快気祝いをしましょう。
ママにその事を伝えたら、はりきっていたわ」

「ああ、エジャのはりきりは、私の祝いというより、娘が帰ってくるからだろう」

「パパ、どうして、そんな拗ねた口ぶりで言うの?」

「拗ねていない」

「ママがどれだけ、パパのことで心配していたと思うの?
パパを心配させないように、気丈に振舞っていたけど、本当はとっても動揺していたわ。『パパに万一のことがあったら、私は生きていけない』とまで言っていたのよ」

「本当か?」

「ええ。言っていたのは本当よ。ケーキを5個も食べながらね」

「ケーキを5個……」

「知ってるでしょ?ママは、ストレスがたまると、甘い物を沢山食べてしまう人だって。きっと、とても不安だったのよ」

「うん。…まぁ。そうだな」

サンテは、気まずげにヘリから目をそらせると、病室を見回した。

「しかし。何もこんな豪華な個室にしなくても良かったのに。贅沢すぎて勿体ない」

「今まで頑張ってきたパパに、ゆっくり休んで欲しいって、ママは考えたのよ。私もそう思うもの。それにしても……」

ヘリが、面白そうにクスっと笑った。

「昔のパパは、人間ドッグの検査入院の時でさえ、一番上等な個室じゃないと嫌だと言い張っていたのに。今は、贅沢過ぎて勿体ないだなんて」

「人は、環境に応じて変化できると、前にも話しただろう」

「そうね。私もそうよ」

クスクスと笑いながらヘリが言った。

「今住んでいるマンションの部屋。以前の私だったら、狭くて嫌とか言っていたと思うの。でも、すっごく快適だし、ちょうどいいわ」

「そうか。ヘリが元気に過ごしているなら、いいんだ。
だが、何か困ったことがあるなら、いつでも相談するんだぞ。
生活費が足りないと感じたら、遠慮なく言いなさい。
贅沢な物でなくとも、必要最低限な物は買わないとな」

「はい。あの…パパ。話したいことがあるの」

「どうした?」

急に声色の変わったヘリの様子に、サンテが背筋を伸ばした。

笑みをおさめ、顔も真剣になったヘリに、
サンテは、気を引き締め、息をひそめた。

「あのね」

ヘリが。コクリと息をのんで言った。


「私、イヌと結婚するわ」


一瞬、病室の中が静かになった。

だが、すぐに、サンテが「そうか」と答えた。

短い言葉だったが、了承したようなサンテにヘリが目を瞬きした。

「そうかって?どういう意味、パパ?」

「わかった、ということだ」

「わかった、というのは、私たちの結婚を許すという意味?」

「そうだ」

あっさりと答えたサンテに、ヘリは、しばし言葉を失った。

「どうした?ヘリ。なぜ、そんな顔をする」

「だって。今のは、パパの本心なのかな?って思っちゃって」

「駄目だと言えばよかったか?」

「ううん」

ヘリは、慌てて首を横に振ると、
まだ信じられないという顔で、サンテをまじまじと見つめた。

サンテは軽い溜息をつくと、「ソ・イヌから、プロポーズされたんだな?」と聞いた。

「ええ」

ヘリは、コクリと頷いた。

「もしかして。パパは、私がプロポーズされたこと、知っていたの?」

サンテの落ち着いた雰囲気から、ヘリは直感で悟った。

「ああ。数日前に彼が来て、お前にプロポーズすると言った」

「ええっ!?」

驚いたヘリに、サンテは苦笑を浮かべた。

「聞いていないか?」

「彼がパパのところに来たことも、
そんな話をしたことも聞いていないわ」

「彼は策士だからな」

サンテが面白くなさそうに言った。

「本丸より先に外堀を埋めておいたのだろう」

「彼は、パパに何と話したの?」

「『娘さんにプロポーズします』と。
あれは、承諾をもらいに来たんじゃない。宣言だ」

むすっと、眉をしかめながら話していたが、
サンテが内心では怒っていないことはヘリにも分かっていた。

「彼、パパのことを、ずっと気遣っていたわ。
病気が分かった時も。手術が決まった時も。
手術が成功したと話した時も。だから、本心からお見舞いに来たのよ」

「お前の父親だからな」

「うん……」

そこで会話がとまった。

サンテが、チラリと、サイドテーブルの上に置かれた花を見やった。

黄色のフリージアの花。

イヌが来た時に持って来た花だった。

フリージアを見つめているうちに、サンテの中で、ある決心が固まった。

「ヘリ、お前に、言っておきたいことがある」

「何?」

キョトンとなったヘリに、サンテは、「2年前にした、ソ・イヌとの約束のことだ」と続けた。

「16年前の事件の真相をソ・イヌに尋ねられていた時。
私は、ソ・イヌに約束させた。
過去の事件の事を話すかわりに、ヘリと永遠に別れろ、2度と会うなと。
それも、彼の父の名にかけて誓わせた」

「!」

「ずっとお前に、隠していた」


「ソ・イヌから何も聞いてないようだな」

ヘリが黙って頷いた。

サンテは、深い吐息をつくと話を続けた。

「あの時、私は誤解していた。ソ・イヌのことを。
ソ・イヌが、過去の事件の復讐のために、お前を利用しているのだと思っていた。
仮に本気の想いがそこにあったとしても、こんな境遇の二人が一緒になることは難しいと思った。ヘリ、私は、お前が傷つくところを見たくなかったんだ」

「パパ……」

何か言おうとしたヘリを手で制して、サンテが「最後まで聞いて欲しい」と言った。

「だから、ソ・イヌが、あの後、お前から離れたのは、私との約束のためだ。1年もの間、思い合っているお前たち二人を引き裂いてしまった。私があんな約束さえしなければ、お前たち二人は、苦しい思いをすることは無く、もっと早く、こうなっていただろう」

サンテは、手術痕の痛みではなく、
心の呵責に苛まれているかのように、胸に手をあてていた。

「すまない」

サンテが、うなだれるように、ヘリに頭を下げた。

過去の事件が解決し、落ち着いた後。

サンテの会社が倒産し、ヘリたち家族が住んでいた家を出なければならなくなった時も。
サンテが心苦しそうに、小さく呟いていたが、今は、はっきりと口にしていた。


「パパ、もういいの」

ヘリの声にサンテが頭を上げた。

ヘリは、落ち着いた表情でサンテを見つめていた。

「パパと彼で、そんな話をしていたことは知らなかった。
彼は、約束を絶対守る人だから。
でも、そんな彼が帰国した後、私に突然会いに来たのは、パパとの間で、その約束が無くなったからなんでしょう?」

「ああ」

「たぶん、イヌは、その事で苦しんだと思う。それは想像できるの。
そして、パパも。パパも、イヌと約束したことを後悔していたんだって思う。違う?」

「違くはない。後悔した。彼と別れたお前の姿をそばで見ていたからな。
しかし、前向きなお前のことだ。いつか、忘れると考えていた。だが、違った。
その事に、真に気づいたのは、エジャの言葉でだったがな。私は、ただ、お前に幸せになって欲しかったんだ」

「パパ、私、とても幸せよ」

ヘリが言った。

「自分を一番に考えてくれる両親に愛されて。
一番好きになった人にプロポーズされた。
そして、パパの体も無事だった。今、最高に幸せな気分」

「そうか」

サンテは心からの言葉をつぶやくと、
潤んだ目を隠すように、眼鏡を手で押し上げた。

ヘリの純粋な笑顔に、サンテの心を重くしめていたものが消えた。

以前、『ヘリには言うな』と話したサンテとの約束を、イヌは守っていた。
そのことも知れた。

「ヘリ。良かったな」

…ソ・イヌにプロポーズされて。

一番好きな人のお嫁さんになること。
それが、お前の一番の夢だったから。


「うん」

ヘリは、サンテに輝くような笑顔を見せた。

それは、まぎれもなく、娘のヘリだったが、
一人の成熟した大人の女性が見せる顔だった。


サンテは、ヘリが病室を去った後、
ぼんやりと窓辺を見ながら、イヌが病室を訪ねた時のことを思い出した。


黄色のフリージアを活けた花瓶を手に病室を訪れたイヌは、
「おかげん、いかがですか?」と固い表情でサンテに尋ねていた。

「悪くは無い」

…だが、病み上がりに、娘の交際相手に会うのは正直、心臓に悪い。

サンテは、扉の前で佇んでいるイヌを手招きしながらも、心の中で思った。

サンテの比喩表現は、イヌが『ヘリにプロポーズします』と告げた時、本当になりかけた。

もし、自分が元気な状態だったら、勢いで一発殴っていたかもしれない。
そう思ったサンテだったが、きっと、健康な状態でも、殴りまではしなかっただろう。

そんなサンテの動揺を無視して、イヌは、淡々と話を続けた。

「もし、ヘリが承諾してくれたら、結婚させてください」

…この男は、いつも、どうして、こう不意打ちなのだろう。

サンテは、心の中で舌打ちした。

しかし、手術後、病ごと、毒気も抜かれていたのか。

不思議と腹が立たない自分にも呆れながら、サンテは「娘の気持ちを優先する」と答えた。

「ヘリがいいと言うなら」

「はい」

…神妙な顔で頷いているが、この男は、高い確率でヘリの答えがイエスだと分かっているのだろう。
そうでなければ、娘より先に親に承諾を得るような真似はするまい。

・・・いや。彼は、ソ・イヌだ。
一番やっかいな男親を篭絡させて、事を運びやすくしにきたのか。

サンテは、油断ならない娘の恋人の顔をジロジロと眺めた。

「君の体調は大丈夫なのか?この前、倒れたらしいじゃないか」

おもむろに尋ねたサンテに、今度はイヌの方が、ふいをつかれたようだった。

「平気です。今は何ともありません」

「独立したばかりで仕事が忙しいのだろう。
それで、結婚して生活していけるのか?」

娘の気持ちを優先すると言っておきながら、やはり、結婚後のことを心配したサンテだった。

「健康も収入も問題ありません。
もし、彼女が今の仕事を辞めても、養っていく自信はあります」

ジッと挑むようなイヌの目に、サンテも負けじと見つめ返した。

「ならいい。だが、もし、君の言葉に偽りがあると分かったとき。
ヘリを悲しませるような真似をしたとき。私は、君を許さないからな」

「はい」

「それと…」

サンテが声を落とした。

「君に、言っておきたいことがある」

「なんでしょう?」

「以前、私が、君に言ったことだ。
ドングンは君のような息子がもてて、幸せだと。
あれは、本心だ。私は心からそう思っている」

「……」

黙ったまま見つめるイヌに、サンテは続けた。

「あの時、私は、君のことを父親に似ていないとも言った。
だが、間違っていた。今の君は、私が知っているドングンにそっくりだ。
彼は、他者を思いやる、とても優しい男だった。
私に息子がいたら、君のように育てたかった」

まるで、遺言のような台詞。

イヌは、サンテの告白に、そっと目を伏せた。

そして、ゆっくりと瞼を開けると、

「ありがとうございます」と言った。

「お大事に」

そう言い残し、ソ・イヌは、来た時と同じように、静かに病室を去っていった。


―――あの後。

ソ・イヌはヘリにプロポーズし、ヘリもそれを受けたのだろう。

サンテは、病室の窓の景色から、花瓶にいけられたフリージアの花に目を落とした。

20年前。

会社を大きくすることに邁進していたサンテが体調を崩し、寝込んだ時があった。

その時、部下だったイヌの父親、ソ・ドングンも、フリージアの花を持ってサンテの見舞いに訪れていた。

『会社の雑務は私に任せて、あなたは、ゆっくり休んでください』

ソ・ドングンは、にっこりとした笑顔をサンテに向けて言った。


―――あんなに、心根のいい男に、私は何という仕打ちをしたのだろう。

…保身のために、己がおかした罪を着せ、君と君の家族を苦しめた。許してくれ。ドングン。

サンテは、過去を回顧しながら、辛そうに目を細めた。
そして、フリージアに囁いた。

「私は、まだしばらく生きて、結婚する君の息子と私の娘を見守ることにする。
いつか、君に会えることがあったら謝罪したい。
そして、子らの話を君としたい」

『そうですね。課長。
私たちの愛する息子と娘の幸せな未来を、一緒に見守っていきましょう』


まるで、優しく微笑むソ・ドングンのように。

フリージアの花が、サンテの前で小さく揺れていた。


(終わり)


(「告白」 最終保存日 2014年7月 2022年6月、加筆修正版)



【あとがきとお知らせ】

この記事で、書いていた「告白」というタイトルの二次小説です。

10年前にすでに予告していながら、アップできずにいたもの。

イヌがヘリにプロポーズして、婚約する。
その報告をイヌが入院していたサンテにする、という話です。

これで、10年前、「最終回まで、二次小説は、未来の話までプロットはできています」と書いていた証明がようやくできました。
未公開の二次小説が、まだ沢山ありますけど、過去の作品にいれた大きめの伏線を拾って、話は繋がったと思います。

「告白」というタイトルだけど、甘い話ではないですよ~。って説明していた意味。
「告白」したのは、ヘリの父サンテだから(苦笑)

ドラマ中、サンテがイヌに約束した話を、イヌは、ヘリと恋人になってからもしていないと思う。
だから、二次小説「聖夜の祈り」でも、イヌは、ヘリに言わなかった。
イヌは、サンテと約束したことを激しく後悔していましたが、サンテもそうだったのかもと。
そして、自分が約束させなければ、二人はもっと早く結ばれたのでは?と。

でも、二人には時間と距離が必要だったように感じてしまいます。
あのまま一緒にいられても、辛いだけだったかも。
1年離れても、やっぱり想いあっていると分かるラストシーンが、素敵なドラマでした。

次の「検プリ」記事では、いよいよ、二次小説最終回の話を蔵出し予定です。
時間が飛び飛びになっていますが、シーズン3。(ヘリとイヌは夫婦)のラストストーリー。

未公開の二次小説の話は、あらすじで補足書きします。

「検事プリンセス」が好きだった方。

もし、ブログにいらしていたら、10年前から予告していた、ドラマ最終回からの10年後。
みつばの二次的妄想世界の最後の物語を、どうか見届けてください。

ブログへのご訪問、ありがとうございました。

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「鏡の女」です。

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※この二次小説は、時間軸では、「温泉へいこう」後あたりのお話です。




鏡の女




「動くな」

イヌに拳銃を向けた女が言った。


それは、イヌが、マンションの自室でシャワーを浴びた後。
夜風に涼もうとテラスに出た矢先のことだった。

手すりの近くにいた女に、イヌは驚きもせず、「びっくりさせる為に、テラスに潜んでいたのか?」とノンビリと言った。

イヌは、時々突拍子もないことを思いつく恋人、マ・ヘリの悪戯だと思っていた。

だが、女は、ヘリでは無かった。

暗がりの中で、そっくりな容姿に、一瞬見誤ったが、雰囲気が全く違う。

ハッとなったイヌが気づいた時には、女に鋭い眼光と銃口を向けられていた。

ショートヘアのやつれた顔。
薄汚れたシャツと破けたジーンズから出ている手足には、傷が沢山ついている。

かろうじて立っている様子だったが、女の目はギラギラと生気に満ちていた。

「声を発しても、動いても撃つ」

女の言葉に、イヌは、両手を上げてみせた。

「こんな所で撃てば、サプレッサーがついていても、
周囲に気づかれるが、それでもいいのか?」

冷静な態度で言ったイヌに、女は険しく目を細めた。

「…そのまま、後ろに下がって、部屋に入れ」

…このなりと身のこなし。彼女は、一般人じゃない。だが、公的機関に属している者にも見えない。持っているのは、小型の自動銃。本来なら殺傷能力は低いものだが、改造している可能性があるな。

イヌは女と、持っている拳銃を観察して、そう考えた。

手をあげたまま、女の言う通りに部屋に入ったイヌの後を、女が拳銃を向けたままついてきた。

「君の要求はなんだ?金か?いや、その前に治療か?」

イヌが冷静に尋ねた。

「…救急箱をよこせ。それと電気コードを」

不愛想な調子で言った女の声も、ヘリに似ていた。

イヌの四肢を縛り、自由を奪った後、女はこの部屋の中で必要なことをするのだろう。

女の行動が読めていたイヌだったが、黙って言うとおりにした。

救急箱を手に戻ってきたイヌは、女に渡さず、ソファの方に来るようにジェスチャーした。

「手当してやるから。そこに座れ」

「お前が命令するな。立場を分かってるのか?」

女がイライラした口調で言った。

「妙な真似をしてみろ。下の階にいる、私と顔がそっくりな女がとばっちりを受けることになる」

女の言葉に、イヌの周囲の空気が一変した。

「彼女に何をした?」

「まだ、何も。ただ、さっき、下の階の部屋の中に爆弾を仕掛けておいた。何かあれば、すぐに起爆装置を押す」

女は、起爆装置はここにあると言わんばかりに、羽織っていたジャンバーの胸元に手を置いた。

「下の階の女は、お前の大切な女だろう。彼女を守りたいなら、言うとおりにしろ」

「…わかった。だが、脅すのなら、縛る必要はないだろう」

「ふん。私を見くびるな。お前は体術が使えそうだ。隙を見て、私を一瞬、抑えられるくらいにはな。その電機コードを前に置いて、後ろを向け」

女は、イヌの両手をコードで後ろで縛り上げると、救急箱から取り出した物で、傷の応急手当を始めた。

「どこの機関の者だ?」

「黙れ。余計な口をきくな。クッションで銃声を消すことも出来るんだぞ」

女がイヌを睨みつけた時、銃声以外の音が女の方から聞こえた。

あまりにも大きな腹の音に、女は、ハッとなって赤面し、イヌは、苦笑を浮かべた。

「空腹なんだな。今何か作ってやるから、縛りを解いてくれ」

「ふざけるな。…インスタント食品がどこかにあるだろう。その場所を教えろ」

イヌは、顎でキッチン棚をさすと、女は、イヌを睨みながら歩いていった。
そして、キッチン棚と冷蔵庫を物色したあと、中から鍋と袋麺、卵と葱を出し、調理を始めた。

「キムチは、下の棚にある。・・・おいおい。危ない手つきだな。拳銃の扱いは慣れていても、包丁の使い方が分かってないんじゃないか?」

座っていたソファから声をかけたイヌに、雑に葱を切っていた女は「うるさい」と言って睨んだ。

「刃物の使い方にも慣れている。葱のようになりなくなかったら口を閉じていろ」

「物騒だな」

イヌが大げさに溜息をついて見せた。

「彼女と顔が似ているから、なんだか、見ていられなくてね」

「『あの女』は、お前の恋人か?」

『あの女』と言ったことで、イヌは、女がヘリの素性を知らないことを悟った。

…この女は、ヘリが検事だということを知らない。
知っていれば、余計に危ない橋を渡ることを避けたはず。

彼女が、この部屋に来たのは偶然。
それとも、冷静な判断ができないほど追い詰められているか…。

「なるほど。君が、ここに来た目的は、僕や彼女じゃない」

「よく動く口だな」

女は呆れたように言った。

いつでも放てる拳銃を向けられ、脅されているのに、怯えた様子を見せないイヌに、女は警戒心をあらわにしながらも、感心しているようだった。

「お前は、何者だ?」

女が油断の無い顔でイヌに尋ねた。

「一市民だよ」

飄々と答えたイヌに、女は眉をしかめた。

「…調子が狂う」

ポツリと呟いた後、女は、煮込まれたラーメンをキッチンの鍋から、直接、立ったまま食べ始めた。

「安心しろ。命はとらない。お前も、お前の恋人もな。」

よほど、お腹がすいていたのか、ラーメンを口にかけこむように食べながら女は言った。

女は、鍋の中のラーメンの汁もすべて飲み干した。
さらに、冷蔵庫の中にあったペットボトルの水も一気に飲み干すと、ようやく人心地ついた顔になった。

それから、女は、納戸の中に入り、非常避難用のロープを見つけてくると、イヌの体を柱に縛り付けた。

「少し眠ったら、ここをすぐに去る」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

イヌがのんびりと言った。

「明日の午後は、彼女とデートの約束をしているんでね」

「デートの約束が守れるかどうかは、今夜のお前の態度しだいだ。
私が仮眠をとる間、大人しくしていれば、明朝には解放する」

「その言葉、約束しろ。彼女には、絶対に手は出さないと」

「ああ。約束する」

女の約束が信用できるのか分からなかったが、イヌは、なぜか本当だと感じた。

女の雰囲気と身のこなしは常人のものでは無かった。
おそらく、相当、戦闘訓練を積んだ者だろう。
ならば、拳銃で無くとも、イヌの命を奪うことは出来ていた。

一時的な避難所を求めていても、部屋の住人のイヌを生かしておく理由は、逃走の為の人質というわけでは無いようだった。


ベッドの方に向かって歩き出した女にイヌは「ベッドは駄目だ」と声をかけた。

「なんだと?」

「そこで寝ればいい」

イヌはソファの方に目を向けた。

女は一瞬唖然とした顔でソファを見やった。

「女性にソファで寝ろっていうのか?」

こういう場合、普通男は女にベッドを貸すものだろう?
…と言うような女の視線にもイヌは素知らぬ顔をした。

「こんな居直り強盗のような仕打ちをする『奴』が、寝る時だけ女性扱いされたいのか?だが、確かに君は女性に見える。だから、ベッドを貸すのはお断りだ。僕の彼女は、例え友人でも女性が部屋のベッドで寝るのを嫌がるんだ。悪いね」

全く悪いと思っていないようなイヌの口ぶりに女はますます眉をひそめた。

「黙っていれば分からないだろう」

尚も食い下がる女にイヌが顎で窓の方を指した。

「ソファが嫌ならテラスで寝るといい。寝袋を貸すよ」

「…お前の彼女は、よっぽど心の広い女なんだな」

女は唖然を通り越して憮然となって言った。

「こんな冷たい男のどこが好きなんだ?」

独り言にしてはあまりにも大きな声で聞こえよがしに言う女に
イヌが黙ったまま冷笑を浮かべた。

「君は、その答えを本気で知りたいと思っていないはずだ」

「……」

女は、拳銃の中身が麻酔弾なら今すぐ撃ってやるのに。という表情で、イヌを見やった後、言うとおりに、ソファの上に横たわった。

ほどなくして。柱に縛られているイヌの耳に女の寝息が届いた。

…顔も似ているが、年齢もヘリと変わらないくらいだろう。
彼女が何者か分からないが、危険な世界にいる人間のようだ。
つくづく、今夜、この部屋にヘリがいなくて良かった。

イヌは、遠目から女の寝姿を見ながら思った。

そうして、イヌは吐息をつくと、自らも就寝の為に目を閉じた。


「…おい起きろ」

イヌは、女の声で目をあけた。

部屋の窓の外は、まだ薄暗かったが、夜明け前の時刻なのだろう。
イヌの目の前に、拳銃をむけた女が立っていた。

休息をとったせいか、女はイヌが最初に見た時より顔色が良くなっていた。

「このマンションを出る。外に出るまで一緒に来てもらおう」

「勝手に一人で出ればいい」

「この部屋を出たとたん、お前が通報するかもしれない。
それに、廊下に防犯カメラがある。お前と外に出れば、都合がいい」

「どこまで一緒に行けばいい?」

「大通りで、タクシーを拾うまでだ。それまでに妙な真似をしたら分かってるな?下の階の恋人の部屋を吹き飛ばす。通報したところで、いずれ『無かったこと』になるが、少しの間でも騒ぎになるのは面倒だ。私が消えた後は好きにしろ」

「…わかった」

女は、拳銃を向けながらイヌの縛りを解いた。
それから、すぐに、キッチンの方に歩いていくイヌに、女は「どこに行く?」と再び銃口を向けた。

イヌは、棚から非常食のビスケットバー数本と、冷蔵庫にあったジュースを1本取り出し、袋に入れて女に差し出した。

「朝食がわりに持っていくといい」

「……」

女は、無言でイヌから袋を受け取ると、『部屋を出ろ』という風に目で合図した。

イヌは、女と共に歩き出すと、マンションの部屋を出た。

人が起床するには早い時間。

だが、イヌと女は、マンションのエントランス近くで、ペットの散歩に出るような老婦人と
行き会った。

それも、イヌとヘリが顔見知りの人物だった。

「あら?ヘリさん。髪型かえたの?」

ヘリを知っている老婦人が不思議そうに女を見つめた。

「ええ。似会います?」

女はあわせたようにそう聞いた。

「ええ、似会うわよ。美人ってどんな髪型にしても似会うわよね」

老婦人は、にこやかな愛想笑いで答えると、
イヌに向かって、「いつも仲がよくていいわね」と言って去って言った。

…ばれてなかったみたいだな。

まだ周囲が十分に明るくなっていなかったことも幸いだった。
顔も体型もヘリにそっくりな女はイヌといたことで完全にヘリに見えたようだった。

大通りに出るマンション前の小路を歩いている時、イヌが「これからどうするんだ?」と尋ねた。

「その答えを、本気で知りたくて尋ねているわけじゃないだろう?」

女の言葉に、イヌがおどけたように肩をすくめて見せると、女は軽い吐息をついた。

「人に会いにいく」

女が言った。

「…恋人ではないがな」

危険をおかしてまで、会いにいこうとする相手だ。
恋人でなくとも特別に想う者のことなのだろう、とイヌは察した。

「あいにく、外見も中身も、お前に似ても似つかない男だ」

女の言葉にイヌが笑った。

「君も、外見は彼女にそっくりだが、中身は全く違う」

「しかし、私が恋人に似ていたから手加減していたのだろう?
お前は、その気になれば、私の拳銃を取り上げ、抑えつけることも出来た。だが、しなかった」

女が鋭く言った。

「恋人の部屋に爆弾を仕掛けているからという理由でも、私から起爆装置も奪えたはずだ」

「かもな。もし、起爆装置というものを本当に君が持っていたのならね。
だけど、そんなものは無いんだろう?君は、部屋に爆弾なんて仕掛けていないのだから」

「……」

イヌの言葉に女が無言でイヌを見上げた。

…なぜ、分かる?という目をしている女にイヌは話を続けた。

「下の階の部屋に彼女は住んでいない。今は、まったくの空き家状態だ。もし爆弾を本当に仕掛けたのなら、誰も住んでいない事に気づいたはずだ。君は、以前、あの部屋にいる時のヘリと、一緒にいる僕を見かけたことがあったんだろう。そして、昨夜、何等かの理由で、この地に逃げ込んだ君は、その事を思い出し、僕を利用しようとした」

「…それだけ、最初から見抜いていて。なぜ、大人しく私に協力した?」

「さあな。君が、彼女にそっくりだったからかもしれない」

とぼけたように言ったイヌに女は呆れたように苦笑した。

その顔は、ヘリがイヌに苦笑を浮かべる時にそっくりだった。

「おまえみたいな男と付き合っている私に似た女に会って話をしてみたかった。だが、もう時間が無い」

ちょうど、大通りに出たイヌと女の前に『空車』のタクシーが走ってきた。

女は手をあげると、止まったタクシーの中に滑り込んだ。

そして、外に立っているイヌに、「迷惑をかけた。彼女を大事にな」と淡々と言った。

「ああ」

タクシーのドアが閉まると、女は、ふいっと目をそらせ、前を向いた。
そして、タクシーが動き、去っていくまで、イヌの方を見ることは無かった。

イヌは、冷たい女の横顔を見送った後、踵を返し、マンションの自室に戻っていった。


―――その日の夕方。

イヌは、ヘリと外で待ち合わせ、レストランで夕食を食べた後、一緒にマンションに帰って来ていた。

ヘリは、今は、職場の春川地検の近くにマンションを借りて住んでいた。

そして、休みの日は、ヘリかイヌ、どちらかが、高速道路を車で走って会いにいくという遠距離恋愛になっていた。

マンションのエントランスに、二人が入ろうとした時、イヌが朝会った、老婦人とまた遭遇した。

飼い犬を抱いていた老婦人は、首をかしげて、挨拶したヘリの顔を見つめた。

「ヘリさん、それウィッグ? 髪、もっと短かったわよね?」

住人の言葉にヘリがきょとんとした顔をした。

「えーっと。まとめ髪していた時の事でしょうか?」

「ああ、そうだったの」

住人は、納得したように頷いた。

ヘリが不思議そうにイヌを見やった。

「あの方、視力が落ちたのかしら?」

イヌが、黙って微笑んだ。

部屋に入って。

ソファに座り、イヌのいれたコーヒーを飲んだヘリが一息ついた頃、
イヌが、ヘリに女の話を切りだした。

とくに秘密にしておくことでも無いと思ったからだった。

それに、ヘリの反応も見たかった。

『銃でおどされた?そんな危ない事があったの?』と驚き、怯えるか、
『どうして、捕まえておかなかったの。そんな怪しい人』と、驚き、叱咤するか。

…かくして、話終えた後の、ヘリの反応は。


聞き終えて、深い溜息を1つついた後。

「そんなにそっくりな人、私も会いたかったな~」だった。

のほほんと、本気で、会えなかった事をがっかりしているようなヘリ。

ある意味、予測外で、ある意味、予想通りのヘリの言葉にイヌが笑った。

「似ていたのは顔と体型だけだよ」

「ね?美人だった?」

「だから、君とそっくりだったって」

ヘリが、ベッドの方をチラリと見た。

「今朝まで、私のそっくりさんが、そこに寝てたのね」

そう言うヘリにイヌが首をふった。

「彼女はそこでは寝ていない。ソファで寝たよ」

「えっ?どうして?」

「僕がソファで寝ろって言ったから」

「女性にソファで寝ろって言ったの?」

しかも怪我をして、疲労している女性に。

「ベッドに女性を寝かせるのは君が嫌がると思ったから。寝かせても良かったのか?」

うーん・・・ヘリは真面目に考え込んだ。

「他の女性だったら嫌だけど…自分とそっくりの女性だったら許せるような気がしないでもないかもしれない」

「別人だ」

イヌが素っ気なく言った。

「君は、もし、僕とそっくりの男が君の前に現れたらどうする?」

そう問うイヌに、ヘリは、「以前、会ったことあるわ」と答えた。

「そうなのか?いつ?」

多少なりとも驚いたイヌに、ヘリは「あなたがアメリカに行ってた時期」と答えた。

「街で偶然見かけたから、とっさに声をかけちゃった。
あなたと、顔と体型がそっくりな人だったけど、口調や雰囲気は全然違った、赤の他人だったわ。じつは、あなたに、生き別れの双子がいたって新事実があれば別だけど」

「無いな」

「でしょ。だから、別にどうもしないわ。だって似てるだけってこと。私は、あなたを顔で好きになったわけじゃないもの」

女の言っていた「あなたのどこが好きかわらかない」という言葉が蘇ったイヌがフッと笑った。

「じゃあ、どこが好きなんだ?」

「あれ?そう言われてみると、一体どこなのか分からないわ」

視線を泳がせ、とぼけるヘリにイヌが苦笑しながら近づくと、ヘリの横に座った。

「素直に白状しろよ。全部好きなんだろ?」

「んーっ…自信過剰な所はちょっとNGね」

「それ以外は?」

「それ以外は……」

じょじょに体も顔も距離をつめていくイヌにヘリがクスクスと笑った。

「そういえば、イヌは、その女性と一晩一緒に過ごしてどうだったの?
別人だけど、私に顔が似ているってところで、惹かれたりしなかった?」

「たしかに。僕の方は、正直、君の顔が好きなところがあるからね」

「本気で言ってる?そっくりさんに惹かれちゃった?」

焦ったように聞くヘリに、イヌは微笑を浮かべた。

「残念だけど。彼女は、僕とは全然違うタイプと顔の男が好みらしい」

「その人と、そんな話までしたの?」

ヘリは、興味深々で目を輝かせると、イヌの顔を覗き込み、甘えたように肩に寄り掛かった。

「ねえ。もっと詳しく聞かせて。顔が似ている女性がどういう人だったのか知りたいわ」

「話すことは、もう無いよ」

イヌは吐息をついた。

…まるで、夢だったと錯覚するほど。
出会いも別れも一瞬だった。

ヘリと顔は似ていても、心は動かされなかった女。
名前も素性も知らない。
おそらく、すぐに忘れてしまうことだろう。

ただ、女は、あの後、会いに行くと言っていた男に、無事、会えたのだろうか?
ふと、それだけが気になった。

遠くにいる想い人に。
何をしてでも、すぐにでも会いたいという気持ち。

あの時、イヌは、女と共感しあった気がした。

―――例えるなら、鏡に映ったヘリと視線が合った時のような感覚。


「僕は、君の話が聞きたい。
ヘリ、今週は、どんなことがあった?」

イヌは、ヘリの肩を抱くと、優しく笑いかけた。

それは、鏡ではなく、本物の愛しい女に向けた笑顔だった。



(終わり)


(「鏡の女」 最終更新日、2012年7月18日。2022年5月加筆修正版)



【あとがき】


この二次小説中、リンクしている、ヘリの言っている話は、「Without you」(イヌのそっくりさんが出てくる話)

ヘリと似た女のことは、中の人(女優さん)が、他で演じられたドラマのキャラ(たぶん、当時放送していた韓国ドラマ「IRIS-アイリス-」)のイメージより。

「検事プリンセス」みつばの二次小説、第2シーズン(ドラマ後1年以上たった世界)。

二次創作設定で、ヘリは、ソウル地検から、春川地検に異動になり、住んでいたマンションも引っ越して、イヌと離れて暮らしている頃の話です。

(経緯は、シーズン1で更新している「追憶の香り」「高く飛ぶ君へ」)

これで、以前(10年前(?))更新していた「温泉へいこう」や「月が見ていた」などの話とようやく時間がつながっています。

来月、6月20日まで。あと、いくつ話が更新できるか分かりませんが、蔵で未公開になっていて、未完でも少し修正すればアップできそうなものは、更新していきます。

二次小説シリーズ、シーズン2(遠恋編)、シーズン3(夫婦編)は、ドラマ世界から時間がたっている続きで、オリジナル要素が増す二次創作物ですが、それでも、イヌ×ヘリ世界が好き。という方は、お読みください♪

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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「プリンセスは本日もお騒がせ」(後編)です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
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※この二次小説は「嘘つきは恋のはじまり」前あたりのお話です。




プリンセスは本日もお騒がせ(後編)




検察庁、刑事5部の会議室。

妙な空気が流れる中、皆は、チラチラと、座っているヘリの方に目をやった。


「マ検事、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです」

隣の席で、何げなく尋ねたチェ検事に対するヘリの答えに、皆が一斉に注目した。

ヘリは、うつむき加減で、沈んだ様子を見せていた。

「私、ありえないミスをしてしまったので、反省しています」

「それは……。ありえないミスでも、それは、マ検事だけのミスだけじゃないよ」

慌てて、横から口だしするイ検事に、ヘリは首を振った。

「いいえ。私がミスしたのです。もっと慎重に事を進めるべきでした」

「いや。…『あの時』って、理性を失くすのが普通だろ。
冷静になる方が難しい。そんなミスを犯すのはよくあることだ」

「先輩。よくあることで済ませられませんよ。人生がかかっているんですから」

「ああ。うん。そうだな。命と人生がかかっている問題だな」

ヘリの話を、予想外の妊娠話だと思いこんでいるチェ検事とイ検事は、殊勝な顔をつくって、こくこくと頷いていた。

しかし。ヘリの落ち込んでいる原因は、当然、仕事のことだった。

ヘリは、ひさしぶりに、仕事でミスをしていた。

幸い、担当の被疑者の運命を左右するものでは無く、しかも、すぐにミスを訂正出来てはいた。

だが、気分屋な面がある、ナ部長の今日の虫の居所は悪かった。

会議が始まると同時に、ナ部長のヘリへの説教がはじまった。

「マ検事、もう新人じゃないんだ。
こんな初歩的なミスをするとは、信じられん。
最近は、庁内で君の評価が上がっているからと言って、慢心し、たるんでいるのじゃないか?」

「部長、そんなにマ検事を怒らないでください」

あわてて、チェ検事が言った。

「なに?」

「そんなに怒鳴りつけたら、お腹の子に…いえ、頭の毛に悪いですよ」

「余計なお世話だっ」

ナ部長が、チェ検事を一喝した。


「部長。マ検事も反省しているようですし、そのくらいで」

「なんだ?ユン検事まで、マ検事の肩をもつのか?」

「今回は、マ検事のミスをフォロー出来なかった我々にも責任があります」

イ検事が言った。

「そうです。部長。ヘリ先輩だけじゃなく、刑事5部の責任です。
ヘリ先輩。いえ、マ検事を責めるなら、私たちも叱ってください」

「…どうした?みんな。いつのまに、こんなに団結力がある部署になったんだ?刑事5部は」

首をかしげたナ部長を、チェ検事が「まぁまぁ」と言って、席に座らせた。

「コーヒーでも飲んで落ち着いてください」

「はぁ・・・」

ナ部長は、目の前の珈琲を口に含むと大きな溜息をついた。

そして、気を取り直したように、次の議題に話をうつした。


こうして、刑事5部のメンバーたちのとりなしで、部長のヘリへの説教は、過去最短で終わったのだった。

ヘリは、会議の後、かばってくれた仲間たちにお辞儀すると、ユン検事と共に部屋を出ていった。

そんなヘリの後ろ姿を見送った後。

“団結力の強い”刑事5部の人々は、ナ部長を取り囲むように集まった。

きょとんとなったナ部長に、

「ヘリ先輩に今はストレスを与えるのは厳禁ですよ」と
怖い顔で言うキム検事をはじめ、皆がナ部長を威圧するように見下ろしていた。

「な、なんだ?」

意味も分からず、たじろぐナ部長に、キム検事は、結局、他の先輩たちに言ったことと、同じ話をした。

「はっきりするまで、他の人には内緒ですからね。
私たち、刑事5部だけの、ここだけの秘密ですから」

女性二人の部署内で、『ヘリのデリケートな秘密を守るのは私の役目』
と言わんばかりに、キム検事が鼻息荒く、ナ部長と、男検事たちに命じた。

しかし。秘密を一番守っていないのはキム検事だった。

そして、「ここだけの秘密」というものは、往々にして守られないことが多い。

そのことを証拠づけるかのように。

その日の夕方には、庁内で、ヘリの秘密を知らない者はいないほどになっていた。

ここで、仕事終わりの後、キム検事がヘリに真相を確認していれば、大した騒ぎにならずにすんだかもしれない。

だが、お騒がせの女神が、またも、ヘリに微笑んだかのように、その日はこれで終わらなかった。

イヌが、仕事で検察庁を訪れたからだった。

その日のイヌの担当は、刑事5部では無かった。

だが、検察庁の廊下を歩いていたイヌは、
自分に、妙に絡んでくる人々の視線に気づき、いぶかしげに振り返った。

…気のせいじゃない。
今日は、妙に注目されている。
いったい、何だ?

イヌが通り過ぎた後、ひそひそと小声で話している検事達の気配を感じながら、イヌは首をかしげた。

そして、庁内での仕事を終えたイヌは、ヘリの顔を一目見ておこうと、刑事5部のフロアを通りがかった。

ちょうど、開いた自室の扉から廊下を見ていたチェ検事が、歩いているイヌに気づき、椅子から飛び上がった。

「ソ弁護士だ!」

チェ検事は、部屋を出ると、資料室にいた、イ検事とナ部長に声をかけた。

その慌ただしい動きをユン検事のオフィスの中にいたキム検事も察すると、
ユン検事の制止も聞かずに廊下に飛び出していった。


皆は、廊下に集合し、ヘリの部屋の方を鉢植えの植物の影から、そっと覗き込んだ。

部屋の外でヘリとイヌが話していた。


「……それで、いいのか?ヘリ」

「ええ。もう決めたから」

「後悔しないんだな?昨日、電話で話した時と考えが変わっているけど」

「いいの。お腹に負担がかかるのは嫌なの」

そう言って、腹部に両手をあてるヘリの姿に、刑事5部の面々は息をのんだ。

「遠慮するな。君が無理な時は、僕が責任を持つ」

イヌの答えを聞いたキム検事が、思わず「そうです。ソ弁護士が、責任をもってください」と声をかけていた。

「キム検事?……だけじゃなくて、みなさん、そんなところで何をしているんですか?」


ヘリとイヌは、植物の後ろに隠れるように立っていた刑事5部の人々を、不思議そうな顔で見やった。


ユン検事は、いきなり部屋を出ていったキム検事を追いかけて来ただけだったのだが、『出歯亀』の者たちと仲間のように見えていた。

「ばれては仕方ありませんね」

すでに、植物からはみ出すくらいの人数で、隠れるもバレるも無かったのだったが、開き直ったように、キム検事が言った。

「ソ弁護士。ヘリ先輩のこと、ちゃんと責任取ってくださるのですか?」

「ええ、まぁ」

息巻くキム検事に、イヌが答えると、「そんな曖昧な態度でどうするんだ」とチェ検事が言った。

「ここは、男らしく、しっかりと『全責任を持つ』と言うべきだと思いますよ」

イ検事が口を挟み、ナ部長も「大変だろうが、職場では我々もマ検事をサポートする」と言い添えた。

…だから、心おきなく、子育てして欲しい。


すっかり、ヘリの妊娠を思いこんでいる検事達が、一致団結姿を見せる中、
ヘリは、一人、当惑した顔で佇んでいるユン検事に視線を向けた。

「あの~。みなさん、何の話をされているのですか?」

ユン検事は、軽い吐息をつくと、「彼らは、君が妊娠していると思っている」と答えた。


「……はい?」

耳を疑ったように固まったヘリの横で、イヌも目を丸くしていた。

「ちょっと、待ってください。どうして、そんな勘違いを?」

慌てて言ったヘリに、刑事5部の一同は、きょとんとなった。

「勘違い?じゃあ、妊娠していたんじゃないのか?」

「していません」

「でも、じゃあ、今、ソ弁護士としていた会話は?」

「週末のディナーの話ですけど」

「お腹に負担が、とか、責任取るとか言っていただろう?」

「ええ。私が肉料理が食べたくて、彼に店を予約してもらっていたのですけど、やっぱり、あっさりした物が食べたい気分になったから、変えてもらうって話をしていたんです。肉はお腹に重くくるから、食べ残しちゃうかもって」

「それで、彼女が残しても、僕が責任をもって食べる、という話をしていました」


ヘリとイヌの説明に、刑事5部の人々は、「なんだ」と気抜けした顔で脱力した。

「…それで、ヘリ先輩。本当に、妊娠していないのですか?」

おずおずと尋ねるキム検事に、ヘリが「そうよ」ときっぱりと答えた。

「今の会話で、そんな早とちりをするなんて、皆さん、変ですよ」

「ハハハハ。そうだな。よく考えたら、おかしな勘違いだったな」

「そうですね。ハハハ」


刑事5部の人々は、顔を見合わせ、空笑いで誤魔化すと、こそこそと、立ち去った。

その中でも一番気まずそうにしていたキム検事は、ユン検事の視線から圧力を感じて、首をすくめた。

「頃合いを見て、マ検事に謝っておくほうがいい」

「はい。そうします。私、ヘリ先輩にとっても迷惑かけちゃいました。それに、騒ぎにまでしてしまって、恥ずかしいです」

「まあ。元気だせ」

慰めるようにイ検事が言って、キム検事の肩をポンっと叩いた。

「そうだよ。新人の頃のマ検事が起こした、数々の騒ぎに比べれば、可愛いものだ」

「まったくだな」

同意する、チェ検事とナ部長の言葉に、キム検事が信じられないような顔になった。

「そうなのですか?ヘリ先輩は、いつも完ぺきなのに」

「マ検事が完璧か。ハハハハハ」

空笑いでは無く、本気で笑い出した先輩たちに、ヘリの過去を知らないキム検事は、訝しげに首をひねった。



こうして。

検察庁内では、『マ・ヘリ騒動』は、すぐに収束を迎え、いつも通りの静けさを取り戻した。

だが、この騒動の、とばっちりを受けた人物は、納得していない様子だった。


仕事が終わり、マンションの自室に戻ったヘリは、合鍵ですでに部屋の中にいたイヌに迎えられた。

「今日の検察庁でのこと。どういうことか説明しろ」

イヌが怖い顔でヘリを見つめた。

「今日、勘違いしていたのは、刑事5部の検事たちだけじゃなかったようだ。
庁内で、僕は、好奇な視線を浴びていた。
あれは、君が妊娠しているって噂がたっていたということだよな。
どうして、こんな事態になったか、君には、心あたりがあるんじゃないのか?」

詰問するイヌに、ヘリは、気まずげな上目つかいで見つめ返すと、はあ、と溜息をついた。

「だからね。勘違いだったのよ」

妊娠したってことも。みんなの騒動も。

「最初から勘違いだったのか?それとも途中で勘違いと気づいたのか?」

するどい着眼点のイヌの質問にヘリがつまった。

…あいかわらず鋭いわね。

「最初は、疑惑があったのよ。だから検査薬を購入したの」

ヘリの自供に、イヌが、ふうっと溜息をついた。

「どうして、すぐに僕に言わなかった?」

「だって、そんな、まだはっきり決まってもいないのに、
あなたに言えるわけないじゃない。現に勘違いだったわけだし…。
そんなことで煩わせたくなかったのよ」

「わずらわせなくない?」

イヌの目が細くなった。

「事実だったら、君だけの問題じゃなかったんだぞ?」

僕と君の問題だったはずだ。

そう言うイヌにヘリは首をすくめた。

「それにしても、どうしてそんな疑惑がわいた?
月のものが遅れていたからって、すぐにそんなことは考えないと思うが?」

「でも、確実に『ない』とは言い切れないじゃない?」

ヘリが、気恥かしそうに言った。

「…いつも『完璧』だったわけでもなかったし…」

「そうか?」イヌが首をかしげた。

「最初思っちゃったのよ。ほら、あの、いつかの金曜日の夜、外で飲んだ時…あの日じゃないか、と」

「あ~、僕の部屋に二人で戻ってきて、君が部屋に入ったとたん、
僕の服を脱がせた、あの日だな」

「ちょ、ちょっと、何言っているの」

「『お酒が入っている時っていいのよね♪』とか言って、
僕の上着のボタンをはずしていただろう?」

「あ、あれはね~、あなたが酔っ払っていたから服を着替えるのを手伝ってあげただけでしょう?」

…結局、着替えの服は着せなかったけど。

「そ、それに、あなたの方が『こういう時は“つけない”方がいいんだよな』って言ってたじゃない」

「そういう時じゃなくても“つけない”方がいいけどな」

「もう、話をはぐらかさないでよ。…だから、心あたりがあるとすれば、あの日だと思ったの。…他の時ってことも考えられるけど、ほら一応気をつけていたわけだし…?」

「…一応ね」

イヌが意味ありげに笑ったのを、ヘリは、呆れたような目で見て、頬を膨らませた。

「もう。こういう時までふざけるんだから」

「ふざけてないよ。あの日は君も酔っていて、はっきり覚えていないかもしれないけど、僕はいつも通り、最初から“手順”を踏んでいた。ぬかりは無いよ」

「……」

ヘリが、ちょっとうつむいた。

「私ね…少しの間だけど、ほんとに悩んでいたのよ」

沈んだようなヘリの顔に、イヌが真面目な顔に戻った。

「悩むというのは、妊娠したかどうか?という点に?それとも、もしそうだったら、これからどうしたらいいかっていう所に?」

「…全部」

ヘリがぎこちなく小さく笑った。

「だから、確実なことになっていたら、イヌには、ちゃんと報告しようと思っていたのよ。
今回は、先に外の人に知られてあんな騒動になっちゃったけど…」

…キム検事だけでなく、まさか刑事5部のメンバーすべてに知られてしまったなんて。

キム検事に妊娠検査薬を見られた時点で、その後の展開は決定されていたようなものだったが、そこは、まだヘリの思慮が足りなかった落ち度と言えるかもしれない。

落ち込んでいるようなヘリをイヌがじっと見つめていた。

「それで?」

イヌが言った。

「それで、妊娠が本当だった時、君はどうするつもりだった?」

「だから、あなたに相談しようと…」

「相談する前に、君はどうしたいと思っていた?」

「・・・・・・」

ヘリは黙ってイヌの顔を見つめた。

「…どうしたいかってことまで考えられなかったの。ただ、今こんなことになっちゃったら、いろいろ大変だってことしか思いがよらなかった」

結婚はしていない。
仕事はしている。

今、冷静になってみれば、それを知った両親の反応が一番怖いヘリだった。

「それに、イヌも…」

ヘリが言葉につまった。

「僕も?」

「イヌも、どう思うんだろう?ってそんなことばかり考えてた…」

本当だった時、報告した時のイヌの反応が、どういうものなのか。
ヘリには検討がつかなかった。


「マ・ヘリ」

イヌは一つ溜息をついた。

そして、うつむいたまま黙りこくったヘリに近づいて、
顎に指をあてると顔をあげさせた。

ヘリの感情のゆれた瞳がイヌを見つめていた。


「君は、いつになったら、僕のことをわかってくれるんだ?」

「たぶん一生、完全には理解できないと思う」

…どれだけ一緒にいても掴みどころのない男だもの。

ヘリが、ジットリとした上目づかいでイヌを見つめた。

そんなヘリにイヌが苦笑すると、ヘリに顔を近づけた。

「もし、妊娠が本当だったら、僕がどんな反応をするか」

…どんな反応?

戸惑うようなヘリの視線に、イヌが微笑んだ。

「…こうする」

そして、ヘリの体を引き寄せるとギュっと抱きしめた。

「イヌ…?」

イヌの肩口でヘリが不思議そうに首をかしげた。

「君と、君の体の中の小さな命をこうして抱きしめる」

イヌは、ヘリの体をやさしく揺するように包み込んでいた。
そうして、静かに目を閉じて言った。

「守るよ。君ごと。僕の子供をね」

時がたって、命が無事に誕生して、誕生してからもずっと。

君と同じように、その命も守っていきたい。
全身全霊をかけて。

「イヌ…」

ヘリは、心の中に温かく、せつなく、愛しい想いが溢れてきて、胸がいっぱいになった。

いつも、ふざけたり、茶化したりするイヌが、真剣に受けとめ、真面目に話してくれている。

イヌの本気を知ったヘリは、心から安心すると、ほっと吐息をついた。

そして、イヌの腕の中で目を閉じると、イヌを抱きしめ返した。

「次に、こういう事態になったら、真っ先にあなたに伝えるわ」

「こういう事態には、ならないよ」

きっぱりと答えるイヌにヘリが「ん?」と目を開けた。

「僕に抜かりはないからね」

自信たっぷりなイヌの声に、ヘリが苦笑した。

「私。あなたの、その、自信過剰なところ。ちょっと慣れてきたわ」

「僕は、君のお騒がせに、慣れはじめてきた自分が怖いよ」

「もうっ!」


頬を膨らませ、ヘリが振り上げた拳をおろす前に、イヌが手首を握って止めた。


…今後、君が、どんな騒ぎを起こそうとも。
全部受け止める自信が僕には、ある。
だから、安心しろ。

―――僕の、可愛いプリンセス。

イヌは、細めた目でヘリを見つめた後、微笑を浮かべた唇を、ヘリの唇に重ねた。





(終わり)


(二次小説『マ・ヘリ騒動』(旧タイトル)最終保存日 2011年12月11日)
※後編は未完だった為、2022年5月に加筆修正いれています。



【あとがき】

はぁ。・・・懐かしい空気。

大好きな、ラブコメディ調創作で、
過去のみつばは、楽しそう(笑)

読み返したら、すぐに、あの頃の妄想映像が浮かびました。
やっぱり、二次妄想の世界は、脳の中だけだと消えてしまうこともあるけど。
こうして、形にしておけば、時間がたっても、蘇るものなのね。(しみじみ)

未来の話「高く飛ぶ君へ」の中でも、このエピソードが少し出てきています。
ようやく、リンクしたというか、脳内では繋がった妄想話だったから、当然といえば、当然。

10年たっていますが、「検事プリンセス」を好きな方に、この二次的妄想世界の小説が届きますように。


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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「プリンセスは本日もお騒がせ」(前編)です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。

※この二次小説は「嘘つきは恋のはじまり」前あたりのお話です。




プリンセスは本日もお騒がせ(前編)




ヘリは、薬局の棚に陳列されていた妊娠検査薬の箱をそっと手にとった。

そして、そのままレジに進もうとして、

「マ検事?」

と、後ろからかけられた聞きなれた声に、驚きのあまり、手にもっていた箱を落としてしまった。

「あっ…」

声をかけた人物が、ヘリの落し物に目をやり、驚きの声をあげた。

ヘリは、おそるおそる後ろを振り返ってその人物を確認した。

案の定、声の主は、職場の検察庁で同じ部署に所属する後輩、キム検事だった。

キム検事は、驚きを隠せない表情で、ヘリの足元に落ちている妊娠検査薬の箱と、自分を見つめて固まっているヘリを、交互に見つめたあと、そっと近づき、箱を拾い上げた。

「どうぞ。ヘリ先輩」

「あ…ありがとう。キム検事」

ヘリはおずおずとキム検事から妊娠検査薬の箱を受け取った。

「あの…それって…」

キム検事が聞きづらそうに、ヘリの手の妊娠検査薬の箱を指差した。

「もしかして…ヘリ先輩が使用されるんですか?」

もしかして、と言っておきながら、

すでに『そうなんですね?』と確認しているような顔をしているキム検事だった。


「ち、違うのよ」

ヘリは慌てた。

「こ、これはね。わ、私の友人から頼まれて買ったのよ」

ヘリはとっさに噓をついた。

…バレバレ。本当に噓が下手な人だわ。

キム検事は内心ヘリの事をそう思いながらも、目を泳がせて誤魔化しているヘリにつきあうことにして、うなずいた。

「そうなんですか。じゃあ、この2本入りを買うといいと思いますよ」

そう言って、キム検事は棚から検査薬が2本入っている箱をとった。

「え?2本入り?」

ヘリは、目をぱちぱちさせて…どうして?という顔でキム検事を見つめた。

「私の姉が以前、妊娠したかどうか調べる為に妊娠検査薬を買ったことがあるんです。疑いのある初期の頃って、妊娠していても、時期が早いと薬に反応が出ない時があるそうなんですよ。だから、日を改めて、もう1度検査してみることが出来るように2本入りの方が、後で買う手間がはぶけるって、姉が言っていたもので」

「へえ、そんなものなの?」

ヘリはキム検事の話に感心したようにうなずいていた。

「じゃあ、この2本入りのを…友人に買うことにするわ」

「それがいいと思います」

キム検事がヘリに箱を渡した。

「アドバイスありがとう。キム検事」

ヘリがぎこちなく笑って言った。

そして、レジに行こうとして、立ち止って、
キム検事の方に小走りで慌てて戻ってきた。

「あの、キム検事」

「なんでしょう?ヘリ先輩」

「…今のこと、他の人には黙っていてもらえる?」

「え?」

「だから、これを私が買っていたこと。検察庁の中でも、他の人にも黙っていてもらえるかしら?」

気恥かしそうに言うヘリに、キム検事は、力強くコックリとうなずいた。

「分かってます。言いません」

「ありがと」

ヘリは、キム検事に曖昧に笑いかけると、そそくさと箱をもってレジの方に歩いて行った。

そんなヘリの後ろ姿を見つめつつキム検事は、心の中で、

…マ検事が妊娠してるの!?きゃーっどうしましょう。
こんなビッグニュースを一番に知ることが出来るなんて!

相手はやっぱり、あの。イケメン弁護士の彼氏さんに違いないだろうけど、彼氏さんはこのこと知っているのかしら?あの感じじゃまだ知らないみたいよね。

うーっ…誰かに言いたい。でも、言わないって約束したのだから、ヘリ先輩の秘密は私が絶対に守らなくっちゃ。誰かにバレたらマ検事が気まずい思いをするのだもの。

そんな事を考えながら、あこがれのヘリ先輩の秘密を共有出来たことにはりきっていた。


ヘリはと、いうと、レジで支払いを終え、袋に包んでもらった箱をさらにバッグの奥底にしまうと、店を出てから大きな溜息をついた。

…よりにもよって、キム検事に見られてしまったわ。

知り合いに会わないように、マンション近くの薬局もさけて、わざわざ町はずれの薬局に来たというのに…。


『分かっています。いいません』


そう言っていたキム検事の顔は、明らかに、ヘリの噓を見破っていた。
もちろんヘリがコレを使うということが分かっているという感じだった。

ヘリは常日頃自分になついてくれている後輩が、約束を守ってくれることを
期待しつつ、もう一度溜息をついて帰路についた。

妊娠検査薬を購入したのは、もちろん、自身を調べるためだった。

いつも正確に来る生理が、今月は数日遅れている。

…まさかね。

そう思いながらも、恋人のソ・イヌとは、清い関係という仲では無かった。
そして、全く心あたりが無い、と自信をもって言えないところもある。

…『僕に抜かりはないよ』とか言っていて、イヌって、時々、怪しい事があるのよね。

…信頼はしてるけど、信用は出来ないもの。

もし、イヌが聞いたら、間違いなく、何か言い返してくるような事を思いながら、ヘリは、ハァっと軽い溜息をついた。


マンションの自室に戻ったヘリは、すぐにバッグから妊娠検査薬を取り出した。

…もし・・・。もし、これで、陽性反応が出たら?
ううん。ここで悩んでいても、始まらないわ。まずは確かめないと。
反応が出なくても、2本あるから、数日後に又調べればいいのよね。

そんな事を考えながら、妊娠検査薬の箱を持ってトイレに入ったヘリだったが、箱を開封して説明書を読む前には、1本も使用しなくても良いことが発覚した。

ヘリは、トイレの中で、ちょうど、月のものが来たのを知った。

「ふぅ・・・」

一気に拍子抜けしたヘリは、脱力して便座に座りこんだ。

…最近、仕事が忙しくて、体もあまり休めていなかったから、月のものも遅れていただけなのね。でも、この検査薬は消費期限が切れるまでとっておいたほうがいいかも。

なんにせよ。騒ぎにならなくて良かったわ。


―――こうして。

気分転換したヘリは、キム検事に薬局で会ったことも、すっかり忘れた。

もし、今後何か聞かれたとしても、『私は、検査薬を使っていない』と、堂々と言える。
そう思ったからだった。


しかし、このヘリの甘い考えは、ソウル地検、刑事5部、『検事プリンセス、マ・ヘリが検察庁で起こした騒動ランキング』の上位に入るほどの騒ぎに発展するのだったが・・・。


―――翌日の検察庁。

刑事5部、マ・ヘリ検事の部屋で。


朝、一番に部屋に入ったヘリは、いつものように、着ていた私服を脱ぎ、職場に置いている紺色のスーツに着替えた。

そして、飲み物のペットボトルを入れようと、冷蔵庫を開けた。

ヘリは、冷蔵庫の下方に置かれた、風呂敷に包まれた四角いものに目をとめた。


…これ、何かしら?

不審な物体に、ヘリは、首をかしげると、
風呂敷に包まれたものを盗り出した。

風呂敷を開けると、中に弁当箱が入っていた。

…へんね。昨日、夕方に冷蔵庫を開けた時は、こんなの無かったわ。
今朝は、私が一番のりで、この部屋に入ったはずなのだけど。
いったい、誰のかしら?

そう訝しげにお弁当箱を開けたヘリは、
次の瞬間、「うっ」と、呻いて、口と鼻を両手で押さえた。

弁当箱の中には、腐り、溶解化して、さらにカビのはえた
得体のしれない食べ物らしき固まりがあった。

「…何これ?」

悪臭に顔をしかめて、弁当の中身を見つめているヘリを、
偶然、部屋の前を通りかかったキム検事が、開いたドアの隙間から目撃した。

キム検事は、口元をおさえて気持ち悪そうにしているヘリを見て、
目を丸くして立ち止った。

…やっぱり!ヘリ先輩は妊娠しているんだわ。

キム検事はあわてて、ドアから退くと、

…今見たこと。ヘリ先輩が知ったら気まずい思いをするわ。知らないふりをしなくちゃ。

そう考え、そろそろとヘリの部屋から離れていった。


しばらくして、ヘリの部屋に、イ事務官とチャ捜査官が入ってきた。

「マ検事、おはようございます」

挨拶した後、二人はデスクの前で、悪臭を放つ弁当箱の前で固まっているヘリに気づいた。

「なんです?その強烈な匂いをはなっているものは?」

そう不気味そうに顔をしかめるイ事務官の横で、

「あ、それ!!」と声をあげてチャ捜査官がヘリのデスクにつめよった。

「ぼくのです。2週間ほど前、妻が僕にもたせてくれた弁当。捜査で外に出て、食べそびれてしまって、デスクの中に置いていたのを、すっかり忘れていたんです。昨日の夕方に気づいて、今日こそは持ち帰ろうと冷蔵庫にいれていたのですけど、それも持ち帰るのを忘れて…」

「チャ捜査官にも、意外と抜けたところがあるんですね」

ヘリが苦笑しながら弁当箱のふたをしめて、チャ捜査官に渡した。

「すみませんでした」

捜査官が恐縮したように弁当箱を受け取ると、呆れた眼差しをむけているイ事務官にも「ご迷惑かけました」と、ぺこりと頭を下げた。


そんなヘリの部屋での一件を。

すっかり勘違いしたキム検事は、指導役の、ユン検事の部屋に戻ってからも、悶々としながら、考えていた。

マ検事の、さっきのあれ。どう見てもつわりだったわよね。
…ってことは、もう妊娠も初期のころにはいっているってことよね。

検査の結果はどうだったのかしら?病院には行ったのかしら?
今妊娠してるってことは、予定日はいつなのかしら?

そんなことを考え、すっかり仕事の手のとまっているキム検事に気づいたユン検事が眉をひそめた。

「キム検事、悩むような案件なのか?」

「あ、いえ。その、ちょっと…。すみません」

ユン検事の言葉にあわてて、キム検事はデスクの上の書類に目を通すふりをした。

そんなキム検事にユン検事は浅い溜息をつくとチラリと時計に目をやって、デスクから立ち上がった。


「キム検事。もうすぐマ検事との打ち合わせの時間だ。君も一緒に来い」

「は、はい」

資料を片手にキム検事があわててユン検事の後を追った。


資料室で。

ヘリとユン検事の打ち合わせに、キム検事が立ち会うような形で、座った。

二人の先輩検事の事件検証や資料説明を聞きながら、キム検事はヘリの顔をずっと見つめていた。

「・・・・・・・という感じなのだが。…、キム検事、キム検事?」

「え?あ、はい!!」

キム検事がユン検事の声にあわてて反応して、ユン検事の顔を見た。

「今。我々が話していたことを聞いていたか?」

ユン検事が呆れたような声で言った。

「話についていけなくても、メモくらいはとっておくべきだぞ」

「すみませんでした」

しゅんとなって、うつむくキム検事に、なおも、説教をしようとしたユン検事に、キム検事の肩をもつようにヘリが言葉をはさんだ。

「先輩。難解な事件の内容だと、初めのうちは、どこが分からないのかも自分でも気づきにくいのだと思います。こうして話を聞いてるだけでも、少しずつ慣れてくるものですから」

ヘリの優しい言葉に、キム検事は、感動の面持ちでヘリを見つめた。

「君もずいぶんと成長した先輩になったものだな。マ検事」

新人のころとは見違えたぞ。というユン検事の嫌みに、ヘリがいたずらっぽく笑った。

「鍛えてくれた先輩が良かったもので」

「先輩へのよいしょも、磨きがかかったな」

珍しいユン検事の微笑んだ顔にキム検事が一瞬ひるみながらも、

…やっぱり、マ先輩って素敵な人だわ。
でも、妊娠して、もし出産されるなら、近いうちに検事をやめてしまうのかしら?
それって寂しい。

…と考え、暗い面持ちでうつむいた。

そんなキム検事の表情を、ユン検事とヘリは怒られてへこんでいると受け取ったようだった。

「じゃあ、打ち合わせはこのへんにして部屋に戻ろう」

ユン検事は立ち上がって、持っていた資料をヘリに手渡した。

「結構、かさばるが、これで全部だ。持っていけるか?」

「はい。部屋はそんなに遠くありませんし」

そう言って、厚めのファイルを数冊ユン検事から受けとったヘリに、
キム検事がはじけるようにソファから立ち上がって、その手の資料を奪い去った。


「だめです!!」

そう、大きな声で言って、キム検事は、ヘリから奪った資料を自分で抱え直した。

「私が持っていきます!!」

「キム検事?」

そんなキム検事をユン検事とヘリは呆気にとられたように見つめた。

「大丈夫よ。そんなに重くないし、すぐそこまでだから…」

「ぜったいだめです!!!」

きっぱりといって、キム検事はヘリを置いて、資料を抱えたままさっさと先頭を歩きだした。


そんなキム検事の後ろ姿を見たあと、ヘリはユン検事と不思議そうに顔を見合わせて、首をかしげた。

…どうしたんですか?キム検事は?

…さあ、わからん。


資料をヘリの部屋のデスクの上に置いたキム検事は、
すぐにユン検事の部屋の自分のデスクに戻った。

…やっぱり。ヘリ先輩のこと。ユン検事にはお話しておこう。
今、ヘリ先輩を守れるのは、真実を知っている私だけなんだから。

キム検事は、少し考え込んだあと、ユン検事の庁内メールにアクセスした。

『今、資料室で、二人だけでお話がしたいのですが、お時間いただけますか?』

目と鼻の先にいるキム検事からのメールに、ユン検事は、すぐ近くにいるキム検事の顔をいぶかしげに見つめたが、ゆっくりと立ち上がって、部屋を出た。

キム検事もその後を追った。



「…なんだ?話とは?」

ユン検事がソファに座って、キム検事と対峙した。

きょろきょろとあたりを見渡すキム検事は、まわりに誰もいないことを確認すると、ユン検事の顔を思いつめたような顔でじっと見つけた。

「私、ユン検事を信用しています」

「…それは良かった」

キム検事の言葉にユン検事はますます不思議そうな顔をした。

「なので、この話は、他言無用にお願いします」

「一体何の話だ?」

…仕事の話じゃないのか?

そうつづけるユン検事に、キム検事はユン検事のほうに身をのりだした。

「じつは、マ検事のことなんですけど」

「マ検事がどうした?」

キム検事はもう一度まわりを見渡したあと、
口元に手をあてて小声でユン検事に言った。

「マ検事、ヘリ先輩は、妊娠してるみたいなんですよ」

「……にんしん?」

ポーカーフェイスのユン検事の顔が一瞬くずれ、驚きで目が見開くのを見たキム検事は黙ってうなずいた。

しかし、すぐに冷静さをとり戻したユン検事は、

「それは確かか?」と静かにキム検事に聞いた。

「詳しいことは言えませんが、実は、私、先日証拠を見てしまったんです。それに、今日の朝も、つわりで苦しんでいる姿を見ました」

『薬局で、検査薬を買っていた』ということは、約束通り言ってないから。…と心の中で言い訳するキム検事だった。

「つわりだと?」

「ええ、自室で吐きそうになっていて、気分が悪そうでした。
妊娠初期にはある症状ですよね。だから、マ検事には重いものをもたせちゃ駄目なんです」

…さっきみたいに。

そう言うキム検事に、ユン検事は信じられないな、という顔をして聞いていた。

「だが、マ検事からそのような報告はうけていないが」

もし、そうだったとしたら、まず上司に報告するはずだが?

そう続けるユン検事にキム検事は首をふった。

「もう、男の方はわかっていらっしゃいませんね。妊娠していたとしても、女性というのは、安定期に入るまで、周囲にはそういう事は報告しないものなんですよ。それに、マ検事は独身です。こんなこと上司といっても男性の先輩にすぐに打ち明けられるわけないじゃありませんか。その前にいろいろ決めることもあるでしょうし」

「決めることって?」

キム検事の言葉にとっさに疑問が口から出たユン検事に、
呆れたようにキム検事が首をふった。

「ほら。やっぱり分かっていらっしゃらない。独身の女性が妊娠したと分かったら、何を考えるか想像してください。相手の方にも相談して、今後のことを決めなくてはいけないのですから」

「……!」

無言で眉を上げたユン検事に満足そうにキム検事が溜息をついた。

「そんな決断もしなくちゃいけないんですよ?その前に職場で発表なんて出来るわけないじゃありませんか?」

…話の内容に疑問を持っていたユン検事だったが、キム検事の言葉がだんだんともっともらしく思えてきた。

「だけど、今大事な時期の体には間違いないんです。だから、他の人達にはさとられないように、私たちでマ検事を守ってさしあげなきゃ。最初は私だけでも、と思っていましたが、事情を知らない人達が、さっきのユン検事みたいなことをマ検事にするかもしれないじゃないですか。そしたら、新人の私では、ヘリ先輩をかばいきれなくなる事だって出てくると思って」

…だからユン検事の助けも欲しい。そうキム検事が言った。

「わかった…」

ユン検事が頷いた。

「だが。キム検事。この件は、マ検事にしっかりと事実確認したのか?」

「いえ。はっきりとは聞いていません」

「だったら、まず、本人の口から報告があるまでは、ここだけの話にしろ。だが、可能性は0では無い。だから、マ検事が話さなくても、無茶なことはさせないように見ている。君も騒がず、しばらくは静観するんだ。」

「はい。ユン検事」

さすが、刑事5部の首席検事と貫禄でいったユン検事の言葉に、キム検事も素直に返事した。

だが。

こちらも、さすが、過去、入庁以来、検察庁を一番騒がせた、プリンセス検事、マ・ヘリをリスペクトしている新人検事といったところだった。

キム検事は、結局、刑事5部の、他の先輩検事。
チェ検事と、イ検事にも、ユン検事に話したのと同じことを伝えてしまった。

チェ検事とイ検事の二人は、驚きはしたものの、『あの、マ検事だから、あり得ないことじゃない』と、キム検事の話を、すっかり信じ込んでしまった。

そして、その日の午後の刑事5部の会議の時には、
ナ部長以外、全員が『マ・ヘリの秘密』を共有していた。

そんなことになっているとは、つゆ知らず。

ヘリは、・・・今日は、ひさしぶりに、部長からお目玉をくらうに違いないわ。と、浮かない顔で、会議室の席についた。



(「後編」に続く)



(二次小説『マ・ヘリ騒動』(旧タイトル)最終保存日 2011年12月11日)


【あとがき】

今年、1月に更新した、二次小説「高く飛ぶ君へ」の中でもチラリと紹介していたエピソード。

これは、時間軸だと、二次小説シリーズ、シーズン1の後期の話。
最終保存日、2011年の12月って(我ながらびっくり)

「聖夜の願い」とか、「聖夜の祈り」(数年かけて完結させた)のイラスト予告とかをブログでアップしていた頃。

妄想の世界には、時間という概念が無いのかも。
そして、脳の萌え容量って、もしかして無限なのかな?
現実世界で起きた事は忘れるのに、妄想映像のことは、ずっと忘れない(笑)

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「みつばのたまて箱」にお越しいただき、ありがとうございます。


10年間、「蔵」(保存フォルダ)にあった二次小説を出します。というお知らせです。

来月、6月20日は、「みつばのたまて箱」を開設して、11周年になります。

まだ、具体的なことは決めかねているのですが、この日を境にブログ更新を制限するか、ほぼ休眠状態にしようと考えています。

それで、現在、更新中の「陳情令」の二次小説、「検事プリンセス」の二次小説最後の話以外、過去に更新していた二次創作の未公開プロットを永久封印する方向で、「蔵」(過去作品の保存ファイル)を見直しました。

しかし。

そうしたら、自分自身、創作したことを忘れていた未公開、未完成状態の二次小説が出てくる、出てくる(汗)

そのほとんどが、2011年、2012年のもの。

2年前ころにパソコンが故障した時に救出したハードディスクのデータの中にありました。

2011~2012年は、萌え脳が一番、活性化していた時期で、ジャンル問わず、浮かんだものをかたっぱしから書いていました。

きっと、当時は、ブログにアップして、同じ作品を好きな他の人たちと萌え心を共有したかったのだと思う。

ただ、あの時は、シリーズものとして更新出来るタイミングじゃなかったから、いつか二次小説の世界が「時間軸」に追いついたらアップしようと「蔵」に保存していたのでしょう。

しかし、10年もたってしまって。

これを読む、萌え仲間の読者さんも、ほとんどブログにいらしていない。

ただ、ここにアップしておけば、同じドラマや映画を好きだった人が、ふと思い出して、見つけてくれるかな?

少しは楽しんでくれるかな?

そんな気持ちで、完全封印する前に、いくつかブログに残しておきます。

中でも、完成に近い形で残されていた「デュエリスト」、「検事プリンセス」の二次小説を、順次、更新予定です。


(ひさしぶりにブログにいらした方へ)

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韓国ドラマ「検事プリンセス」、みつばの二次小説。「高く飛ぶ君へ」のあとがき雑記です。

ドラマ後の世界を妄想した新設定を出しました。

ヘリは、春川地検に異動になる。
イヌは、今の事務所を辞めて、独立する。

みつばの中での想いだったのですが、ドラマ最終回でイヌが就職した、あの事務所は、イヌに、どこか合わないイメージがありました。

とてもスタイリッシュで、大きな事務所。

一見したら、イヌにはピッタリに見えた。

でも、みつばの中では、違和感がありました。

イヌは、彼の父親、ソ・ドングンの、とても優しく、どんな人に対しても誠実なところを尊敬していました。

困っている人がいたら、すぐに駆けつける人。

イヌは、クールに見えて、父親と同じ男に見えました。

それは、ドラマ中。

過去に保身や金のため、イヌの父親に罪をきせた者の片棒をかついだ人々。

その彼らが困っていた時、イヌがとった行動に見えました。

父の無実を証明する為に近づいた人々なのに、イヌは、彼らを助けていました。
相談にのり、そして、弁護士としても力になっていた。

憎み、復讐したいと思っても当たり前のような人々に。

利用する為に、親切にしたという見方もあるかもしれない。
でも、弱みを握り、脅すやり方もあったはずなのに。そんなことはしなかった。

金と名声のために裏で汚い事をしたり、「冷たい男」だと誰かに言われていましたが、イヌは、違う。

ソ・イヌの根底にあるのは、彼の父親と同じ、誠実さと慈愛なのじゃないだろうか。と。

金の為じゃなく、困っている人がいたら、手を差し伸べたい。

そう思うイヌが、今の職場では、望むように動けない。

ヘリと再会して。ヘリと恋人となって。

ヘリの純真さと、いつもまっすぐな姿を、改めて近くで見ることになったイヌ。

ヘリと一緒にいて、彼の中で、そのことに気づくのは早いのじゃないだろうか?と考えました。

韓国に戻る為に、アメリカから出てきて、あの職場に就職したけれど。

(それも、やっぱり、ヘリのことを忘れられなかったからじゃないかしら?)

ずっと、あの職場にはいない。

二次的妄想で、そんな解釈をしていました。

だから、二次小説シーズン1のラストシーンで、新しく旅立つヘリと共に、イヌが自分で道を切り開く未来を選択する姿を妄想の中で描きました。


ドラマを見ていた人の中で、それぞれ、いろいろな続編があったと思います。

ヘリは、これからもソウル近辺で検事の仕事をして、イヌも今の事務所にずっと勤めている。

再会してからすぐに婚約し、結婚する。

そんな物語の続きもあるかもしれない。

どんな未来にしても、きっと検事プリンセスファンの方、イヌ×ヘリカップルが好きな方なら、二人の幸せな物語を想像するでしょう。

みつばもそうなのですが、「高く飛ぶ君へ」のような妄想映像が浮かんでいたので、続きとしての二次的妄想で、シーズン2(遠距離恋愛編)、シーズン3(結婚生活編)という、流れになっています。

ただ、もし、みつばが、ブログで二次小説更新を何年も休止せず、検事プリンセス二次小説をずっと続けていたとしても。

ブログを読んでいたドラマファンの方の大半は、シーズン1の最終回、「高く飛ぶ君へ」がラストの話と感じたかもしれません。

ドラマの世界で見ていた設定とヘリを取り巻いていた世界は、この「高く飛ぶ君へ」を最後に終わるからです。

職場も、マンションの部屋も。ヘリの周囲の人々も。

ドラマの世界に続きがあるとすれば、いずれは、そうなると分かっていても。
ドラマの中では「永遠」の世界が終わりを迎える。

あの世界が好きだった人には、それらがヘリの周囲から無くなることがとても寂しくなると思います。

10年前。

ひと足先に「夢桜」を更新したので、あの時、ブログにいらしていた読者さん達も、その後の流れを薄々想像できていたかもしれません。

シーズン2の話は、遠距離(中距離)恋愛中の二人。「温泉へいこう」「月が見ていた」など。

シーズン3の話は、結婚した後の二人の話。4コマ漫画、「ほかほか家族」、二次小説「追憶の香り」「バレンタイン記念日2020」など。

ブログで二次小説の更新を止めていても。ずっと、みつばは、「検事プリンセス」のソ・イヌというキャラクターを尊敬し、目標としてきました。

そして、ヘリには、ドラマ後の世界でも、イヌと一緒にいて、今以上に美しく成長し続けてほしいって、願ってました。そんなヘリの姿も、みつばの目標です。

二次的妄想の中で、一人立ちし、堂々と歩き出したヘリ。

これからも、イヌとヘリが幸せになる未来を祈って。

みつばの「検事プリンセス」二次小説シリーズ、シーズン1を「結」とさせて頂きます。


しばらくは、別の二次創作に集中しますが、いずれ「検事プリンセス」二次小説シリーズの本当の最後の話を更新する前に、また、この二次的世界に戻ってくるかもしれません。

ここまで、みつばの、検事プリンセス二次小説を読んでくださった方、お付き合いいただき、本当にありがとうございました!!

「検事プリンセス」最高―っ!



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韓国ドラマ「検事プリンセス」の二次小説「高く飛ぶ君へ」(3話)最終話です。

みつばの「検事プリンセス」の他の二次小説のお話、コメント記入は、
検事プリンセス二次小説INDEX2」ページからどうぞ。
このブログに初めていらした方、このブログを読む時の注意点は「お願い」を一読してください。

※この話は「夢桜」「追憶の香り」の続きです。




高く飛ぶ君へ(最終話)




イヌは、ヘリが帰る前に、部屋を訪れていて、夕飯の準備をしていた。

いつもながら、手際よく料理を作っている恋人を、ヘリはうっとりと見つめた。

「イヌ、そろそろ食べられる?」

「ああ。ちょうど今出来たところだ。ヘリ、手を洗って。すぐに食事にしよう」

「うん。もう、お腹ぺこぺこ」

ヘリが手を洗って、洗面所から戻ってくると、キッチンカウンターには、すでに器に盛りつけられたご馳走が並んでいた。

全部、ヘリの好物ばかりだった。

「美味しそう」

「今夜は、体重のことは気にせず、沢山食べろ。
僕の手料理は、しばらく食べおさめになるからな」

「そうね。でも、料理を作り過ぎることがあったら、冷蔵便で送ってちょうだい」

「冷蔵便で送るより、料理人が向かうほうが確実だ」

いつもの掛け合いを続けるのも楽しかったが、空腹のヘリは、美味しそうな手料理に意識の大半を奪われていた。

そんなヘリを見透かしたイヌは、ヘリに椅子を進めると、冷蔵庫から冷えたビール瓶を2本持ってきた。

「マ検事の、新天地での活躍を祈って」

「ありがと」

ビールの瓶で乾杯し、酒に口をつけた後、二人は食事を始めた。

ヘリのお腹が、満たされた頃、ようやくヘリは、人心地ついた顔で吐息をついた。

「これが、この部屋で食べる最後のディナーになるのね」

箸を置き、しみじみと言って、ヘリは、キッチンから部屋の中を見渡した。

広いワンルーム。

料理の器具、材料は、同じマンションの違う階に住んでいるイヌが持ち込んだものだったが、部屋の中には、処分する為に置いていく家具以外残っていなかった。

ヘリは、この部屋を、明日の朝には出ることになっている。
そして、一度実家に寄った後、そのまま春川に行く予定だった。

人気のマンションのため、部屋に空きが出たとなれば、すぐに埋まることだろう。

「でも、イヌがあの部屋に住むなら、このマンションと完全にお別れってわけでも無いから大丈夫」

一人、無理に気持ちを奮い立たせるように言ったヘリにイヌが頷いた。

「ソウルに来ることがあったら、僕が留守でも部屋を使っていい」

「うん。こっちに来たら、イヌの帰りが遅い日でも部屋で待ってるわ。春からも仕事が忙しくなるのでしょ?」

「ああ。そのことなんだが…」

イヌが、持っていたビール瓶を台に置いた。

「ヘリ。君が春川に行く前に話そうと思っていたことがある」

「何?」

真面目な顔になったイヌに、ヘリは急に不安になった。

「まさか…。あの事件が原因で、勤めている事務所から、何らかの処分が下ったの?」

「違う。所長も、その件に関しては、僕に非が無いことを知っているから何のお咎めも無かった。だが、今の事務所を辞めることにした」

「え…?」

ヘリは、チン検事から、検察庁を辞めると聞いた時と同じくらいの衝撃を受けた。

「辞めるのは、この前の騒動が原因じゃなくても、イヌも、あの事件が、事務所を辞めようと決意する理由の1つになった?」

「『も』って?他に誰か、何かを辞めることになったのか?」

そう尋ねたイヌに、ヘリは、チン検事と話したことを伝えた。

「あれだけ仕事に情熱を注いでいた先輩が辞めるって聞いた時は驚いたわ。
その理由は、ちゃんとあったし、事件の前から考えていたことだって。
イヌもそうなの?今の事務所に勤めていて、仕事のことで、何か思うところがあったのね?」

「ああ…」

イヌが深い吐息を一つついた。

「この国に戻り、あの事務所で働くようになって、しばらくして、思うところがあった」

「お給料や雇用形態に満足しないところがあったの?」

「いや。報酬は十分にもらっていた。それに、優遇もしてもらっていた」

「じゃあ、なぜ?」

「僕の弁護を望んでくれる依頼人の仕事を、引き受けることが出来ない」

「それは・・・」

ヘリは言葉に詰まった。

イヌが働く弁護士事務所は、ソウル市内でも大手の事務所だった。

敏腕弁護士と評判の良いソ・イヌは、事務所の中でも一目置かれ、その待遇も良かった。
だが、その分、仕事の依頼人は、事務所によって決められることも多かった。

金払いのよい太蔓の顧客の仕事を優先的に回される。

ヘリは、ここ最近では、自分も関わった親子の事件を思い出していた。

イヌの評判を聞き、窃盗の疑いで逮捕された子の弁護を頼みに来た母親。

しかし、イヌのいる事務所は、訪れていたことさえイヌに伝えずに、彼女を追い払うように依頼を断っていた。

それは、彼女が弁護費用を、十分に支払えない者と判断してのことだった。

後で、そのことを知ったイヌは、彼女の依頼を、強引に、ほとんど無報酬で引き受けていた。

それは契約違反では無かったが、イヌに他の仕事を回したいと思っていた事務所の所長は、良い顔をしなかった。

同じ弁護士たちが、うらやむほどの境遇でありながら、イヌが悩んでいた理由が、ヘリには想像がついた。

だが、ヘリは、黙ってイヌの話を聞いた。


「以前、僕がいた『ハヌル』のように仕事が出来ないことは分かっていた」

イヌがポツポツと話を続けた。

『ハヌル』で、イヌは、共同経営者であるジェニーや他の弁護士たちとも対等な立場で仕事をし、依頼を受けるのも自由だった。

イヌは、そういう事務所で無いことを了解した上で、今の職場に就職していた。

「次第に感じたことは、自分の我儘からくるものかもしれないと考えた。以前のように好き勝手に動けないから持つ感情だとね。だけど、やはり、今の仕事は、自分が望む方向で無いことを知った。だから、今の職場を辞めようと決めて、所長とも話し合った。今抱えている案件が全部片付いたら退職することになる」

「うん…」

ヘリは、ずっとそばで見ていたからこそ、イヌが決断した理由が分かるような気がした。

「弁護士は続けるのでしょう?」

「ああ」

「以前、あなたがいた、法務法人『ハヌル』に戻るの?」

「いや。『ハヌル』の者達に、戻ってこないか?と声をかけられたが、断った。
僕は、新しく個人事務所をひらく」

「個人事務所…。あなたが、立ち上げるってことね?」

「うん。今の職場や、『ハヌル』とも違う、僕の事務所だ」

「ジェニーさんも手伝ってくれるの?」

「ジェニーは来ない」

「でも、今のイヌの話は、ジェニーさんにはしているのよね?」

「ああ。職場を辞めるという話はした。今の仕事は彼女が取り持ってくれていたからね。こんな風に僕が去ることは、推薦してくれた彼女の面目をつぶすことになる」

「そんな。ジェニーさんなら、イヌがどんな選択をしても分かってくれるわ」

「そうだ。彼女はあっさりと了承した。それに、僕が個人事務所を立ち上げることも分かってもくれた。だが、僕の事務所には誘っていない」

「どうして?」

ヘリは、小さく首をかしげた。

イヌがアメリカにいた時からそばにいて、父親、ソ・ドングンの冤罪事件でも助けていたジェニー・アン。

イヌの親友であり、有能な国際弁護士でもある女性は、仕事の上でも、イヌと息の合うビジネスパートナーだった。

今のイヌの職場も、ジェニーの恩師の紹介と、ジェニーの推薦によって、アメリカから呼ばれていた。

イヌが、助けを必要とするなら、ジェニーは仕事を手伝ってくれる。
そんな気がしていたヘリは、ジェニーがイヌの誘いを断るようには思えなかった。

「僕が助けて欲しいと言えば、義理堅い彼女のことだ。来てくれたかもしれない。
だが、ジェニーには、ジェニーの。彼女のしたいことがある。僕にもそれが分かった。だから、声をかけなかった」

この件に関しては、イヌも悩んだのだろう。

少し寂しげなイヌの顔に、ヘリも同じような表情になってイヌを見つめた。

「だが、個人事務所はソウル近郊で立ち上げる予定だ。事務所に入らなくても、ジェニーも何かあれば手助けすると言ってくれた。それに、他にも僕を支援してくれる人達がいる。だから、僕に迷いはない」

いつも、他人には、自信たっぷりな態度を見せながら、イヌも不安と葛藤を抱えていた。

そして、自らの意志で、自らの人生を定めた。

自分自身で、新しい環境をつくっていく道を。

「ヘリ。君には、落ち着いたら打ち明けるつもりだった。
僕の中で答えを出し、準備が整ってから、この事を話すと決めていたんだ」

話し終えたイヌは、ヘリが、何か答えてくれるのを待っているかのように、ヘリをジッと見つめた。

ヘリは、今の話を、イヌの心ごと、全て受け入れたのを言葉で応える代わりに行動で示した。

指を伸ばし。ヘリは、対面にいて、キッチンカウンターの上にあったイヌの手に触れた。

手を重ね、ギュッと握った後、ヘリが言った。

「大丈夫。あなたならやれる」

ヘリの澄んだ眼差しと、イヌのまっすぐな視線が重なった。

「ソ・イヌさん。私も、あなたを応援してる」

…何があるか分からない未来の先を、しっかりと見ているあなたなら出来ると信じてる。

ヘリは、言葉に出さない心の声を乗せて、握った手に想いを込めた。

イヌもヘリの心を受け取ったという印のように手を握り返した。

「ありがとう」

イヌの礼をヘリは、にっこりとした笑顔で受け止めた。


食事を終えたヘリは、料理だけでなく、後片付けもかって出てくれたイヌに台所を任せると、使用するのは今夜が最後となる浴室にむかった。

ヘリがシャワーを浴び終えリビングに戻ると、台所はすっかり片付いていた。

イヌが持ってきていた料理器具も仕舞っていて、キッチンカウンターには、何もない状態になっている。

すでに、ネグリジェ姿になっているヘリを一瞥した後、イヌが「僕もシャワーを浴びてくる」と言って浴室に入っていった。

しばらくして、イヌが浴室から出てくると、キッチンにもリビングにもヘリの姿が無かった。

テレビや化粧台も、もう無くなっている部屋で、ベッド近くの灯りだけはついている。

だが、イヌには、ヘリの居場所が分かった。

イヌは、まっすぐに掃きだし窓の方に歩き出すとテラスに出た。

そして、テラスの手すりの近くに立ち、夜景を見ながら佇んでいるヘリを発見した。

声をかけずに、そっと横に並んで立ったイヌを気配で察していたヘリは、前を向いたままだった。

「ここからの夜景も、もう、見納めだわ」

名残惜しげに見つめ、ポツリと言ったヘリに、イヌは、「僕の部屋に来れば見られるさ。見え方は少し違うけどね」と、応えた。

「うん、そうね。それに、新しい部屋もここほどじゃないけど、広めのバルコニーがついてるの。ここに似て、とっても景色がいいのよ。だから、決めたところもあるの。緑が沢山見える。イヌ、あなたもきっと気にいるわ」

「そうか。君の新居に行くのを楽しみにしているよ」

「ええ。イヌが、今の仕事を終わらせて、次の職場の為の準備で忙しくなることは分かってる。だから、落ち着いたら来てね。その頃には、私も新しい職場と生活に慣れる頃だと思うから」

「ああ」

そこまで話した後、ヘリとイヌは、そっと顔を見合わせ、無言になった。

そして、互いを見つめあった後、顔を近づけ、唇を重ねた。

しかし、クシュンっと、小さなくしゃみをしたマ・ヘリに、イヌはすぐに顔を離した。

イヌは、ネグリジェ姿のヘリに自分の着ていたカーディガンを脱いで羽織らせると、その肩を抱いた。

「こんな格好で外に出るからだ。体が冷え切っている。ほら、ベッドに行くぞ。早く温めないと」

「…その言い方。私の体を気遣っているようで、なんだかいやらしい。ただ、ベッドに誘っているように聞こえるわ」

「夜着でテラスに出て、誘っていたのは君だ。この家で、唯一、君と抱き合ったことの無い場所はここだからね。最後の思い出作りでもするのかと思った」

「ちょっとっ!恥ずかしいこと言わないで。マンションの住人に聞かれちゃう」

ヘリは、テラスの左右をキョロキョロ見回しながら、慌てて部屋の中に入った。

「人がせっかく、感慨にふけっていたのに」

「感慨にふけるのは、風邪をひく心配のないところでしてくれ。
君が体調を崩しても、これからは、今までみたいに、僕もお母さんも、すぐには駆けつけられないんだからな」

冗談めかしながらも、本気で注意しているようなイヌに、ヘリはしおらしく項垂れた。

「…うん」

しゅんとなったヘリをベッドに連れていき、その体に布団をかけてイヌが言った。

「君を不安にさせるつもりも、脅しているつもりも無い。体には気をつけて欲しいだけだ」

「うん」

「料理をする暇がなくても、野菜と果物だけじゃなくて、ご飯もしっかり食べるんだぞ」

「うん」

「部屋の戸締りはしっかりしろ。鍵をかけ忘れたり、その辺に落としたりするな」

「うん」

「一人暮らしで、何か困ったことや、気になることがあったら、どんなに些細なことでも相談しろ」

「うん。たとえば、隣人がおかしな人で、ストーカーしたり、盗撮したりするような男だったらね」

昔のイヌのことを皮肉ったヘリの冗談にも、イヌは真面目な表情を変えなかった。

「本当にそういう奴がいたら、通報した後、僕にも連絡しろ」

「イヌ。私のパパ、ママと同じこと言ってる」

「君を愛してるからだ」

さらりと言ったイヌに、ヘリは目を丸くした。

「今の台詞、もう一度言って」

イヌは黙って、ヘリを包んでいた布団の中に入ってきた。

そして、ベッドに横たえたヘリの体を両腕で包み込んだ。


「このベッドで君を抱くのは今夜で最後だな」

「そんなこと言わないで。…泣きそうになるじゃない」

ベッドは、ヘリがこれから住むアパートの部屋に置くには大きい為、引っ越しと同時に処分することになっていた。

…恋人になってから、イヌと、幾度も抱き合って眠った。
思い出深い、このベッドともお別れなのね。

「泣いておけ」

イヌが言った。

「明日から、過去を懐かしむ暇が無いほど忙しくなる」

「…うん」

ヘリは、クスンと鼻をすすると、イヌの胸に頬をすり寄せた。

「泣く余裕がなくなるほど、強く抱いて」

「任せておけ」

布団の中で、低く囁くイヌの声がヘリの耳元で反響した。

「余計なことを考える暇が無くなるほど、別のことで泣かせてやるから」

「…ソ弁護士。あなたって、こんな時もムードが無いのね」

苦笑を浮かべ、上目遣いで拗ねたふりをするヘリにイヌは微笑を向けた。

そして、座右の銘としている、“有言実行”を行動で示した。



―――事を終えた後の部屋で。

傍らで、ぐっすりと眠っているヘリを見つめた後、イヌは、一人、ベッドから出た。

そして、クローゼットにかけていた上着のポケットから小さな箱を取り出すと、ヘリの元に戻った。

箱の蓋を開け、常夜灯の明かりで中を確認したイヌは、視線をそのままヘリの方に向けた。

不安も迷いも無い瞳が瞼で閉じられた、美しく安らかな寝顔。

小箱の中には、キラリと光る指輪が収まっている。

ヘリがもし、将来のことで不安になっていたら。
イヌは、“約束”の印として、小箱の中身をヘリに渡すつもりでいた。

だが、夕食時の会話ではっきりした。

「…不安になっていたのは、僕のほうか。君に堂々とした姿を見せられる日まで、これはお預けにする」

イヌは、指輪を見ながら小さく呟くと、小箱の蓋を閉じた。

個人事務所を立ち上げ、仕事が軌道にのり、自分が望む道でヘリと肩を並べて歩けるようになった時。

「その時は、君に伝えたい言葉を添えて、これを渡すよ」

イヌは、身を屈めると、眠っているヘリの額にそっとキスを落とした。

すでに夢の中にいたヘリは、この出来事を知るよしもなく。

初めて一人暮らしをした部屋の、最後の夜の残り時間。
ヘリは、恋人イヌの腕に抱かれ、眠って過ごしたのだった。


―――翌日の早朝。

まだ、夜が明ける前の時間。

ヘリは、スーツケース1つ持って部屋を出た。


マンションのエントランスまで見送りでついて来ていたイヌに、ヘリは、「ここまででいいわ」と言って足を止めた。

「イヌ。あっちについたら連絡する」

「ん…」

朝ぼらけの仄かな光が、マンションの庭の白い小路を薄っすらと浮かび上がらせている。

その真ん中で、ヘリとイヌは向かい合って立った。

「マ・ヘリさん」

イヌが名を呼んだ。

「何?」

イヌは、上着のポケットに入れていた手の指で、その中にある小箱に触れながら言った。

「大丈夫。君ならやれる」

2年前。イヌがアメリカに行く前に、ヘリに言ったこと。
そして、昨夜、ヘリがイヌに言ったのと同じ言葉だった。

ふふっとヘリが笑った。

そして、笑みをおさめると、「ありがと」とイヌに言った。

東の空の明るさが急に増した。

日が昇る。

ヘリとイヌは、路の中に差し込んできた陽光の方に目を向けた。

そして、庭に咲き誇っている、美しい春の花々を見つめた後、同時に視線を戻した。

ヘリが先に動いた。

手を高く上げたヘリは、イヌに明るい笑顔を見せた。

大きく手を振るヘリに、イヌも微笑みながら片手をあげて応えた。

「行ってきます」

朗らかに言って。

ヘリは、踵を返すと、イヌに背を向けて歩き始めた。

ヘリが履いていたのは、『幸運を呼ぶ靴』。

2年前、二人を結び付けた靴を飾る宝石が、ヘリの足下で煌いている。

明るく差し込んできた日の光が、暖められた大地から昇りたった湯気を照らした。

それが、ヘリの背に、まるで白い翼があるような幻をイヌに見せた。

翼を羽ばたかせ、今にも大空に飛び立とうとしている姿。


…マ・ヘリ。君がどこに行っても。僕は君を見守っている。だから・・・。


背筋を伸ばし、己の未来に向かってまっすぐに歩く
最愛の女性の後ろ姿を、イヌは、眩しそうに見つめて言った。


「高く飛べ」

―――My Princess(僕のプリンセス)




(完)




10年ごし。とうとう、シーズン1、最後の二次小説をブログでアップできました。

イメージソングはもちろん。ドラマの主題歌。
「Goodbye My Princess」、「Fly High」

検事プリンセス、みつばの二次小説シリーズ。シーズン1の最終章「高く飛ぶ君へ」。

この続きとなる二次小説シリーズの話に関しては。

いくつか未公開の話(みつばの頭の中の映像と蔵にあるプロット)があるのですが、ブログでは、二次小説「温泉へいこう」以降、いくつか更新されています。

今回の「高く飛ぶ君へ」で、未来の話の伏線が繋がるので、「温泉へいこう」での二人の会話。「月が見ていた」「裏箱・月が見ていた」の意味がようやく分かるように。

裏箱版「月が見ていた」の小説記事は、全体の裏箱フォルダに、他の二次創作と一緒になって、埋もれていました。

ファイルを抜き出して、専用ページとして保存したので、「裏箱・月が見ていた」の記事の「裏箱」からお読みください。(大人度高めのイラストと小説なので、「裏箱について」の注意事項をよく読んでからお入りください)

少し、補足説明などがあるので、後日、「高く飛ぶ君へ」のあとがきを書かせて頂きます。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!


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テーマ:二次創作:小説 - ジャンル:小説・文学

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